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自由曲選考
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一年生が入ってきて一週間、どうにかこうにか揉め事も起こらず、無難に過ごすことができた。田尻君がたまに冷や冷やすることを言ってくるのが心臓に悪い。どうにか大人しくしていてほしい。この子、二年生になって後輩入ってきた時大丈夫かな。来年は私たちが制御してまとめ上げないといけないんだ。困ったことがあっても頼る先輩はその頃いない。小川先生はいるけど、優しいから怒ることはないし、他のパートのことも見ないといけないからあまり相談はできないかもしれない。
「はい。今日は前に言っていた自由曲の候補を持ってきました。一緒に聴きましょう。楽譜はパートごとに一部ずつ渡すので、見たい人は見てください」
「やった!」
私は意気揚々と先生から楽譜を三曲分もらった。ソプラノの前に机を置いて、そこに楽譜を並べる。田尻君が興味深そうにそれを眺めた。
「小学校の時もコンクールは出てた?」
「はい」
お、なんだか今日は素直。余計な一言が無い。こうしてくれていると可愛い後輩だ。先生が音源の準備をしている間、私たちも楽譜を読み込む。
課題曲が爽やかな分、自由曲はバラードや短調の曲なのか、納得。バラードはサビの歌い上げが良いよね。短調もこれぞ合唱って感じがする。
何故だか、合唱曲って暗い曲や戦争の曲や、悩んでいる曲などが多いイメージ。もちろん明るい曲も沢山ある。でも、どちらかというと。そういう方がテーマとして創造しやすいのかな。
私自身は明るい性格だと思うけど、合唱曲だと短調の曲も好き。短調だと歌の旋律の美しさがより引き立たされる。あまり感情入れ過ぎて歌い上げちゃうと合唱の一員としては駄目だけどね。
合唱で大事なのはパート内で声を合わせること。歌い方も、声の大きさも一人だけ目立ってはいけない。違うみんなが集まって同じ音を紡ぐ。難しいものだ、合唱は。
でも、それが楽しい。
みんなで一つになれた時、一人では絶対に出せない音が出る。一人じゃ作り出せない作品になる。それを目指して毎日頑張っている。
「さあ、一曲目流すからよぉく聴いてね」
「はい」
一曲目は戦争で家族を失った女の子が、蝶に連れられて旅をする話。鬱々としたアルトの歌声が素晴らしい。どこの合唱団だろう、声色的に大人かな。ソロは、亡くなった家族を見つけて話しかける場面。「ここにいたんだね」って言って少女が力尽きる。哀しすぎるでしょう。
二曲目はバラード。長調だけど、バラードだからどこか涼しさを感じる青春もの。これはソロ無しだった。
最後は短調の曲。人間関係で悩む少年少女たち。中学生らしい歌詞が並ぶ。ソロはワンフレーズだけだけど、それが効いている。
「う~~~~ん」
三曲聴き終わって、私は腕を組んで唸り声を上げた。あ、うるさかったかも。ごめんなさい。
「悩むよね」
「はい……」
家原先輩に耳打ちされて神妙に頷く。
「だって、全部良いですよ。一曲に絞るの難しい」
「ね」
周りも見渡すと、他の人たちも同様の顔をしていた。メモ帳に何か書いている人もいる。私もメモ取っておけばよかった。
「もう一度聴く?」
「お願いします!」
小川先生の提案にすぐ乗った。これは一度聴いただけじゃ選べない。私たちは再度真剣に聴いた。
三曲目が終わる頃、左隣にいた田尻君がぽつりと言った。
「自由曲、ソロあるんですね」
「そう。無い年もあるけど、ソロ有の曲が選ばれることが多いみたい」
「それはやりがいがあります」
私が説明すると、田尻君が鼻息を荒くさせて答えた。
「はい。今日は前に言っていた自由曲の候補を持ってきました。一緒に聴きましょう。楽譜はパートごとに一部ずつ渡すので、見たい人は見てください」
「やった!」
私は意気揚々と先生から楽譜を三曲分もらった。ソプラノの前に机を置いて、そこに楽譜を並べる。田尻君が興味深そうにそれを眺めた。
「小学校の時もコンクールは出てた?」
「はい」
お、なんだか今日は素直。余計な一言が無い。こうしてくれていると可愛い後輩だ。先生が音源の準備をしている間、私たちも楽譜を読み込む。
課題曲が爽やかな分、自由曲はバラードや短調の曲なのか、納得。バラードはサビの歌い上げが良いよね。短調もこれぞ合唱って感じがする。
何故だか、合唱曲って暗い曲や戦争の曲や、悩んでいる曲などが多いイメージ。もちろん明るい曲も沢山ある。でも、どちらかというと。そういう方がテーマとして創造しやすいのかな。
私自身は明るい性格だと思うけど、合唱曲だと短調の曲も好き。短調だと歌の旋律の美しさがより引き立たされる。あまり感情入れ過ぎて歌い上げちゃうと合唱の一員としては駄目だけどね。
合唱で大事なのはパート内で声を合わせること。歌い方も、声の大きさも一人だけ目立ってはいけない。違うみんなが集まって同じ音を紡ぐ。難しいものだ、合唱は。
でも、それが楽しい。
みんなで一つになれた時、一人では絶対に出せない音が出る。一人じゃ作り出せない作品になる。それを目指して毎日頑張っている。
「さあ、一曲目流すからよぉく聴いてね」
「はい」
一曲目は戦争で家族を失った女の子が、蝶に連れられて旅をする話。鬱々としたアルトの歌声が素晴らしい。どこの合唱団だろう、声色的に大人かな。ソロは、亡くなった家族を見つけて話しかける場面。「ここにいたんだね」って言って少女が力尽きる。哀しすぎるでしょう。
二曲目はバラード。長調だけど、バラードだからどこか涼しさを感じる青春もの。これはソロ無しだった。
最後は短調の曲。人間関係で悩む少年少女たち。中学生らしい歌詞が並ぶ。ソロはワンフレーズだけだけど、それが効いている。
「う~~~~ん」
三曲聴き終わって、私は腕を組んで唸り声を上げた。あ、うるさかったかも。ごめんなさい。
「悩むよね」
「はい……」
家原先輩に耳打ちされて神妙に頷く。
「だって、全部良いですよ。一曲に絞るの難しい」
「ね」
周りも見渡すと、他の人たちも同様の顔をしていた。メモ帳に何か書いている人もいる。私もメモ取っておけばよかった。
「もう一度聴く?」
「お願いします!」
小川先生の提案にすぐ乗った。これは一度聴いただけじゃ選べない。私たちは再度真剣に聴いた。
三曲目が終わる頃、左隣にいた田尻君がぽつりと言った。
「自由曲、ソロあるんですね」
「そう。無い年もあるけど、ソロ有の曲が選ばれることが多いみたい」
「それはやりがいがあります」
私が説明すると、田尻君が鼻息を荒くさせて答えた。
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