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定住阻止
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「よし、仕切り直して。せーのッ」
おはぎの応援を受けて、鍬を振り下ろす。これがなかなかに難しい。土が硬い。乾燥している。そして、単純に力がいる。
それでも、言い出しっぺは自分だ。国守に頼ることなく、清仁は黙々と土と向き合った。
途中で昼ご飯の握り飯休憩を挟み、一時間以上かかってどうにか作業を終わらせた。
「さて、このくらいかな」
植えるのが二種類なのと二人暮らしなので、あまり大きくない畑にした。これで足りなくなったら、また足せばいい。
庭に転がっている石を集めて、簡易的な囲いを作る。これで少し畑らしくなった。
『ぷ』
「嬉しいね、おはぎちゃん」
畑の周りをおはぎが駆け回る。清仁はそれを動画で撮った。おはぎがやってきてからは動画を撮ることが多くなった。写真もまた然り。他は清麻呂が撮るおかしな写真たち。牛の糞を毎回撮るのは本気で止めてほしい。
鍬を家の壁に立て掛け、畑に戻ってしゃがみ込む。
種を植えることは決まっているが、どうやって植えたらいいのかが分からない。授業などの薄っすらとした記憶を辿る。たしか、種によって植え方が違っていたはず。大根とネギはどうだったか。
「ネットで調べよ」
スマートフォンを開いて閉じた。ここはインターネットが通じない世界だった。
「うーん、どうしよう。適当に蒔けばいいか」
『阿呆め。それで生えてくるか』
「うおおおお早良親王!」
最近出ないと安心していたところで出た。ホラー映画あるあるである。急に真横から話しかけられたものだから、種を数粒落としてしまった。拾いながら文句を言う。
「今、畑作りの最中なんです。邪魔しないでください」
『だから阿呆と言ったのだ。種を蒔くための穴すら作らないなんて、土の上に蒔いても風に吹かれて終わりだ』
「ああ、確かに」
悔しいがもっともな意見だ。この男、天皇家の割に農業に精通しているのか。一般庶民の清仁の方がよっぽど素人だ。
「種蒔き先生、ご教授の程宜しくお願いします」
『誰が種蒔き先生だ。我を敬え』
「ははぁ~」
困っている今、悪霊の手でも借りたい。こちらが深々頭を下げると満足したのか、いつもの呪う発言は鳴りを潜め、ぶっきらぼうにも種の蒔き方を教えてくれた。
大根とネギでは蒔き方が違うことを知った。しっかり言われた通り、土に穴を開けたりスジを付けたりして蒔く。これでようやく畑作りが完了した。
「おっと、水水」
水やりも忘れない。おはぎが水を見て逃げていた。
『わはは、お前の式神は水すら怖いのか。我と対峙する資格も無い』
「おはぎちゃんはそういうんじゃない。俺の家族なんだ」
『は……家族ね。虫唾が走る』
そう言って早良親王が消えた。清仁が頬を掻く。
「しまった。桓武天皇の弟だっけ。気の利かないこと言っちゃったな」
いくら相手が悪霊と言えど、言ってはいけないこともある。清仁はほんの少しだけ反省した。直接謝ることはしないが。
「まあ、明日には忘れてるだろ。というか、もう出てきてほしくない」
清仁はおはぎを抱っこし、国守に畑の進捗報告をすべく家に入った。瞬間、足元が汚いと国守に蹴飛ばされた。
「家が汚される」
「ひどい。頑張って畑完成させたのに」
「風呂が沸いている。汚れを落とせ」
「やったぁ。有難う御座います! ツンデレ万歳!」
早良親王以外、大満足の一日となった。
おはぎの応援を受けて、鍬を振り下ろす。これがなかなかに難しい。土が硬い。乾燥している。そして、単純に力がいる。
それでも、言い出しっぺは自分だ。国守に頼ることなく、清仁は黙々と土と向き合った。
途中で昼ご飯の握り飯休憩を挟み、一時間以上かかってどうにか作業を終わらせた。
「さて、このくらいかな」
植えるのが二種類なのと二人暮らしなので、あまり大きくない畑にした。これで足りなくなったら、また足せばいい。
庭に転がっている石を集めて、簡易的な囲いを作る。これで少し畑らしくなった。
『ぷ』
「嬉しいね、おはぎちゃん」
畑の周りをおはぎが駆け回る。清仁はそれを動画で撮った。おはぎがやってきてからは動画を撮ることが多くなった。写真もまた然り。他は清麻呂が撮るおかしな写真たち。牛の糞を毎回撮るのは本気で止めてほしい。
鍬を家の壁に立て掛け、畑に戻ってしゃがみ込む。
種を植えることは決まっているが、どうやって植えたらいいのかが分からない。授業などの薄っすらとした記憶を辿る。たしか、種によって植え方が違っていたはず。大根とネギはどうだったか。
「ネットで調べよ」
スマートフォンを開いて閉じた。ここはインターネットが通じない世界だった。
「うーん、どうしよう。適当に蒔けばいいか」
『阿呆め。それで生えてくるか』
「うおおおお早良親王!」
最近出ないと安心していたところで出た。ホラー映画あるあるである。急に真横から話しかけられたものだから、種を数粒落としてしまった。拾いながら文句を言う。
「今、畑作りの最中なんです。邪魔しないでください」
『だから阿呆と言ったのだ。種を蒔くための穴すら作らないなんて、土の上に蒔いても風に吹かれて終わりだ』
「ああ、確かに」
悔しいがもっともな意見だ。この男、天皇家の割に農業に精通しているのか。一般庶民の清仁の方がよっぽど素人だ。
「種蒔き先生、ご教授の程宜しくお願いします」
『誰が種蒔き先生だ。我を敬え』
「ははぁ~」
困っている今、悪霊の手でも借りたい。こちらが深々頭を下げると満足したのか、いつもの呪う発言は鳴りを潜め、ぶっきらぼうにも種の蒔き方を教えてくれた。
大根とネギでは蒔き方が違うことを知った。しっかり言われた通り、土に穴を開けたりスジを付けたりして蒔く。これでようやく畑作りが完了した。
「おっと、水水」
水やりも忘れない。おはぎが水を見て逃げていた。
『わはは、お前の式神は水すら怖いのか。我と対峙する資格も無い』
「おはぎちゃんはそういうんじゃない。俺の家族なんだ」
『は……家族ね。虫唾が走る』
そう言って早良親王が消えた。清仁が頬を掻く。
「しまった。桓武天皇の弟だっけ。気の利かないこと言っちゃったな」
いくら相手が悪霊と言えど、言ってはいけないこともある。清仁はほんの少しだけ反省した。直接謝ることはしないが。
「まあ、明日には忘れてるだろ。というか、もう出てきてほしくない」
清仁はおはぎを抱っこし、国守に畑の進捗報告をすべく家に入った。瞬間、足元が汚いと国守に蹴飛ばされた。
「家が汚される」
「ひどい。頑張って畑完成させたのに」
「風呂が沸いている。汚れを落とせ」
「やったぁ。有難う御座います! ツンデレ万歳!」
早良親王以外、大満足の一日となった。
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