箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!

ヒィッツカラルド

文字の大きさ
上 下
54 / 69

54・リザードマンとの交渉

しおりを挟む
藁葺き屋根の室内から姿を現したリザードマンは老体と娘の二匹だった。

老体のリザードマンは顎髭を長く伸ばして、老人らしく背中を曲げている。

何より自分をムサシと名乗っていた。

そして、その老体を支える娘は白い着物のリザードマン……。

否、リザードガールだろうか?

まあ、冗談は置いといて──。

その白い着物の娘が言った。

「貴方様ガ、魔王ノ使イデスト?」

キングが力強く答える。

「左様だ。貴公らリザードマンを魔王軍に勧誘しに来た」

「魔王軍ニ勧誘トナ」

「そうだ」

ツルツル鱗肌の老体が言う。

「何故に魔王軍が我々リザードマン族を欲するのじゃ?」

キングは明確に答える。

「まずは兵力増強のため。二つ目は酒作りの技術を知りたいがためだ」

「酒と兵力が目的とな?」

「そうだ」

「ナント煩欲ナリ」

「それで、ワシらが魔王軍に加わってなんの特があるのじゃ?」

「魔王様の祝福を受けられる!」

キングは鮮血の儀式のことを言っているのだろう。

でも、そんな言い方で意味が通じるのか?

普通は通じないだろう。

だが、リザードマンの長老は溜め息を吐いたのちに言いはなった。

「くだらんのぉ~。そのような理由で主を決められんのぉ」

ホラね、やっぱり意味が通じてないよ。

しかも、くだらないまで言われてますがな。

キングって、説明が苦手なのかな……。

すると、じれったくなったキルルが俺に小声で言った。

『魔王様、僕が説明を代わったほうが良いのではないでしょうか?』

俺は溜め息を吐いてから、おせっかいなキルルを止めた。

「今日の俺たちは観覧者だ。すべてをキングに任せたのだから、口出しは無用だぞ」

『は、はあ、分かりました……』

俺たちがコソコソと話している間にもキングたちの交渉は進んで行った。

「ならばリザードマンの長よ。リザードマン族は我らが魔王様に付かぬと言うのか?」

「付くも付かぬも、我々が付き従う理由がなかろうて。それとも、我々が何か特を得られる提案でもあるのかのぉ?」

キングがきっぱりと言う。

「我々と共に勇者と戦えば、絶滅から救われるぞ!」

だ、駄目だこりゃ……。

完全に意味が通じてない感じの説明だわ……。

「絶滅のぉ~」

リザードマンの長は顎髭を撫でながら呆れたかのような声を出していた。

てか、完全に呆れてるよね。

キングの説明は下手すぎる。

鮮血の儀式のことも、破滅の勇者から世界を救うことも、全然説明ができていないじゃあねえか……。

こいつ、脳味噌まで筋肉だぞ。

まさに、ザ・戦士って感じである。

だが、戦士は戦士の脳味噌をフル回転させて交渉を進めて行った。

「ならば、どうしたら従う? 無理矢理にも魔王様の前に膝まつかせようか?」

うわ、なんか悪者っぽいことを言い出したよ!

てか、俺の好感度まで下がるじゃあねえか。

しかし、リザードマンの長は顎髭を撫でながら柔らかい口調で述べた。

「それはそれは分かりやすい申し出でですな。我々も武人の端くれ、力で力を屈服させるのは分かりやすくて助かりますぞ」

あ~~、こっちも脳味噌が筋肉だわぁ!

しかも日頃から鍛練を積み重ねている筋ばった脳筋だわ~。

もう、赤みが固い筋肉と筋肉が語り合ってる感じだよ。

マジで面白いぞ。

老体が独眼のリザードマンをチラリと見てから言った。

「勝てるか、ジュウベイ?」

独眼のリザードマンは一つ頷くと言葉を返す。

「親方様、勝テル勝テヌカデハゴサイマセヌ。拙者モ侍ノ端クレデゴザル。見事ニ切ッテ捨テテミセマショウゾ!」

「ならば、立ち合ってみせい、ジュウベイ」

「御意!」

そして、独眼のリザードマンが前に出ようとした。

そのジュウベイの背後から別のリザードマンが止めに入る。

「待タレヲ、ジュウベイ殿!」

「ウヌ?」

ジュウベイが振り返ると、いつの間にかレザーアーマーを身に付けたリザードマンが片膝をついて背後に控えていた。

まさにいつの間にかだ。

そこに居るのに気配を感じなかったぞ。

頭を垂らすリザードマンが、そのままの姿勢で述べる。

「師範代デアラセラレルジュウベイ殿ガ出ルマデモナイデアリマショウゾ。ココハ、コノバイケン二任セテハ頂ケマセンヌデショウカ?」

バイケン?

バイケンって宮本武蔵と戦った鎖鎌使いの宍戸梅軒だろうか?

その名前も大河ドラマで聞いたことがあるぞ。

ジュウベイがバイケンに言う。

「食ワレルヤモ知レンゾ?」

バイケンが畏まったまま答えた。

「武術ハ、我ノホウガ上デ御座イマショウゾ」

その言葉を聞いたジュウベイが、その場を離れるように距離を取る。

「親方様、バイケン二手柄ヲ譲ッテモ構ワヌデ御座イマショウカ?」

「構わぬ、好きにせい……、ゴホン」

そして、咳払いを一つ吐いた長老がキングに言った。

「ならば隊長殿。こちらからの提案でござる」

「なんだ?」

老体は冷たきも鋭い眼差しでキングを睨みながら述べた。

「我々リザードマン族から手練れを三名出す。それをそちら側の三名が一騎討ちで打ち倒せたら、我々リザードマン族も魔王に従いましょうぞ」

勝負を条件に出してきた。

しかも一騎討ち三試合を御所望だ。

要するに、それだけ武術に自信があるのだろう。

キングが言う。

「その言葉に偽りはないな?」

「御座いませぬぞ」

リザードマンの老体は不適に微笑んでいる。

それとは裏腹に真面目な表情を崩さずキングが言った。

「ならば、こちらからも提案がある。聞き入れよ」

「何でございましょうか?」

キングが衣類の皺を延ばすように袖を払ってから述べる。

「こちらから出す三名は、私一名にしてもらいたい」

「なぬ?」

意外な提案だった。

だが、長老は戸惑うことなく返す。

「お一人で戦うと申しますか?」

「私が一名で三者と戦う」

「もしも我々の一者目に貴方様が撃ち取られて亡くなられたらどうなさいます?」

「そこでこの勝負はリザードマンの勝ちで構わぬ。我々の部隊はリザードマンの地から去ろうぞ」

「まことですか?」

「嘘偽りは言わぬ。約束しよう」

「三対一になりますぞ?」

「構わん。先程のように一対多数でも構わんぞ」

門前での話をしているのだろう。

キングさんったら強気だね~。

素敵だわ~。

「カッカッカッカッ」

リザードマンの老体が陽気に笑いだした。

「我々リザードマン族も舐められたものよのぉ。そこまで煽られて、タイマンを違えられもできまいて……」

薄い笑いを浮かべる老体をキングは真っ直ぐ睨み付けていた。

「約束しましょうぞ。一対一は違えません。だが、我々リザードマンの代表が一人でも貴方様に勝つことがあられましたら、素直にこの村から退散してもらいまするぞ。そして、二度と来られるな」

「それも約束いたしましょう、ムサシ殿」

両者の間で明確な契約が結ばれた。

これよりキングvsリザードマンの三代表との戦いが始まる。

これはかなり面白い展開に進んでいるぞ。

思ったよりもキングの交渉手段は素晴らしい。

俺の好みに合致している。

これならば、今後も強く期待できるだろうさ。


しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

【完結】英雄様、婚約破棄なさるなら我々もこれにて失礼いたします。

ファンタジー
「婚約者であるニーナと誓いの破棄を望みます。あの女は何もせずのうのうと暮らしていた役立たずだ」 実力主義者のホリックは魔王討伐戦を終結させた褒美として国王に直談判する。どうやら戦争中も優雅に暮らしていたニーナを嫌っており、しかも戦地で出会った聖女との結婚を望んでいた。英雄となった自分に酔いしれる彼の元に、それまで苦楽を共にした仲間たちが寄ってきて…… 「「「ならば我々も失礼させてもらいましょう」」」 信頼していた部下たちは唐突にホリックの元を去っていった。 微ざまぁあり。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...