上 下
42 / 57

42【コープスモール②】

しおりを挟む
背中からダウンするトロールスケルトンの巨体。その左こめかみと顎先に深い亀裂が走っていた。

傷はそれだけではなく、右腕は肘から失い、左脚は膝関節から可笑しな方向に曲がっている。

そのすべてがアビゲイルのパンチで受けたダメージであった。

その倒れたトロールスケルトンにアビゲイルがジャンプから飛び掛かる。そして、アビゲイルはトロールスケルトンの太い首を跨ぐように馬乗りになった。マウントポジションだ。

そこからの連打。拳の連打が空爆のように上からトロールスケルトンの頭部に振ってくる。

フック、ストレート、左右のパンチ。それらは存分にトロールスケルトンの頭を殴り続けた。滅多打ちである。

そして、割れていた顎が砕け落ちて、罅が入っていたこめかみから亀裂が広がっていく。やがてトロールスケルトンの顔面が崩れ落ちて、その大穴から真っ赤な光体が露になった。

その光体に振りかぶった拳を勢い良く打ち下ろすアビゲイル。赤い光は拳で潰されると魔風を散らして消え失せる。それを最後にトロールスケルトンは動かなくなった。巨大な屍から負のオーラが消え失せたのだ。

顔が陥没する巨大なスケルトンの受けから立ち退いたアビゲイルが辺りを見回す。すると辺りを徘徊していた複数のスケルトンたちも居なくなっていた。ガイルとグランドールにすべて退治されたのだろう。

これで決着だ。周囲は静けさを取り戻して夜の夏虫が鳴いていた。

呆気ない決着だった。そもそもスケルトン風情では、アビゲイルや騎士たちに勝てる相手ではなかったのだろう。実力の差が明らかだった。

もしもアビゲイルがトロールスケルトンを倒さなくってもデズモンド公爵ならばトロールスケルトンを容易く退治出来ていただろうさ。それは観ていて分かる。

「さてと、今度は俺の出番だな」

俺は静かになった周りを見回すと、少し離れたところに繁っている林に視線を向けた。あの林には何度か踏み行ったことがある。何せ家の真ん前の林だからな。

「彼処かな──」

後はスケルトンたちを操っていたネクロマンサーを見付けるだけだ。そして、ネクロマンサーがアンデッドの側に居ないとなると近隣のどこかに隠れていると推測するのが自然だろう。

ならば、一番隠れやすいのは、あの林だ。彼処ならば俺の屋敷が隠れながら監視出来るはず。他の麦畑はまだまだ麦の背丈が低くって隠れるのには無向きである。

「よし、行くぞ」

『畏まりました、マスター』

俺は走って林まで接近する。その後ろにアビゲイルが続く。そして、林に飛び込んだ俺はネクロマンサーを探した。

「ネクロマンサーが死体を操るのならば、さほど遠くにも行けないはずだ。遠隔捜査も100メートルがやっとだろう。ならば、この辺に隠れていると思うんだけどな……」

しかし、ネクロマンサーの姿は林の中には見当たらない。狭くて小さな林だから隠れて居れば直ぐに見付けられると思ったのだが甘かった。コープスモールと言うネクロマンサーは逃走能力も高いようだ。もう逃げてしまったのだろうか、姿が見えない。

『マスター、敵を追いますか?』

「どこに逃げたか分かるか?」

『残念ながら私には追跡能力は備わっていません、マスター』

「だよね~」

アビゲイルには、そんな便利な能力は備わっていない。何せ俺が備えた覚えがないんだもん。そもそもアビゲイルには戦闘力しか期待していないのだ。

「ちっ、折角戦利品に期待していたのによ……」

するとガイルとグランドールの二人が俺に追い付いて林に入ってきた。そして俺に問いかける。

「敵のネクロマンサーは居りましたか?」

「いや、残念ながら逃げられたようだ」

「それは残念であります……」

「「「んん?」」」

しかし、俺たち三人があるものに気付く。それは林の地面から突き出した一本の竹の棒だった。

杉林に竹の棒。それは明らかに不自然な風景。何せこの辺には竹なんて生えている場所は無いのだ。

「なんで、こんなところに竹が?」

「「さあ……」」

俺たち三人は土から飛び出た竹の棒を囲んで眺めた。そして、ガイルが近くに落ちていた葉っぱを竹の上にソッと乗せる。すると何故か竹の上の葉っぱが浮き上がるのだ。竹の穴の上で葉っぱが下からの風に揺れて上下していた。

「騎士殿、これはなんでしょうね?」

「さあ、なんで御座いましょう、アトラス殿」

俺たち三人は顔を見合わせてニッコリ微笑む。そして、わざとらしく言った。

「な~~んか、オシッコしたくなってきたな~」

「奇遇ですな、アトラス殿。私も戦闘明けのせいか、急に尿をもようし始めましたぞ」

「ガイル、私もだ。急にオシッコがしたくなってきたぞ」

「じゃあ、皆で連れションと洒落こみますか?」

「「いいですな、アトラス殿」」

こうして俺たち男三人は林の中で連れションをすることになった。アビゲイルがそんな三人を少し離れた場所から眺めている。そして、地面から不自然に延びでる竹棒の穴を狙ってオシッコを飛ばす三人の男たち。

俺たち三人のオシッコは直ぐに竹棒の穴からあふれでた。

すると───。

「ぷっはーーー!!」

唐突に地面から男が飛び出してきた。その表情は青ざめて必死。息が荒い。しかし俺たちの尿は止まらない。そのまま地面から生え出た男の顔面を尿砲で汚し続けた。

「ぷへぇ、やめてやめて、とめてとめて!!」

必死に尿砲から逃れようとする男に俺たち三人は一滴も残さずオシッコをぶっかけた。

そして、わざとらしく述べる。

「おやおや、唐突に地面から男が生え出たぞ?」

「この辺には男を地面に埋める風習でもあるのですか」

「そんなのあるわけ無いじゃん」

すると、わざとらしい俺たちの会話を聴いていた男が怒鳴った。

「気が付いているなら、さっさと捕まえろよな!」

「「うるさい、黙れ!」」

二人の騎士が同時にコープスモールの顔面をぶん殴った。ガントレットを装着した拳だ。鋼の音が激しく鳴った。すると顔を打たれたコープスモールが仰け反りながら吹っ飛ぶと大の字で倒れ込む。そのまま気絶してしまった。

これで、完全決着である。




しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!

果 一
ファンタジー
二人の勇者を主人公に、ブルガス王国のアリクレース公国の大戦を描いた超大作ノベルゲーム『国家大戦・クライシス』。ブラック企業に勤務する久我哲也は、日々の疲労が溜まっている中、そのゲームをやり込んだことにより過労死してしまう。 次に目が覚めたとき、彼はゲーム世界のカイム=ローウェンという名の少年に生まれ変わっていた。ところが、彼が生まれ変わったのは、勇者でもラスボスでもなく、本編に名前すら登場しない悪役サイドのモブキャラだった! しかも、本編で配下達はラスボスに利用されたあげく、見限られて殺されるという運命で……? 「ちくしょう! 死んでたまるか!」 カイムは、殺されないために努力することを決める。 そんな努力の甲斐あってか、カイムは規格外の魔力と実力を手にすることとなり、さらには原作知識で次々と殺される運命だった者達を助け出して、一大勢力の頭へと駆け上る! これは、死ぬ運命だった悪役モブが、最凶へと成り上がる物語だ。    本作は小説家になろう、カクヨムでも公開しています 他サイトでのタイトルは、『いずれ殺される悪役モブに転生した俺、死ぬのが嫌で努力したら規格外の強さを手に入れたので、下克上してラスボスを葬ってやります!~チート魔法で無双してたら、一大勢力を築き上げてしまったんだが~』となります

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

転生無双なんて大層なこと、できるわけないでしょう!〜公爵令息が家族、友達、精霊と送る仲良しスローライフ〜

西園寺わかば
ファンタジー
転生したラインハルトはその際に超説明が適当な女神から、訳も分からず、チートスキルをもらう。 どこに転生するか、どんなスキルを貰ったのか、どんな身分に転生したのか全てを分からず転生したラインハルトが平和な?日常生活を送る話。 - カクヨム様にて、週間総合ランキングにランクインしました! - アルファポリス様にて、人気ランキング、HOTランキングにランクインしました! - この話はフィクションです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

処理中です...