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49・キングの決意

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リザードマンの集落攻略作戦、出発当日。

城下町ソドムの広場でゴブロンが首輪で繋がれたジャイアントカピバラと並んで立っていた。

その他にも城下町の住人が見送りのために並んでいる。

仕事の手を休めて、わざわざ見送りに来てくれたのだ。

ジャイアントカピバラのアルフォンスはリードで繋がれて、その綱をゴブロンが持っている。

そのゴブロンにキルルが詰め寄るように忠告をしていた。

『いいですか、ゴブロンさん。散歩は朝と夕方に一回ずつ必ず連れて行ってくださいね。ご飯は散歩のあとですからね!』

「分かったでやんすよ……」

ゴブロンは面倒臭そうな表情でキルルの話を聞いている。

その顔は耳にタコができたと言いたげな表情であった。

『ゴブロンさんはお仕事を直ぐにさぼる悪い癖がありますから心配なんですよ!』

「キルル殿は心配症でやんすね。ペットの散歩ぐらいあっしにだってできるでやんすよ」

『アルフォンスちゃんはペットでありません! 家族です!!』

「ええ~……」

『それに、できるできないの問題じゃあなくて、さぼるさぼらないの問題なんですよ!』

俺の横で肩掛け鞄に保存食を詰め込んでいるハートジャックが手を休めて訊いてくる。

「エリク様~、あのカピバラはなんですか~?」

「ああ、あれか……」

ガミガミと言っているキルルの横には2メートルのジャイアントカピバラがポケ~っと無表情で青空を眺めていた。

ジャイアントカピバラの目は冷めきった眼差しである。

このジャイアントカピバラには、自分のことでキルルとゴブロンが揉めていると言う自覚は皆無に伺えた。

俺はハートジャックの質問に答えてやる。

「元々は実験用のモルモットだったんだが、キルルのヤツが愛着を抱いてしまってな。ペットとして飼い出したんだわ」

俺にはジャイアントカピバラの可愛さが理解できない。

キルルは可愛い可愛いと連呼しているのだが、あんなのただのデカイネズミにしか見えないのだ。

しかも不細工だ。

可愛くも何ともない。

ハートジャックが顎を撫でながら言う。

「ペットですか~。あんな大きいだけのネズミのどこが可愛いのですか~?」

「知らん、俺に訊くな……」

「まあ、非常食には丁度良いかも知れませんね~」

「なるほど、非常食か」

すると俺とハートジャックの会話が耳に入ったのか、今度はキルルが俺たちに突っ掛かってきた。

『アルフォンスちゃんはペットじゃあありません。ネズミでもありません。家族です、家族なんですよ!!』

「「はぁ………」」

キルルの発言に俺とハートジャックが脱力しながら呆れていた。

すると旅の支度が住んだキングが姿を現す。

「エリク様、出発の準備が整いました、それでは旅立ちましょう」

俺の前に現れたキングはローブを羽織り、背中にはバックパックを背負っていた。

ローブの下はレザーアーマーにいつもの光るシミターを装備している。

ハートジャック曰く、リザードマンの集落までは森の中を一日半ほど走って進んだ距離らしい。

そして、今回志願した八匹のコボルトたちもキングの背後に立っていた。

彼らも旅の支度を済ませている。

ローブの下には武装を整えていることだろう。

今回のリザードマン集落攻略作戦は、キングにハートジャック、それと八匹の志願兵のコボルト戦士だけで遂行される。

約束通りの十名だ。

コボルトだけで編成された十匹の志願兵部隊だった。

その部隊に俺とキルルが同行する。

俺も同行するのだが、今回は手出しはしない予定である。

キングがコボルトたちだけの力で作戦を成功させるのが目標であるのだ。

俺が同行する理由は、キングの力量を計るのが目的である。

今回の作戦は、魔王として配下に任せたのだ。

いくら俺が最強無敵でも、俺では破滅の勇者を倒せない。

だからいずれはキングたちに頼らなければならない。

その時のための試験にも近いのである。

キングが言う。

「エリク様、それでは出発いたしましょう」

「ああ、分かった、キング。よ~~し、キルル、行くぞ~」

『はい、魔王様!』

こうして俺たちはリザードマンの集落に向かって旅立った。

その晩の話である。

俺たち魔王軍は森の中にキャンプを張って野宿していた。

テントの前で焚き火に当たる。

俺は焚き火の炎を眺めながらハートジャックに問うた。

「なあ、ハートジャック。明日にはリザードマンの集落に到着するんだろ?」

「はい、この速度で移動していれば昼前には到着できると思いますよ~」

俺は焚き火に薪を投げ込むと、今度はキングに質問した。

「それで、今回の隊長さんは、どんな作戦で行くつもりなんだい?」

キングは焚き火を見つめながら答えた。

「魔王流で、押して参りたいと思っております」

魔王流?

押して参る?

「魔王流ってなんだよ。押して参るって?」

キングが凛々しく答えた。

「正面から正々堂々と殴り込みます」

「マジか!?」

大胆な作戦に出るつもりだな。

マジで俺を楽しませる気満々だろう。

更にキングが強気を口走る。

「私一人で、リザードマンの集落に殴り込みます!」

「マジか!?」

俺だけじゃなくハートジャックも目を剥いて驚いていた。

それに近くで話を訊いていた八名の志願兵たちも驚いている。

だが、コボルトたちはリーダーに何一つ意見を上げない。

僅かな沈黙の時が流れる。

焚き火の炎がパチパチと音を鳴らして揺れていた。

その沈黙を破るように俺がクスクスと笑い出す。

「くくっ、くくくくっ」

するとキルルとコボルト十匹の視線が俺に集まる。

俺は笑いながらキングに言ってやった。

「お前、一人でそんなことができると思っているわけか?」

キングの即答。

「できるできないではありません。やるかやらないかです!」

「いいね~、いいぞ~、キング。最高だぜ! あはっはっはっはっ!!」

俺の高笑いが真夜中の森に広がった。

その高笑う俺を皆が見守っている。

「よし、ならばキング。本当に一人でリザードマンたちを制圧できたのならば、お前を魔王軍の将軍に引きあげてやるぞ!」

「私が将軍でありますか!?」

「そう、将軍だ。しかも大将軍にしてやるぞ。軍の指揮権をお前に任せてやる!」

「ありがとうございます、エリク様!!」

キングは深々と頭を下げた。

「だが、約束通り一人でリザードマンたちを制圧できたらの話だ!」

「このキング、必ずやエリク様のご期待に御応えいたしますぞ!」

するとキルルが俺に耳打ちしてきた。

『魔王様、そんな約束しちゃっていいのですか?』

「かまわん。もしも一人で本当にリザードマンたちを制圧できるのならば、大将軍の役割だって果たせるだろうさ」

『まあ、確かに、そうですね……』

大将軍の誕生は、明日の作戦で決まる。

これはこれで、ますます面白くなってきたぞ。

俺の期待と興奮も、どんどんと高まる。

こんなに興奮していて今晩は眠れるだろうか。

慣れた枕だってないんだから、もしかしたら眠れないかも知れない。

「キルル~、眠れないから膝枕して~♡」

『はい、分かりました、魔王様』

これでグッスリ眠れそうだぜ。

いやいや、逆にドキドキして眠れねえ!!

まさか本当にキルルが膝枕してくれるなんて思ってもみなかったからさ!!

とにかく、言ってみるもんだな!!

超ラッキー!!

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