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師父は死んだ
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ふと、ある時から人ならざるモノが人間世界に蔓延り、この世は混乱に陥っていった。それらから人々を守るのは仙術に長けた仙門家たち。任氏、石氏二大世家が束ねる仙門家は世界にちらばり、日々仙術を学び、人々を助けた。
特に、任氏当主の弟である任優俊は仙術の才能が飛びぬけており、近年稀にみる仙人であると噂された。人望も厚く、百年不在の二大世家を纏める人物―総督―になれると皆が言うため、時代の流れは任氏中心に傾いていった。
面白くないのは石氏だ。本来であれば、歴史の深いこちらから総督を出すべきなのに、石氏の当主は考えた。
『任優俊がいなくなればいい!』
『任優俊さん、失礼します』
『ありがとう』
酒を注がれた任優俊が礼を言う。
年に二度行われる仙門集会。今回は任氏が主催で、当主の任才牙を中心に宴が催されていた。二大世家の門下にいる仙門家の当主たちも集まり、数十名からなる大規模なものとなった。
各地域の報告が終わり、あとはゆったりと食事を楽しむのみ。任氏の修仙者たちが酒を注ぎ、乾杯が行われた。
『各仙門家の益々の繁栄を祈って』
任才牙の言葉を聞き、皆が酒を一気に呷る。瞬間、任優俊が酒を勢いよく吐き出した。
『ぐぁ……っあ、ぁ!』
『任優俊!?』
『……ッッど、く』
『毒だって!?』
辺りは騒然とし、誰もが杯を投げ捨て、任優俊の傍へ寄った。酒を注いだ弟子は体を震わせ、酒の入れ物をその場で落として割ってしまった。一人が彼に詰め寄る。
『お前が毒を持ったのか!』
『ちが、ちがいます』
『なら、なぜ彼は苦しんでいる!』
『それより薬師を呼ぶのだ!』
呻く任優俊を抱き寄せ、二人がかりで彼の部屋へ連れて行った。当人のいなくなった宴会場は一様に暗い顔をしながらも、あちらこちらで推測が始まった
『誰がこんなことを。彼以外はなんともない、酒ではなく、杯に細工がされていたのでは?』
『薬師を呼んでも、どんな毒か分からねば間に合うかどうか』
『彼がいなくては総督の件もまた延期か』
『だとすると犯人は』
バリン!
奥の部屋から大きな音が届いた。視線がそちらへ集中する。すぐに、任氏に属する葉夕沈が慌ただしくやってきた。
『葉夕沈! あの音はなんだ!』
任才牙が大声で問うと、葉夕沈が顔中汗を垂らして叫んだ。
『俊兄が誘拐された! 私も抵抗したけどあちらは複数いて……牙兄ッ一緒に追ってください!』
『なんだって…!?』
任才牙の顔が青を通り越して真っ白になった。すぐさま仙人が扱う仙剣望湖を抜き、窓を開け放って剣の上に乗る。
『ついてこい! 皆の者はここで待機するように』
二人を見送った者たちは、先ほどとは打って変わって静かなものだった。事の重大さをようやく実感した。
彼らは丑の刻になって、這々の体で帰ってきた。任才牙の手には、任優俊の仙剣である如天が握られていた。
『牙兄ッ俊兄は!?』
葉夕沈が任才牙に駆け寄る。任才牙は下唇を噛みしめながら首を振った。
『見つからなかった。北の方角にある崖の上で望湖が落ちていた』
『そんな……ッ』
特に、任氏当主の弟である任優俊は仙術の才能が飛びぬけており、近年稀にみる仙人であると噂された。人望も厚く、百年不在の二大世家を纏める人物―総督―になれると皆が言うため、時代の流れは任氏中心に傾いていった。
面白くないのは石氏だ。本来であれば、歴史の深いこちらから総督を出すべきなのに、石氏の当主は考えた。
『任優俊がいなくなればいい!』
『任優俊さん、失礼します』
『ありがとう』
酒を注がれた任優俊が礼を言う。
年に二度行われる仙門集会。今回は任氏が主催で、当主の任才牙を中心に宴が催されていた。二大世家の門下にいる仙門家の当主たちも集まり、数十名からなる大規模なものとなった。
各地域の報告が終わり、あとはゆったりと食事を楽しむのみ。任氏の修仙者たちが酒を注ぎ、乾杯が行われた。
『各仙門家の益々の繁栄を祈って』
任才牙の言葉を聞き、皆が酒を一気に呷る。瞬間、任優俊が酒を勢いよく吐き出した。
『ぐぁ……っあ、ぁ!』
『任優俊!?』
『……ッッど、く』
『毒だって!?』
辺りは騒然とし、誰もが杯を投げ捨て、任優俊の傍へ寄った。酒を注いだ弟子は体を震わせ、酒の入れ物をその場で落として割ってしまった。一人が彼に詰め寄る。
『お前が毒を持ったのか!』
『ちが、ちがいます』
『なら、なぜ彼は苦しんでいる!』
『それより薬師を呼ぶのだ!』
呻く任優俊を抱き寄せ、二人がかりで彼の部屋へ連れて行った。当人のいなくなった宴会場は一様に暗い顔をしながらも、あちらこちらで推測が始まった
『誰がこんなことを。彼以外はなんともない、酒ではなく、杯に細工がされていたのでは?』
『薬師を呼んでも、どんな毒か分からねば間に合うかどうか』
『彼がいなくては総督の件もまた延期か』
『だとすると犯人は』
バリン!
奥の部屋から大きな音が届いた。視線がそちらへ集中する。すぐに、任氏に属する葉夕沈が慌ただしくやってきた。
『葉夕沈! あの音はなんだ!』
任才牙が大声で問うと、葉夕沈が顔中汗を垂らして叫んだ。
『俊兄が誘拐された! 私も抵抗したけどあちらは複数いて……牙兄ッ一緒に追ってください!』
『なんだって…!?』
任才牙の顔が青を通り越して真っ白になった。すぐさま仙人が扱う仙剣望湖を抜き、窓を開け放って剣の上に乗る。
『ついてこい! 皆の者はここで待機するように』
二人を見送った者たちは、先ほどとは打って変わって静かなものだった。事の重大さをようやく実感した。
彼らは丑の刻になって、這々の体で帰ってきた。任才牙の手には、任優俊の仙剣である如天が握られていた。
『牙兄ッ俊兄は!?』
葉夕沈が任才牙に駆け寄る。任才牙は下唇を噛みしめながら首を振った。
『見つからなかった。北の方角にある崖の上で望湖が落ちていた』
『そんな……ッ』
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