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騎士サイドXVIII 誓い
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陛下が呆然とされている。それも当たり前のことでしょう。当事者以外誰も知るはずのない情報。誰にも知られてはならなかった情報。
「だから、私は『すべて』を存じ上げているのです。陛下、いえ、レックス・ウィステリア様」
くふ、と笑みが、深くなってしまう自分を抑えきれない。
「レックス様。以前仰いましたよね? あの技をどうして知っているのかと」
「『白薔薇の騎士』のことも、勿論把握しております、レックス様」
執拗いほどに、陛下の本来の御名前を口にする。これは、この感情は、恍惚だ。
「我をその名で呼ぶな——シュバリエ!」
あぁ、そんなに声を荒らげられて、御手を震わせて。大丈夫、大丈夫ですよ、陛下。
「とても興味深いお話でした、レックス様」
灯りを上手く点けられないご様子。常ならばすぐにお点けするところですが。でも、もう少し、月の光を楽しみたい。
「ですが、御安心ください、陛下。私とて『黒薔薇の騎士』。その名に恥じぬよう、これからも陛下を御支えします」
酷く狼狽しておられるのですね、葉巻も上手くつけられない。
陛下の絶望が手に取るように分かる。えぇ、分かりますとも。陛下の御心なのですから。
「このシュバリエ。これからも御身の盾となり矛となりましょう」
「その証に、不要な『外野』は排除しておきました」
「覚えておられますか、いつぞやの事件を。『白い亡霊』のこと」
「あの頃はあまり隠そうともしていませんでしたし、まだまだ未熟でした。丁度良い犯人役を立てられたので、よかったと言えばよかったのですが」
きっと思い出していらっしゃるところでしょう。
『ふむ……ここのところ、何やら市井では、不審死が相次いでいるようだな』
『なんでも、警察は犯人の手がかりどころか、影も形も掴めていないだとか……。民の間では白い亡霊がどうとかいう噂も流れておりますが』
「アラン・スミス。アルベルト・クライン。アーノルド・マーティス。アレクシス・テイラー。アシュリー・ブラウン。ブルース・ロバーツ。キャロル・ホワイト。ケイシー・ライト。セシル・ボードウィン。クリス・デイヴィス。ダニエル・ホール。デューク・トンプソン。エドワード・ジョーンズ。エヴァン・ターナー。フランシス・クラーク。ジェラルド・クーパー。グレッグ・ヒル。」
「とりあえずGまで挙げましたが、こうして振り返ると、まったくどうして、こんなにゴミが多いのでしょうね」
おや、陛下の御尊顔から色が失われているように見えるのは、月光のせいだろうか。
「ここへ仕えていたリアナ・マルクスはご存知でしたか? あぁ、いいのです、一介のメイドの名など、知らぬが当然。彼女を片付けたのは、ユール・タマージュの関与が判明したからなのですよ」
「彼は彼で、常に王宮の内部情報を欲していたようでしたから……。当時、ユールに接触もしたのですが、あの頃の私では敵わないと手を引きました。一緒に片付けてしまえたら、どんなによかったことかと、何度悔やんでも悔やみきれませんね」
つい困り顔になってしまう。彼の家族は厄介だ。
それでも、必ず。
片方の手で、震え続ける陛下の御手を取り、跪く。もう片方の手を陛下の御手にそっと重ねる。
「どうか恐れないで、怖がらないで。私は陛下から何も奪いません」
虚ろを湛えながら揺れる紅い眼。なんと尊いことか。
「私の」
なるだけ届くように。奥底へ響くように。
「私の命は、毒となり彼の者の喉を侵しましょう。
私の体は、獣となり彼の者の身を八つに裂きましょう。
私の魂は、呪いとなり彼の者の道筋を奈落に染め上げましょう。
五つのロベリアを摘み取り、貴方の前に並べましょう。
そうして私を、貴方の炎で包んでほしい。
熱く燃えたぎる炎で包んでほしい。
私は貴方の手で生まれ、貴方の手で滅ぶのだから」
私は誓う。
二十一グラムの魂を、肉体を、生命を、すべてをかけて、御身の敵を滅ぼすと。御身を害するあらゆるものを消し去ると。
私は。私は、貴方に仕えることができて。
とても幸せだ。
「だから、私は『すべて』を存じ上げているのです。陛下、いえ、レックス・ウィステリア様」
くふ、と笑みが、深くなってしまう自分を抑えきれない。
「レックス様。以前仰いましたよね? あの技をどうして知っているのかと」
「『白薔薇の騎士』のことも、勿論把握しております、レックス様」
執拗いほどに、陛下の本来の御名前を口にする。これは、この感情は、恍惚だ。
「我をその名で呼ぶな——シュバリエ!」
あぁ、そんなに声を荒らげられて、御手を震わせて。大丈夫、大丈夫ですよ、陛下。
「とても興味深いお話でした、レックス様」
灯りを上手く点けられないご様子。常ならばすぐにお点けするところですが。でも、もう少し、月の光を楽しみたい。
「ですが、御安心ください、陛下。私とて『黒薔薇の騎士』。その名に恥じぬよう、これからも陛下を御支えします」
酷く狼狽しておられるのですね、葉巻も上手くつけられない。
陛下の絶望が手に取るように分かる。えぇ、分かりますとも。陛下の御心なのですから。
「このシュバリエ。これからも御身の盾となり矛となりましょう」
「その証に、不要な『外野』は排除しておきました」
「覚えておられますか、いつぞやの事件を。『白い亡霊』のこと」
「あの頃はあまり隠そうともしていませんでしたし、まだまだ未熟でした。丁度良い犯人役を立てられたので、よかったと言えばよかったのですが」
きっと思い出していらっしゃるところでしょう。
『ふむ……ここのところ、何やら市井では、不審死が相次いでいるようだな』
『なんでも、警察は犯人の手がかりどころか、影も形も掴めていないだとか……。民の間では白い亡霊がどうとかいう噂も流れておりますが』
「アラン・スミス。アルベルト・クライン。アーノルド・マーティス。アレクシス・テイラー。アシュリー・ブラウン。ブルース・ロバーツ。キャロル・ホワイト。ケイシー・ライト。セシル・ボードウィン。クリス・デイヴィス。ダニエル・ホール。デューク・トンプソン。エドワード・ジョーンズ。エヴァン・ターナー。フランシス・クラーク。ジェラルド・クーパー。グレッグ・ヒル。」
「とりあえずGまで挙げましたが、こうして振り返ると、まったくどうして、こんなにゴミが多いのでしょうね」
おや、陛下の御尊顔から色が失われているように見えるのは、月光のせいだろうか。
「ここへ仕えていたリアナ・マルクスはご存知でしたか? あぁ、いいのです、一介のメイドの名など、知らぬが当然。彼女を片付けたのは、ユール・タマージュの関与が判明したからなのですよ」
「彼は彼で、常に王宮の内部情報を欲していたようでしたから……。当時、ユールに接触もしたのですが、あの頃の私では敵わないと手を引きました。一緒に片付けてしまえたら、どんなによかったことかと、何度悔やんでも悔やみきれませんね」
つい困り顔になってしまう。彼の家族は厄介だ。
それでも、必ず。
片方の手で、震え続ける陛下の御手を取り、跪く。もう片方の手を陛下の御手にそっと重ねる。
「どうか恐れないで、怖がらないで。私は陛下から何も奪いません」
虚ろを湛えながら揺れる紅い眼。なんと尊いことか。
「私の」
なるだけ届くように。奥底へ響くように。
「私の命は、毒となり彼の者の喉を侵しましょう。
私の体は、獣となり彼の者の身を八つに裂きましょう。
私の魂は、呪いとなり彼の者の道筋を奈落に染め上げましょう。
五つのロベリアを摘み取り、貴方の前に並べましょう。
そうして私を、貴方の炎で包んでほしい。
熱く燃えたぎる炎で包んでほしい。
私は貴方の手で生まれ、貴方の手で滅ぶのだから」
私は誓う。
二十一グラムの魂を、肉体を、生命を、すべてをかけて、御身の敵を滅ぼすと。御身を害するあらゆるものを消し去ると。
私は。私は、貴方に仕えることができて。
とても幸せだ。
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