35 / 38
騎士サイドXVIII 誓い
しおりを挟む
陛下が呆然とされている。それも当たり前のことでしょう。当事者以外誰も知るはずのない情報。誰にも知られてはならなかった情報。
「だから、私は『すべて』を存じ上げているのです。陛下、いえ、レックス・ウィステリア様」
くふ、と笑みが、深くなってしまう自分を抑えきれない。
「レックス様。以前仰いましたよね? あの技をどうして知っているのかと」
「『白薔薇の騎士』のことも、勿論把握しております、レックス様」
執拗いほどに、陛下の本来の御名前を口にする。これは、この感情は、恍惚だ。
「我をその名で呼ぶな——シュバリエ!」
あぁ、そんなに声を荒らげられて、御手を震わせて。大丈夫、大丈夫ですよ、陛下。
「とても興味深いお話でした、レックス様」
灯りを上手く点けられないご様子。常ならばすぐにお点けするところですが。でも、もう少し、月の光を楽しみたい。
「ですが、御安心ください、陛下。私とて『黒薔薇の騎士』。その名に恥じぬよう、これからも陛下を御支えします」
酷く狼狽しておられるのですね、葉巻も上手くつけられない。
陛下の絶望が手に取るように分かる。えぇ、分かりますとも。陛下の御心なのですから。
「このシュバリエ。これからも御身の盾となり矛となりましょう」
「その証に、不要な『外野』は排除しておきました」
「覚えておられますか、いつぞやの事件を。『白い亡霊』のこと」
「あの頃はあまり隠そうともしていませんでしたし、まだまだ未熟でした。丁度良い犯人役を立てられたので、よかったと言えばよかったのですが」
きっと思い出していらっしゃるところでしょう。
『ふむ……ここのところ、何やら市井では、不審死が相次いでいるようだな』
『なんでも、警察は犯人の手がかりどころか、影も形も掴めていないだとか……。民の間では白い亡霊がどうとかいう噂も流れておりますが』
「アラン・スミス。アルベルト・クライン。アーノルド・マーティス。アレクシス・テイラー。アシュリー・ブラウン。ブルース・ロバーツ。キャロル・ホワイト。ケイシー・ライト。セシル・ボードウィン。クリス・デイヴィス。ダニエル・ホール。デューク・トンプソン。エドワード・ジョーンズ。エヴァン・ターナー。フランシス・クラーク。ジェラルド・クーパー。グレッグ・ヒル。」
「とりあえずGまで挙げましたが、こうして振り返ると、まったくどうして、こんなにゴミが多いのでしょうね」
おや、陛下の御尊顔から色が失われているように見えるのは、月光のせいだろうか。
「ここへ仕えていたリアナ・マルクスはご存知でしたか? あぁ、いいのです、一介のメイドの名など、知らぬが当然。彼女を片付けたのは、ユール・タマージュの関与が判明したからなのですよ」
「彼は彼で、常に王宮の内部情報を欲していたようでしたから……。当時、ユールに接触もしたのですが、あの頃の私では敵わないと手を引きました。一緒に片付けてしまえたら、どんなによかったことかと、何度悔やんでも悔やみきれませんね」
つい困り顔になってしまう。彼の家族は厄介だ。
それでも、必ず。
片方の手で、震え続ける陛下の御手を取り、跪く。もう片方の手を陛下の御手にそっと重ねる。
「どうか恐れないで、怖がらないで。私は陛下から何も奪いません」
虚ろを湛えながら揺れる紅い眼。なんと尊いことか。
「私の」
なるだけ届くように。奥底へ響くように。
「私の命は、毒となり彼の者の喉を侵しましょう。
私の体は、獣となり彼の者の身を八つに裂きましょう。
私の魂は、呪いとなり彼の者の道筋を奈落に染め上げましょう。
五つのロベリアを摘み取り、貴方の前に並べましょう。
そうして私を、貴方の炎で包んでほしい。
熱く燃えたぎる炎で包んでほしい。
私は貴方の手で生まれ、貴方の手で滅ぶのだから」
私は誓う。
二十一グラムの魂を、肉体を、生命を、すべてをかけて、御身の敵を滅ぼすと。御身を害するあらゆるものを消し去ると。
私は。私は、貴方に仕えることができて。
とても幸せだ。
「だから、私は『すべて』を存じ上げているのです。陛下、いえ、レックス・ウィステリア様」
くふ、と笑みが、深くなってしまう自分を抑えきれない。
「レックス様。以前仰いましたよね? あの技をどうして知っているのかと」
「『白薔薇の騎士』のことも、勿論把握しております、レックス様」
執拗いほどに、陛下の本来の御名前を口にする。これは、この感情は、恍惚だ。
「我をその名で呼ぶな——シュバリエ!」
あぁ、そんなに声を荒らげられて、御手を震わせて。大丈夫、大丈夫ですよ、陛下。
「とても興味深いお話でした、レックス様」
灯りを上手く点けられないご様子。常ならばすぐにお点けするところですが。でも、もう少し、月の光を楽しみたい。
「ですが、御安心ください、陛下。私とて『黒薔薇の騎士』。その名に恥じぬよう、これからも陛下を御支えします」
酷く狼狽しておられるのですね、葉巻も上手くつけられない。
陛下の絶望が手に取るように分かる。えぇ、分かりますとも。陛下の御心なのですから。
「このシュバリエ。これからも御身の盾となり矛となりましょう」
「その証に、不要な『外野』は排除しておきました」
「覚えておられますか、いつぞやの事件を。『白い亡霊』のこと」
「あの頃はあまり隠そうともしていませんでしたし、まだまだ未熟でした。丁度良い犯人役を立てられたので、よかったと言えばよかったのですが」
きっと思い出していらっしゃるところでしょう。
『ふむ……ここのところ、何やら市井では、不審死が相次いでいるようだな』
『なんでも、警察は犯人の手がかりどころか、影も形も掴めていないだとか……。民の間では白い亡霊がどうとかいう噂も流れておりますが』
「アラン・スミス。アルベルト・クライン。アーノルド・マーティス。アレクシス・テイラー。アシュリー・ブラウン。ブルース・ロバーツ。キャロル・ホワイト。ケイシー・ライト。セシル・ボードウィン。クリス・デイヴィス。ダニエル・ホール。デューク・トンプソン。エドワード・ジョーンズ。エヴァン・ターナー。フランシス・クラーク。ジェラルド・クーパー。グレッグ・ヒル。」
「とりあえずGまで挙げましたが、こうして振り返ると、まったくどうして、こんなにゴミが多いのでしょうね」
おや、陛下の御尊顔から色が失われているように見えるのは、月光のせいだろうか。
「ここへ仕えていたリアナ・マルクスはご存知でしたか? あぁ、いいのです、一介のメイドの名など、知らぬが当然。彼女を片付けたのは、ユール・タマージュの関与が判明したからなのですよ」
「彼は彼で、常に王宮の内部情報を欲していたようでしたから……。当時、ユールに接触もしたのですが、あの頃の私では敵わないと手を引きました。一緒に片付けてしまえたら、どんなによかったことかと、何度悔やんでも悔やみきれませんね」
つい困り顔になってしまう。彼の家族は厄介だ。
それでも、必ず。
片方の手で、震え続ける陛下の御手を取り、跪く。もう片方の手を陛下の御手にそっと重ねる。
「どうか恐れないで、怖がらないで。私は陛下から何も奪いません」
虚ろを湛えながら揺れる紅い眼。なんと尊いことか。
「私の」
なるだけ届くように。奥底へ響くように。
「私の命は、毒となり彼の者の喉を侵しましょう。
私の体は、獣となり彼の者の身を八つに裂きましょう。
私の魂は、呪いとなり彼の者の道筋を奈落に染め上げましょう。
五つのロベリアを摘み取り、貴方の前に並べましょう。
そうして私を、貴方の炎で包んでほしい。
熱く燃えたぎる炎で包んでほしい。
私は貴方の手で生まれ、貴方の手で滅ぶのだから」
私は誓う。
二十一グラムの魂を、肉体を、生命を、すべてをかけて、御身の敵を滅ぼすと。御身を害するあらゆるものを消し去ると。
私は。私は、貴方に仕えることができて。
とても幸せだ。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる