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27・墓城の暮らし

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俺たちが墓城に住み着いてから七日が過ぎた。

俺とキルルは墓城の霊安室に寝泊りして、コボルトとゴブリンたちは墓城の麓に村を築いて暮らし始めたのだ。

家の建築は、まだ始まったばかりである。

村と言っても、まだ木の枝で組まれた程度の家しか建てられていない。

壁には隙間だらけで風がピューピュー入ってくるボロい家だ。

墓城の修復もまだである。

ただ霊安室に繋がる通路の土砂だけ取り除かれた程度であった。

でも、コボルトやゴブリンたちの中には職人スキルに目覚めた者たちも少なくないので、立派な家が建築されるのも時間の問題だろう。

墓城だってそのうちに修復させたいのである。

大工だって鍛冶屋だっているのだ。

俺の願いは差程遠くもなく叶うだろうさ。

しかし今は、建築素材や建築道具を揃えるのを優先させているようだった。

何せ木を切る斧すら足りてないありさまだ。

だから、まだまだ時間は掛かるのだろう。

そして、俺とキルルが墓城の霊安室で朝からまったりしていると、通路のほうから焼き魚の良い匂いが漂ってくる。

おそらく通路の外でキングの奥さんであるクィーンが朝食を調理しているのだろう。

コボルト奥さんのクィーンは調理師のメモリーに目覚めた女性であった。

最近俺の食事を作ってくれているのは彼女である。

そのクイーンがエプロン姿で大きな葉っぱの皿に盛られた焼き魚を運んできた。

「エリク様、朝食が出来ました」

「おう、サンキュー」

クイーンはコボルトながら良くできた奥さんキャラである。

顔は犬だが人妻っぽさが溢れる大人びた色気を醸し出しているのだ。

顔にも毛が生えているから分からないが、きっと目の下には泣き黒子があることだろう。

昔ジュンイチさんが述べた通りで、不倫が文化ならば、彼女が理想的な不倫の候補だろうさ。

そんな感じでクイーンはエロいコボルト人妻なのである。

まさか俺が犬面の亜種に欲情するとは夢にも思わなかったぐらいであった。

人妻、侮れん!!

とにかくだ……。

俺はクイーンに感謝を述べた。

「いつも飯を作ってくれて助かるよ。何せ俺の秘書は調理が下手くそでな~。マジで助かるよ!」

「いえいえ、どういたしまして」

コボルトのクイーンは焼き魚が盛り付けられた葉っぱをテーブル代わりの石棺の上に置く。

「おお、旨そうな焼き魚だな!」

「昨日、盛りの中でバジルが取れましたので、岩塩と一緒に味付けしました。どうぞお召し上がりくださいませ」

続いてクイーンは新しい陶器のワイングラスに水を注いで俺の前に置く。

以前のより少し装飾が細かくなっているワイングラスだった。

「新しいカップを見つけたんだな」

「えぇ……?」

水を注いだクイーンが首を傾げる。

その光景を後ろから見ていたキルルが不貞腐れた口調で愚痴っていた。

『どうせ僕は料理が下手ですよ……、ぐすん』

俺は振り返ると冷たい目線でキルルを見ながらなじってやる。

「いや、あれは下手とか上手いとかの次元じゃあないぞ。まるで猛毒を作っているかのような料理だったぞ……」

『そこまで卑下しますか、魔王様!?』

それは、墓城に皆が引っ越してきた次の日の話である。

俺が腹が減ったと言ったらキルルが料理を作ってくれたのだ。

だが、出来上がってきた料理を見て俺は幻滅した。

食う前から幻滅したのだ。

何かを焼いただけの料理だったのだが、素材が丸焦げで、元の形が何であるかも選別できないほどの料理だった。

しかも、たまに動くのだ……。

だが、もしかしたら見てくれが悪いだけで食べたら旨いのかもと思った俺は、その消し炭状態の何かを口に運んだのである。

それが、間違いだった。

少し動いているのに気付いたときに止めておくべきだった……。

そして、俺はキルルが作った自称料理を食べてから気絶した。

無勝無敗の能力で不死身のはずの俺が気絶したのだ。

それで、三時間ほど記憶を失う。

こうしてキルルが調理を行うことは魔王国憲法で初めて決められた禁止事項として記録されたのである。

俺は眼前のバジル味の焼き魚を食べながらクイーンを褒め称えた。

「クイーン。これからも俺の食を支えてくれよ。お前が俺の専属コックだ!」

「はい、エリク様。ありがたきお言葉です!!」

『僕だって練習すれば、上手に料理ぐらい作れるのに……。ぶぅー』

「いや、練習も禁止な」

俺が不貞腐れるキルルの様子を愛でながら食事を取っていると、慌てた形相でロン毛のゴブロンが霊安室に走り込んできた。

「エリク様、エリク様! 大変でやんす!!」

「どうした、ゴブロン。そんなに慌てると、早く剥げるぞ」

「えっ、マジっすか! どうしよう!!」

ゴブロンは自慢のロン毛ごと頭を抱えながら、本気で剥げを心配していた。

冗談なのにさ。

『そんなことよりも、どうしましたか、ゴブロンさん?』

キルルが秘書らしく話を元の方向に戻してくれる。

「それがですね、キルルさん。下の広場に西のゴブリン族が現れて魔王を出せと暴れているんすよ!!」

「おい、ゴラァ、まてやゴブロン。キルルにじゃなく、俺に報告しろや!」

「あっ、そうでやんした。なんだかキルルさんのほうがフレンドリーでエリク様より馴染みやすいので、ついついエリク様を無視してキルルさんに報告しちゃいやしたよ!」

「おまえ、俺が嫌いだろ!」

「エリク様とキルルさんを比べれば、やっぱりキルルさんのほうが好きでやんすね~」

「お前、素直だな~、正直者だな~……」

「そうでやんすか? エリク様、褒めすぎですよ~」

「殺す!!!!」

問答無用で俺はゴブロンの顔面をぶん殴って部屋の隅まで飛ばしてやった。

顔面が砕けたゴブロンがゴロンゴロンと転がってから壁に激突して止まる。

おそらく死んだだろう。

ざまぁ~である!

それからキルルに指示を出す。

「キルル、下に向かうぞ。ついてまえれ!」

『はい、魔王様』

しかし、俺が霊安室を出て行こうとするとキルルが止める。

『それよりも魔王様、まずは服を着てください!』

「あっ、寝起きで全裸だったぜ。キルルもクイーンも何も言わないから全裸なのを忘れてたよ」

『いつも言ってもなかなか服を着てくれないじゃあありませんか……』

俺はキルルからボロい服を受け取ると着込んだ。

まだ服もろくな物がないのである。

だから俺は全裸を選んでいるのだが、その辺は女の子のキルルには理解してもらえない事情なのであった。

女心って難しいよね。

まあ、とにかく俺らは下を目指した。

訪問者のゴブリンたちを拝みに行く。

俺の後ろにはキルルのほかに生き返ったゴブロンがついてきていた。

俺は階段を下りながらゴブロンに状況の詳細を問う。

「来訪したゴブリンの数は?」

「30匹程度ですが、10匹ほどホブゴブリンが混ざっていやす!」

「へぇ~、ホブゴブリンが10匹もいるのかよ」

「リーダーはローランドって名乗るホブゴブリンでやんす。最近この辺でブイブイ言わせていたゴブリン連中でやんすよ」

「そいつらが、なんでやって来たんだ?」

「おそらくエリク様の噂を聞き付けたのではないでやんすかね?」

「もう俺って、そんなに噂なの?」

「悪い噂が広がるのは早いでやんすからね!」

『魔物も人間も、一緒なんですね。悪い噂ほど早く広まるものですよ』

「悪い噂なんかい!」

ゴブロンが報告を続けた。

「今は村の前でカンドレアさんとチンドレアさんが足止めしていやす。あの双子姉妹なら突破されることはないでやんすでしょう」

「だろうな」

何せガチムチ美女双子姉妹だもの。

長女のアンドレアはゴブリンなのにロリロリしていて可愛らしいし、妹たちで双子のカンドレアもチンドレアもモデルのような背の高い美女なのだ。

あれで肌の色が緑じゃあなければ百点満点なんだけれどもね。

「とにかく、急ぐか」

『はい、魔王様!』

「へいでやんす!」

俺たち三名が墓城から下の村に降りると、村の前で大木槌を背負って立っているカンドレアとアンドレアの後ろ姿が見えてきた。

真っ赤な赤い長髪と凛々しいお尻が美しい。

ペロペロしたくなるほどのヒップである。

そして、俺らが姉妹に近付くと、前方に広がる殺伐とした光景に唖然としてしまう。

姉妹の前には強引に来訪してきたと思われるゴブリンとホブゴブリンの一団が死屍累々のように倒れていたのだ。

『壊滅してますね……』

「あー……、全部やっつけちゃったのね……」

「そ、そうでやんすね……」

俺たちが呆然としていると、真面目な表情のガチムチ双子姉妹が振り返った。

そして、俺を見つけると大木槌を肩に背負ったカンドレアが凛々しく言う。

「エリク様、無粋な連中が訪ねて参りましたので、軽く礼儀を教えて起きました」

続いて大木槌を杖のように地面についているチンドレアが言う。

「安心してください。殺してはいません。軽く締めただけです」

「そ、そうか……」

この姉妹にはおふざけの色が微塵も見えなかった。

マジの中の大マジで言ってるのだろう。

こいつらは、根が真面目なのだろうさ。

それがある意味で怖い……。

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