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59・卑劣の極み
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キングの前で右手首を斬り落とされたジュウベイが苦悶の表情で両膝を付いていた。
第二戦の勝敗はついただろう。
一方、コボルトの精鋭九名に屋根の上から落とされたリザードマンたちの兵士が家の前で延びていた。
屋根の上から広場を見下ろしているのはコボルトだけである。
こちらも圧勝。
リザードマンたちの兵士は全員気絶して軒下で延びている。
誰から見てもリザードマン族の完敗だ。
そして、周りを軽く見回した後にキングが言った。
「随分と周りも静かになったようだし、早速三戦目を始めようではないか。それとも三戦目を待たずに敗けを認めるか、ムサシ殿?」
白い着物のガラシャと並んで立っている長老ムサシが長い顎髭を撫でながら返す。
「カッカッカッ、静かになったとな? 我らリザードマン族が打ち破られたとでも言うか?」
瞬時、笑っていたムサシの表情が鬼のように豹変した。
ムサシが着いていた杖の先で地面を突き叩いて苛立ちを露にする。
まさに駄々っ子老人そのものだ。
キングは老蜥蜴人をただ睨み付けていた。
俺から見ても、誰から見ても、周りに倒れているのはリザードマンだけなのだ。
普通ならば、リザードマン族の敗北を認めるしかないだろう。
しかし、長老ムサシは敗北を認めようとしていない。
いまだ、老いた眼差しの中に闘志の炎を宿らせている。
まあ、頑固な老人の戯言だ。
どうすることも出来ないだろう。
すると両膝を付いて斬られた手首を押さえているジュウベイが声を震わせながら怒鳴った。
「我々ハ負ケテナンゾイナイゾォォオオオ!!」
そして、ジュウベイは着物の袖に手を忍ばせると、手裏剣を取り出して投擲してきた。
「食ラエッ!!」
三つの十字手裏剣だった。
鋭い刃がキングを狙うがキングは避けない。
避ける代わりに横一振りに腕を振るうと、その一振りで三つの手裏剣を同時にキャッチした。
「ほほう、なかなかの動体視力だな」
俺が顎を撫でながら関心していると、キングは掴んだ三つの手裏剣を眺めながら言った。
「変わった形の刃物だな。全面が刃先となっている投擲武器か。これは素晴らしいアイデア武器だ。これなら当たれば誰が投げても刺さるってわけか」
「オ、オノレ……」
キングは手裏剣を足元に捨てるとジュウベイに降伏を迫った。
「ジュウベイ殿。負けを認めぬのなら、今度は斬るぞ」
「上等ッ!!」
刹那、しゃがんでいたジュウベイが跳ね飛んできた。
やはりまだやるつもりだ。
いつの間にか左手には四本爪の鉤爪が装着されている。
その鉤爪でキングの顔面を狙ってきた。
「キィェエエエ!!」
ジュウベイの反撃は、死を覚悟した一撃だった。
斬られても構わないと言う覚悟が見て取れる。
だが、犬面を狙った一振りは空を切った。
容易く回避されたのだ。
鉤爪をしゃがんで躱したキングが回避と同時に、逆さに持ったシミターの柄尻でジュウベイの鳩尾を突いていた。
「ウ、グゥ……」
鳩尾を突かれたジュウベイが、くノ字に体を曲げて、そのまま前のめりにダウンする。
そして、それっきりグッタリと動かなくなった。
どうやら気絶したようである。
うつ伏せに倒れるジュウベイにキングが最後の言葉を掻け捨てる。
「こちらには殺す気が無い。故に敗者は静かに待っておれ」
そして、キングの視線は長老ムサシに向けられた。
刹那───。
ガンっとキングの視界が激しく揺れる。
キングは唐突な衝撃の後に目眩で意識が飛び掛かった。
「がはっ!?!?」
何が起きたのかは分からない。
分からないが、体が後方に飛ばされて、背中からダウンしたのは理解出来た。
「な……なんだ……」
突如の痛みから目を覚ましたキングが上半身を起こす。
「何が起きた! 痛っ!?」
顔面の他に腹部にも傷みを感じたキングが自分の腹を見てみると、真っ赤に流血していた。
刺し傷だ。
腹の中心から血がドクドクと湧いて出ている。
「ななっ!?」
キングは即座に手で傷口を強く押さえて止血を試みた。
しかし、指の隙間から鮮血が流れ出てくる。
「ぬぐぅ、何かで刺された……のか?」
慌てて前を見ると、先程まで自分が立っていた場所に長老ムサシが立っていた。
キングは3メートルほど飛ばされたようだ。
「カッカッカッカッ」
猫背の老人は嫌らしく笑っている。
その手には杖の他に小太刀を握っていた。
その小太刀で腹を指されたのだろう。
だが、初弾の衝撃は、なんだったのか分からない。
打撃だ。
強打だ。
それは感じで分かった。
固く重い鈍器のような物で顔面を強打されたような衝撃に飛ばされた感じである。
それは理解出来ていたが、どのような攻撃をされたのかが見えていなかった。
しかし、一つ理解は出来た。
三戦目の戦士に志願してきたのは、この老人だと──。
背の曲がった老体が戦いを仕掛けてきたのだ。
「嘗めるな、老人!」
腹の傷を手で押さえながらキングが立ち上がる。
するとキングの背後に立っていたエリクが言った。
「キング、このジジイは俺に譲れ」
力強くキングの肩を引いたエリクが前に出て来る。
魔王自らが立ち合う積もりらしい。
だが、キングは引き下がらなかった。
「エリク様、約束が違いますぞ!!」
「ああ~~ーんッ!」
エリクはヤンキーのように表情を威嚇的に歪めながらキングに詰め寄って来た。
味方が味方を威嚇しているのだ。
「なんだ、キング。俺に意見する積もりかぁ~、えぇ~!?」
なんとも悪ぶった態度であった。
だが、それでもキングは引かない。
ガンをくれるエリクの顔にキングもガンをくれ返しながら額を合わせる。
「エリク様、ここは私に任せると申したではありませんか!?」
事実である。
キングは更に詰め寄った。
「将来の大魔王様が、たかが一匹のコボルトとの約束すら守れないでどういたしましょうぞ! 恥じることを学んでくださいませ!!」
「う、うう……」
正論である。
その正論とキングの気迫に押されたエリクの腰が引けていた。
「す、すまん……。許してチョンマゲ……」
『チョンマゲ?』
キルルが聞いたことのない言葉に首を傾げている。
「まあ、分かって貰えれば結構で─────っひぃ!!!!」
突然だった。
言葉を言い終わる前にキングの体が真上に跳ね上がる。
そして、キングは股間を両手で押さえながら倒れ込んだ。
倒れるキングの表情は両目を最大限まで見開いて口をパクパクとさせていた。
更には激痛のためか涎や鼻水を垂れ流している。
「が……がっ……がが………」
声にならない声を漏らすキング。
「何!?」
生きたまま絶命的なダメージに苦しむキングを見下ろしながら長老ムサシが延べた。
「若いの。余所見が多すぎるぞ。カッカッカッカッ」
エリクがムサシを睨み付けながら言った。
「テメー、キャンタマを蹴りやがったな!!」
「隙だらけだったからのぉ。ついつい蹴りたくなってもうたわい。カッカッカッカッ」
「そりゃあまあ、笑いたくもなるよね……」
「ぐ……ぐぐぐぅ……」
脂汗を流しながらキングが立ち上がる。
「まだ、やれるのか、キング?」
「は、はい、エリク、さ、ま……」
股間を両手で押さえたキングは軽くジャンプしながら答えた。
どうやら蹴られたキャンタマを元の高さに戻しているようだ。
たぶん、かなり痛かっただろう……。
エリクにも男だから分かる痛みだ。
それにしても──。
「キング、気を抜くな。このジジイは、今まで以上に卑怯者だぞ」
「は、はい………」
「今時の若者たちには、儂が卑怯者に見えるのかぇ?」
「「『見える!」」』
「カッカッカッカッ。冗談が通じない若者たちよのぉ~」
流石は卑怯者たちの長だ。
こいつが一番の卑怯者のようである。
第二戦の勝敗はついただろう。
一方、コボルトの精鋭九名に屋根の上から落とされたリザードマンたちの兵士が家の前で延びていた。
屋根の上から広場を見下ろしているのはコボルトだけである。
こちらも圧勝。
リザードマンたちの兵士は全員気絶して軒下で延びている。
誰から見てもリザードマン族の完敗だ。
そして、周りを軽く見回した後にキングが言った。
「随分と周りも静かになったようだし、早速三戦目を始めようではないか。それとも三戦目を待たずに敗けを認めるか、ムサシ殿?」
白い着物のガラシャと並んで立っている長老ムサシが長い顎髭を撫でながら返す。
「カッカッカッ、静かになったとな? 我らリザードマン族が打ち破られたとでも言うか?」
瞬時、笑っていたムサシの表情が鬼のように豹変した。
ムサシが着いていた杖の先で地面を突き叩いて苛立ちを露にする。
まさに駄々っ子老人そのものだ。
キングは老蜥蜴人をただ睨み付けていた。
俺から見ても、誰から見ても、周りに倒れているのはリザードマンだけなのだ。
普通ならば、リザードマン族の敗北を認めるしかないだろう。
しかし、長老ムサシは敗北を認めようとしていない。
いまだ、老いた眼差しの中に闘志の炎を宿らせている。
まあ、頑固な老人の戯言だ。
どうすることも出来ないだろう。
すると両膝を付いて斬られた手首を押さえているジュウベイが声を震わせながら怒鳴った。
「我々ハ負ケテナンゾイナイゾォォオオオ!!」
そして、ジュウベイは着物の袖に手を忍ばせると、手裏剣を取り出して投擲してきた。
「食ラエッ!!」
三つの十字手裏剣だった。
鋭い刃がキングを狙うがキングは避けない。
避ける代わりに横一振りに腕を振るうと、その一振りで三つの手裏剣を同時にキャッチした。
「ほほう、なかなかの動体視力だな」
俺が顎を撫でながら関心していると、キングは掴んだ三つの手裏剣を眺めながら言った。
「変わった形の刃物だな。全面が刃先となっている投擲武器か。これは素晴らしいアイデア武器だ。これなら当たれば誰が投げても刺さるってわけか」
「オ、オノレ……」
キングは手裏剣を足元に捨てるとジュウベイに降伏を迫った。
「ジュウベイ殿。負けを認めぬのなら、今度は斬るぞ」
「上等ッ!!」
刹那、しゃがんでいたジュウベイが跳ね飛んできた。
やはりまだやるつもりだ。
いつの間にか左手には四本爪の鉤爪が装着されている。
その鉤爪でキングの顔面を狙ってきた。
「キィェエエエ!!」
ジュウベイの反撃は、死を覚悟した一撃だった。
斬られても構わないと言う覚悟が見て取れる。
だが、犬面を狙った一振りは空を切った。
容易く回避されたのだ。
鉤爪をしゃがんで躱したキングが回避と同時に、逆さに持ったシミターの柄尻でジュウベイの鳩尾を突いていた。
「ウ、グゥ……」
鳩尾を突かれたジュウベイが、くノ字に体を曲げて、そのまま前のめりにダウンする。
そして、それっきりグッタリと動かなくなった。
どうやら気絶したようである。
うつ伏せに倒れるジュウベイにキングが最後の言葉を掻け捨てる。
「こちらには殺す気が無い。故に敗者は静かに待っておれ」
そして、キングの視線は長老ムサシに向けられた。
刹那───。
ガンっとキングの視界が激しく揺れる。
キングは唐突な衝撃の後に目眩で意識が飛び掛かった。
「がはっ!?!?」
何が起きたのかは分からない。
分からないが、体が後方に飛ばされて、背中からダウンしたのは理解出来た。
「な……なんだ……」
突如の痛みから目を覚ましたキングが上半身を起こす。
「何が起きた! 痛っ!?」
顔面の他に腹部にも傷みを感じたキングが自分の腹を見てみると、真っ赤に流血していた。
刺し傷だ。
腹の中心から血がドクドクと湧いて出ている。
「ななっ!?」
キングは即座に手で傷口を強く押さえて止血を試みた。
しかし、指の隙間から鮮血が流れ出てくる。
「ぬぐぅ、何かで刺された……のか?」
慌てて前を見ると、先程まで自分が立っていた場所に長老ムサシが立っていた。
キングは3メートルほど飛ばされたようだ。
「カッカッカッカッ」
猫背の老人は嫌らしく笑っている。
その手には杖の他に小太刀を握っていた。
その小太刀で腹を指されたのだろう。
だが、初弾の衝撃は、なんだったのか分からない。
打撃だ。
強打だ。
それは感じで分かった。
固く重い鈍器のような物で顔面を強打されたような衝撃に飛ばされた感じである。
それは理解出来ていたが、どのような攻撃をされたのかが見えていなかった。
しかし、一つ理解は出来た。
三戦目の戦士に志願してきたのは、この老人だと──。
背の曲がった老体が戦いを仕掛けてきたのだ。
「嘗めるな、老人!」
腹の傷を手で押さえながらキングが立ち上がる。
するとキングの背後に立っていたエリクが言った。
「キング、このジジイは俺に譲れ」
力強くキングの肩を引いたエリクが前に出て来る。
魔王自らが立ち合う積もりらしい。
だが、キングは引き下がらなかった。
「エリク様、約束が違いますぞ!!」
「ああ~~ーんッ!」
エリクはヤンキーのように表情を威嚇的に歪めながらキングに詰め寄って来た。
味方が味方を威嚇しているのだ。
「なんだ、キング。俺に意見する積もりかぁ~、えぇ~!?」
なんとも悪ぶった態度であった。
だが、それでもキングは引かない。
ガンをくれるエリクの顔にキングもガンをくれ返しながら額を合わせる。
「エリク様、ここは私に任せると申したではありませんか!?」
事実である。
キングは更に詰め寄った。
「将来の大魔王様が、たかが一匹のコボルトとの約束すら守れないでどういたしましょうぞ! 恥じることを学んでくださいませ!!」
「う、うう……」
正論である。
その正論とキングの気迫に押されたエリクの腰が引けていた。
「す、すまん……。許してチョンマゲ……」
『チョンマゲ?』
キルルが聞いたことのない言葉に首を傾げている。
「まあ、分かって貰えれば結構で─────っひぃ!!!!」
突然だった。
言葉を言い終わる前にキングの体が真上に跳ね上がる。
そして、キングは股間を両手で押さえながら倒れ込んだ。
倒れるキングの表情は両目を最大限まで見開いて口をパクパクとさせていた。
更には激痛のためか涎や鼻水を垂れ流している。
「が……がっ……がが………」
声にならない声を漏らすキング。
「何!?」
生きたまま絶命的なダメージに苦しむキングを見下ろしながら長老ムサシが延べた。
「若いの。余所見が多すぎるぞ。カッカッカッカッ」
エリクがムサシを睨み付けながら言った。
「テメー、キャンタマを蹴りやがったな!!」
「隙だらけだったからのぉ。ついつい蹴りたくなってもうたわい。カッカッカッカッ」
「そりゃあまあ、笑いたくもなるよね……」
「ぐ……ぐぐぐぅ……」
脂汗を流しながらキングが立ち上がる。
「まだ、やれるのか、キング?」
「は、はい、エリク、さ、ま……」
股間を両手で押さえたキングは軽くジャンプしながら答えた。
どうやら蹴られたキャンタマを元の高さに戻しているようだ。
たぶん、かなり痛かっただろう……。
エリクにも男だから分かる痛みだ。
それにしても──。
「キング、気を抜くな。このジジイは、今まで以上に卑怯者だぞ」
「は、はい………」
「今時の若者たちには、儂が卑怯者に見えるのかぇ?」
「「『見える!」」』
「カッカッカッカッ。冗談が通じない若者たちよのぉ~」
流石は卑怯者たちの長だ。
こいつが一番の卑怯者のようである。
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