箱庭の魔王様は最強無敵でバトル好きだけど配下の力で破滅の勇者を倒したい!

ヒィッツカラルド

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26・メモリーの開封

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変貌したゴブリンたちがワイワイと楽しそうに騒ぐ中で、俺の鮮血を飲めなかったキルルが訊いてきた。

『魔王様、これでコボルトさんたちとゴブリンさんたちを仲間に出来ましたが、これからどうするのですか?』

「そうだな~」

全裸の俺は両腕を胸の前で組んで考え込んだ。

「とりあえず、プラン的には魔王軍の増強を続ける予定だ。魔地域を回って、もっともっと魔物を仲間に入れるぞ」

『じゃあ、王国作りはどうしますか?』

そうである。

支援なき軍隊は直ぐに崩壊するだろう。

まずは土台作りからのほうがいいのかな?

「そうだな、まずは国より町作りからかな~。こいつらの住み家を向上させないとならないだろう」

俺が言うと近くに立っていたアンドレアが藁葺き屋根のテントを指差しながら言った。

「わっちらの家ならありんすよ?」

「いや、もっと立派な家を建てるんだよ。新しい家を建てるんだ。そこで暮らしを向上させる」

「はあ、わっちらはこの家でもよいのでありんすが……」

アンドレアが言ってる間に、俺はテントの中を覗き込んだ。

そして、逃げるように跳ね飛んだ。

「臭っ!!」

テントの中からは悪臭が漂ってきていた。

腐った肉の臭いやら、汚物の混ざった臭いだった。

鼻が曲がってモゲそうである。

獣とかの臭いではない、ゴミ捨て場の臭いだ。

「えっ、臭いでやんすか? そんなに臭いでやんすか~?」

俺に続いてゴブロンがテントの中を覗き込んだ。

「臭っ!!!」

すると同じ発言を繰り返したゴブロンがテントから跳ね退いた。

ロン毛を振り回しながらもがいてやがる。

「あっしらは、こんなに臭いところに今まで住んでいたでやんすか!?」

「またまたゴブロンは大袈裟でありんすね」

今度はアンドレアがテントを覗き込んだ。

「臭っ!  マジで臭いでありんす!!」

やはりアンドレアもテントから逃げ出した。

アンドレアは呆然としながら思い出す。

「そう言えば、以前はテントの中で大も小も済ませていましたでありんす……」

『それが原因ですね……』

「お前らにはトイレに行って用を済ませるって風習がなかったのか……」

眉を潜めながらアンドレアが言う。

「すみません、エリク様……。わっちらゴブリンには、そのような風習が存在してなかったのでありんす……」

「マジか……」

俺はゴブリンたちに提案した。

「なあ、アンドレア。まずは引っ越しから始めないか?」

「そ、それが良いかもでありんす。まずは、引っ越して臭くないところに住みましょうぞ……」

するとコボルトのハートジャックが言った。

「じゃあ、私たちコボルトの洞窟に移住しますか~?」

俺はハートジャックの肩に手を沿えながら言った。

「あの洞窟もかなり臭いから」

「本当ですか~!!」

「マジだ」

俺の言葉が信じられないハートジャックはキルルに確認を取った。

「本当ですか~、キルルさ~ん!?」

『すみません。僕は幽霊だから臭いとか分からなくて……』

皆が声を揃える。

「「「幸せだな~……」」」

こんな時だけ臭いが分からない幽霊が羨ましく感じられた。

「まあ、とにかくだ。まずは、コボルトの洞窟に戻って、それから皆を連れて墓城に移動するぞ」

俺の提案に山の崖肌に見える墓城を指差しながらアンドレアが言う。

「あの廃墟に向かうのでありんすか?」

「そうだ」

アンドレアが不満を述べる。

「あそこでは雨風すら凌げぬでありんす。だからわっちらは住み家に選ばなかったのでありんすよ」

「なら、修理しろ」

今度はゴブロンが不満を述べる。

「えっ、城を修復しろって言うのでやんすか!?」

「まあ、それは将来的でかまわない。まずは墓城の下に町を作ろう。そこで皆で暮らすんだよ」

「「「はいっ!!」」」

ゴブリンたちは素直に敬礼した。

臭いテントを破棄する覚悟は簡単に出来たのだろう。

「じゃあ、アンドレア。引っ越しの準備ができたら墓城に向かってくれ。俺はハートジャックとコボルトの洞窟に戻ってキングたちに引っ越しを指示してくるからさ」

「キングって、誰でありんすか?」

『コボルトさんたちのリーダーです』

「なるほどでありんす」

とりあえず話に納得したアンドレアが俺に返す。

「とにかく、引っ越しの件は了解したでありんす、エリク様」

こうして俺たちは一度コボルトの洞窟に戻ったあとに、キングたちと一緒に墓城の麓に引っ越した。

コボルトたちも墓城の下に町を作ることを承諾してくれたのだ。

そして俺は、引っ越し最中のキングと話ながら森を進んでいた。

キング曰く──。

「エリク様、あれから我々に変化がありましてね」

「変化?」

ハートジャックが狩人に目覚めたように、他のコボルトたちも鮮血の効果が進んだのだろう。

「何が変わったんだ?」

「仲間のコボルトたちの頭に技法が浮かび上がってきたのです」

「技法が浮かび上がってきた?」

「はい」

「なんだそりゃあ?」

「ある者の脳裏に煉瓦の作り方が思い浮かんだり、ある物には鍛冶屋仕事の技法が浮かび上がったりと、様々なのですが……」

「そりゃあ、メモリーの開封だな」

「メモリーの開封?」

キングが犬顔の首を傾げていた。

「鮮血の能力だ。俺は言っただろ。身体能力の向上、外観の変化、更に知力の向上ってよ」

「は、はい……」

「知力の向上。それがメモリーの開封だ。今まで知らなかった技術が記憶として芽生える。それが鮮血のチート能力だよ」

「す、凄い力ですな。パワーアップだけでなく、未知のメモリーまでプレゼントされるのですか!」

流石は御都合主義的なチート能力だ。

いろいろと便利に書き換えてしまうのだろう。

「なあ、キルル。オッドアイでコボルトたちを見回してみろ。色がついてるヤツらが居るだろう?」

『はい、魔王様』

俺に言われた通りキルルが森の中を進むコボルトたちを見回した。

そして、驚く。

「魔王様、コボルトさんたちのオーラに色がついてます。大工のカラー、鍛冶屋のカラー、農夫のカラーと様々いますよ!!」

「どんどんとメモリーが芽生えているようだな」

キングがワクワクした表情で言った。

「こ、これなら人間並みの文明を築き上げるのは時間の問題ですな!!」

「そうだろう、そうだろう。とにかく俺は、魔物を次のステップに導く魔王なのだ。がっはっはっはっはっ~。凄いだろう! 凄いだろうさ!!」

俺の高笑いが、森の中にこだまする。

荷物を背負ったコボルトたちが何事かと俺を見ていた。

するとキングが感激の眼差しで俺を褒め称える。

「す、素晴らしいです、エリク様!!」

「崇めろ、キング!!」

「崇めます、エリク様!!」

「尊敬しろ、キング!!」

「尊敬します、魔王エリク様!!」

「がっはっはっはっはっ!!」

キルルが俺たちを見ながら優しく微笑みながら呟いた。

『様々なメモリーが芽生えても、中身は子供のままなんですね。もう、本当に魔王様は可愛らしい』

こうして俺とキルル、それにコボルトとゴブリンたちの共同生活が墓城の麓で始まった。

ここから魔王国が築かれるのである。

そして、墓城の麓に到着するとキングがキルルに質問していた。

「キルル様、私のカラーは何色ですか? どのような職業ですか?」

『キングさんは戦士のカラーですね』

「戦士のカラー……。それだけ?」

『はい』

「今までと変わらないのかな……」

キングは少しガッカリしていた。



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