桓武天皇に助言してうっかり京都を消滅させてしまったので、陰陽師のあやかしパワーで取り戻す

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そうだ、進言しよう

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「まあいい。早く国守宅で洋服とやらを見せてもらうぞ!」
「まあいいって言える状況じゃないんですけど」
「とりあえず、とりあえずだから。な!」

 ナンパ中の軽薄な科白みたいだと思いつつ、清麻呂に腕を掴まれ、満身創痍で国守宅へと戻っていった。

 なんの成果も無く朝の場所でため息を吐く。横にいるおじさんは生き生きとした瞳を送ってくる。どんな拷問か。国守も死んだ目を清麻呂に向けている。成人男性三人して何をしているのだろう。清仁は一人暮らしの部屋が恋しくなった。

「なるほど。これが鞄か。随分丈夫そうな布が使われている」

 いちいち実況中継をしないでほしい。清仁は文句の滝を飲み込んだ。

「えーと、ちょっと着替えますので。向こうを向いていてください」
「何故だ?」
「何故って。いくら同性でも、見つめられての着替えは些か気分がよくないと言いますか」
「そういうものか?」

 首を傾げながら清麻呂が後ろを向く。もしかして、男性も貴族ともなると、着替えは従者におまかせなのか。自分が悪いのか。清仁は結局気分が悪くなった。国守は違う部屋に行ってしまった。

「はい。着替えました」
「ぅおおおおおおお!」

 話しかけた瞬間、光の速さを超えて突っ込んできた。清麻呂が両手を挙げて、清仁の服を触るか触らないぎりぎりを撫で回す。気持ち悪いと思った。

「これが~……うむ……うむ」
「触ってもいいですけど」
「ありがとう! おお……なんと柔らかき上等な布」
「三枚二千円のTシャツです」
「なるほど!」

 全然分かっていない清麻呂が大きく頷く。彼なら十円の駄菓子一つでも喜んでくれるだろう。大層気色悪いけれども、たった一人でタイムスリップした身としては有難い存在でもあった。

「へぇ、ほぉ。なんとも珍妙で、しかし画期的な形。しかも、素肌に直接着るのか。涼しいが、下着のようでもある。昨日もらった甚平も大分薄着であった」

 ほらほらと、清麻呂が裾から甚平を取り出して見せた。服の中に収納していた事実を知って、清仁は目を剥いた。

「持ち歩いてるんですか!」
「だって大切なんだ」

 甚平を抱きしめるおじさんが実に切なく、まるで、まだ見ぬ孫の為に子どものファーストシューズを大事に取っておいている父親とかぶった。

――孫に履かせるって言ってたなぁ。俺結婚すらしてないけど。

「Tシャツ、まだ着てないのあるんで一枚上げましょうか」
「なッッッ」

 清麻呂が固まった。時が止まったようだ。目の前で手をひらひらする。十秒ほどして、ようやく時が動き出す。

「ッッッにぃ~~~~~~!?」
「あっ動いた」
「くれ、くれるのかッ私に! これを! え、え!?」
「深呼吸してください」
「すぅぅぅ~~~~はぁぁぁぁぁ~~~~~ッく、くれるの!?」

 あまり変わらなかった。むしろ声量が増した。

 挙句の果ては土下座された。これには清仁の方が慌ててしまう。

「ほんと止めてください。上げるんで、何もいらないんで、土下座は止めてください」

 こんな光景を国守が見たら勘違いされそうだ。横を向くと、国守が仁王立ちしていた。

「清仁、正四位下に何をさせている」

 勘違いされた。

「違う、違うんです」清仁が両手を振る。

「分かっている。何も言うまい」国守が話しながら部屋を出る。

「違うって言ってるじゃないですかぁ!」清仁は少し涙が零れた。

「私が望んでやっているだけだ」
「お前は一回黙ってろ!」

 廊下に出てみたが、そこには国守ではなく狐がいた。

『また貴様か。ははぁ、そんなに我の餌食になりたいのか』
「一言も言ってませんよね!?」

 狐が歯に爪を当て、ゆっくりと研ぐ真似をする。全身が氷水に浸かった。

「ちょっとちょっと、シャレにならないんで!」
『若い人間は美味いのを知っているか』
「知ってたらダメなやつ!」

「てぃしゃつはどうなった」
「もう~~~!」

 顔が死んだ国守に助けてもらうまで、清仁は三十分もの間陽気おじさんと動物に絡まれ続けた。
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