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11・魔人の肉体

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俺はキルルを引き連れてコボルトたちが逃げて行った森の方角に進んで行った。

森にはコボルトが進んで来て、逃げて行った跡がはっきりと残っている。

草木が鉈で切られた跡が残っているのだ。

俺はその獣道を歩いて逃げ去ったコボルトたちを追う。

俺の後ろに続くキルルが陶器のワイングラスを抱えながら言った。

『魔王様、股間を隠さなくってもいいのですか?』

「構わん」

『でも、ぶらぶらしてますよ……』

キルルはワイングラスを汚ならしく指で摘まんだまま言っていた。

そんなにバッチそうに持たなくっても良いじゃあねえか、ぐすん……。

今度は俺がイジけるぞ……。

森を進む俺は、強気を偽装しながら振り返ることなく答えた。

「今は戦闘態勢時だからな。両手をフリーにしておきたいんだよ」

『そうですか』

俺は右肩に左手を当てるとグルングルンと右腕を元気良く振り廻す。

イジけていてもしゃあねえから元気出して行くかな!

こうなったらコボルトたちをボコって八つ当たりしてやるぞ!

ムシャクシャしている俺は大声で叫んだ。

「どこからでも掛かって来いってんだ! 不意打ち、待ち伏せ、奇襲だろうとなんだって来やがれ、コボルトどもが!!」

ワイングラスを持ったキルルが深い溜め息を吐く。

『はぁ~、魔王様は元気ですね……』

キルルは無駄に元気な俺に呆れているようだった。

だが俺は構わず大声を張る。

「さ~、来い。どんと来い、早く来い、ちゃっちゃと来い!!」

そんな感じで俺が強気でノシノシと歩いていると、森の先が広い場所に開ける。

『魔王様、森から出ましたよ』

「おうっ!」

そこは崖下の前の広場だった。

おそらく狼煙のポイントだろう。

広場には複数のコボルトたちが待ち受けていた。

先の崖には洞窟がポッカリと口を開けている。

その洞窟の前に十数匹のコボルトが武装した状態で待ち構えていたのだ。

剣を腰に下げ、弓矢も持っていやがる。

しかしほとんどのコボルトは、スラリとした体に防具を身に付けていない。

それどころか靴も履かず短パン一丁の成りが多いのだ。

毛むくじゃらの成りだが上半身裸の姿が多い。

「ガルルルっ!!」

犬面のくせして猫背のコボルトたちが喉を唸らせ威嚇していた。

野獣のように牙を剥いている。

その様子を見て俺は微笑んだ。

「おうおう、大歓迎みたいだな!」

『絶対に歓迎なんてしてませんよ。僕にまで殺気が叩きつけられていますもの……』

俺は足を止めてコボルトたちを全裸で睨み付けた。

キルルが指折りにコボルトの数を数える。

『20匹ぐらい居ますね……』

「大人数で出迎えご苦労様だぜ!」

「ガルルルルっ!!」

俺は悪態を付いてから歩き出す。

するとコボルトたちが扇型に素早く広がった。

フォーメーションを取る。

そして、10匹くらいが腰の鞘からショートソードを引き抜き、残りの10匹ぐらいが弓矢の弦を引いた。

コボルトたちが全員で戦闘態勢を取る。

その光景を見て俺がふてぶてしく言ってやった。

「どうやら待ちかねていたようだな~! 嬉しいぜ! 感激だわ~!!」

コボルトの真ん中に立つ一匹だけが革鎧を纏っていた。

そいつが手にした武器は、光輝くシミターである。

普通の武器じゃあないのだろう。

マジックアイテムっぽい。

そして、身長も他のコボルトより少し高い。

ほとんどのコボルトは170センチぐらいの身長だが、そいつだけは180センチ後半はありそうだった。

スマートで長身のコボルトだ。

見るからにこいつがリーダーだろう。

その長身のコボルトが大声で訊いてきた。

「貴様、何者だワン!?」

語尾にワンと付いている。

俺は隠さず正直に答えた。

「俺は魔王だ。新魔王エリク様だ!!」

「ほざくなワン! 魔王を名乗るか、人間が!!」

俺は間髪入れずに言い返した。

「魂は人間だが、体は魔族だぞ!!」

嘘ではないだろう。

俺の魂は人間の物だった。

だが、今魂が宿っている体は魔族バンデラスの肉体だ。

故に新魔王なのだ。

「戯れ言を! 撃てワン!!」

問答無用だった。

言うなりコボルトのリーダーが上げた腕を振り下ろす。

すると弓矢を引いていた10匹のコボルトたちが矢を放った。

風切り音と共に複数の矢が俺とキルルを襲う。

『撃って来ましたよ!!』

「騒ぐな、キルルっ!!」

『ひぃぃいいい!!』

キルルは頭を抱えながらしゃがみ込んだ。

そのキルルの体をすり抜けて矢が地面に突き刺さる。

「安心しろ、キルル。あの矢には魔力が注がれていない。魔力無き武器ではゴーストのお前を傷付けられないだろうさ」

キルルは自分をすり抜けた矢を見ながら安堵の溜め息を溢した。

『ふぅ~……。な、なるほど……。そうなんですね……、ぶっ!!!』

安堵しながら俺を見たキルルが次の瞬間には思わず吹いていた。

驚いたのだろう。

何故に吹き出すほどキルルが驚いたかと言えば、俺の体に数本の矢が刺さっていたからだ。

胸に二本、腹に一本、足に一本の矢が命中している。

『ま、魔王様、矢が、さ、刺さってますよ!!』

しかし俺は平然と答える。

「気にするな。平気だからさ」

そう言い俺は微笑んだ。

『そう言う問題じゃないと思いますよ!!』

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