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33・実験の結果と密偵の帰還
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ハートジャックが偵察に出てから三日が過ぎた。
今日にはオークの縦穴鉱山から帰ってくるころだろう。
「あ~、食った食った~」
『魔王様、朝から食べ過ぎじゃありませんか?』
俺は朝飯で膨れた腹をポンポンと叩きながら返す。
「そうかな~。俺、食い過ぎなのか?」
『そんなに食べてばかりいると、太っちゃいますよ』
「キルルはデブが嫌いか?」
『太っちょは嫌いではありませんが、太ってて戦えますか?』
「持久力は減りそうだな。ならば太らない努力は欠かさないでおこう」
俺はクィーンさんが作った朝食を食べ終わると、村の中をキルルと二人で話ながら散歩していた。
村の中ではコボルトやゴブリンたちが朝から仕事に励んでいる。
家の増築がメインの仕事のようだった。
村の人工も増えた。
村の近辺で野良モンスターをやっていた者たちがパラパラと合流したからだ。
今は村に二百匹程度のモンスターたちが暮らしている。
でも、そのほとんどがコボルトとゴブリンたちである。
ホブゴブリンは大木槌姉妹に、ローランドとやって来た連中で計十二匹程度であった。
それと昨日の話だが、猫耳モンスターが一匹仲間に加わったのだ。
「エリク様~、おはようニャ~!」
噂の猫耳娘が俺の前に現れた。
黒髪のショートボブで頭に猫耳を生やした若い娘だ。
体型はスレンダーで寂しいぐらいの貧乳である。
瞳はグリグリした猫目でお尻にはネコネコした尻尾が生えている。
俺の鮮血を受けるまではもっと化け猫っぽかったが、今はキュートな獣人猫キャラであった。
なんでもヘルキャットって言う名前のモンスターらしく、普段は群れを作らず単体で森の中を徘徊しているらしい。
「よう、ペルシャ。村には慣れたか?」
「まだ、慣れないニャ~」
ペルシャの語尾を聞いたキルルが質問した。
『ペルシャさん、語尾のニャ~が取れてませんね?』
ペルシャは髪の毛を指先でクリクリしながら答える。
「これは、わざとだニャ~」
『わざとですか?』
「ペルシャはヘルキャットだから、ヘルキャットとしてのアイデンティティーを失いたくないニャ~。だからわざと語尾を残しているニャ~」
『そうだったのですか』
キャラ付けだろう。
「ところでペルシャ。住む場所は決まったのか?」
「はいニャ~。それはキングさんに小屋を一つ頂いたニャ~」
「それじゃあ仕事はどうなっている?」
「仕事は建築家だニャ~」
「『建築家?」』
するとキルルがペルシャの職業カラーを確認した。
『あら、本当にペルシャさんのカラーは建築家ですね』
「建築家って、大工か?」
「大工の上位職業だニャ~」
「上位職業?」
「建てる家のデザインを図面に起こして大工さんたちに指示を出して作業を進めるのが役目だニャ~」
「よく分からんが、監督みたいなもんか?」
「まあ、大体は正解だニャ~」
『何か大変な役柄ですね』
「そうでもないニャ~。それに、建築家のメモリーが開封されて、自分の変化が嬉しいニャ~。ただだだ、森を彷徨いながらネズミを狩っているだけのモンスターから文化を先導する建築家に成れて嬉しいのだニャ~」
ペルシャは心から喜んでいそうな微笑みを浮かべている。
なかなか可愛いじゃあねえか。
これだけ猫耳ニャーニャーキャラだと得点は高いぞ。
「まあ、楽しそうだから、歓迎すべきだな」
ペルシャは村の中を見回しながら言う。
「それに、この村を町に変えるための建築配置を考えるとワクワクするニャ~。攻防一体でありながら暮らしやすい町に進化させる。それに自分が関われるって思うと、楽しくてなりませんニャ~!」
「あ~、この村が町にクラスチェンジするかどうかはペルシャに掛かっているのか」
「私的には、もっと高い場所に狭い部屋の家を建てたいのですか、何故か皆さんに却下されましたにゃ~」
「それは猫族を優先し過ぎだからだろ……」
「まあ、見ていてくださいニャ~、エリク様。私が鉄壁の町を設計して見せますニャ~!」
たぶん防壁も築くつもりなのだろうさ。
どうやって作るのかは知らんが、それは俺も期待しちゃうよね。
防壁って男の子のロマンが詰まっているもの。
「立派な町を築くから、期待していてくださいニャ~、エリク様!」
「ああ、期待してるぞ、ペルシャ」
『期待してますよ、ペルシャさん』
あっ、それよりも俺には用事があったんだ。
「ところで、ペルシャ。アンドレアを見なかったか?」
ペルシャは村の先を指差しながら言った。
「ああ、あのチビッ子ロリロリゴブリンですね。さっき、広場のほうで見たニャ~」
こいつ、表現が悪いな。
アンドレアと中が悪いのかな?
「そうか、サンキュー。よし、キルル、行くぞ」
『はいです、魔王様』
俺はペルシャと別れて広場を目指した。
すると広場でアンドレアを見掛ける。
そのアンドレアの周りに数匹の子供たちが列を成して囲むように座っていた。
子供はゴブリンだけでなく、コボルトの子供も混ざっている。
「あいつ、何しているんだ?」
『さあ~?』
俺とキルルが離れた場所で立ち止まるとアンドレアの様子を伺った。
そのアンドレアが子供たちの前で何やら魔法を説明しながら披露している。
『もしかして、精霊魔法を教えているのではないでしょうか?』
「ああ、なるほどね」
俺はキルルに頷くとアンドレアのほうに歩み寄った。
するとアンドレアが子供たちに掛ける言葉が聞こえてきた。
「よいか、コツは精霊にたいしての感謝の心でありんす。精霊魔法の心得は、そこから始まるのでありんすよ」
「「「はい、先生!」」」
「では、各自で帰ったら練習を欠かさないようにするでありんす!」
「「「はい、先生!」」」
「では、解散でありんす!」
「「「はい、先生!」」」
それを最後に子供たちが走って去っていく。
途中で殆どの子供が俺を見つけると立ち止まって頭を下げて行った。
この子たちも鮮血の儀式を受けた子供たちなのだ。
その辺の礼儀は心得ているようだな。
感心である。
「よう、アンドレア。子供に精霊魔法を教えていたのか?」
「これはこれはエリク様」
アンドレアは赤い長髪を揺らしながら頭を深々と下げる。
そして、頭を上げると何をしていたか説明を始めた。
「村の子供たちの中から精霊魔法の素質がありそうな子だけを集めて精霊魔法を教え始めましたのでありんす。シャーマンが増えれば魔法戦力が増えると思いまして」
「精霊魔術師の戦力強化か……。お前、俺以上に魔王軍のことを考えているんだな」
「いえ、これもキング殿の真似事でありんす。キング殿は暇を見付けては若者や子供にまで剣術を特訓しているでありんすからね」
「へぇ、あいつ、そんなことをやっているのか?」
「知らなかったのでありんすか?」
「し、知らなかった……」
『魔王様、先日キングさんが武道指導の許可を取りに来ましたよ……』
「えっ、そうだったっけ……」
どうやら俺が忘れていただけのようだ。
まあ、細かいことは配下に任せるのが俺の主義だ。
一々些細なことまで俺一人でやってもいられないからな!
「ところでエリク様。何かわっちに用でありんすか?」
「そうだよ、そうだよ。アンドレアに霊安室の武器を鑑定してもらいたくってさ」
「あの鮮血を垂らしたマジックアイテムでありんすね」
「そうそう。あれから三日が過ぎたから、変化が出てないかなって思ってさ」
それから俺たち三名が霊安室に戻るとアンドレアが早速アイテム鑑定をしてくれた。
だが、アンドレアの答えは俺の期待から大きく外れる。
「エリク様、どの武器も魔力は感じますが、強化は進んでいませんでありんす」
「えっ? どういうこと?」
一列目の武器には一日一回、鮮血を垂らした。
二列目の武器には一日三回だ。
三列目の武器には、一日一回、ダブダブと大量の鮮血を掛けたのに……。
変化を知るための実験だったのに、変化が無いってなんだよ、それ?
この三日間は無駄だったのか。
「どれもマジックアイテムでありんすが、強化能力が追加されていませんでありんす」
『ただ、魔力が籠っているだけの武器ってことですか?』
「はい、そうでありんす」
更にアンドレアは石棺の上のアイテムを指差しながら言った。
「あと、こっちの物は魔力すら感じませぬ。ただのガラクタでありんすね」
砂の山、雑草の束、木の枝、小石である。
これらはマジックアイテムにすら進化していないようだ。
「あら、この木の棒だけは、微量の魔力が感じられるでありんす」
「でも、ただの小枝だしな」
木の枝の長さは10センチ程度である。
しかも片手で折れる細さだ。
こんなの武器にも使えないだろう。
アンドレアが話を聖杯に変えた。
「しかし、聖杯だけが強い魔力を感じるでありんすね」
陶器のワイングラス。
これだけは俺が見ても変化がわかった。
陶器の周りの装飾が更に細かく変化して、今では見栄えが美しい象牙のカップのように芸術的に変貌していた。
もうただの陶器のワイングラスではない。
まさに聖杯と呼んでも良いだろう美しさだ。
更にアンドレアが言う。
「更に聖杯のヒーリング効果が上がっているでありんす。たぶんエリク様の鮮血と交われば、グレーターヒールを越えたアルティメットヒールの効果まで達するのではないでしょうか?」
「アルティメットヒールってなんだ?」
『手足が切断されても、新しい部位が生えてくるってレベルの回復魔法ですよ』
「それって、死者まで蘇生しちゃうのか!?」
『リザレクションとは別ですね。ヒール系魔法では死者までは蘇生できませんよ』
「そうなのか~」
俺は聖杯を手に取ると、まじまじと観察した。
「まあ、これはこれで凄いマジックアイテムだって言うのは間違いないんだな」
『そうなりますね』
「でも、なんでキングのシミターやゴブロンのダガーは特殊能力を得られたのに、ここの武器は特殊能力が授からなかったんだ?」
「『さあ~?」』
キルルもアンドレアも首を傾げていた。
何か条件が違ったのだろうか?
俺が腕を組んで悩んでいると廊下からゴブロンが駆け込んで来る。
「エリク様、報告でやんす!」
「なんだ、ゴブロン?」
「偵察に出ていたハートジャックさんが帰ってまいりやんした!」
「おお、ついに帰還したか~」
約束通りの三日後だっだ。
俺は帰って来たばかりのハートジャックを霊安室に呼び寄せると報告を受ける。
ハートジャックは羊皮紙の図面に縦穴鉱山を細かく書き起こしていた。
オークの数、坑道数、長さ、部屋の数、どこに何匹オークが済んでいるか、見張りの交代スパン。
ハートジャックは様々な情報を調べ上げていた。
「こ、こいつ、マジで凄い密偵に進化してないか……」
『そ、そうですね……。僕もビックリですよ……』
今日にはオークの縦穴鉱山から帰ってくるころだろう。
「あ~、食った食った~」
『魔王様、朝から食べ過ぎじゃありませんか?』
俺は朝飯で膨れた腹をポンポンと叩きながら返す。
「そうかな~。俺、食い過ぎなのか?」
『そんなに食べてばかりいると、太っちゃいますよ』
「キルルはデブが嫌いか?」
『太っちょは嫌いではありませんが、太ってて戦えますか?』
「持久力は減りそうだな。ならば太らない努力は欠かさないでおこう」
俺はクィーンさんが作った朝食を食べ終わると、村の中をキルルと二人で話ながら散歩していた。
村の中ではコボルトやゴブリンたちが朝から仕事に励んでいる。
家の増築がメインの仕事のようだった。
村の人工も増えた。
村の近辺で野良モンスターをやっていた者たちがパラパラと合流したからだ。
今は村に二百匹程度のモンスターたちが暮らしている。
でも、そのほとんどがコボルトとゴブリンたちである。
ホブゴブリンは大木槌姉妹に、ローランドとやって来た連中で計十二匹程度であった。
それと昨日の話だが、猫耳モンスターが一匹仲間に加わったのだ。
「エリク様~、おはようニャ~!」
噂の猫耳娘が俺の前に現れた。
黒髪のショートボブで頭に猫耳を生やした若い娘だ。
体型はスレンダーで寂しいぐらいの貧乳である。
瞳はグリグリした猫目でお尻にはネコネコした尻尾が生えている。
俺の鮮血を受けるまではもっと化け猫っぽかったが、今はキュートな獣人猫キャラであった。
なんでもヘルキャットって言う名前のモンスターらしく、普段は群れを作らず単体で森の中を徘徊しているらしい。
「よう、ペルシャ。村には慣れたか?」
「まだ、慣れないニャ~」
ペルシャの語尾を聞いたキルルが質問した。
『ペルシャさん、語尾のニャ~が取れてませんね?』
ペルシャは髪の毛を指先でクリクリしながら答える。
「これは、わざとだニャ~」
『わざとですか?』
「ペルシャはヘルキャットだから、ヘルキャットとしてのアイデンティティーを失いたくないニャ~。だからわざと語尾を残しているニャ~」
『そうだったのですか』
キャラ付けだろう。
「ところでペルシャ。住む場所は決まったのか?」
「はいニャ~。それはキングさんに小屋を一つ頂いたニャ~」
「それじゃあ仕事はどうなっている?」
「仕事は建築家だニャ~」
「『建築家?」』
するとキルルがペルシャの職業カラーを確認した。
『あら、本当にペルシャさんのカラーは建築家ですね』
「建築家って、大工か?」
「大工の上位職業だニャ~」
「上位職業?」
「建てる家のデザインを図面に起こして大工さんたちに指示を出して作業を進めるのが役目だニャ~」
「よく分からんが、監督みたいなもんか?」
「まあ、大体は正解だニャ~」
『何か大変な役柄ですね』
「そうでもないニャ~。それに、建築家のメモリーが開封されて、自分の変化が嬉しいニャ~。ただだだ、森を彷徨いながらネズミを狩っているだけのモンスターから文化を先導する建築家に成れて嬉しいのだニャ~」
ペルシャは心から喜んでいそうな微笑みを浮かべている。
なかなか可愛いじゃあねえか。
これだけ猫耳ニャーニャーキャラだと得点は高いぞ。
「まあ、楽しそうだから、歓迎すべきだな」
ペルシャは村の中を見回しながら言う。
「それに、この村を町に変えるための建築配置を考えるとワクワクするニャ~。攻防一体でありながら暮らしやすい町に進化させる。それに自分が関われるって思うと、楽しくてなりませんニャ~!」
「あ~、この村が町にクラスチェンジするかどうかはペルシャに掛かっているのか」
「私的には、もっと高い場所に狭い部屋の家を建てたいのですか、何故か皆さんに却下されましたにゃ~」
「それは猫族を優先し過ぎだからだろ……」
「まあ、見ていてくださいニャ~、エリク様。私が鉄壁の町を設計して見せますニャ~!」
たぶん防壁も築くつもりなのだろうさ。
どうやって作るのかは知らんが、それは俺も期待しちゃうよね。
防壁って男の子のロマンが詰まっているもの。
「立派な町を築くから、期待していてくださいニャ~、エリク様!」
「ああ、期待してるぞ、ペルシャ」
『期待してますよ、ペルシャさん』
あっ、それよりも俺には用事があったんだ。
「ところで、ペルシャ。アンドレアを見なかったか?」
ペルシャは村の先を指差しながら言った。
「ああ、あのチビッ子ロリロリゴブリンですね。さっき、広場のほうで見たニャ~」
こいつ、表現が悪いな。
アンドレアと中が悪いのかな?
「そうか、サンキュー。よし、キルル、行くぞ」
『はいです、魔王様』
俺はペルシャと別れて広場を目指した。
すると広場でアンドレアを見掛ける。
そのアンドレアの周りに数匹の子供たちが列を成して囲むように座っていた。
子供はゴブリンだけでなく、コボルトの子供も混ざっている。
「あいつ、何しているんだ?」
『さあ~?』
俺とキルルが離れた場所で立ち止まるとアンドレアの様子を伺った。
そのアンドレアが子供たちの前で何やら魔法を説明しながら披露している。
『もしかして、精霊魔法を教えているのではないでしょうか?』
「ああ、なるほどね」
俺はキルルに頷くとアンドレアのほうに歩み寄った。
するとアンドレアが子供たちに掛ける言葉が聞こえてきた。
「よいか、コツは精霊にたいしての感謝の心でありんす。精霊魔法の心得は、そこから始まるのでありんすよ」
「「「はい、先生!」」」
「では、各自で帰ったら練習を欠かさないようにするでありんす!」
「「「はい、先生!」」」
「では、解散でありんす!」
「「「はい、先生!」」」
それを最後に子供たちが走って去っていく。
途中で殆どの子供が俺を見つけると立ち止まって頭を下げて行った。
この子たちも鮮血の儀式を受けた子供たちなのだ。
その辺の礼儀は心得ているようだな。
感心である。
「よう、アンドレア。子供に精霊魔法を教えていたのか?」
「これはこれはエリク様」
アンドレアは赤い長髪を揺らしながら頭を深々と下げる。
そして、頭を上げると何をしていたか説明を始めた。
「村の子供たちの中から精霊魔法の素質がありそうな子だけを集めて精霊魔法を教え始めましたのでありんす。シャーマンが増えれば魔法戦力が増えると思いまして」
「精霊魔術師の戦力強化か……。お前、俺以上に魔王軍のことを考えているんだな」
「いえ、これもキング殿の真似事でありんす。キング殿は暇を見付けては若者や子供にまで剣術を特訓しているでありんすからね」
「へぇ、あいつ、そんなことをやっているのか?」
「知らなかったのでありんすか?」
「し、知らなかった……」
『魔王様、先日キングさんが武道指導の許可を取りに来ましたよ……』
「えっ、そうだったっけ……」
どうやら俺が忘れていただけのようだ。
まあ、細かいことは配下に任せるのが俺の主義だ。
一々些細なことまで俺一人でやってもいられないからな!
「ところでエリク様。何かわっちに用でありんすか?」
「そうだよ、そうだよ。アンドレアに霊安室の武器を鑑定してもらいたくってさ」
「あの鮮血を垂らしたマジックアイテムでありんすね」
「そうそう。あれから三日が過ぎたから、変化が出てないかなって思ってさ」
それから俺たち三名が霊安室に戻るとアンドレアが早速アイテム鑑定をしてくれた。
だが、アンドレアの答えは俺の期待から大きく外れる。
「エリク様、どの武器も魔力は感じますが、強化は進んでいませんでありんす」
「えっ? どういうこと?」
一列目の武器には一日一回、鮮血を垂らした。
二列目の武器には一日三回だ。
三列目の武器には、一日一回、ダブダブと大量の鮮血を掛けたのに……。
変化を知るための実験だったのに、変化が無いってなんだよ、それ?
この三日間は無駄だったのか。
「どれもマジックアイテムでありんすが、強化能力が追加されていませんでありんす」
『ただ、魔力が籠っているだけの武器ってことですか?』
「はい、そうでありんす」
更にアンドレアは石棺の上のアイテムを指差しながら言った。
「あと、こっちの物は魔力すら感じませぬ。ただのガラクタでありんすね」
砂の山、雑草の束、木の枝、小石である。
これらはマジックアイテムにすら進化していないようだ。
「あら、この木の棒だけは、微量の魔力が感じられるでありんす」
「でも、ただの小枝だしな」
木の枝の長さは10センチ程度である。
しかも片手で折れる細さだ。
こんなの武器にも使えないだろう。
アンドレアが話を聖杯に変えた。
「しかし、聖杯だけが強い魔力を感じるでありんすね」
陶器のワイングラス。
これだけは俺が見ても変化がわかった。
陶器の周りの装飾が更に細かく変化して、今では見栄えが美しい象牙のカップのように芸術的に変貌していた。
もうただの陶器のワイングラスではない。
まさに聖杯と呼んでも良いだろう美しさだ。
更にアンドレアが言う。
「更に聖杯のヒーリング効果が上がっているでありんす。たぶんエリク様の鮮血と交われば、グレーターヒールを越えたアルティメットヒールの効果まで達するのではないでしょうか?」
「アルティメットヒールってなんだ?」
『手足が切断されても、新しい部位が生えてくるってレベルの回復魔法ですよ』
「それって、死者まで蘇生しちゃうのか!?」
『リザレクションとは別ですね。ヒール系魔法では死者までは蘇生できませんよ』
「そうなのか~」
俺は聖杯を手に取ると、まじまじと観察した。
「まあ、これはこれで凄いマジックアイテムだって言うのは間違いないんだな」
『そうなりますね』
「でも、なんでキングのシミターやゴブロンのダガーは特殊能力を得られたのに、ここの武器は特殊能力が授からなかったんだ?」
「『さあ~?」』
キルルもアンドレアも首を傾げていた。
何か条件が違ったのだろうか?
俺が腕を組んで悩んでいると廊下からゴブロンが駆け込んで来る。
「エリク様、報告でやんす!」
「なんだ、ゴブロン?」
「偵察に出ていたハートジャックさんが帰ってまいりやんした!」
「おお、ついに帰還したか~」
約束通りの三日後だっだ。
俺は帰って来たばかりのハートジャックを霊安室に呼び寄せると報告を受ける。
ハートジャックは羊皮紙の図面に縦穴鉱山を細かく書き起こしていた。
オークの数、坑道数、長さ、部屋の数、どこに何匹オークが済んでいるか、見張りの交代スパン。
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