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綻び

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 部活が終わり走って帰宅した清は、家でスマートフォン片手に母を呼んだ。

「お母さん。デジカメってある?」

 居間で祖母とテレビを観ていた母が顔を出す。

「スマホじゃダメなの? 今のスマホって一千万画素とかあるよ」
「部活で描く用の写真が欲しいんだ。スマホじゃすぐ印刷出来ないでしょ?」
「出来るよ。コンビニのコピー機で」
「そうなんだ!」

 母は新しい物が好きで、清よりその辺りの知識もある。コンビニでの印刷方法を聞き、清は意気揚々と山に向かった。

「サチ~」

 山道を歩きながら呼んでみたが、サチは出てこなかった。山は広い。こんな日もある。もしかしたら、山を出て散歩しているかもしれない。清は気にせず、スマートフォンを構えた。

 生い茂った草花、例の神木、走り回るうさぎの親子、そして祠。沢山の風景を撮って回った。写真からでも自然の風を感じる。

「最初から、もっと撮っとけばよかったな」

 とは言っても、引っ越してきてからまだ一か月も経っていない。これから撮っていけばいい。

「何してんの?」
「うわッ」

 カシャ。

 次の被写体を探していたら、急にサチが姿を現せたので、驚いて右手をタップしてしまった。

「ごめん、勢いで写真撮っちゃった。変だったら消すから」
「写真? いいよ、どうせ写ってないし」

 清がスマートフォンを下ろし、その奥にいたサチを見た。

「写らないの?」
「うん、多分。だって視えないもの」
「そっか」

 急に、現実を突きつけられた気がした。

 サチはもうこの世の人間ではないのだ。

 知っていたはずなのに、清には見えるものだから、すっかり自分と同じ存在だと認識してしまっていた。

 それならば消そう。たった今撮ったデータを確認すると、そこにサチが写っていた。

「サチ、写ってる!」

 清がサチを呼び寄せる。サチが驚きの声を上げる。

「ほんとだ! なんでだろう」
「もしかして、撮ったのが僕だからかな」

 今のところ、清はサチを視ることが出来る唯一の人間だ。その清が撮ったから写ったのかもしれない。そうだったらいい。サチにスマートフォンを向ける。

「ね、撮ってもいい?」

 サチがこちらに笑顔を向けた。

「いいよ」

 夕日がきらきらとサチを輝かせる。今日一番の写真が撮れた。宝物にしよう。

 満足した清は、写真を撮るのを止めて時間を確認した。間もなく夕飯の時間だ。まだやることがある。早くしなければ。

「ごめん、また来るね」
「うん。またね」

 コンビニへと走る。先日知ったが、あのコンビニは十九時閉店だそうだ。まだ十八時過ぎたばかりなので問題無い。それより、十九時までに帰らないと、夕飯が冷める上にお説教が追加されてしまう。

 母に教えてもらった通り、アプリを通してプリント番号を入手する。コンビニに入り、そもそもプリンターがあるのか不安になるが、奥の方に白い機械が見えてほっとする。

 新しいコンビニらしく、プリンターも最新式だった。タッチパネルで慎重に番号を入力する。当然印刷料金がかかるため、数十枚撮った中から三枚厳選することにした。

「景色とうさぎと、サチ……サ……」

 パネルに映った印刷前の確認画像を見て、清の手が止まる。サチの写真はただの木々が写った写真に変わっていた。変わっていたというより、サチだけがすっかり消えていたのだ。

 慌ててスマートフォンで画像を確認する。そこには確かにサチがいる。パネルを見遣る。いない。どういう仕組みなのか、清の手が離れると効果が切れるのか。仕方なく、違う写真を選んでプリントをした。

 ご丁寧に置かれていた写真用の袋に入れ、とぼとぼ帰宅の途に就く。

 てっきりサチの写真が手に入ると思っていたのに、期待していた分落胆が大きい。

「このデータは消さないようにしないと」

 サチがいるという証はこの中だけとなる。決して無くさないようにしなければならない。

 写真を持ち帰り、通学鞄に仕舞う。

「ただいま~」
「おかえり。プリント出来た?」
「うん、出来たよ。明日学校持っていく」

 見せてほしいと催促してくる母に渋々写真を渡す。

「風景だから特に面白くはないでしょ」
「うん、でも良く撮れてる」

 早々に返してもらう。他の写真なら構わないが、母がこれで興味を持ってもらったら困る。あそこは二人だけの秘密の場所だ。
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