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50・十字槍
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俺たちリザードマン集落攻略部隊の一行は、岩場の丘の上から300メートルほど先に在る沼地を見下ろしていた。
皆で大岩の陰に潜んで沼地を観察している。
ハートジャックの報告では沼地と聞いていたから、もっとおどろおどろした薄気味悪い沼地を想像していたのだが、最初のイメージとはだいぶ違っていた。
それはありふれた大きな池だった。
池の水は蓮華の葉が水面に繁っており緑色にくすんで見える。
その池の横には丸太で作られた防壁に囲まれているリザードマンの集落が伺えた。
それなりに警備は厳重そうだ。
村の様子は板張りのボロ屋ばかりだが、十分な家が並んでいる。
明らかに鮮血を受ける前のコボルトやゴブリンたちよりも文化レベルが高いのも分かった。
更に驚いたことに集落の外には野菜畑が広がっていた。
何やら青々とした野菜が何種類も栽培されている。
『驚きましたね。野菜畑までありますよ』
「どんな野菜が取れるのかな?」
俺の質問に下調べを済ませていたハートジャックが答えた。
「トマトにキュウリ、ナスやスイカも取れる見たいですね~」
「スイカも取れるのか。それは夏が楽しみだな」
『僕もスイカ割りは楽しみです!』
「やっぱり夏はスイカ割りだよね~。夏の浜辺で波の音を聴きながらスイカ割りというなの水着イベントを美女たちに囲まれながらやりたいものだな~」
ハートジャックが真剣な眼差しで述べる。
「 何故に男の方々は、夏の乙女たちが水着を纏っただけで輝いて見えるのでしょうかね~?」
「それが夏の魔力だからさ!!」
夏×水着=青春である。
俺は前世で一度も体験できなかった青春の形ではあるのだが……。
そして、ハートジャックがモジモジしながら言った。
「私も夏の浜辺で輝けるかな~?」
俺は半獣半犬の乙女を下から上へと舐めるように見回した。
ハートジャックのビジュアルは、口元はワンワンだが、眼差しは乙女だ。
それに体型は薄毛に覆われているがスタイルはスレンダーで美しい形をしている。
乳も小さめだが、無いことはない。
これはこれで健康的でプリティーだと思えた。
「うむ、ハートジャックなら水着になれば、浜辺でモテモテじゃないのか」
まあ、コボルト限定だけどね。
「本当ですか~、エリク様~♡」
ハートジャックは赤面しながらデレっていた。
こいつも女の子なんだな~っと思う。
今度はキルルが言った。
『僕も水着に着替えられるかなぁ……』
「えっ、幽霊って着替えられるのか?」
『分かりません……。今度、魔王城に帰ったら試してみますね』
「それはそれで、なんだか凄く期待の高まる話だな……」
それにしても、この世界にも水着イベントってあるんだな。
それ以前に水着があるのかよ。
俺たちがムフフな話で盛り上がっているとキルルが話を野菜畑に戻した。
『ソドムやマチュピチュでも作物の栽培が始まってますが、まだ始まったばかりで成功するかも分かりません。リザードマンさんたちが農業の経験者ならば強い味方になるんでしょうね』
俺も表情だけでも真面目ぶって言った。
「魔王軍の食を豊かにするなら、リザードマンの農業経験も獲得したいな」
更にハートジャックが言う。
「それにリザードマンは船を作れますし~。小舟程度の船ですが、大きな川や池で漁をするのには大変役に立つ技術でしょうね~」
『魔王城の南側の山脈を越えれば海がありますから、船があれば水産資源の獲得に大変やくにたちますよ。漁だけでなく、貿易だってできちゃうかもしれませんね』
「なるほど。ここで船の技術を獲得しておくのはいいかも知れないな」
俺たちが潜みながら話していると、キングが突如立ち上がる。
「では、エリク様。隠れていても仕方ありません。ここは速やかにリザードマンの集落に向かいましょう」
「お、おおう……」
俺の返事を聞く前からキングは一人で丘を滑り降りるとスタスタと歩き出す。
どうやら本当に正面から堂々とリザードマンの集落に殴り込む気らしい。
しかも、一人でだ。
その凛々しい後ろ姿に迷いは微塵もなかった。
「じゃあ、俺らも行くぞ……」
『はい、魔王様……』
俺たちはキングの背中を追った。
そして、森を抜けると畑が並ぶ道に出る。
もうここはリザードマンのテリトリーだ。
だが、リザードマンの姿は見当たらない。
道にも畑にもリザードマンの姿は見当たらなかった。
しかし、丸太で築かれた防壁の上に作られた櫓にはリザードマンの姿が見て取れた。
見張られている。
人影は数にして四匹だ。
槍や弓矢を持ってこちらを監視している。
だが、向こうからは接触を試みては来ない。
ただ櫓の上からこちらの動きを見守っているだけだった。
そして、キングを先頭に俺たち魔王軍一行がリザードマン集落の門前に辿り着く。
防壁と同じ高さの門は木で作られた10メートルほどの扉であった。
両開きの門の上に横長の櫓が在り、そこから四匹のリザードマンたちが見下ろしていた。
リザードマンの風貌は蛇のような鱗を蓄えたツルツルタイプの蜥蜴である。
革のヘルムを被り、体に革の鎧を纏っていた。
そんな三匹のリザードマンが弓矢を引いてこちらを狙っている。
残りの一体は巨漢だ。
体格が他の三匹とは違い太くて大きい。
そして、体格の大きなリザードマンは長い十字槍をついている。
なんだか強そうなリザードマンだ。
キングが言う。
「ここからは私めにお任せくださいませ。エリク様の存在は伏せてリザードマンと交渉いたしますので、口出し無用でありますぞ」
「あ~、はいはい、分かった分かった」
門の眼前に我々が立つと、キングが櫓の上を見上げながら怒鳴った。
「我々は新しく結成された魔王軍の兵士なり。リザードマンの長に会いたい!」
どうやらキングの作戦は、リザードマンの長と直接の対話から入りたいようだ。
俺が縦穴鉱山都市マチュピチュのオークたちとの一戦で見せた戦略を真似ているのだろう。
すると櫓の上から十字槍を持っている大柄のリザードマンが怒鳴るように返してきた。
「貴公ノ名ハ!?」
キングが凛々しく答える。
「魔王軍隊長、コボルトのキングなり!」
「コボルト、フッ」
巨漢のリザードマンが鼻で笑いやがった。
コボルトを舐めていやがる。
「コボルト風情ガ無礼ナ口ヲ叩キオルワイ!!」
なんだ、このリザードマン。
しゃベリ方が片言だな。
魔物たち特有の変な語尾はないが発音すべてが独特である。
これがリザードマン特有の口調なのだろう。
更にキングが吠える。
「貴様では話にならない。長に会わせろ!」
「拙僧デハ、話ニナラヌト申スカ!?」
キングが冷めた口調で怒鳴った。
「三下には用がない、下がれ!」
その言葉はリザードマンを愚弄して煽っていた。
「ウヌヌヌヌッ!!!」
瞬間的に巨漢リザードマンの頭が沸騰した。
緑鱗の頭部から熱い湯気が上がっている。
憤怒に相貌が血走っていた。
既に冷静な感情を失い掛けている。
次の瞬間には、巨漢のリザードマンが櫓から飛び降りてきた。
重いはずの体が軽い跳躍の元に地に降りる。
10メートルからの着地に空気が揺れた。
巨漢にしては身軽である。
そして巨漢のリザードマンは門前で、愛用の十字槍を多彩に振り回し始めた。
槍術の演舞だ。
十字槍が風を切り音を鳴らして振るわれる。
頭上で回して、左右で回す。
更には首や腰で回したのちに、ガッシリと両手で構えた。
十字の槍が腰の高さでしっかりと構えられると刀身が前に突き向けられる。
「ホザイタナ、犬風情ガ!!」
怒るリザードマンの姿は興奮していたが、構えに隙が無い。
その姿は『武』その物が映っていた。
股を割り、落とされた腰の高さ。
腰の高さから構えて延びでる槍の角度。
顎を引いた凛々しい姿勢。
そして、眼光に映る闘志の炎。
それらから【武】が鑑みれた。
磨かれた武道が背後に見える。
それらを見たハートジャックが呟いた。
「あの蜥蜴……、出来ますね~……」
『そ、そうなんですか……?』
ハートジャックの見立ても悪くないが、俺にはまだまだ未熟な槍術の構えに伺えた。
武を知らない俺にでも分かる。
あの十字槍のリザードマンよりもキングの剣術のほうが圧倒的に上だろう。
それは間違いない。
その証拠に、リザードマンは槍を構えたが、その前に立つキングはシミターを抜いてもいない。
刀を抜くどころか、柄にも鞘にも触れてはいないのだ。
巨漢のリザードマンが名乗りを上げる。
「拙僧ノ名ハ、リザードマン一族一ノ槍ノ使イ手、十字槍ノインシュン成リ!」
十字槍のインシュン?
なんか聞いたことがあるようで無いような……。
まあ、いいか~。
「無礼ナコボルトメ。拙僧ガ折檻シテヤル!!」
キングvsインシュン。
早くも荒々しい展開に発展する。
これはこれで面白そうだ。
皆で大岩の陰に潜んで沼地を観察している。
ハートジャックの報告では沼地と聞いていたから、もっとおどろおどろした薄気味悪い沼地を想像していたのだが、最初のイメージとはだいぶ違っていた。
それはありふれた大きな池だった。
池の水は蓮華の葉が水面に繁っており緑色にくすんで見える。
その池の横には丸太で作られた防壁に囲まれているリザードマンの集落が伺えた。
それなりに警備は厳重そうだ。
村の様子は板張りのボロ屋ばかりだが、十分な家が並んでいる。
明らかに鮮血を受ける前のコボルトやゴブリンたちよりも文化レベルが高いのも分かった。
更に驚いたことに集落の外には野菜畑が広がっていた。
何やら青々とした野菜が何種類も栽培されている。
『驚きましたね。野菜畑までありますよ』
「どんな野菜が取れるのかな?」
俺の質問に下調べを済ませていたハートジャックが答えた。
「トマトにキュウリ、ナスやスイカも取れる見たいですね~」
「スイカも取れるのか。それは夏が楽しみだな」
『僕もスイカ割りは楽しみです!』
「やっぱり夏はスイカ割りだよね~。夏の浜辺で波の音を聴きながらスイカ割りというなの水着イベントを美女たちに囲まれながらやりたいものだな~」
ハートジャックが真剣な眼差しで述べる。
「 何故に男の方々は、夏の乙女たちが水着を纏っただけで輝いて見えるのでしょうかね~?」
「それが夏の魔力だからさ!!」
夏×水着=青春である。
俺は前世で一度も体験できなかった青春の形ではあるのだが……。
そして、ハートジャックがモジモジしながら言った。
「私も夏の浜辺で輝けるかな~?」
俺は半獣半犬の乙女を下から上へと舐めるように見回した。
ハートジャックのビジュアルは、口元はワンワンだが、眼差しは乙女だ。
それに体型は薄毛に覆われているがスタイルはスレンダーで美しい形をしている。
乳も小さめだが、無いことはない。
これはこれで健康的でプリティーだと思えた。
「うむ、ハートジャックなら水着になれば、浜辺でモテモテじゃないのか」
まあ、コボルト限定だけどね。
「本当ですか~、エリク様~♡」
ハートジャックは赤面しながらデレっていた。
こいつも女の子なんだな~っと思う。
今度はキルルが言った。
『僕も水着に着替えられるかなぁ……』
「えっ、幽霊って着替えられるのか?」
『分かりません……。今度、魔王城に帰ったら試してみますね』
「それはそれで、なんだか凄く期待の高まる話だな……」
それにしても、この世界にも水着イベントってあるんだな。
それ以前に水着があるのかよ。
俺たちがムフフな話で盛り上がっているとキルルが話を野菜畑に戻した。
『ソドムやマチュピチュでも作物の栽培が始まってますが、まだ始まったばかりで成功するかも分かりません。リザードマンさんたちが農業の経験者ならば強い味方になるんでしょうね』
俺も表情だけでも真面目ぶって言った。
「魔王軍の食を豊かにするなら、リザードマンの農業経験も獲得したいな」
更にハートジャックが言う。
「それにリザードマンは船を作れますし~。小舟程度の船ですが、大きな川や池で漁をするのには大変役に立つ技術でしょうね~」
『魔王城の南側の山脈を越えれば海がありますから、船があれば水産資源の獲得に大変やくにたちますよ。漁だけでなく、貿易だってできちゃうかもしれませんね』
「なるほど。ここで船の技術を獲得しておくのはいいかも知れないな」
俺たちが潜みながら話していると、キングが突如立ち上がる。
「では、エリク様。隠れていても仕方ありません。ここは速やかにリザードマンの集落に向かいましょう」
「お、おおう……」
俺の返事を聞く前からキングは一人で丘を滑り降りるとスタスタと歩き出す。
どうやら本当に正面から堂々とリザードマンの集落に殴り込む気らしい。
しかも、一人でだ。
その凛々しい後ろ姿に迷いは微塵もなかった。
「じゃあ、俺らも行くぞ……」
『はい、魔王様……』
俺たちはキングの背中を追った。
そして、森を抜けると畑が並ぶ道に出る。
もうここはリザードマンのテリトリーだ。
だが、リザードマンの姿は見当たらない。
道にも畑にもリザードマンの姿は見当たらなかった。
しかし、丸太で築かれた防壁の上に作られた櫓にはリザードマンの姿が見て取れた。
見張られている。
人影は数にして四匹だ。
槍や弓矢を持ってこちらを監視している。
だが、向こうからは接触を試みては来ない。
ただ櫓の上からこちらの動きを見守っているだけだった。
そして、キングを先頭に俺たち魔王軍一行がリザードマン集落の門前に辿り着く。
防壁と同じ高さの門は木で作られた10メートルほどの扉であった。
両開きの門の上に横長の櫓が在り、そこから四匹のリザードマンたちが見下ろしていた。
リザードマンの風貌は蛇のような鱗を蓄えたツルツルタイプの蜥蜴である。
革のヘルムを被り、体に革の鎧を纏っていた。
そんな三匹のリザードマンが弓矢を引いてこちらを狙っている。
残りの一体は巨漢だ。
体格が他の三匹とは違い太くて大きい。
そして、体格の大きなリザードマンは長い十字槍をついている。
なんだか強そうなリザードマンだ。
キングが言う。
「ここからは私めにお任せくださいませ。エリク様の存在は伏せてリザードマンと交渉いたしますので、口出し無用でありますぞ」
「あ~、はいはい、分かった分かった」
門の眼前に我々が立つと、キングが櫓の上を見上げながら怒鳴った。
「我々は新しく結成された魔王軍の兵士なり。リザードマンの長に会いたい!」
どうやらキングの作戦は、リザードマンの長と直接の対話から入りたいようだ。
俺が縦穴鉱山都市マチュピチュのオークたちとの一戦で見せた戦略を真似ているのだろう。
すると櫓の上から十字槍を持っている大柄のリザードマンが怒鳴るように返してきた。
「貴公ノ名ハ!?」
キングが凛々しく答える。
「魔王軍隊長、コボルトのキングなり!」
「コボルト、フッ」
巨漢のリザードマンが鼻で笑いやがった。
コボルトを舐めていやがる。
「コボルト風情ガ無礼ナ口ヲ叩キオルワイ!!」
なんだ、このリザードマン。
しゃベリ方が片言だな。
魔物たち特有の変な語尾はないが発音すべてが独特である。
これがリザードマン特有の口調なのだろう。
更にキングが吠える。
「貴様では話にならない。長に会わせろ!」
「拙僧デハ、話ニナラヌト申スカ!?」
キングが冷めた口調で怒鳴った。
「三下には用がない、下がれ!」
その言葉はリザードマンを愚弄して煽っていた。
「ウヌヌヌヌッ!!!」
瞬間的に巨漢リザードマンの頭が沸騰した。
緑鱗の頭部から熱い湯気が上がっている。
憤怒に相貌が血走っていた。
既に冷静な感情を失い掛けている。
次の瞬間には、巨漢のリザードマンが櫓から飛び降りてきた。
重いはずの体が軽い跳躍の元に地に降りる。
10メートルからの着地に空気が揺れた。
巨漢にしては身軽である。
そして巨漢のリザードマンは門前で、愛用の十字槍を多彩に振り回し始めた。
槍術の演舞だ。
十字槍が風を切り音を鳴らして振るわれる。
頭上で回して、左右で回す。
更には首や腰で回したのちに、ガッシリと両手で構えた。
十字の槍が腰の高さでしっかりと構えられると刀身が前に突き向けられる。
「ホザイタナ、犬風情ガ!!」
怒るリザードマンの姿は興奮していたが、構えに隙が無い。
その姿は『武』その物が映っていた。
股を割り、落とされた腰の高さ。
腰の高さから構えて延びでる槍の角度。
顎を引いた凛々しい姿勢。
そして、眼光に映る闘志の炎。
それらから【武】が鑑みれた。
磨かれた武道が背後に見える。
それらを見たハートジャックが呟いた。
「あの蜥蜴……、出来ますね~……」
『そ、そうなんですか……?』
ハートジャックの見立ても悪くないが、俺にはまだまだ未熟な槍術の構えに伺えた。
武を知らない俺にでも分かる。
あの十字槍のリザードマンよりもキングの剣術のほうが圧倒的に上だろう。
それは間違いない。
その証拠に、リザードマンは槍を構えたが、その前に立つキングはシミターを抜いてもいない。
刀を抜くどころか、柄にも鞘にも触れてはいないのだ。
巨漢のリザードマンが名乗りを上げる。
「拙僧ノ名ハ、リザードマン一族一ノ槍ノ使イ手、十字槍ノインシュン成リ!」
十字槍のインシュン?
なんか聞いたことがあるようで無いような……。
まあ、いいか~。
「無礼ナコボルトメ。拙僧ガ折檻シテヤル!!」
キングvsインシュン。
早くも荒々しい展開に発展する。
これはこれで面白そうだ。
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