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58・奇襲総攻撃
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独眼蜥蜴侍ジュウベイの大太刀投擲と同時に屋根の上から姿を現した複数のリザードマンたちが、我々に向かって一斉に矢を放ってきた。
完全に我々魔王軍全体を狙ってやがる。
総攻撃するリザードマンの数は五十匹は越えていそうだった。
高い位置から放たれた複数の矢は、流石のコボルト精鋭部隊であっても回避は難しい。
だが、ハートジャックはヒラヒラと舞うように回避する。
他のコボルトたちもハートジャックほどに可憐ではないが回避や防御で矢を防いでいた。
狙いを外した矢がドツドツと大地に突き刺さる。
『きゃ!?』
キルルは悲鳴を上げながらしゃがみ込んでいたが、彼女に矢は一本も刺さらない。
幽霊なので矢がスリ抜けているのだ。
しかし、俺には矢が刺さる。
ドツっ!
あ、また命中したわ。
しばらくすると、俺の体に三本の矢が刺さっていた。
頭に一本、横っ腹に一本、背中に一本の計三本が命中している。
俺は冷静に周りを見回しながら状況を確認する。
コボルトの精鋭部隊は回避や防御に専念していたが、やはり飛んで来る矢の数が多すぎてすべては躱しきれていなかった。
だが、皆が致命傷になるような箇所だけは守り抜いて、腕や足などに命中しただけで被害を納めている。
ダウンする者は誰も居ない。
ハートジャックだけは、素早く動いてすべての矢を回避していた。
どうやらコボルト精鋭の中でもハートジャックは実力で一つ頭が出ているようだ。
更に前戦に立っていたキングも投げられた大太刀も矢の攻撃もすべて躱したようである。
しかも、飛んできた大太刀をキャッチしたのか二刀を気取っていた。
なかなか格好良く振る舞っていやがる。
そして、しばらくリザードマンたちの射撃が一方的に続いたが、初弾の奇襲で受けた矢以外は誰も追撃を食らわなかった。
避けたり武器で打ち落としたりと鉄壁を守る。
そんな中でも俺一人は回避も防御もしないで立ち尽くしたまま攻撃を受け続けた。
刺さる矢がどんどんと増えるばかりである。
そして、矢の攻撃が緩んで来たところで俺はほのぼのと仲間に問うた。
「お前ら大丈夫か~?」
ハートジャックがスキップで矢を躱しながら陽気に答えた。
「はーーい、大丈夫で~す。余裕で~す」
続いて腕に矢が刺さったコボルトが答える。
「はい、問題ありません。傷は浅いです!」
「それなら問題ないな」
やがて矢の攻撃が止まる。
ほとんどの矢を撃ち尽くしたのだろう。
屋根の上のリザードマンたちは、弓を捨てて刀や槍の接近用武器に武装を替えていた。
だが、屋根の上からは降りては来ない。
高い位置から俺たちを見守っている。
矢の刺さったままの俺は屋根の上を見上げながら言う。
「なんだ、奇襲は終わりか。どうした、降りて来て戦いの続きをしないのか?」
俺は挑発して煽った積もりだったがリザードマンたちは乗って来ない。
屋根から降りてきて戦おうとしないのだ。
「しゃあねぇか……」
俺は頭を掻きながら仲間たちに言う。
「全員分のポーションは有るのか?」
ハートジャックが答える。
「そんなに数はありませ~~ん」
すると矢を受けているコボルトの一匹が言った。
「大丈夫です、エリク様。この程度ならば掠り傷と同様。任務遂行に問題ありません!
」
「おお、流石は精鋭だな~」
流石は魔物の生命力だ。
人間とは身体の作りが違うらしい。
俺が関心していると、俺の足にしがみつきながら身体を縮めていたキルルが鼻水を啜りながら涙目で言った。
『ま、魔王様……、怖かったよ~……。ぼ、僕、死ぬかと思いましたよ~……』
「いや、キルルは死んでるだろ……」
それよりもだ──。
俺はキングの様子を伺った。
無傷のキングは投擲された大太刀を片手に持ってシミターとの二刀流になっている。
矢が飛んできたのに気を取られてキャッチする瞬間は見ていなかったが、飛んできた大太刀を空中で掴んだのだろう。
「オ、オノレ……」
ジュウベイが悔しそうに言葉を漏らした。
渾身の奇襲を防がれたのだ、そりゃあ悔しいよね。
するとキングが返す。
「何がオノレだ。それはこっちのセリフだぞ!」
「ヌヌヌ……」
「タイマンとの約束を違えて一斉攻撃を強行。それがリザードマンの戦法なのだな!」
「ソレハ前ニモ言ッタハズダ……」
だが、奇襲は失敗。
またもや魔王軍の身体能力が勝った形である。
ジュウベイが悔しそうに歯軋りを鳴らしていた。
するとキングが大太刀を地面に突き刺す。
そして、左手を高く上に上げた。
その合図に合わせてコボルトたちが深く腰を落とす。
キングが凄んだ口調で述べる。
「分からぬ連中は、力で分からせるだけだ!」
キングが上げていた左腕をブンッと力強く振り下ろした。
それを合図にコボルトたちが跳ねて四方八方の屋根に飛ぶ。
「ガァルルルルルル!!!」
一斉に屋根の上に飛び乗ったコボルトの精鋭八匹がリザードマンたちに切りかかった。
途端、住宅の上では戦闘が始まる。
五十匹以上のリザードマンを相手に矢で手傷を追った八匹のコボルトたちが戦い始めたのだ。
いや、戦いになっていない。
足場の悪い屋根の上を軽快な足取りで駆け回るコボルトたちが、次々とリザードマンたちを撃破していくのだ。
受けた矢の傷はハンデになっていない。
しかも、武器と武器で唾競り合いは繰り広げるが、コボルトが繰り出す止めの一撃は、キックやパンチのみである。
縦穴鉱山での戦いと一緒で、最後は殴る蹴るだけで勝負を決めて行くのだ。
そして、次々と打ち負かされたリザードマンたちが屋根の上から落ちていく。
その光景を見上げながらジュウベイが狼狽えていた。
「バ、馬鹿ナ……。我々リザードマン族ガ……、厳シイ訓練ヲ積ミ重ネテキタ我々ガ、コウモ容易ク……」
狼狽え戸惑うジュウベイは、完全に戦意を失っていた。
そのジュウベイとの間合いをキングが一気に詰める。
瞬速の動きだった。
そして、ジュウベイの眼前に立ち塞がるように立つ。
「ガァルルルル!!」
「ゥゥ……」
眼前で蜥蜴面を鋭く睨み付ける犬面が牙を剥いていた。
威嚇的に喉を唸らせている。
「決着を付けようぞ!」
そう言ってキングが戦意を強くジュウベイにぶつけた刹那だった。
ジュウベイが腰に残っていた小太刀に手を延ばす。
そして、攻撃!
「居合イッ!!」
「ふっ!!」
だが、ジュウベイが小太刀を引き抜くよりも素早くキングがシミターを振るった。
真っ直ぐな縦切りだ。
それと同時にジュウベイが居合い抜きの軌道で腕を振るう。
刹那、鮮血が逆袈裟斬りの角度に散った。
その鮮血の量は派手なぐらいの血飛沫となってキングの顔面を赤く染める。
しかし、斬られたのはキングのほうでなかった。
居合いの逆袈裟斬りに震ったジュウベイの手首からの流血である。
「バ、馬鹿ナ……」
ジュウベイの顔が引き吊っていた。
その一太刀に振るわれたジュウベイの手首が無くなっている。
失われた手首からダラダラと大量の鮮血が溢れていた。
斬られたジュウベイの手首の先は、腰の鞘に収まった小太刀の柄巻を握ったままで残っている。
要するに、居合いの攻撃すら放てなかったのだ。
次の瞬間、ジュウベイが悲鳴を上げながら崩れた。
「ィィイイィイイイイア!!!!」
斬られた手首を逆手で押さえたジュウベイがくぐもった声を唸らせながらしゃがみ込む。
切断された腕の痛みに耐えているようだ。
「決着だな──」
静かにキングが延べた通りだろう。
勝敗は決まっただろうさ。
第二戦目、キングvsジュウベイ。
なんやかんやあったが、キングの勝利である。
しかも、屋根の上に残っているのはコボルトの精鋭たちだけだった。
リザードマンたちは、全員のされて壊滅している。
リザードマンの集落で残っているのは長老のムサシと白い着物のガラシャだけだ。
俺は刺さった矢を身体から引き抜きながらキルルに頼む。
「キルル~、すまんが背中に刺さった矢を抜いてくれないか。届かないんだわ~」
『は、はい、分かりました、魔王様。それじゃあ抜きますよ。うんちょ!』
「あんっ♡」
『ちょっと気持ち悪い声を出さないでくださいよ……』
「すまん、てへぺろ♡」
完全に我々魔王軍全体を狙ってやがる。
総攻撃するリザードマンの数は五十匹は越えていそうだった。
高い位置から放たれた複数の矢は、流石のコボルト精鋭部隊であっても回避は難しい。
だが、ハートジャックはヒラヒラと舞うように回避する。
他のコボルトたちもハートジャックほどに可憐ではないが回避や防御で矢を防いでいた。
狙いを外した矢がドツドツと大地に突き刺さる。
『きゃ!?』
キルルは悲鳴を上げながらしゃがみ込んでいたが、彼女に矢は一本も刺さらない。
幽霊なので矢がスリ抜けているのだ。
しかし、俺には矢が刺さる。
ドツっ!
あ、また命中したわ。
しばらくすると、俺の体に三本の矢が刺さっていた。
頭に一本、横っ腹に一本、背中に一本の計三本が命中している。
俺は冷静に周りを見回しながら状況を確認する。
コボルトの精鋭部隊は回避や防御に専念していたが、やはり飛んで来る矢の数が多すぎてすべては躱しきれていなかった。
だが、皆が致命傷になるような箇所だけは守り抜いて、腕や足などに命中しただけで被害を納めている。
ダウンする者は誰も居ない。
ハートジャックだけは、素早く動いてすべての矢を回避していた。
どうやらコボルト精鋭の中でもハートジャックは実力で一つ頭が出ているようだ。
更に前戦に立っていたキングも投げられた大太刀も矢の攻撃もすべて躱したようである。
しかも、飛んできた大太刀をキャッチしたのか二刀を気取っていた。
なかなか格好良く振る舞っていやがる。
そして、しばらくリザードマンたちの射撃が一方的に続いたが、初弾の奇襲で受けた矢以外は誰も追撃を食らわなかった。
避けたり武器で打ち落としたりと鉄壁を守る。
そんな中でも俺一人は回避も防御もしないで立ち尽くしたまま攻撃を受け続けた。
刺さる矢がどんどんと増えるばかりである。
そして、矢の攻撃が緩んで来たところで俺はほのぼのと仲間に問うた。
「お前ら大丈夫か~?」
ハートジャックがスキップで矢を躱しながら陽気に答えた。
「はーーい、大丈夫で~す。余裕で~す」
続いて腕に矢が刺さったコボルトが答える。
「はい、問題ありません。傷は浅いです!」
「それなら問題ないな」
やがて矢の攻撃が止まる。
ほとんどの矢を撃ち尽くしたのだろう。
屋根の上のリザードマンたちは、弓を捨てて刀や槍の接近用武器に武装を替えていた。
だが、屋根の上からは降りては来ない。
高い位置から俺たちを見守っている。
矢の刺さったままの俺は屋根の上を見上げながら言う。
「なんだ、奇襲は終わりか。どうした、降りて来て戦いの続きをしないのか?」
俺は挑発して煽った積もりだったがリザードマンたちは乗って来ない。
屋根から降りてきて戦おうとしないのだ。
「しゃあねぇか……」
俺は頭を掻きながら仲間たちに言う。
「全員分のポーションは有るのか?」
ハートジャックが答える。
「そんなに数はありませ~~ん」
すると矢を受けているコボルトの一匹が言った。
「大丈夫です、エリク様。この程度ならば掠り傷と同様。任務遂行に問題ありません!
」
「おお、流石は精鋭だな~」
流石は魔物の生命力だ。
人間とは身体の作りが違うらしい。
俺が関心していると、俺の足にしがみつきながら身体を縮めていたキルルが鼻水を啜りながら涙目で言った。
『ま、魔王様……、怖かったよ~……。ぼ、僕、死ぬかと思いましたよ~……』
「いや、キルルは死んでるだろ……」
それよりもだ──。
俺はキングの様子を伺った。
無傷のキングは投擲された大太刀を片手に持ってシミターとの二刀流になっている。
矢が飛んできたのに気を取られてキャッチする瞬間は見ていなかったが、飛んできた大太刀を空中で掴んだのだろう。
「オ、オノレ……」
ジュウベイが悔しそうに言葉を漏らした。
渾身の奇襲を防がれたのだ、そりゃあ悔しいよね。
するとキングが返す。
「何がオノレだ。それはこっちのセリフだぞ!」
「ヌヌヌ……」
「タイマンとの約束を違えて一斉攻撃を強行。それがリザードマンの戦法なのだな!」
「ソレハ前ニモ言ッタハズダ……」
だが、奇襲は失敗。
またもや魔王軍の身体能力が勝った形である。
ジュウベイが悔しそうに歯軋りを鳴らしていた。
するとキングが大太刀を地面に突き刺す。
そして、左手を高く上に上げた。
その合図に合わせてコボルトたちが深く腰を落とす。
キングが凄んだ口調で述べる。
「分からぬ連中は、力で分からせるだけだ!」
キングが上げていた左腕をブンッと力強く振り下ろした。
それを合図にコボルトたちが跳ねて四方八方の屋根に飛ぶ。
「ガァルルルルルル!!!」
一斉に屋根の上に飛び乗ったコボルトの精鋭八匹がリザードマンたちに切りかかった。
途端、住宅の上では戦闘が始まる。
五十匹以上のリザードマンを相手に矢で手傷を追った八匹のコボルトたちが戦い始めたのだ。
いや、戦いになっていない。
足場の悪い屋根の上を軽快な足取りで駆け回るコボルトたちが、次々とリザードマンたちを撃破していくのだ。
受けた矢の傷はハンデになっていない。
しかも、武器と武器で唾競り合いは繰り広げるが、コボルトが繰り出す止めの一撃は、キックやパンチのみである。
縦穴鉱山での戦いと一緒で、最後は殴る蹴るだけで勝負を決めて行くのだ。
そして、次々と打ち負かされたリザードマンたちが屋根の上から落ちていく。
その光景を見上げながらジュウベイが狼狽えていた。
「バ、馬鹿ナ……。我々リザードマン族ガ……、厳シイ訓練ヲ積ミ重ネテキタ我々ガ、コウモ容易ク……」
狼狽え戸惑うジュウベイは、完全に戦意を失っていた。
そのジュウベイとの間合いをキングが一気に詰める。
瞬速の動きだった。
そして、ジュウベイの眼前に立ち塞がるように立つ。
「ガァルルルル!!」
「ゥゥ……」
眼前で蜥蜴面を鋭く睨み付ける犬面が牙を剥いていた。
威嚇的に喉を唸らせている。
「決着を付けようぞ!」
そう言ってキングが戦意を強くジュウベイにぶつけた刹那だった。
ジュウベイが腰に残っていた小太刀に手を延ばす。
そして、攻撃!
「居合イッ!!」
「ふっ!!」
だが、ジュウベイが小太刀を引き抜くよりも素早くキングがシミターを振るった。
真っ直ぐな縦切りだ。
それと同時にジュウベイが居合い抜きの軌道で腕を振るう。
刹那、鮮血が逆袈裟斬りの角度に散った。
その鮮血の量は派手なぐらいの血飛沫となってキングの顔面を赤く染める。
しかし、斬られたのはキングのほうでなかった。
居合いの逆袈裟斬りに震ったジュウベイの手首からの流血である。
「バ、馬鹿ナ……」
ジュウベイの顔が引き吊っていた。
その一太刀に振るわれたジュウベイの手首が無くなっている。
失われた手首からダラダラと大量の鮮血が溢れていた。
斬られたジュウベイの手首の先は、腰の鞘に収まった小太刀の柄巻を握ったままで残っている。
要するに、居合いの攻撃すら放てなかったのだ。
次の瞬間、ジュウベイが悲鳴を上げながら崩れた。
「ィィイイィイイイイア!!!!」
斬られた手首を逆手で押さえたジュウベイがくぐもった声を唸らせながらしゃがみ込む。
切断された腕の痛みに耐えているようだ。
「決着だな──」
静かにキングが延べた通りだろう。
勝敗は決まっただろうさ。
第二戦目、キングvsジュウベイ。
なんやかんやあったが、キングの勝利である。
しかも、屋根の上に残っているのはコボルトの精鋭たちだけだった。
リザードマンたちは、全員のされて壊滅している。
リザードマンの集落で残っているのは長老のムサシと白い着物のガラシャだけだ。
俺は刺さった矢を身体から引き抜きながらキルルに頼む。
「キルル~、すまんが背中に刺さった矢を抜いてくれないか。届かないんだわ~」
『は、はい、分かりました、魔王様。それじゃあ抜きますよ。うんちょ!』
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