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幸せの形

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 思いがけない言葉に、勘助が顔を上げる。半次郎の顔色は窺えないが、芯の通った声だった。

「よいのか? 何でもだぞ」

「はい。私が今一番欲しいものはこの子の眼鏡で御座います。この子は生まれつき目が弱く、目の前にあるものがぼんやり見えるだけで困っております故」

「は、はんじろう」

 勘助が半次郎の服を摘まみながら、涙声で首を振る。

「駄目、だって、俺、こんなこと」
「駄目じゃない」

 半次郎がしゃがみ、勘助の頬を包み込んだ。

「勘助は駄目じゃない。お前はとても素直で、心優しい子どもだ。幸せになる権利がある」
「うう、う~……ッ」

 ついに勘助の瞳が決壊し、大粒の涙がぽたぽたと半次郎の手や勘助の服を濡らした。

 それを見た義之が豪快に笑う。

「そうかそうか、これは参った。想像以上に謙虚で誠実な男だ。よし、すぐに手配させよう」
「有難き幸せに御座います」

 深く頭を下げる。勘助もぺこりと愛らしく頭を下げた。

 こうして大騒ぎの品評会は幕を閉じ、明日勘助に合う眼鏡を作成してもらうよう医者に来てもらうことになった。屋敷お抱えの医者らしく、まだ緊張は続くらしい。

 帰宅するため後片付けをしていると、侍が戻ってきた。

「失礼、名乗っておりませんでした。私は坂下平太と申します。これから世話になります」
「いえ、坂下さんのおかげで素晴らしい機会を得ることができました。感謝しています」
「それにしても、勘助の目が悪いなんて分かりませんでした。上手に歩いているし手伝いもできる。立派だな」

 褒められた勘助が頭を掻いて口をもごもごとさせた。

「そうなんです。今でもとてもよくできた子でして、でも、この世界をよく見ることができたらもっと日々が楽しくなると思うのです」

「そうですね」

 坂下と別れ、屋敷を後にする。振り返ると、まだ手を振ってくれていた。

「ふう」

 半次郎が大きく息を吐く。ずっと気を張っていたので、どっと疲れが襲ってきた。屋台もずっしりと重い。それなのに、心は雲一つない青空であった。

「勘助、嬉しいなぁ」
「うん。ありがとう」

「いやいや、勘助がいてくれたから今日選んでいただけた。だから、眼鏡が手に入るのも勘助のおかげだ」

 勘助を見遣ると先ほどのようにによによと笑っていた。

 子どもを持ったことはないが、きっとこんな心持ちなのだろうと思う。

 半次郎は勘助と出会えて沢山の幸せをもらった。今度は勘助の番だ。辛い思いをしてここにやってきた彼には、今までの辛さを忘れるくらい笑い転げてほしい。
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