17 / 66
謎の石
5
しおりを挟む
「た、ただいま」
半日立ったが、国守の石執着は治まっただろうか。こっそり中へ入ると、国守が立っていた。何部屋もある家だからまさか玄関にいるとは思わず、清仁自身が石化する。
「遅かったな」
「うん。ええと、長岡京巡りしていて」
「そうか」
よかった。普段の彼だ。これで石で悩まなくて済む。国守が清仁の後ろに目を遣った。
「して、その兎はどうした」
「え!」
振り向くと、先ほど助けた黒兎がちょこんと座っていた。
なんて可愛い、ではなかった。慌てた清仁がしゃがみ込む。
「どうした、お家が分からなくなったの?」
付いてきてしまった焦りはあるものの、やはり安定の可愛らしさに頬がでろでろに溶ける。
「それはなんだ」
「えっと! 窪みに嵌ってたところを助けたんです。そしたら、知らないうちに付いてきちゃったみたい……食べたりしないで」
「そんなものは食べない」
よかった。兎の未来に安堵する。しかし飼えない。これ以上食い扶持を増やしたら、兎はおろか清仁も追い出されかねない。
「それもそうだ。天下の陰陽師様が兎は食べないよな」
「それはあやかしだから食せないと言っただけだ。生きているものなら食べる」
「分かった。ごめん、なるべく早く元来たところに戻すから。って、え?」
国守が言ったことがすぐに理解出来ず、兎を抱っこして国守に近づいた。
「この子がなんて言いました?」
「あやかしと言ったが」
「あやかし!?」
兎と国守の顔を交互に見る。
国守が嘘を言っているようには見えない。というより、嘘を言うメリットがない。つまりは、そういうことだ。
「はぁ~~~、お前、へぇ~~~~~」
全く通常の可愛らしい兎にしか見えない。ほんのり温かみもある。どういう原理だ。
「何か偶然が重なって、死んだ時にあやかしとして生を受けたのだろう。陰陽師が式神として使役せずとも、世にはあやかしが多数隠れている。人間が気付かないだけでな」
「なるほど……?」
分からないが、分かったことにする。とりあえず、その辺にあやかしがいるということだけ理解しておけばいい。
「あ、じゃあ、この子飼ってもいいですか? 使役っていうのをしてもらって」
あやかしなら話は別だ。兎も国守が使役してくれれば、通常の餌を買ってくる必要もない。国守が首を振った。
「ええ……」
期待していた分、落胆が大きい。清仁ががっかりしていると、国守が清仁の胸元を指差した。
「清仁、お前が使役しろ」
「俺が?」
「そうだ。私は私が選んだあやかしとしか契約を結ばん。それはお前に懐いているのだろう。なら、お前が使役すればよい」
「俺、陰陽師じゃないんですが」
急にそんなことを言われても困る。これから修行しろとでも言うのか。
「あやかしを見て、触れる。十分な素質だ。あとは契約を結んで終わり」
「それでいいの?」
想像の千倍簡単である。
「使役して特に支障はないんですか」
「ない。式神は主人の霊力を糧に生きる。餌もいらん。式神の霊力が高まれば意思疎通も出来るようになる」
「へぇ」
霊力があるのか全く分からないが、それで兎と一緒にいられるのならいいかもしれない。清仁が兎に話しかける。
「兎ちゃん。付いてきたってことは家族はいないの? 俺と一緒に住む?」
『ぷ』
兎が喉を鳴らした。清仁が兎を抱きしめる。
「可愛い!」
兎に顔を埋めて、しばしの幸福を堪能する。清仁がはたと顔を上げた。
「使役の契約ってどうするんです?」
「名を付ける」
「終わり?」
「終わり」
随分簡単だ。それならば、誰でも使役し放題なのではないか。
「使役中、他の人に付けられたら?」
「契約は信頼で成り立っている。あやかしが主人と認めなければ契約は結ばれない」
「そっか。じゃあ、俺も信頼されるよう頑張らないと」
「しっかり考えろ」
清仁が頷く。部屋に入り腰を下ろして、そこに兎を乗せて考える。国守はさっさと別室へ行ってしまった。
一時間して、ようやく清仁が手を叩く。
「よし。兎ちゃん。君の名前は──」
半日立ったが、国守の石執着は治まっただろうか。こっそり中へ入ると、国守が立っていた。何部屋もある家だからまさか玄関にいるとは思わず、清仁自身が石化する。
「遅かったな」
「うん。ええと、長岡京巡りしていて」
「そうか」
よかった。普段の彼だ。これで石で悩まなくて済む。国守が清仁の後ろに目を遣った。
「して、その兎はどうした」
「え!」
振り向くと、先ほど助けた黒兎がちょこんと座っていた。
なんて可愛い、ではなかった。慌てた清仁がしゃがみ込む。
「どうした、お家が分からなくなったの?」
付いてきてしまった焦りはあるものの、やはり安定の可愛らしさに頬がでろでろに溶ける。
「それはなんだ」
「えっと! 窪みに嵌ってたところを助けたんです。そしたら、知らないうちに付いてきちゃったみたい……食べたりしないで」
「そんなものは食べない」
よかった。兎の未来に安堵する。しかし飼えない。これ以上食い扶持を増やしたら、兎はおろか清仁も追い出されかねない。
「それもそうだ。天下の陰陽師様が兎は食べないよな」
「それはあやかしだから食せないと言っただけだ。生きているものなら食べる」
「分かった。ごめん、なるべく早く元来たところに戻すから。って、え?」
国守が言ったことがすぐに理解出来ず、兎を抱っこして国守に近づいた。
「この子がなんて言いました?」
「あやかしと言ったが」
「あやかし!?」
兎と国守の顔を交互に見る。
国守が嘘を言っているようには見えない。というより、嘘を言うメリットがない。つまりは、そういうことだ。
「はぁ~~~、お前、へぇ~~~~~」
全く通常の可愛らしい兎にしか見えない。ほんのり温かみもある。どういう原理だ。
「何か偶然が重なって、死んだ時にあやかしとして生を受けたのだろう。陰陽師が式神として使役せずとも、世にはあやかしが多数隠れている。人間が気付かないだけでな」
「なるほど……?」
分からないが、分かったことにする。とりあえず、その辺にあやかしがいるということだけ理解しておけばいい。
「あ、じゃあ、この子飼ってもいいですか? 使役っていうのをしてもらって」
あやかしなら話は別だ。兎も国守が使役してくれれば、通常の餌を買ってくる必要もない。国守が首を振った。
「ええ……」
期待していた分、落胆が大きい。清仁ががっかりしていると、国守が清仁の胸元を指差した。
「清仁、お前が使役しろ」
「俺が?」
「そうだ。私は私が選んだあやかしとしか契約を結ばん。それはお前に懐いているのだろう。なら、お前が使役すればよい」
「俺、陰陽師じゃないんですが」
急にそんなことを言われても困る。これから修行しろとでも言うのか。
「あやかしを見て、触れる。十分な素質だ。あとは契約を結んで終わり」
「それでいいの?」
想像の千倍簡単である。
「使役して特に支障はないんですか」
「ない。式神は主人の霊力を糧に生きる。餌もいらん。式神の霊力が高まれば意思疎通も出来るようになる」
「へぇ」
霊力があるのか全く分からないが、それで兎と一緒にいられるのならいいかもしれない。清仁が兎に話しかける。
「兎ちゃん。付いてきたってことは家族はいないの? 俺と一緒に住む?」
『ぷ』
兎が喉を鳴らした。清仁が兎を抱きしめる。
「可愛い!」
兎に顔を埋めて、しばしの幸福を堪能する。清仁がはたと顔を上げた。
「使役の契約ってどうするんです?」
「名を付ける」
「終わり?」
「終わり」
随分簡単だ。それならば、誰でも使役し放題なのではないか。
「使役中、他の人に付けられたら?」
「契約は信頼で成り立っている。あやかしが主人と認めなければ契約は結ばれない」
「そっか。じゃあ、俺も信頼されるよう頑張らないと」
「しっかり考えろ」
清仁が頷く。部屋に入り腰を下ろして、そこに兎を乗せて考える。国守はさっさと別室へ行ってしまった。
一時間して、ようやく清仁が手を叩く。
「よし。兎ちゃん。君の名前は──」
0
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
八天閣奇談〜大正時代の異能デスゲーム
Tempp
キャラ文芸
大正8年秋の夜長。
常磐青嵐は気がつけば、高層展望塔八天閣の屋上にいた。突然声が響く。
ここには自らを『唯一人』と認識する者たちが集められ、これから新月のたびに相互に戦い、最後に残った1人が神へと至る。そのための力がそれぞれに与えられる。
翌朝目がさめ、夢かと思ったが、手の甲に奇妙な紋様が刻みつけられていた。
今6章の30話くらいまでできてるんだけど、修正しながらぽちぽちする。
そういえば表紙まだ書いてないな。去年の年賀状がこの話の浜比嘉アルネというキャラだったので、仮においておきます。プロローグに出てくるから丁度いい。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった
なるとし
ファンタジー
鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。
特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。
武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。
だけど、その母と娘二人は、
とおおおおんでもないヤンデレだった……
第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。
スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活
昼寝部
ファンタジー
この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。
しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。
そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。
しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。
そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。
これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。
百合系サキュバスにモテてしまっていると言う話
釧路太郎
キャラ文芸
名門零楼館高校はもともと女子高であったのだが、様々な要因で共学になって数年が経つ。
文武両道を掲げる零楼館高校はスポーツ分野だけではなく進学実績も全国レベルで見ても上位に食い込んでいるのであった。
そんな零楼館高校の歴史において今まで誰一人として選ばれたことのない“特別指名推薦”に選ばれたのが工藤珠希なのである。
工藤珠希は身長こそ平均を超えていたが、運動や学力はいたって平均クラスであり性格の良さはあるものの特筆すべき才能も無いように見られていた。
むしろ、彼女の幼馴染である工藤太郎は様々な部活の助っ人として活躍し、中学生でありながら様々な競技のプロ団体からスカウトが来るほどであった。更に、学力面においても優秀であり国内のみならず海外への進学も不可能ではないと言われるほどであった。
“特別指名推薦”の話が学校に来た時は誰もが相手を間違えているのではないかと疑ったほどであったが、零楼館高校関係者は工藤珠希で間違いないという。
工藤珠希と工藤太郎は血縁関係はなく、複雑な家庭環境であった工藤太郎が幼いころに両親を亡くしたこともあって彼は工藤家の養子として迎えられていた。
兄妹同然に育った二人ではあったが、お互いが相手の事を守ろうとする良き関係であり、恋人ではないがそれ以上に信頼しあっている。二人の関係性は苗字が同じという事もあって夫婦と揶揄されることも多々あったのだ。
工藤太郎は県外にあるスポーツ名門校からの推薦も来ていてほぼ内定していたのだが、工藤珠希が零楼館高校に入学することを決めたことを受けて彼も零楼館高校を受験することとなった。
スポーツ分野でも名をはせている零楼館高校に工藤太郎が入学すること自体は何の違和感もないのだが、本来入学する予定であった高校関係者は落胆の声をあげていたのだ。だが、彼の出自も相まって彼の意志を否定する者は誰もいなかったのである。
二人が入学する零楼館高校には外に出ていない秘密があるのだ。
零楼館高校に通う生徒のみならず、教員職員運営者の多くがサキュバスでありそのサキュバスも一般的に知られているサキュバスと違い女性を対象とした変異種なのである。
かつては“秘密の花園”と呼ばれた零楼館女子高等学校もそういった意味を持っていたのだった。
ちなみに、工藤珠希は工藤太郎の事を好きなのだが、それは誰にも言えない秘密なのである。
この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「ノベルアッププラス」「ノベルバ」「ノベルピア」にも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる