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46【ラッキートラブル】
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あれから早くも3日が過ぎた。
ミゼラちゃんはギランタウンに屋敷を借りて住み始めたのだが、町の中心部にあった大きな屋敷を借りて住み込んだのだ。しかもその屋敷は俺の家より数倍も大きい。雇っている召使いたちも数倍だった。もう忍ぶ気は微塵もないらしい。そこから俺の屋敷に通って彫刻の勉強に励んでいる。
親父とお袋は相変わらずの生活を営んでいた。親父は客人が帰ったので酒ばかり飲んでいて、お袋はギランタウンの金持ち奥様たちのお茶会に出向いて遊んでばかりだ。しかも酒代もパーティーの参加費も俺が稼いだ金だから厄介である。無駄使いが過ぎるのだ。
それでも俺にはお金だけは余っているから問題ないのだけれどね。
そして俺は屋敷の工房で今日もコツコツとフィギアを作っていた。それは小型のフィギアだったのでもう少しで完成だ。これが完成したら冒険に出ようと思う。
俺が冒険に出ている間はミゼラちゃんに宿題を出していく積もりだ。実習ってやつである。そんな彼女は今俺の背後の机でデッサンの勉強に取り組んでいる。
彼女は素人だ。まだ、彫刻の技術どころか美術の基本すら理解できていない。だからまずはデッサンから勉強してもらっている。三次元の勉強よりも二次元を極めてなければ始まらない。だから紙に自分の片手を画かせている。
「んん~~……」
俺は彫刻刀を机に置くと椅子に座ったまま背筋を伸ばした。カチンコチンに固まった肩の筋肉がメキメキと音を鳴らして解される。
「ミゼラちゃん、どうよ、上手く画けているかい?」
席を立った俺がデッサンに励むミゼラちゃんの様子を伺う。すると彼女は眉間に深い皺を寄せながら悩んでいた。両腕を胸の前に組んで首を傾げながら自分が描いたデッサンを眺めている。
「うぬ~、なんか違うんですよね……」
「どれどれ~」
俺がミゼラちゃんが描いたデッサンを覗き込むと、そこには彼女の左手が画かれていた。俺が出した課題通り練習に励んでいる。
だが、そのデッサンした左手には大きな違和感が感じられた。俺は一目で気が付いたがミゼラちゃんは何が可笑しいのか気付いていないようだ。
そのデッサンには大きなミスがある。致命的なミスである。
「ミゼラちゃん、このデッサンの手には指が6本あるよ……」
「あっ、本当です!」
ヤバい……。この子はそのミスに気が付いていなかったようだ。これはかなりの問題だぞ。デッサンが上手い上手くないの問題以前の問題だ。
「ま、まあ、次から気をつけてね。ちゃんと指の数を数えて画くんだよ……」
「はい、アトラス先生!!」
元々は体育会系だけあって元気だけは良いな、この僕っ子はさ……。まあ、真面目なだけ弟子としては優秀なのかも知れない。それだけで今はよしとして置こう。
「んん~?」
そして、俺がチラリと窓の外を覗き見ると屋敷の庭先で親父がテーブルと椅子を出して酒を煽っていた。青空の下で昼間っから酒とは呑気なものである。息子が一生懸命にフィギアを作って働いているというのにさ。
「やれやれだぜ……」
呆れだ俺が席に戻って作業に取り組もうとしたところだった。中央街のほうから人がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。それは女性のようだった。ロングスカートの裾が風に靡いている。
「あれは……」
風に靡いているのはスカートだけでなかった。長い金髪のポニーテールも靡いている。それに豊満な乳にも視線が行ってしまう。
「あの乳は、ジェシカか?」
何故にジェシカが俺の家を訪ねるのかと俺が思っていると、いつの間にか俺の隣にアビゲイルが立っていた。そのアビゲイルも言う。
『間違いありません、あのふしだらな乳はジェシカ様だと考えられます』
「お前もおっぱいで人を認識しているんかい……。まあ、いい、行くぞ」
『畏まりました、マスター』
俺とアビゲイルがジェシカを出迎えに行こうとするとミゼラちゃんが言う。
「アトラス先生、如何なされましたか?」
「ちょっと客人が来た。出迎えてくる」
すると鉛筆をテーブルに置いたミゼラちゃんが柔らかい笑顔で言う。
「僕も行きます」
「えっ……。なんで……?」
「なんだか浮気の臭いがプンプンとしてくるのです」
「ぬぬぬぬぬ!!!」
この小動物のように可愛らしい僕っ子のくせして嗅覚は鋭いのかよ。誤算だった。侮っていたぜ。
「いや、いいよ、俺の客だ。俺一人で相手するからさ。ミゼラちゃんはここでデッサンの練習に励んでいてくれないかな。直ぐに、直ぐに戻るからさ……」
「なんだか言い訳のように言葉が長いですね。ますます怪しいですよ」
畜生、マジでこの子は鋭い……。だが、ここでミゼラちゃんとジェシカを会わせるのは不味いだろう。もしもジェシカが乳を揉んでもいいよとか言い出した際に遠慮無く揉み憎くなってしまうではないか。
俺はミゼラちゃんの両肩に手を添えると力を込めて椅子に座らせようとする。
「まあ、いいから、ミゼラちゃんは、すわって、デッサンに、励んでいで、い、な、さ、い!」
俺が力を込めるがミゼラちゃんはビクともしない。流石は将来王国初の女騎士団長に育て上げようとデズモンド公爵にスパルタな教育を受けていた娘だ。俺なんかとは純粋にパワーが違うぜ。俺の力では彼女の姿勢すら崩せない。
「だが、このままでは……」
そんな感じで俺とミゼラちゃんが静かに押し合っていると俺の工房にドロシー婆さんがやって来た。
「アトラスお坊ちゃん、女性のお客様が訪ねて参りました」
「ああ、分かってる、今、行く、よ……」
ドロシー婆さんはミゼラちゃんと押し合う俺の姿を見て首を傾げていた。そして、気を使って言う。
「お忙しいのでしたら、お部屋まで案内いたしましょうか?」
「いや、気を、使わないで、くれ!」
「は、はあ……」
しかし、眉をしかめるドロシー婆さんの横からポニーテールが顔を出した。
「やっほー、アトラス。元気だったか」
ジェシカだ。ジェシカが家主の断りもなく家に上がり込んできた。なんてマナーの知らない田舎娘だ。教育がなってないぞ。
「ジェ、ジェシカ。人の家に勝手に上がり込むなよな!」
「何を言ってるのよ。あなたは夜な夜な女の子の部屋に忍び込んで布団の仲間で潜り込んで来てたじゃないの」
「そ、それは!」
「アトラス先生、それはどう言うことですか?」
俺を見詰めるミゼラちゃんの視線が冷たく鋭利に伺えた。父親似にた鬼の表情である。回答を少しでも間違えたら刺されそうな眼差しであった。
「いや、それはね。なんと言いますか。趣味なんだよ……」
「趣味で変態行為を働くな!」
部屋の中にツカツカと入ってきたジェシカが俺の顔面を横殴る。容赦の無いロングフックだった。
「ふごっ!」
俺はジェシカのパンチ力にふっ飛んで壁際に立っていたアビゲイルにぶつかってしまう。しかし、ここでアビゲイルが以外な行動に走る。
『私はロープ』
そう述べるとアビゲイルが俺の身体を跳ね返したのだ。それはまるでプロレスのロープを擬人化したかのような行動だった。
そして、跳ね返された俺がジェシカの真ん前まで戻る。更なるジェシカの追撃。
「ラリアッーーート!!」
ロープから戻ってきたところにラリアット。それはまるでプロレスのワンシーン。まるで流れるかのような一連だった。
「ぐへぇ!」
そして、強烈なラリアットを食らった俺はジェシカの腕に巻き付くように身体を浮かせると頭から逆さまに落ちていった。更に床に後頭部を打ち付ける。すると床板が激しく鳴った。
「ウィーー、いちばーーん!」
人差し指を立てて勝ち名乗りを上げるジェシカ。その足元で白目を向く俺。そんな俺の顔をアビゲイルとアンジュが覗き込む。
「アトラス、生きてるかな~?」
『大丈夫です。息はしています』
酷い……。
でも、ラリアットを食らう瞬間にジェシカの乳が俺の頬に少しだけ当たっていた。それだけがラッキートラブルである。
ミゼラちゃんはギランタウンに屋敷を借りて住み始めたのだが、町の中心部にあった大きな屋敷を借りて住み込んだのだ。しかもその屋敷は俺の家より数倍も大きい。雇っている召使いたちも数倍だった。もう忍ぶ気は微塵もないらしい。そこから俺の屋敷に通って彫刻の勉強に励んでいる。
親父とお袋は相変わらずの生活を営んでいた。親父は客人が帰ったので酒ばかり飲んでいて、お袋はギランタウンの金持ち奥様たちのお茶会に出向いて遊んでばかりだ。しかも酒代もパーティーの参加費も俺が稼いだ金だから厄介である。無駄使いが過ぎるのだ。
それでも俺にはお金だけは余っているから問題ないのだけれどね。
そして俺は屋敷の工房で今日もコツコツとフィギアを作っていた。それは小型のフィギアだったのでもう少しで完成だ。これが完成したら冒険に出ようと思う。
俺が冒険に出ている間はミゼラちゃんに宿題を出していく積もりだ。実習ってやつである。そんな彼女は今俺の背後の机でデッサンの勉強に取り組んでいる。
彼女は素人だ。まだ、彫刻の技術どころか美術の基本すら理解できていない。だからまずはデッサンから勉強してもらっている。三次元の勉強よりも二次元を極めてなければ始まらない。だから紙に自分の片手を画かせている。
「んん~~……」
俺は彫刻刀を机に置くと椅子に座ったまま背筋を伸ばした。カチンコチンに固まった肩の筋肉がメキメキと音を鳴らして解される。
「ミゼラちゃん、どうよ、上手く画けているかい?」
席を立った俺がデッサンに励むミゼラちゃんの様子を伺う。すると彼女は眉間に深い皺を寄せながら悩んでいた。両腕を胸の前に組んで首を傾げながら自分が描いたデッサンを眺めている。
「うぬ~、なんか違うんですよね……」
「どれどれ~」
俺がミゼラちゃんが描いたデッサンを覗き込むと、そこには彼女の左手が画かれていた。俺が出した課題通り練習に励んでいる。
だが、そのデッサンした左手には大きな違和感が感じられた。俺は一目で気が付いたがミゼラちゃんは何が可笑しいのか気付いていないようだ。
そのデッサンには大きなミスがある。致命的なミスである。
「ミゼラちゃん、このデッサンの手には指が6本あるよ……」
「あっ、本当です!」
ヤバい……。この子はそのミスに気が付いていなかったようだ。これはかなりの問題だぞ。デッサンが上手い上手くないの問題以前の問題だ。
「ま、まあ、次から気をつけてね。ちゃんと指の数を数えて画くんだよ……」
「はい、アトラス先生!!」
元々は体育会系だけあって元気だけは良いな、この僕っ子はさ……。まあ、真面目なだけ弟子としては優秀なのかも知れない。それだけで今はよしとして置こう。
「んん~?」
そして、俺がチラリと窓の外を覗き見ると屋敷の庭先で親父がテーブルと椅子を出して酒を煽っていた。青空の下で昼間っから酒とは呑気なものである。息子が一生懸命にフィギアを作って働いているというのにさ。
「やれやれだぜ……」
呆れだ俺が席に戻って作業に取り組もうとしたところだった。中央街のほうから人がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。それは女性のようだった。ロングスカートの裾が風に靡いている。
「あれは……」
風に靡いているのはスカートだけでなかった。長い金髪のポニーテールも靡いている。それに豊満な乳にも視線が行ってしまう。
「あの乳は、ジェシカか?」
何故にジェシカが俺の家を訪ねるのかと俺が思っていると、いつの間にか俺の隣にアビゲイルが立っていた。そのアビゲイルも言う。
『間違いありません、あのふしだらな乳はジェシカ様だと考えられます』
「お前もおっぱいで人を認識しているんかい……。まあ、いい、行くぞ」
『畏まりました、マスター』
俺とアビゲイルがジェシカを出迎えに行こうとするとミゼラちゃんが言う。
「アトラス先生、如何なされましたか?」
「ちょっと客人が来た。出迎えてくる」
すると鉛筆をテーブルに置いたミゼラちゃんが柔らかい笑顔で言う。
「僕も行きます」
「えっ……。なんで……?」
「なんだか浮気の臭いがプンプンとしてくるのです」
「ぬぬぬぬぬ!!!」
この小動物のように可愛らしい僕っ子のくせして嗅覚は鋭いのかよ。誤算だった。侮っていたぜ。
「いや、いいよ、俺の客だ。俺一人で相手するからさ。ミゼラちゃんはここでデッサンの練習に励んでいてくれないかな。直ぐに、直ぐに戻るからさ……」
「なんだか言い訳のように言葉が長いですね。ますます怪しいですよ」
畜生、マジでこの子は鋭い……。だが、ここでミゼラちゃんとジェシカを会わせるのは不味いだろう。もしもジェシカが乳を揉んでもいいよとか言い出した際に遠慮無く揉み憎くなってしまうではないか。
俺はミゼラちゃんの両肩に手を添えると力を込めて椅子に座らせようとする。
「まあ、いいから、ミゼラちゃんは、すわって、デッサンに、励んでいで、い、な、さ、い!」
俺が力を込めるがミゼラちゃんはビクともしない。流石は将来王国初の女騎士団長に育て上げようとデズモンド公爵にスパルタな教育を受けていた娘だ。俺なんかとは純粋にパワーが違うぜ。俺の力では彼女の姿勢すら崩せない。
「だが、このままでは……」
そんな感じで俺とミゼラちゃんが静かに押し合っていると俺の工房にドロシー婆さんがやって来た。
「アトラスお坊ちゃん、女性のお客様が訪ねて参りました」
「ああ、分かってる、今、行く、よ……」
ドロシー婆さんはミゼラちゃんと押し合う俺の姿を見て首を傾げていた。そして、気を使って言う。
「お忙しいのでしたら、お部屋まで案内いたしましょうか?」
「いや、気を、使わないで、くれ!」
「は、はあ……」
しかし、眉をしかめるドロシー婆さんの横からポニーテールが顔を出した。
「やっほー、アトラス。元気だったか」
ジェシカだ。ジェシカが家主の断りもなく家に上がり込んできた。なんてマナーの知らない田舎娘だ。教育がなってないぞ。
「ジェ、ジェシカ。人の家に勝手に上がり込むなよな!」
「何を言ってるのよ。あなたは夜な夜な女の子の部屋に忍び込んで布団の仲間で潜り込んで来てたじゃないの」
「そ、それは!」
「アトラス先生、それはどう言うことですか?」
俺を見詰めるミゼラちゃんの視線が冷たく鋭利に伺えた。父親似にた鬼の表情である。回答を少しでも間違えたら刺されそうな眼差しであった。
「いや、それはね。なんと言いますか。趣味なんだよ……」
「趣味で変態行為を働くな!」
部屋の中にツカツカと入ってきたジェシカが俺の顔面を横殴る。容赦の無いロングフックだった。
「ふごっ!」
俺はジェシカのパンチ力にふっ飛んで壁際に立っていたアビゲイルにぶつかってしまう。しかし、ここでアビゲイルが以外な行動に走る。
『私はロープ』
そう述べるとアビゲイルが俺の身体を跳ね返したのだ。それはまるでプロレスのロープを擬人化したかのような行動だった。
そして、跳ね返された俺がジェシカの真ん前まで戻る。更なるジェシカの追撃。
「ラリアッーーート!!」
ロープから戻ってきたところにラリアット。それはまるでプロレスのワンシーン。まるで流れるかのような一連だった。
「ぐへぇ!」
そして、強烈なラリアットを食らった俺はジェシカの腕に巻き付くように身体を浮かせると頭から逆さまに落ちていった。更に床に後頭部を打ち付ける。すると床板が激しく鳴った。
「ウィーー、いちばーーん!」
人差し指を立てて勝ち名乗りを上げるジェシカ。その足元で白目を向く俺。そんな俺の顔をアビゲイルとアンジュが覗き込む。
「アトラス、生きてるかな~?」
『大丈夫です。息はしています』
酷い……。
でも、ラリアットを食らう瞬間にジェシカの乳が俺の頬に少しだけ当たっていた。それだけがラッキートラブルである。
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