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47・ポーション

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キングが志願兵のみでリザードマンの集落を攻略することになった。

出撃は三日後だ。

それまでの間に志願を受け付けるらしい。

その数は十名までである。

既にキング本人が人数に入っているので、残るは九名ってことになる。

まあ、血気盛んな連中が直ぐに九名ぐらい集まるだろうさ。

これはこれで三日後が楽しみである。

ってか、キングの野郎
、スゲ~張り切ってたわ~。

もう、ヤル気満々だったよ。

そして、俺はキルルを連れて魔王城ヴァルハラの霊安室に戻っている最中だった。

石作の古びた階段をテクテクと上っている。

「なあ、キルル~」

俺は長い階段を上りながら後ろに続くキルルに話し掛けた。

『なんですか、魔王様?』

「この階段を上るのさ、かったるくね?」

『かったるいですか?』

「長いし、狭いし、急角度だし、壁が崩れているところも多いから、風がピューピューと入ってくるしさ……」

『僕は幽霊だから階段を上っても疲れませんし、狭いのは気になりませんし、幽体なので風も感じませんから気にはなりませんね』

「幽霊は、何かと特権だらけだな……」

『魔王様も僕と一緒に幽霊でもやりますか?』

「死ねとっ!」

『はい』

「断る!!」

『残念です♡』

そんな感じで俺たちがしゃべりながら階段を上っていると、途中の一室でアンドレアを見付けた。

地につきそうなぐらい長い長髪を揺らしながら部屋の中で何かの作業に励んでいる。

「あいつら、何をしてるんだろう?」

『さぁ~?』

アンドレアは妹たちと一緒に室内で木箱の荷物を整理している様子だった。

俺は部屋の出入り口に立つと部屋の中を覗き込む。

石造りの部屋は窓の無い二十畳ぐらいの広さで、部屋の中央には長テーブルが置かれている。

部屋の壁際には幾つもの木箱が適当に積まれていた。

俺はゴブリン三姉妹に明るく声を掛ける。

「よ~~う、アンドレア、カンドレア、チンドレア。何をやっているんだ」

三姉妹が振り向くと俺に気付いて長女のアンドレアが答えた。

「エリク様、ちょっと在庫の整理をしていたでありんす」

「在庫?」

「これです」

カンドレアが木箱の蓋を開けて中身を見せた。

木箱にはガラスの小瓶が何本か入っている。

「ポーションの在庫です」

「ポーション?」

カンドレアが見せてくれた木箱の中には幾つもの小瓶が詰まっていた。

小瓶同士がぶつかり合って割れないように乾燥した藁がクッションとして隙間に詰められている。

「なんだ、そのポーションは?」

アンドレアが呆れた顔で答える。

「前にわっちが報告したでありんすよ」

「報告?」

俺がキルルのほうを見ると幽霊の巫女少女は無言で頷いていた。

どうやら俺はちゃんと報告を受けているようだ。

ただ、いつものように忘れているようだった。

それを察したキルルが改めて説明してくれる。

『アンドレアさんの提案で、きたる決戦に備えてポーションを溜め込んでいるのですよ』

「溜め込む?」

きたる決戦とは破滅の勇者との決戦なのだろう。

でも、何故にポーションを溜め込んでいるのだろうか?

それにこのポーションはどこから持ってきたのだろう?

アンドレアが困った表情で眉をしかめながら言う。

「エリク様は忘れたのでありんすか?」

『たぶんアンドレアさんが報告しにきたときに、夕御飯中だったから、食べるのに夢中でちゃんと聞いてなかったと思われますね……』

「なるほど、そうでありんすか……」

「クイーンの料理は夢中になるほど旨いからな!」

アンドレアとキルルが呆れた表情で溜め息を溢していた。

そして、話を改めるようにキルルが説明をしてくれる。

『アンドレアさんの発案で、聖杯を使ってポーションを製造しているのですよ』

「聖杯って、鮮血の儀式の聖杯か?」

『そうです』

「確か前にアンドレアが言っていたよな、聖杯にはアルティメットヒールの効果が追加されたとか、それか? それなのか?」

『それです。それですよ!』

「ここにあるポーションは、その効果を利用して作ったポーションでありんすよ」

「じゃあ、その箱の中はアルティメットポーションの在庫なのか?」

「いいえ、違うでありんす」

「違うのかよ?」

「ここにあるのは、グレーターヒールポーションでありんすよ」

「グレーターヒールポーション?」

「はい、グレーターヒールポーションでありんす」

俺はキルルに小声で訊いてみた。

「なあ、キルル。グレーターヒールとアルティメットヒールって何が違うの?」

訊かれたキルルも小声で答えた。

『アルティメットヒールは切断された腕が生えてきますが、グレーターヒールは切断された腕が無いとくっつかないヒールです』

「アルティメットがグレーターの上位魔法なのか?」

『そうなります』

うぬぬ?

そうなると何故にポーションの在庫がすべてグレーターヒールポーションなのだ?

あの聖杯から作ったポーションならアルティメットヒールポーションになるはずなのに?

俺は抱いたばかりの疑問を素直に訊いてみた。

するとアンドレアが分かりやすく答えてくれる。

「ポーションの作り方は聖杯に真水を注いで一晩ほど放置しておけばポーションに変化するでありんす。なので一晩で小瓶五個分のポーションが製造できるでありんすよ」

「要するに、一日に五本のポーションが作れるのね」

「ですが聖杯で作れるアルティメットヒールポーションの材料はエリク様の鮮血になるでありんす。鮮血を使えばアルティメットヒールポーションになるでありんすが、水などを使ってポーションを作るとグレードダウンしてグレーターヒールポーションにしかならないのでありんす」

「真水だと、品質が落ちるのね」

『水が汚いと、もっと品質が低下するようですよ』

「まあ、それでもグレーターヒールポーションでもレアアイテムでありんす。無理してエリク様から鮮血を頂いてアルティメットヒールポーションを作らなくてもグレーターヒールポーションでも十分な効果が期待できるでありんすよ」

「ああ~、なるほどね。確かに毎日毎日手首を切って鮮血を垂れ流すのは、俺的にもつらいからな……」

「それに鮮血を長時間保管していると固まってしまうのでありんす」

『血が凝固するのですね』

「ああ~、血だから固まるのね……」

そう、血は固まる。

そのぐらいなら、なんとか俺でも知っている。

「ですので血が固まらないように阻止剤て凝固を防ぐのでありんすが、すると今度はポーションの効力が失われるでありんす」

「効果が失われる?」

『凝固阻止剤には何をつかっているのですか?』

「クエン酸でありんす」

クエン酸?

クエン酸って何?

『なるほど。異物混入でポーションとしての効力が消失してしまうのですね』

「だからただの真水で作れるグレーターヒールポーションを大量に生産してるでありんす」

『でも、それが正解かもしれませんね。鮮血を仕様したポーションだと魔王軍の方々しか使えないですからね。魔王軍以外が使用すれば、ポーションを飲んだ人が石化するはずですから』

「まあ、これを在庫として蓄えておけば、いずれ外交で外貨を稼ぐのに使えるでありんす」

真水で作ったポーションを誰かに売り付けて外貨を稼ぐ積もりだったのか!

アンドレア、侮れないぞ!!

『そこまで考えてましたか、アンドレアさんは』

「まあ、マジックアイテムの管理がわっちの仕事でありんすから」

『でも、一日五本しか作れないのでしょう?』

「わっちの観察だと、真水がポーションに変化するのに十六時間スパンだと分かったでありんす」

『だとすると、一週間で五十二本ぐらい作れますね』

「外の世界で人間たちに売買したら、一本あたり、どのぐらいの値段で売れるでありんすか?」

『アンドレアさんが述べた通りグレーターヒールポーションは人間界ではレアアイテムです。週に五十二本も販売できれば、なかなかの国家予算が稼げると思いますよ』

「ならば小国とは言え、無限にグレーターヒールポーションが配給される国となれば、そうそう喧嘩を売ってくる国も減ると言うことでありんすね」

『喧嘩を売るどころか、普通ならば仲良くしたい国になるでしょうね』

うわ~……。

なんかこの子たち難しい話をしてるな~……。

乙女同士の可愛らしい会話じゃあないぞ。

俺の入り込む隙間がないよ……。

俺も大木槌姉妹と一緒に在庫を運んでよっと……。

頭を使った話より、体を動かしていたほうがまだ楽そうだわ……。

まあ、俺にも分かってることは、魔王国は政治的にも安泰ってわけだ。

そんな感じで俺がキルルとアンドレアを眺めていると、カンドレアとチンドレアが俺の前に立つ。

「エリク様、見てください」

「新しいハンマーです」

カンドレアとアンドレアは揃いのスレッチハンマーを俺に見せた。

「あれ、木槌から鉄鎚に変わったのか?」

「はい、鍛冶屋のスペード殿が新しく作ってくれたのです」

カンドレアとアンドレアは凛々しくも微笑んでいる。

新しいハンマーが嬉しいのだろうさ。

だから、新しい玩具を買って貰った子供のように見せびらかしているのだろう。

「ならば……」

俺は自分の指先を噛むと流血した血を二つのスレッチハンマーに拭うように着けた。

「これでしばらくしたらそのハンマーもマジックアイテム化するだろうさ。これはお前らに対してのプチ御褒美だ」

「おお~~!!」

「エリク様、有りがたき幸せ!!」

二人の美人ホブゴブリンが深々と頭を下げた。

かなり感激しているようだった。

まあ、俺も楽しみである。

この二つの鉄鎚が、どのようなマジックアイテムに変貌するのか──。

そして、この姉妹がこの先にどれだけ活躍できるのかが──。

こうやって俺はこいつらの気を引くのであった。

いずれ俺が築くハーレムに引き入れるためにだ。


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