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深夜の訪問

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「お帰りなさいませ。随分、お疲れのようですね。何か収穫はありましたか?」

「大収穫。ちょっと時間はかかりそうだけど。」

帰寮時間はもう既に過ぎていた。その為、地上からテラスまで飛んで帰った。しかし、変わった帰宅方法に慣れたラーヤは少しも驚いた様子がない。

「それはようございました。1人で仕事をこなした甲斐があったというものです。」

嫌味なやつだな。主人の幸せを喜べよ。

・・・まぁ、ただ従順なやつなら一緒にいないけど。

ラーヤには引き続き仕事をしてもらわないといけないし、これくらいの嫌味くらい受け流そう。

書斎で本を広げ始めると、ラーヤがコーヒーを持ってきた。僕が本を持って帰って来たので、書斎に行くとわかっていたのだろう。こういうところ、こいつは優秀なんだよな。

僕は執務の時、コーヒーを飲むことが多い。眠気覚ましというのもあるけれど、実は紅茶よりコーヒー派だ。

さて、何から手をつけようか。教材で勉強すると時間がかかるしな。リアのいう"もうすぐ"がいつかはわからないが、ここ最近の様子を見ているとそんなに時間はかけられない。でも初めましてで小説はきついよな・・・。

ん?これとかいいんじゃないか?

手に取ったのはお婆様の日記。

日記までシシーが待っていたことを知ると、お祖父様は寂しがるだろう。日記なんてつけないやつだと思っているだろうからな。


★★★


その日から、教本と照らし合わせてお婆様の日記を読み始めた。

調べることが多すぎて、時間が足りない。

リアを不安にさせない為にも、今までの習慣は変えずに本を読み続けた。そうすると、もちろん僕の睡眠時間が減る。

少し慣れて読むスピードは速くなったとはいえ、お婆様は3歳の頃から日記をつけていたようで骨が折れる作業だった。

シシーが持ってきた時は数冊で、すぐ読み終わりそうな分厚さに見えたのに全然終わらない。というのも、お婆様は変わった魔法をこの本にかけていたようだ。3歳から寝たきりになる少し前までの日記が1冊にまとまってるような。お陰で見た目は普通の日記帳なのに、読んでも読んでも先に進まないという状態になってしまった。

しかし、収穫はかなりあった。


要点をまとめると・・・

・お婆様は"日本"という異世界に住んでいた。

・生まれた時から前世の記憶があった。

・前世は働き過ぎで亡くなってしまった。

・お婆様は『ラブトリップ~運命の恋、始めます~』の作者。

・覚えてることを書き留める為、文字をすぐ覚えて日記を書き始めたら天才だと祭り上げられ、王太子の婚約者になってしまった。

・自分の息子が生まれ、夫が名前をつけた時に自分の息子が攻略対象の父になる人だと気づいた。


といったところ。


・・・うん、頭がパンクしそうだ。ちょっと休憩しよう。

僕はまだ"攻略対象"というものがどういうものかわかっていない。それに、僕が知ってるゲームはボードゲームとかなわけで・・・スマホ?アプリ?なんてものは理解ができない。

スマホというものにアプリというものが存在して、そのアプリがゲームと呼ばれている?のはなんとなく理解したが、想像がついていかない。

自分は理解能力がある方だと思っていたのに・・・。

目も頭もかなり疲弊している。目頭を押さえて、グリグリとマッサージした。

コンコンコンッ

「・・・なんだ、ラーヤ。いつも、ドアを叩いて入るなんてしないじゃないか。」

「それがですね・・・エミリア様がいらっしゃってるのです。」

「リアが???真夜中だぞ?訪問可能な時間もとっくに過ぎてるのに・・・。」

リアは何を考えてるんだ。真夜中に男子寮を訪ねて来るなんて。ここに辿り着く前に誰かにバレて、いかがわしいことでもされたらどうするんだ!!思春期の男子、しかもこの時間帯の男を舐めてるんじゃないのか?

「・・・すぐ行く。」

鏡の前で少し乱れた服装を整える振りをして、鏡に映る自分に言い聞かせた。

キュンとしても、ムラッとしても、手は出さない。疲れてるからって理性飛ばさない。絶対・・・絶対だ。よし、行こう。

「何してるんですか。」

「うるさい。今、行くから。」

リビングに向かうと、確かにリアがそこにいた。

・・・はぁ、本当にいる。手を出してくださいって言ってるようなものだぞ。狼がわざわざ檻の中にこもってるのに、食べてくださいって檻に侵入してきてるのと同じ状態なんだぞ!

ダメだ・・・疲れすぎて、変なことばっかり考えてる。

「ルカ様!!」

僕が来たことに気づいたリアが、とびっきりの笑顔を向けてきた。

はい、やばい。可愛いが過ぎた。

赤くなったであろう顔を両手で隠して、天を仰ぐ。

誰か!!ここに天使がいます!!僕の婚約者が天使です!!!

「あの・・・ルカ様??」

「気にしないで。」

今の状態で彼女の隣に座るのはまずい気がする。そう思って、向かいのソファに腰を下ろした。

「こんな時間にごめんなさい。」

ほんとだよ!!

「いいんだけど、どうかしたの?」

下心を無理矢理封印して笑顔で答えたのに、リアの表情は曇ってしまった。

・・・・・・僕、なんかまずいことしただろうか?

「隣にいってもいいですか?」

だめです!!僕の理性が!

「・・・もちろん。」

彼女は隣に腰を下ろすと、心配そうに僕の目元をなぞった。

「最近、お疲れですよね?無理はよくないですよ?」

しまった・・・そういえば、最近クマができたんだった。心配させてしまったのか。

「お忙しいのはわかっているのですが、きちんと睡眠をとってください。もうこんなに夜も深いのに、まだ書斎にいらしたんでしょう?」

頼むから上目遣いで見ないでくれ。いつもよりグサッときちゃうじゃないか。

「出張後の報告書類が多くて。心配しなくても大丈夫だよ。」

「大丈夫じゃなさそうな顔をしてます!今日はもう寝てください!ルカ様の寝顔を見るまで、今日は帰りません!」

真夜中にリアが来てるってのに、ベッドに行けるわけないじゃないか!寝れるか!

「め、目が冴えちゃってて・・・」

「それでも目を閉じてください。気がつく頃には寝てしまってるはずです。」

「目を、閉じる・・・」

リアで想像しちゃった・・・この顔のまま目を閉じられたら間違いなくキスしたくなる・・・。

もう、落ち着けよ僕・・・。

「・・・・・・そ、添い寝とかしましょうか?」

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は??

びっくりし過ぎて、思考止まっちゃったわ。本当にびっくりした。え、添い寝?誘われてるの?

いやいやいやいや、リアだぞ?ただの善意だ。わかってる。絶対そうだ。

「眠れないんですよね・・・?恥ずかしい話ですが、怖い夢を見て眠れなくなった時、お兄様と一緒に寝てもらったのです。そうすると、安心して眠れまして・・・。」

羨まし過ぎるぞ!サイラス!!!

やっぱり、やっぱりわかってないじゃないか。

「人の心臓の鼓動を聞くと、安心して眠れるそうですよ?」

「・・・・・・リアが一緒に寝たいっていうなら、寝てあげないこともない。」

あぁぁぁぁ、言ってしまった!誘惑に負けた!

人の心臓の鼓動を聞く?え、リアに抱き締めてもらえる?ちょっと待って、胸に顔がatr・・・・・・。

待って僕ってこんなに変態だったっけ?なんかショック・・・。

ふと書斎側のドアを見ると、ラーヤが残念なものを見る目で僕を見ていた。

今だけはお前と同意見だぞ・・・・・・。

「ルカ様?大丈夫ですか?」

「リアこそ、大丈夫なのか?」

「はい!私はラナに伝えてありますし・・・寮監が殿下の婚約者ならと快く入れてくださったので。寮監さんも心配してましたよ?最近、夜遅くまで明かりがついてるって。」

心配してくれてありがとう、寮監・・・。そして君は、一番送り込んではいけないものを通してしまったよ・・・。

はい!とか元気に言っちゃって。僕が聞いた大丈夫の意味と絶対違うよ。

「わかった。今日は寝る。ありがとう。」

目を合わせたまま、リアの手を握った。
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