don't back

文字の大きさ
上 下
10 / 39

自由曲選考

しおりを挟む
 一年生が入ってきて一週間、どうにかこうにか揉め事も起こらず、無難に過ごすことができた。田尻君がたまに冷や冷やすることを言ってくるのが心臓に悪い。どうにか大人しくしていてほしい。この子、二年生になって後輩入ってきた時大丈夫かな。来年は私たちが制御してまとめ上げないといけないんだ。困ったことがあっても頼る先輩はその頃いない。小川先生はいるけど、優しいから怒ることはないし、他のパートのことも見ないといけないからあまり相談はできないかもしれない。

「はい。今日は前に言っていた自由曲の候補を持ってきました。一緒に聴きましょう。楽譜はパートごとに一部ずつ渡すので、見たい人は見てください」

「やった!」

 私は意気揚々と先生から楽譜を三曲分もらった。ソプラノの前に机を置いて、そこに楽譜を並べる。田尻君が興味深そうにそれを眺めた。

「小学校の時もコンクールは出てた?」
「はい」

 お、なんだか今日は素直。余計な一言が無い。こうしてくれていると可愛い後輩だ。先生が音源の準備をしている間、私たちも楽譜を読み込む。

 課題曲が爽やかな分、自由曲はバラードや短調の曲なのか、納得。バラードはサビの歌い上げが良いよね。短調もこれぞ合唱って感じがする。

 何故だか、合唱曲って暗い曲や戦争の曲や、悩んでいる曲などが多いイメージ。もちろん明るい曲も沢山ある。でも、どちらかというと。そういう方がテーマとして創造しやすいのかな。

 私自身は明るい性格だと思うけど、合唱曲だと短調の曲も好き。短調だと歌の旋律の美しさがより引き立たされる。あまり感情入れ過ぎて歌い上げちゃうと合唱の一員としては駄目だけどね。

 合唱で大事なのはパート内で声を合わせること。歌い方も、声の大きさも一人だけ目立ってはいけない。違うみんなが集まって同じ音を紡ぐ。難しいものだ、合唱は。

 でも、それが楽しい。

 みんなで一つになれた時、一人では絶対に出せない音が出る。一人じゃ作り出せない作品になる。それを目指して毎日頑張っている。

「さあ、一曲目流すからよぉく聴いてね」
「はい」

 一曲目は戦争で家族を失った女の子が、蝶に連れられて旅をする話。鬱々としたアルトの歌声が素晴らしい。どこの合唱団だろう、声色的に大人かな。ソロは、亡くなった家族を見つけて話しかける場面。「ここにいたんだね」って言って少女が力尽きる。哀しすぎるでしょう。

 二曲目はバラード。長調だけど、バラードだからどこか涼しさを感じる青春もの。これはソロ無しだった。

 最後は短調の曲。人間関係で悩む少年少女たち。中学生らしい歌詞が並ぶ。ソロはワンフレーズだけだけど、それが効いている。

「う~~~~ん」

 三曲聴き終わって、私は腕を組んで唸り声を上げた。あ、うるさかったかも。ごめんなさい。

「悩むよね」
「はい……」

 家原先輩に耳打ちされて神妙に頷く。

「だって、全部良いですよ。一曲に絞るの難しい」
「ね」

 周りも見渡すと、他の人たちも同様の顔をしていた。メモ帳に何か書いている人もいる。私もメモ取っておけばよかった。

「もう一度聴く?」
「お願いします!」

 小川先生の提案にすぐ乗った。これは一度聴いただけじゃ選べない。私たちは再度真剣に聴いた。

 三曲目が終わる頃、左隣にいた田尻君がぽつりと言った。

「自由曲、ソロあるんですね」
「そう。無い年もあるけど、ソロ有の曲が選ばれることが多いみたい」
「それはやりがいがあります」

 私が説明すると、田尻君が鼻息を荒くさせて答えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

後悔と快感の中で

なつき
エッセイ・ノンフィクション
後悔してる私 快感に溺れてしまってる私 なつきの体験談かも知れないです もしもあの人達がこれを読んだらどうしよう もっと後悔して もっと溺れてしまうかも ※感想を聞かせてもらえたらうれしいです

勝負に勝ったので委員長におっぱいを見せてもらった

矢木羽研
青春
優等生の委員長と「勝ったほうが言うことを聞く」という賭けをしたので、「おっぱい見せて」と頼んでみたら……青春寸止めストーリー。

意味がわかると下ネタにしかならない話

黒猫
ホラー
意味がわかると怖い話に影響されて作成した作品意味がわかると下ネタにしかならない話(ちなみに作者ががんばって考えているの更新遅れるっす)

【ショートショート】ほのぼの・ほっこり系

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
◆こちらは声劇用台本になりますが普通に読んで頂いても癒される作品になっています。 声劇用だと1分半〜5分ほど、黙読だと1分〜3分ほどで読みきれる作品です。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

孤児になると人権が剥奪され排泄の権利がなくなりおむつに排泄させられる話し

rtokpr
エッセイ・ノンフィクション
孤児になると人権が剥奪され排泄の権利がなくなりおむつに排泄させられる話し

スイミングスクールは学校じゃないので勃起してもセーフ

九拾七
青春
今から20年前、性に目覚めた少年の体験記。 行為はありません。

体育教師に目を付けられ、理不尽な体罰を受ける女の子

恩知らずなわんこ
現代文学
入学したばかりの女の子が体育の先生から理不尽な体罰をされてしまうお話です。

処理中です...