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41・二章の始まり

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俺たちが墓城に住み着いてから、早くも二ヶ月が過ぎようとしていた。

墓城の麓の町も随分と進化して、今では立派な町と化している。

最初に作られた家は木の枝を組み合わせただけの隙間だらけのボロ屋だったが、最近作られる家は煉瓦作りの家ばかりである。

屋根も瓦を仕様していた。

どうやら瓦も手作りらしい。

壁も粘土で固められている。

最近ではガラスの窓も増え始めていた。

ついに魔物たちはガラス細工まで習得したようだ。

そんな感じで、最近では古い木の枝の家が取り壊されて、煉瓦の家が新築され始めている。

ここまでくると、随分進化したものだと思えた。

とにかく関心である。

それに町の住人も増えてきた。

我々の他にも、この墓城の周りには、野良のコボルトやらゴブリンやらの魔物が、小さなグループを作って多く救っている。

オークやヘルキャットも居るのだが、数は少ないようだ。

そして、キングやゴブロンたちが、それらを捕まえて墓城の町に連れてくるのである。

最初は奴隷を捕まえてきたようにロープで縛って連れてくるのだが、ほとんどの魔物は一日ほど町の広場に儲けた牢屋に放置していると、次の日には己から忠誠を誓いたがる。

牢屋の中から町の住人たちの暮らしを見て、この町の暮らしに憧れるのである。

そもそもコボルトは群れる性質らしく、仲間同士で仲良くやっている生活に憧れる。

ゴブリンは美しくなった少年少女風の姿に憧れて忠誠を懇願し始める。

ヘルキャットは長閑な近代文明の生活に憧れるようだ。

そして、オークは豚から猪に変貌した勇ましい姿に憧れるようなのだ。

そんな感じで、ほとんどの知的モンスターは直ぐに仲間に加わる。

今ではコボルトとゴブリンだけでも500匹は越えているだろう。

まだヘルキャットは20匹程度だが、オークは縦穴鉱山の住人を含めれば250匹は越えている。

それと、実験して分かったことがある。

知能が動物並みに低すぎる魔物は俺の鮮血を口にすると直ぐに石化してしまうのだ。

忠誠を誓うと言う概念がないと駄目らしい。

てか、言葉を理解できていないのだろう。

だから忠誠と石化の条件を説明しても理解されないのだ。

あと、人間に俺の鮮血が効くかはまだ不明である。

何せ、この異世界に俺が転生してきて、まだ一度も人間には遭遇していないからだ。

配下に加わった魔物たちの話だと、人間の里は山脈の向こうに、確かに存在しているらしいのだ。

人間の町もあるし、王国もいくつか存在しているとか。

だが、ここからは距離がありすぎる。

ここは辺鄙な土地らしく、ほとんど冒険者すら立ち寄らない地域らしいのだ。

キルル曰く、だから魔地域なのだと言う。

大きな森林の範囲は、俺の予測だと50キロはあるサイズだ。

しかも四方を山脈に囲まれている。

キルルの話だと、嘗ては広野だったが、山脈の外は、北が大陸で、南は海らしい。

キルルが見たことがある世界地図だと、この魔地域はマップの下側を占めているとか。

まあ、とにかく人里からは離れている。

だから、俺が人間に接するのは、まだまだ先の話になりそうである。

それと、新しい実験を始めた。

森林の中に巣くう動物をジャックに一匹捕まえてきてもらった。

体長2メートルほどある大きなネズミだ。

ジャイアントカピバラである。

「あ~、よちよち~」

「キュルルルルっ!!!」

このジャイアントカピバラを霊安室の隅で飼っている。

野生育ちのせいか、俺には全然なついていないが実験のためだ。

このジャイアントカピバラを手懐けてみようと思う。

「キュルルルル!!!」

「なんでこいつは唸るんだ。しかもネズミなのにキュルルルルってなんだよ!」

『魔王様、完全に警戒されてますね』

何故にジャイアントカピバラを手懐けるのか?

それは簡単な実験を果たすためだ。

知能が低い魔物も、手懐けてからなら鮮血の儀式で忠義を誓わせられるんじゃあないのかなって、考えたからだ。

要するに、ジャイアントカピバラとかは群れる生き物だ。

その頂点が飼い主だと分からせれば、それで忠義を誓わせたと一緒になるのではないかなって、思ったのだ。

そうなれば、鮮血の儀式にも耐えられるのではないだろうかと考えたのである。

だが、このジャイアントカピバラが俺になつくには、まだまだ時間が掛かりそうだ。

野生で育った動物が、人に馴染むのは難しいのだろう。

「キュルルルル!!!」

「すっけ~、威嚇的に牙を剥いているよ……」

全然なつかない……。

出っ歯の牙を剥いて反抗的だ。

キルルが提案する。

『とりあえず魔王様。毎日三食餌を与えてみましょう。動物の犬とかは餌を与えてくれる人を主だと思うことが多いですからね』

「なるほど、毎日俺が直々に餌を与えていれば、こいつも俺になつくかも知れないって作戦だな!」

『はい、魔王様』

キルルがそぉ~~っと手を延ばしてジャイアントカピバラの頭を撫でる。

すると少し落ち着いたのか、喉を唸らせていたジャイアントカピバラが静かになった。

「おお、早くもなついてきたか!」

続いて俺がジャイアントカピバラの頭を撫でようと手を延ばした。

「ガルっ!!」

ガブッ!!

「ひぃーーー、噛まれた!!」

『魔王様、大丈夫ですか!』

「うん、大丈夫。血は出てないよ……」

仰天している俺を見てジャイアントカピバラがニヤリと微笑んだ。

なんかムカつく笑みである。

「あー! こいつ笑いやがった! 今、俺を笑いやがったぞ!!」

俺が拳を上げてジャイアントカピバラを殴ろうとするとキルルが止める。

『魔王様、いけません。動物虐待はいけませんよ!!』

「知るか、こいつは俺を噛もうとしたんだぞ! 折檻してやる!!」

『まだアルフォンスは、ここに来てから日が浅いのです。多めに見てください!!』

「えっ、アルフォンス?」

『はい、この子の名前はアルフォンスです!』

「な~~に、勝手に名前つけてんだ、キルル!!」

キルルはジャイアントカピバラに抱き付くと懇願するような眼差して俺を見上げながら言った。

『駄目ですか、アルフォンスって名前は……?』

ああ、可愛い……。

キルルが可愛いよ……。

そんな縋るような眼差して懇願されると……。

「し、仕方ないな……。名前はアルフォンスでかまわん……」

『本当ですか、魔王様!!』

「ああ、ただし、ちゃんと毎日の御世話をするんだぞ、キルル」

『はい、僕、毎日散歩に連れていきます!!』

こうしてキルルがアルフォンスの世話を焼くことになった。

そして俺は、この日を境に毎日早朝からアルフォンスの散歩に付き合わされるのである。

でも、全然アルフォンスは俺になつかない。

なつくのはキルルにばかりである。

「ちぇ、ペットなんて嫌いだ……」

俺の気分は、飼っている犬が奥さんには良くなつくのだが、旦那さんには微塵もなつかないような気分であった。

凄くムカつくし、なんだか寂しい……。

キルルがアルフォンスの頭を撫でながら言った。

『アルフォンスは賢い子ですから、直ぐに魔王様にもなつきますよ♡』

「キュ~~」

だと、いいのだが……。

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