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46・リザードマンの集落

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俺とキルル、それにキングとゴブロンの四名が食堂に向かうとハートジャックが一人で飯を食らっていた。

黄緑の果物を刻んだサラダと分厚いステーキを食べている。

城下町ソドムの食堂は大きな建屋に幾つもの長テーブルを並べただけの学食か社員食堂のような簡単な作りであった。

一度に食事ができる席の数は二百名程度ある。

ここで町の住人たちが代わりばんこに食事を取っているのだ。

今は食堂も昼を過ぎた暇な時間帯なのか、ほとんど誰もいない。

だから一人で大きな肉の塊にかぶりついているハートジャックの姿が直ぐに見付けられた。

「よ~~う、ハートジャック。リザードマンの集落の偵察、ご苦労様だったな~」

手を振る俺がハートジャックに近づくとハートジャックは驚いたのか肉を口にほうばりながら立ち上がって敬礼していた。

「まほえはまっ!!」

「喋るのは口の中の食べ物を飲み込んでからでいいぞ」

「はひっ!!」

ハートジャックは口の中の肉を水で喉の奥に流し込むと改めて挨拶を発する。

「魔王様、ご苦労さまでありま~す!!」

「それはこっちの台詞だ」

「ありがたき幸せで~す!!」

「まあ、そう畏まらないで座れ」

俺がハートジャックの向かえに座ると隣にキルルが座る。

キングとゴブロンは俺の後ろで立っていた。

ハートジャックは恐縮しながら席に腰を落とす。

「と、ところでエリク様~。突然何用ですか~?」

「お前、リザードマンの集落に偵察に行ってたんだろ?」

「は~い、今帰ったところで~す。ご飯を食べたらキングさんに報告に行こうかと考えてました~」

「なら、それを今俺に報告しろ」

「はい~……」

ハートジャックは俺の背後に立つキングの顔をチラリと見た。

するとキングが無言で一つ頷く。

「では、これを見てください~」

ハートジャックは自分が食べていた食器を脇に退かすとテーブルの上に羊皮紙を広げる。

その羊皮紙にはリザードマンの集落が図面として起こされていた。

リザードマンの集落は大きな沼地の脇に築かれた村らしい。

二十五軒程度の建物が防壁に囲まれていて、村の中央には石作りの遺跡が聳えているとか。

リザードマンの総勢は非戦闘員の女子供を合わせれば八十匹程度だと。

「リザードマンの村って、防壁があるのか?」

「はい、防壁は丸太を大地に突き刺しただけの3メートルほどの壁ですね~。櫓も計五ヶ所に建てられていますわ~。出入り口は正門と裏門の計二ヵ所にありま~す」

キルルが言う。

『ってことは、リザードマンって文明レベルが高い種族なのですね』

防壁、櫓、門、どれもこれもゴブリンやコボルト、それにオークたちには無かった文化だ。

明らかに文明レベルが数段違うだろう。

ハートジャックが頷きながら言う。

「現在の我々に近い文化を有しているかと思いますね~」

俺は小指で鼻の穴をホジリながら愚痴る。

「蜥蜴のくせに生意気だな」

更にハートジャックが説明を続けた。

「更にリザードマンは小型の船を持っていましたよ~。それで沼地で魚を取って暮らしている様子ですわ~」

「船まであるのかよ。ますます生意気だな」

キングが問う。

「武装は?」

「鉄槍や鉄斧、それに鉄の剣、弓矢やスリングも備えておりましたわ~。防具も皮鎧に盾などもありましたよ~」

「武装もバッチリじゃん。爬虫類のくせに武具を作れるのか」

「村の中で鍛冶職人が確認できましたわ~」

『リザードマンってかなり賢い種族なんですね。鮮血の儀式を終えれば、かなり魔王軍の戦力になるのではないでしょうか?』

「更に文化レベルを向上させる存在になりそうだな」

だとするならば、かなり欲しい連中だ。

破滅の勇者討伐にかなり前進するだろう。

更にハートジャックが語る。

「リザードマンの長は老体ですが魔法使い風でしたよ~」

『魔法使いですか、それとも精霊使いですか?』

「そこまでは分かりませんね~。何せ魔法を披露してはくれませんでしたからね~」

「面白い、ボスは魔法使いか~」

俺が天井を眺めながら微笑んでいるとハートジャックが怪訝な顔で更に愉快なことを話し出す。

「魔法使いの長も厄介ですが~、それ以前にリザードマンの若者のほうが厄介に見えましたよ~」

「若者が厄介?」

ハートジャックが緊張した表情で言う。

「リザードマンは武闘派ですね~……」

「武闘派?」

「剣技や槍術、戦略に長けていると言う意味ですよ~……」

「それこそマジで面白そうだな!」

俺は表情をパッと明るくさせた。

それとは対象的にハートジャックの表情が曇る。

「私は張り込みで見たのですよ~……」

「何をだ?」

「彼らリザードマンの朝稽古をです……」

「朝稽古?」

ハートジャックは俺の背後に立つキングの顔をチラリと見てから再び俯いた。

何やらバツが悪そうなのだ。

その仕草を見てキングが問う。

「ハートジャック、リザードマンは、どのような朝稽古に励んでいたのだ?」

ハートジャックは気を遣った口調で答えた。

「皆が並んで、寸分狂い無き動きで稽古に励んでおりましたわ~……。その動きは、まるで合わせ鏡を見ているかのような揃った動きで~、しかも~……」

「しかも、なんだ?」

「しかも、多彩で複雑な動きでしたわ~。それを皆が誰かを真似ていると言うよりも、全員が習得しているかのような動きでしたわ~……」

「多彩で複雑、かつ全員の動きが揃っていると……?」

「私の印象を素直に述べれば~、キングさんの朝稽古が~……」

「私の朝稽古が、なんだ?」

「まるでママゴトのように見えましたわ~……」

こいつ、ズバリと言うな……。

キングに忖度無しか……。

俺が振り返りキングを見てみれば、キングは奥歯を強く噛み締めていた。

眉間に深い皺を寄せている。

プライドでも傷付いたかな?

俺は前を向き直すとハートジャックに問う。

「それで、お前の結論的に、リザードマンをどう見るんだ、ハートジャック?」

「エリク様が自ら出向けばリザードマンの攻略は容易いでしょうね~……」

俺との力の差はありありとあるわけだ。

「じゃあ、俺が欠席してキングが捕獲作戦を指揮したらどうなる?」

「負けることはないと思いますが~、多少の損害は覚悟しなければならないかも知れませんね~」

俺は椅子に座ったまま背後に立つキングの腹を叩いた。

「だってさ~、キング。お前はどうする?」

キングは引き締まった声で答えた。

「ハートジャックの見立てが真実ならば、更に警戒を強めて捕獲作戦に挑むまでです。それが私の責務ですから」

「悪い回答じゃあないな」

俺に対しての忠義から失敗は許されないと考えているのだろう。

「ならば、今回の捕獲作戦に俺も同行するぞ。ただし見学だけだ。捕獲や戦闘に手を貸さん。俺が同行する理由は観戦が目的だ。キングがどれだけ頑張れるかを見てみたい」

キングが言う。

「私めの仕事っぷりを見てみたいと?」

「そうだ」

「ならば、最小数で捕獲作戦に挑むのが筋でしょうな」

「筋? 最小数? なんで?」

「ハートジャックが述べたとおり、数を揃えて大群で攻めたてれば難なく攻略可能でしょうとも。ですが、それではエリク様を満足させれません。ギリギリの兵数でギリギリに作戦を成功させたほうが、きっとエリク様はお喜びになられるはず!!」

こいつ、マゾい!!

縛りプレイに走りやがったぞ!!

でも、それはそれで面白そうだな。

「その苦難な条件でキングはリザードマンたちを捕獲できるのか?」

「やれるかやれないかではありません。やって見せるが魔王軍です!」

うわ、勇ましい!!

格好いいは、キングさん!!

俺が女だったら抱かれてたぞ!!

「それで、どこまで兵を削るつもりだ?」

「私を含めて十名でリザードマンに挑みます!」

「それだと面子によるな~」

「作戦に参加するものは、志願者のみにいたします!」

「十名揃わなかったら、どうするん?」

「揃ったメンバーだけで挑みます!!」

キルルが俺に耳打ちして訊いてきた。

『魔王様、本当にこんな無謀な作戦を許可するんですか……?』

「今さら反対もできまいて。ここは一つキングの男らしさを見てみようじゃあないか」

『はあ……』

キルルの心配を余所に、この条件で作戦は遂行されることになった。

今回はキングにとって試練だ。

キングが主役で話が進む。

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