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私は善人になりたい
疑い
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「南将軍、帰還しました」
律儀に門の前で待っていた方神速に報告すると、目に見えて驚かれた。
「嘘だろう?」
「結界は王都ぎりぎりの位置に再構築。元々の結界の場所にも後ほど修復しに行きます」
「嘘だろう」
「魔物を連れた魔族が来たので応戦しました。重傷を与えたので、すぐに戻ってくる可能性は低いかと」
「嘘だと言え」
「以上です」
最低限の報告は済ませた。長居はしたくない。というより、この男の顔を見ていたくない。そのまま方神速から離れると、そちらも胡威風から聞き出すのは諦めたらしく、呼び止められることはなかった。
「おい、状況報告を。先ほどの男より忠実に、丁寧にしろ」
「は、はいッッ。まず、我々が結界を張っているところに胡威風将軍がいらっしゃいまして――」
必死に話す兵士を信用して、速足で自室へと戻った。あれだけ活躍したのだから、悪い報告はされないだろう。懐から一龍を取り出す。
「ごめんね、常時不機嫌男がいたからさ」
「キュウ」
「一龍は何も悪くないから」
小さな頭を撫でると、一龍が機嫌良さそうにキュウキュウ鳴いた。堪らなくなって抱きしめる。
「うわ~~~ん! 本当、一龍だけが癒しだよ! 人間怖い……魔族も怖い……来世はもっと平和に生まれたい……」
前世だって、まだまだ志半ばだった。死んだことすら、はっきりと自認していない。それなのにここまでのハードモード、神がいるならいくらなんでも煽り過ぎではなかろうか。
気晴らしにステータスを開く。
[胡威風
レベル:360
法術師レベル:580
聖人レベル:-500010
悪人レベル:85000
装備:剣「清洗」、突殺 ]
「結構上がってる、かな」
魔族との対面は全然嬉しくなかったが、このところ停滞していたレベルもそれぞれ上がっている。聖人レベルはびくともしていないが、少しずつ進んでいると思わなければやっていられない。
ドンドン!
「うわッ」
ドンドン!
いつも静かな部屋に響く異音に、寝台から飛び上がる。将軍の、ましてや胡威風の自室をこのように乱暴に扱える人間は数える程しかいない。それのほとんどが彼の敵と言ってもいいだろう。恐る恐る音のする方に近づく。
「何用か」
「方神速だ」
――あああああああ……。
せっかく逃げてきた相手が追ってきてしまった。疲れているので、もう今日は放っておいてほしかった。重い重い扉に手をかける。
「方神速将軍、いかがしましたか」
「報告を聞いた」
「そうですか」
――なら、帰ってくれませんかね!?
内心憤っていたら、この世界で初めての爆弾を落とされた。
「……誰だ」
「…………誰、とは?」
「お前は誰だ。俺の知る胡威風と違いすぎる……!」
掌を握り締める。冷や汗が滲んだ。ここで、こんなところで死ぬわけにはいかない。だってそうだろう。死にたくないという想いだけで必死にやってきたのだ。
律儀に門の前で待っていた方神速に報告すると、目に見えて驚かれた。
「嘘だろう?」
「結界は王都ぎりぎりの位置に再構築。元々の結界の場所にも後ほど修復しに行きます」
「嘘だろう」
「魔物を連れた魔族が来たので応戦しました。重傷を与えたので、すぐに戻ってくる可能性は低いかと」
「嘘だと言え」
「以上です」
最低限の報告は済ませた。長居はしたくない。というより、この男の顔を見ていたくない。そのまま方神速から離れると、そちらも胡威風から聞き出すのは諦めたらしく、呼び止められることはなかった。
「おい、状況報告を。先ほどの男より忠実に、丁寧にしろ」
「は、はいッッ。まず、我々が結界を張っているところに胡威風将軍がいらっしゃいまして――」
必死に話す兵士を信用して、速足で自室へと戻った。あれだけ活躍したのだから、悪い報告はされないだろう。懐から一龍を取り出す。
「ごめんね、常時不機嫌男がいたからさ」
「キュウ」
「一龍は何も悪くないから」
小さな頭を撫でると、一龍が機嫌良さそうにキュウキュウ鳴いた。堪らなくなって抱きしめる。
「うわ~~~ん! 本当、一龍だけが癒しだよ! 人間怖い……魔族も怖い……来世はもっと平和に生まれたい……」
前世だって、まだまだ志半ばだった。死んだことすら、はっきりと自認していない。それなのにここまでのハードモード、神がいるならいくらなんでも煽り過ぎではなかろうか。
気晴らしにステータスを開く。
[胡威風
レベル:360
法術師レベル:580
聖人レベル:-500010
悪人レベル:85000
装備:剣「清洗」、突殺 ]
「結構上がってる、かな」
魔族との対面は全然嬉しくなかったが、このところ停滞していたレベルもそれぞれ上がっている。聖人レベルはびくともしていないが、少しずつ進んでいると思わなければやっていられない。
ドンドン!
「うわッ」
ドンドン!
いつも静かな部屋に響く異音に、寝台から飛び上がる。将軍の、ましてや胡威風の自室をこのように乱暴に扱える人間は数える程しかいない。それのほとんどが彼の敵と言ってもいいだろう。恐る恐る音のする方に近づく。
「何用か」
「方神速だ」
――あああああああ……。
せっかく逃げてきた相手が追ってきてしまった。疲れているので、もう今日は放っておいてほしかった。重い重い扉に手をかける。
「方神速将軍、いかがしましたか」
「報告を聞いた」
「そうですか」
――なら、帰ってくれませんかね!?
内心憤っていたら、この世界で初めての爆弾を落とされた。
「……誰だ」
「…………誰、とは?」
「お前は誰だ。俺の知る胡威風と違いすぎる……!」
掌を握り締める。冷や汗が滲んだ。ここで、こんなところで死ぬわけにはいかない。だってそうだろう。死にたくないという想いだけで必死にやってきたのだ。
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