桓武天皇に助言してうっかり京都を消滅させてしまったので、陰陽師のあやかしパワーで取り戻す

文字の大きさ
上 下
42 / 66
新たな風

1

しおりを挟む
「玉手箱はないだろうな」
「竜宮城帰りじゃないんで」

 大きな荷物を抱えた清仁を見て、国守にツッコミを入れられる。見送られたのは乙姫ではなく陽気なおじさんだが、確かに宴の帰りではある。

 料理を沢山頂いただけでも申し訳なく、土産は散々断ったのに、すでに用意したからとおはぎの服を何着も持たされた。やはり、孫か何かと勘違いしているのではないか。

「ああ、お前の父か」
「父でもないですね」

 仙が清麻呂の相手をしたらしいが、国守にも伝わっていたらしい。荷物の理由を察して笑われる。

「その袋は使わず仕舞いか」
「はい。こんなにもらって申し訳ないです」
「いいんじゃないか。本人がしたいことなのだから」

 たしかに、清麻呂が望み、清麻呂の自由になる金でしたのなら、こちらが遠慮して返さない方がいいのかもしれない。返したらきっと悲しまれる。それなら、これを有意義に使わせてもらおう。

「それに、すぐに仕立てられるものではないから、和気家の古着だろう。そいつらも、もう一度日の目を見られて喜んでいるのではないか」
「なるほど」

 今おはぎが着ている服を見る。実に上等な生地だ。清麻呂の姉か妹か、はたまた子どもが着たのか。よく見ると解れている箇所がある。流れた年月を感じ、大切に着せようと思った。

「よかったな、おはぎ。また会ったら改めてお礼を言おう」
「うん」

 すると、おはぎが桶を持ってきた。

「はたけ」
「畑行くの?」
「うん。水やり」
「その恰好で? う~~~~~ん、行こうか」

 もらった初日で汚す予感がしたが、親としては子どものやる気を摘み取るべきではない。

 清仁はおはぎが歩くたびにすぐ横で手を繋ぎ、桶を一緒に持ち、そうっと水やりをして回った。異常に疲れはしたが、おはぎは泥で服を汚すことなく上手に水やりを終えた。

「おはぎ、えらい」
「えらいぞ~!」

 くしゃくしゃ頭を撫でる。喜んだおはぎはその場で飛び跳ね、最後の最後で裾に泥を付けた。

「あちゃ」
「あらら、大丈夫大丈夫。洗おうね」

 おはぎの服を脱がせようとしたら、門を叩く音がした。

「はい」
「お久しぶりです」
「え!」

 そこには何時ぞや振りの北野が立っていた。

「お久しぶりです。どうしたんです、こんな所まで。市場に行く途中ですか?」
「いえ、ここの近くに引っ越したんです。なのでご挨拶にと思いまして」
「ええッ急ですね」

 農民姿の北野がにこやかに報告してくれた。少し離れたところで待っている両親もぺこぺこ頭を下げている。北野の印象は良いので近くに住むのは大歓迎だが、引っ越すという話は聞いていなかった。

「畑は元のままですか?」
「今のところは。畑だけならちょっと歩くだけですし」

 徒歩三十分がちょっと歩くだけとはたくましい。

「実は頂いた服と元の家を売ってお金になったので、長岡宮に近いところにしようと思い切って長岡京内に」
「へー、近い方が生活は便利ですもんね」

 北野との話が盛り上がり、待たせていたおはぎがやってきて清仁の服を引っ張った。

「ごめん。あ、この子はおはぎです」
「はじめまして、おはぎ様。北野です」

 北野がおはぎに挨拶をしていると、両親がものすごい速さでこちらに近づいてきた。

「清仁様、お久しぶりです。これからはお会いすることもあると思いますが、宜しくお願い致します」
「こちらこそ宜しくお願いします」
「して、そちらのお子様はまさか北野との!? 私たちの孫でしょうか!?」

 ちらちらおはぎを見ながら父親が声を上ずらせる。母親が父親を叩く。

「いやぁねお父さん、早まっちゃって! でも、実はそうだったりしますか!?」

 北野の両親はいつ会ってもいつもの両親だった。

「いや、北野さんは産んでないです。一緒に住んでいて妊娠出産の兆候無かったでしょ」
「あっ……そうでした。産んでなかったわ」

 冷静にツッコむと異常に落ち込まれてしまった。こちらが悪い気がしてくる。北野が両親の前に出た。

「清仁様、両親がたびたび申し訳ありません。よく言って聞かせますので。では、本日はこれで失礼致します」

 何故、北野がしっかりした女性に育ったのか分かった気がした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

これもなにかの縁ですし 〜あやかし縁結びカフェとほっこり焼き物めぐり

枢 呂紅
キャラ文芸
★第5回キャラ文芸大賞にて奨励賞をいただきました!応援いただきありがとうございます★ 大学一年生の春。夢の一人暮らしを始めた鈴だが、毎日謎の不幸が続いていた。 悪運を祓うべく通称:縁結び神社にお参りした鈴は、そこで不思議なイケメンに衝撃の一言を放たれてしまう。 「だって君。悪い縁(えにし)に取り憑かれているもの」 彼に連れて行かれたのは、妖怪だけが集うノスタルジックなカフェ、縁結びカフェ。 そこで鈴は、妖狐と陰陽師を先祖に持つという不思議なイケメン店長・狐月により、自分と縁を結んだ『貧乏神』と対峙するけども……? 人とあやかしの世が別れた時代に、ひとと妖怪、そして店主の趣味のほっこり焼き物が交錯する。 これは、偶然に出会い結ばれたひととあやかしを繋ぐ、優しくあたたかな『縁結び』の物語。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】召しませ神様おむすび処〜メニューは一択。思い出の味のみ〜

四片霞彩
キャラ文芸
【第6回ほっこり・じんわり大賞にて奨励賞を受賞いたしました🌸】 応援いただいた皆様、お読みいただいた皆様、本当にありがとうございました! ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。. 疲れた時は神様のおにぎり処に足を運んで。店主の豊穣の神が握るおにぎりが貴方を癒してくれる。 ここは人もあやかしも神も訪れるおむすび処。メニューは一択。店主にとっての思い出の味のみ――。 大学進学を機に田舎から都会に上京した伊勢山莉亜は、都会に馴染めず、居場所のなさを感じていた。 とある夕方、花見で立ち寄った公園で人のいない場所を探していると、キジ白の猫である神使のハルに導かれて、名前を忘れた豊穣の神・蓬が営むおむすび処に辿り着く。 自分が使役する神使のハルが迷惑を掛けたお詫びとして、おむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりをご馳走してくれる蓬。おにぎりを食べた莉亜は心を解きほぐされ、今まで溜めこんでいた感情を吐露して泣き出してしまうのだった。 店に通うようになった莉亜は、蓬が料理人として致命的なある物を失っていることを知ってしまう。そして、それを失っている蓬は近い内に消滅してしまうとも。 それでも蓬は自身が消える時までおにぎりを握り続け、店を開けるという。 そこにはおむすび処の唯一のメニューである塩おにぎりと、かつて蓬を信仰していた人間・セイとの間にあった優しい思い出と大切な借り物、そして蓬が犯した取り返しのつかない罪が深く関わっていたのだった。 「これも俺の運命だ。アイツが現れるまで、ここでアイツから借りたものを守り続けること。それが俺に出来る、唯一の贖罪だ」 蓬を助けるには、豊穣の神としての蓬の名前とセイとの思い出の味という塩おにぎりが必要だという。 莉亜は蓬とセイのために、蓬の名前とセイとの思い出の味を見つけると決意するがーー。 蓬がセイに犯した罪とは、そして蓬は名前と思い出の味を思い出せるのかーー。 ❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。.:*:.。.✽.。.:*:.。.❁.。. ※ノベマに掲載していた短編作品を加筆、修正した長編作品になります。 ※ほっこり・じんわり大賞の応募について、運営様より許可をいただいております。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

満月の夜に烏 ~うちひさす京にて、神の妻問いを受くる事

六花
キャラ文芸
第八回キャラ文芸大賞 奨励賞いただきました! 京貴族の茜子(あかねこ)は、幼い頃に罹患した熱病の後遺症で左目が化け物と化し、離れの陋屋に幽閉されていた。一方姉の梓子(あづさこ)は、同じ病にかかり痣が残りながらも森羅万象を操る通力を身につけ、ついには京の鎮護を担う社の若君から求婚される。 己の境遇を嘆くしかない茜子の夢に、ある夜、社の祭神が訪れ、茜子こそが吾が妻、番いとなる者だと告げた。茜子は現実から目を背けるように隻眼の神・千颯(ちはや)との逢瀬を重ねるが、熱心な求愛に、いつしか本気で夢に溺れていく。しかし茜子にも縁談が持ち込まれて……。 「わたしを攫ってよ、この現実(うつつ)から」

処理中です...