上 下
45 / 69

45・キング&クイーン夫妻、おめでとう!

しおりを挟む
俺はキルルと一緒にキングとアンドレアに会いに行った。

キルルが町の名前を決めたから報告しに出向いたのだ。

魔王城での暮らしは暇なので、こんなことぐらいしかやることがないのである。

まあ、大工や土木の仕事なら山ほどあるんだけどね。

何せあっちこっちで開拓中だからさ。

でも、それらの仕事は暇でもやりたくない。

そんな仕事をするぐらいなら暇でも寝ていたほうがましである。

とにかく、俺は暇潰し程度に城下町に降りてきたのだ。

すると広場でキングとアンドレアを見付ける。

キングは若い兵士たちに剣の訓練を行っていて、アンドレアは子供たちにシャーマン魔法の指導を行っていた。

二人は次世代の育成に熱心である。

俺には他人の指導なんて無理なので、彼らのようなリーダー資質に長けた人物に任せるべきであるだろう。

これに関しては俺は一切口を挟まないようにしていた。

「よう、キング、アンドレア。ちょっといいか」

俺は二名を呼び寄せた。

「なんでありんすか?」

講義を中断して二名が俺の元にやって来る。

「キルルがここの城と町の名前を決めたから報告しに来たぞ」

キングが犬顎を撫でながら言う。

「ほほう、やっと決まりましたか」

俺はキルルの背中をポンっと叩いた。

「では、キルル自ら報告せよ!」

『はい、魔王様!』

キルルは少し畏まると次の瞬間には力強く言った。

『城の名前は、墓城を改めて魔王城ヴァルハラで、城下町はソドムと命名しました!』

キルルが報告すると二名が「おお~」っと唸りながら拍手した。

「キルル殿、なかなか素晴らしいネーミングですな!」

「わっちもナイスなネーミングだと思うでありんすよ!」

キングとアンドレアは本気で素晴らしいと思っているようだ。

「どうやらこいつらの脳味噌も厨二脳のようだな……」

俺の独り言は三名に届かない。

俺は青い空を見上げながら考える。

魔地域に長くすんでると厨二臭くなるのであろうか……。

それとも魔物の思考が厨二臭い構造をしているのだろうか……。

もしかしたら、両方かも知れないな。

更にキルルが報告する。

『それとオークさんたちの縦穴鉱山も命名しましたよ』

キングが問う。

「どのように名付けたのですか?」

キルルが胸を張りながらドヤ顔で言った。

『縦穴鉱山都市マチュピチュです!』

「「おお~、素晴らしい!」」

キングとアンドレアが歓喜な表情で褒め称えていた。

「マジか……」

目がマジだ……。

俺だけが脱力していた。

更にキングがキルルのネーミングセンスを讃える。

「流石はキルル殿です。素晴らしいネーミングですな。今度産まれる私の子供の名前もキルル殿に命名して貰いましょうか」

「えっ、子供?」

何を言い出したのかと俺が首を傾げた。

しかし、俺を無視してキルルもキングも話を進める。

『ええっ、いいのですか、キングさん!?』

「ああ、是非ともお願いいたしますぞ、キルル殿!」

「おい、キング。お前、子供が出来たのか?」

キングが照れ臭そうに言う。

「はい、先日分かったばかりなのですが、妻のクイーンが妊娠しまして」

「マジか!?」

俺は結構仰天していたが、キルルとアンドレアは驚いていない。

どうやら知っていたようだ。

『おめでとうございます、キングさん。お子さんの命名は任せてくださいね』

「おいおい、キルルに命名を任せていいのかよ!?」

「キルル殿ならば、きっと素晴らしい名前を我が子に名付けてくれるでしょうとも!」

「うわぁ~……。すげ~信頼されてますな~……」

キングの表情は本気だ。

マジで我が子の命名をキルルに任せるようである。

任されたキルルがドヤ顔で返す。

『僕的には当然ですね!』

「当然なのかよ……」

それよりもだ。

「じゃあ、クイーンのご飯がしばらく食べれなくなるんだな……」

そっちのほうが俺には心配だった。

キルルが自分の胸を叩きながら言う。

『魔王様、それも僕に任せてください!』

「それも……だと……」

俺の顔が不安に曇る。

キルルは鼻息を荒くしながら自信に満ちた表情で言う。

『ちゃんと調理の練習は積んでいますから!』

それが一番怖いのだ。

「ちゃんと、だと……。いや、あれはまだ食べ物ではないな……」

俺とキルルは呪縛のために普段から一緒なので、彼女が熱心に料理を練習しているのは俺も知っていた。

だが、その作品は黒焦げから下手物に変わった程度で、まだまだ食べ物と呼べる代物ではない。

そもそも黒焦げなのに、皿の上でたまにヒクッと動くのだ。

そんな物を料理と呼べないだろう。

あれは、食えない。

食い物ではないのだ。

キルルが眉間に皺を寄せながら言う。

『魔王様は、僕の料理を食べたくないのですか!?』

俺は独り言を聞こえるように言ってやった。

「新しいコックを探さないとならないな……」

キングが哀れむ眼差しで俺に言う。

「エリク様も大変ですね……」

「キング、お前も奥さんの手料理が食べれなくって大変だろ。なんなら俺と食事を共にするか?」

「えっ!!」

キングも一瞬で顔色を青ざめる。

キルルの料理は犬も食わないのだ。

するとタイミング良くゴブロンが俺を探しに来た。

よし、これで話が反らせるぞ!

「あ~、魔王様、こんなところに居たでやんすか~。キングさんも探したでやんすよ」

「どうした、ゴブロン?」

「リザードマンの集落を偵察に行っていたハートジャックさんが帰還したでやんすよ!」

俺は明るいテンションでゴブロンに受け応える。

「おお、やっと帰還したか。待っていたぜ!」

キングも俺に合わせてくれた。

「それで、今どこにいるのだ?」

「食堂で食事中でやんす」

「よし、じゃあ食堂に向かうか!」

「はい!!」

俺とキングが一早く踵を返したのだが、アンドレアが話を戻しやがった。

「魔王様、クイーン殿が産休中は───』

きぃーーー!!

話を戻すな、この野郎!!

アンドレアの言葉が続く。

『我々の食堂で食事を取ったら如何ですか?」

ナイス、アンドレア!

名案だぜ!

俺はうれしそうに返答する。

「そうだな、それでも構わんか!」

『ぶー、維持でも僕の手料理を食べたくないのですね……』

キルルが作った下手物料理を食うよりも、騒がしい食堂で皆と食事を共にしたほうが楽しそうである。

「しばらくは食堂で飯を食うことにするか」

『ぶー、ぶー!』

キルルがオークの真似をしてブーブー言っていた。

それはそれで可愛いな。

だが、今回ばかりは無視を決め込む。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

処理中です...