上 下
68 / 69

68・ソドムに帰還

しおりを挟む
インシュンが相棒の両端に酒壺を吊るしながら一人で背負っていた。

この酒は、本日朝から城下町ソドムに旅立つにあたっての手土産である。

研修のためにソドムに旅立つ面々は、ムサシ、ガラシャ、インシュン、キリマル、その他に男女三匹ずつの、計十匹のリザードマンたちであった。

その他のリザードマンたちは留守番である。

村長代理はジュウベイに任せられた。

旅立つリザードマンの全員が、他種族の住居地に踏み込むのは初めてである。

なので皆がワクワクしていた。

完全にお上りさん状態である。

リザードマンの村を旅立つ寸前でガラシャがそわそわしながら父のムサシに問う。

「父上、都に上るのにお土産は持ちましたか!?」

ムサシは凛々しく分厚くなった胸板を叩きながら答える。

「安心せいガラシャ。インシュンに酒を持たせた。これが土産じゃわい!」

今度はガラシャが酒樽を相棒で二つ背負うインシュンに問うた。

「インシュン、どのような酒を持ってまいったのじゃ?」

すると落ち着かないガラシャにインシュンが答えた。

「姫様、酒は今年の出来で最高品な物を持ちました故に安心なされ」

「まことか、まことだな。最高品質の酒を持ったのだな。もしも粗末な貢ぎ物を献上したとあってはリザードマン族の恥晒しじゃぞ!」

どうやらガラシャは見栄を張りたいようだ。

この蜥蜴娘は見栄っ張りなのだろう。

すると小柄なキリマルが、インシュンが運んでいる酒壺の中身を覗き込みながら言う。

「ガラシャ様、安心してくだされ。その壺のお酒、この前少しだけ飲みましたが、最高に美味しかったでござるよ」

それでもガラシャはそわそわしながら言った。

「まことだな、キリマルや。もしも偽りならば切腹だぞい!」

「ええ……。切腹なのですか……」

「当然ですよ。まずは第一印象からです。この名酒を幹部諸君に振る舞って、我々リザードマン族の重要差をアピールするでありますぞ」

俺は思う。

あざとい!

かなりあざといと。

この純白蜥蜴娘は、思った以上に腹黒娘だぞ!

しかも、真っ黒だ!!

なのに小物間が増し増しである。

やはりこいつもムサシの娘なんだな……。

どこか抜けてやがる。

あれ、ちょっと待てよ?

俺はフッと思いついた疑問をムサシに投げ掛けた。

「なあ、ムサシ?」

「なんでござるか、エリク様?」

「ガラシャってお前の娘なんだよな?」

「そうでありますが、それが何か。もしかして、嫁に貰いたいのですか?」

「いや、それは結構だ……」

「父親の儂が言うのもなんですが、なかなか出来た嫁になると思いますぞ!」

「いや、だから結構だって!」

「じゃあ、なんでありましょう?」

「ムサシとガラシャって、血の繋がった実の親子なのか?」

「当然でござる。ガラシャは血の繋がった儂の愛娘ですぞ」

「じゃあ、母親は?」

「数年前に先立ちましたわい……。美しい嫁でしたが、病魔に犯されましてのぉ……」

蜥蜴なのに美しいとかあるのか?

「亡くなった嫁さんって、リザードマンだよな?」

「先代村長の娘でしたわい。だから先代が亡き後は、儂が村長を継いだでござるよ」

──っと、言うことはだ。

こ、怖っ!!

こ、こいつ、蜥蜴とやったのか!!

ヘコヘコしちゃったのね!!

リザードマンと交尾しちゃったのかよ!!

しかも、孕ませやがったよ!!

完全に身も心もリザードマンになってるのね!!

ある意味で、スゲー……。

「お前、元々は人間だったんだろ。なのにリザードマンの娘に欲情しちゃったのかよ……」

「儂の意識はリザードマンに転生した段階で、だいぶリザードマンに改変されたようです。なのでなんの抵抗もなかったでござるよ。今では身も心も完全にリザードマンでござるから」

「そ、そうなんだ……」

更に俺は新しい疑問を抱いた。

「ところでお前、転生するときに女神に会わなかったか?」

「はぁ?」

ムサシが首を傾げる。

「儂が転生の際に出会った神は、中年太りした髭面のおっさんでござったぞ」

「髭面のおっさん?」

アレスって、むさいおっさんなのかな?

今度は俺が首を傾げた。

「確か名前は酒神バッカスとか名乗っていたでござる」

「バッカスだと?」

闘神アレスじゃあないのか。

「はい、バッカスと名乗ってましたでござる」

「女神アテナではなく、酒神バッカスだと?」

「はい、バッカスでござる」

俺は両腕を胸の前で組みながら考え込む。

どうやらこの世界に人々を転生させている神は、アテナやアレスだけではないようだ。

複数の神々が人間をこの異世界に転生させている。

少なくともアテナ、アレス、バッカスと三神が転生に絡んでいるのは間違いない。

もっと多くの転生者から話が聞ければ、もっと多くの情報が集められるだろう。

やはりこの世界でも、もっと情報を収集しなくてはならない。

この魔地域の外の世界を知らなくてはならないな。

キルルの話だけでは何もかもが不十分だ。

何せキルルが知っている情報はかなり昔の時代の話である。

情報がだいぶ風化しているだろう。

要するに、先代の魔王が討伐されてからの世界情勢が全然分からない。

人間界も魔王が討伐されて変わっているはずだ。

ある程度、この魔地域をまとめ上げたら、人が住んでいる地域の情報を集めないとならないだろうさ。

まずはやはり情報収集だな。

それが破滅の勇者討伐の第一歩になりそうだぜ。

いや、国作りが一歩目で、人間界の情報収集が二歩目かな?

まあ、なんにしろ、まずはこの魔地域の統一だ。

魔王国を万全な国に発展させてから人間界にも出ていかねばなるまい。

問題はタイムリミットが、どのぐらい残っているかが分からないことである。

破滅の勇者が既に転生しているのかも分からない。

何より破滅の勇者討伐が優先なのに、破滅の勇者の情報が何もないのだ。

女神アテナは、破滅の勇者が世界を崩壊させるのは、いずれっと曖昧な言い方をしていた。

いずれっていつだよ……。

のんびり国作りに励んでいていいのだろうか?

だから、少しは人間社会の情報が欲しいな。

この問題も早急に対策しなければ……。

まあ、とにかく今はソドムに帰ってからかな。

その辺の知恵は馬鹿な俺一人で考えるよりも、他の連中からアイデアを貰ったほうが捗りそうだ。

とりあえず参謀役の面々から話を効きたいな。

「よ~~~し、全員出発準備はいいな~!?」

「「「はい、エリク様!」」」

「よし、それじゃあ出発だ。ソドムに帰るぞ!」

「「「「『「はっ!」」」」』」

こうして俺たちはムサシたちを連れて魔王城ヴァルハラに帰還するのであった。




しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

婚約破棄とか言って早々に私の荷物をまとめて実家に送りつけているけど、その中にあなたが明日国王に謁見する時に必要な書類も混じっているのですが

マリー
恋愛
寝食を忘れるほど研究にのめり込む婚約者に惹かれてかいがいしく食事の準備や仕事の手伝いをしていたのに、ある日帰ったら「母親みたいに世話を焼いてくるお前にはうんざりだ!荷物をまとめておいてやったから明日の朝一番で出て行け!」ですって? まあ、癇癪を起こすのはいいですけれど(よくはない)あなたがまとめてうちの実家に郵送したっていうその荷物の中、送っちゃいけないもの入ってましたよ? ※またも小説の練習で書いてみました。よろしくお願いします。 ※すみません、婚約破棄タグを使っていましたが、書いてるうちに内容にそぐわないことに気づいたのでちょっと変えました。果たして婚約破棄するのかしないのか?を楽しんでいただく話になりそうです。正当派の婚約破棄ものにはならないと思います。期待して読んでくださった方申し訳ございません。

御機嫌ようそしてさようなら  ~王太子妃の選んだ最悪の結末

Hinaki
恋愛
令嬢の名はエリザベス。 生まれた瞬間より両親達が創る公爵邸と言う名の箱庭の中で生きていた。 全てがその箱庭の中でなされ、そして彼女は箱庭より外へは出される事はなかった。 ただ一つ月に一度彼女を訪ねる5歳年上の少年を除いては……。 時は流れエリザベスが15歳の乙女へと成長し未来の王太子妃として半年後の結婚を控えたある日に彼女を包み込んでいた世界は崩壊していく。 ゆるふわ設定の短編です。 完結済みなので予約投稿しています。

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...