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41【ガシャドクロ・後編】

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トロールスケルトンは巨大だが体型が少し人間の物とは違って見えた。頭が大きい。故に四等身に見える。しかし、骨の一本一本が人間の物と比べると太く見えるのだ。腕の骨が太い。脚の骨も太い。肋骨も背骨も太かった。肉の無い骨だが重量感溢れるスケルトンだった。

身長は3メートルぐらいだろうか。革製の手袋とブーツだけ履いている。パンツは穿いていないのだ。ノーパンである。でもチンチロリンは無い。ビーチクも無い。

そして、奇っ怪にも瞳の奥で赤い光が揺れていた。否、瞳の奥と言うよりも頭蓋骨の中で真紅の魂が揺らいでいると言ったほうが正しいかも知れない。

その赤い光が怨念を突き付けるようにアビゲイルを睨み付けている。

それに対してアビゲイルは清楚に振る舞いエプロンのまえで手を組み合わせていた。いつもの畏まったポーズだ。

しかし、その両手には鋼鉄のグローブが嵌められている。ジンさんの店で買ったアイアンフィストだ。この鉄拳で殴るのならば、太い骨を有するトロールスケルトンだって粉砕可能だろう。何せアビゲイルはハードパンチャーだからな。

「アビゲイル。こいつで最後だ。勝てるよな?」

『当然であります、マスター』

アビゲイルが俺に返答した直後である。向かい合うトロールスケルトンのほうから攻撃を仕掛てきた。右手に持った木の棍棒を高く振りかぶる。その動作だけで空気が風に揺れた。

そして、振り下ろされる巨大棍棒。だが、アビゲイルはボクシングのフットワーク術を活かして巨大棍棒を容易く躱した。アビゲイルの眼前を過ぎた巨大棍棒が地を叩く。すると辺りに散らばっていたスケルトンの破片が跳ね上がった。

直後、アビゲイルがアイアンフィストでトロールスケルトンの顔面を打ち殴る。するとゴワァ~ンっと釣り鐘でも叩いたかのような音が響いた。まさにこの音からトロールスケルトンの頭蓋骨内は空っぽだと分かる。

しかしながらアビゲイルの鉄拳は効いてなかった。トロールスケルトンの体は揺らぎもしていないしダメージを受けた様子すらない。

そして、更に続くトロールスケルトンの二撃目。再びトロールスケルトンは大きく巨大棍棒を振りかぶるどアビゲイル目掛けて振り下ろす。

だが、やはりアビゲイルはフットワーク術でトロールスケルトンの一振りを寸前の間合いで躱して見せる。

そして今度はトロールスケルトンの右手を鉄拳で叩いた。巨大棍棒を持っている手だ。

その一打にゴギリっと鈍い音が響く。それでも関係ないと言った素振りで再びトロールスケルトンが巨大棍棒を振り上げる。

トロールスケルトンの三撃目。それもまた縦振りの強打。しかし、やはりと言った感じでアビゲイルはトロールスケルトンの攻撃を躱して見せる。そして再びトロールスケルトンの右手を鉄拳で攻めるのであった。

今度はワン・ツーパンチ。素早いコンビネーションに二度の激音が響く。

だが、やはりアビゲイルの攻撃に怯まないトロールスケルトンは再び巨大棍棒を振りかぶった。

しかし、今度は振り上げた巨大棍棒が天高く飛んで行った。トロールスケルトンの手から棍棒がすっぽ抜けたのだ。そして、飛んだ巨大棍棒は麦畑の中に落ちる。

トロールスケルトンの振り上げられた右手を見てみれば指が数本失われていた。人差し指、中指、薬指の三本が折れて失くなっているのだ。その折れた指だと思われる骨片がアビゲイルの足元に落ちていた。

アビゲイルの三打。それらがトロールスケルトンの太い指を削ぎ落としたのだろう。

「一打で指を一本ずつ折ったのか……。考えてやがるな」

そう、アビゲイルは考えていやがる。策を練ったのだ。硬くて太い骨は砕けなくても、指の一本ならば一打で折れると考えたのだろう。

「アビゲイルが策を練るとは以外だったぜ……」

そして、戦闘は続く。トロールスケルトンは武器が飛んで行ったことを気にしていない。武器が無ければ素手で攻撃すれば良いと拳を振るう。

しかし、その拳は三本ほど指がない。それでも関係ないと攻撃を振るってきた。その攻撃は空手チョップのようだった。トロールスケルトンの攻撃がアビゲイルの脳天を狙っていた。

また、一歩だけ横にズレてトロールスケルトンの攻撃を躱すアビゲイル。そして、回避と同時に放たれるアッパーカットがトロールスケルトンの振られた腕を下から叩いた。今度は肘を狙っていた。

ボギリッ!

アビゲイルに下から肘を叩かれたトロールスケルトンの腕が曲がらない方向に曲がった。それとともに聴こえた粉砕音。それは肘関節が破壊された音だった。

それでも壊れた腕を振り上げるトロールスケルトン。しかし、腕を振り上げた直後に壊れた肘から骨が千切れて飛んで行く。筋だけで繋がっていたのだろう。それが途切れたのだ。

トロールスケルトンは飛んで行った腕を見て、初めて自分の右腕が短くなっていることに気が付いたようだ。痛みを感じない鈍い体。それが仇となっている。

だが、ならばと今度は蹴りを放ってくるトロールスケルトン。太くて扁平足の足でアビゲイルを蹴り付けようと蹴り技を放ってきた。

しかしながら、その蹴り技ではアビゲイルを捕らえることは出来ない。遅いのだ。速度では圧倒的にアビゲイルのフットワークのほうが上回っている。

そして、蹴り足の下を低い体制でくぐり抜けたアビゲイルがトロールスケルトンの脇に回り込む。

接近成功。そこからの拳の連打。

それは鑿岩機のように激しく連続でトロールスケルトンの左足を狙って叩いていた。しかも膝間接を集中している。

ドッドッドッドッドッと鳴り響く鉄拳の連打は8連打。それが寸分狂いなく膝関節の外側を殴打していた。

その攻撃にトロールスケルトンの巨体が揺れた。打たれた膝が力少なく曲がると片膝を付く。

「効いている!」

俺が声を荒立てるとアビゲイルが大きく拳を振り上げる。その拳は勢いを優先させた強打のポーズ。テレホンパンチの構えだ。

ボクシング業界でテレホンパンチとは、受話器を取って耳元に当てるポーズに良くにているからそう呼ばれている構えである。

だが、それはボクシングの構えでは素人の愚行な構えだとも揶揄されている。

何故ならばオーバーアクション過ぎて狙っているパンチが軌道も撃ち来るタイミングも見え見えだからだ。要するにプロボクサーならば容易く躱せる構えなのだ。

だが、片足を壊されたトロールスケルトンでは回避速度が低下している。しかもこれだけ接近を許した間合いからではアビゲイルのテレホンパンチすら回避不能だろう。

案の定、トロールはアビゲイルのテレホンパンチをもろに食らう。横からこめかみを強打された。

ゴワァ~~~ン。

本日二度目の釣り鐘音。しかし、今度は初弾のパンチと違った。トロールスケルトンの頭部が激しく揺れていた。瞳の奥の赤い光も激しく揺れていた。更には打たれた左こめかみに深い亀裂が走っていた。

効いているのだ。間違いなくアビゲイルの攻撃はトロールスケルトンにダメージを与えている。

それでも痛みを知らないトロールスケルトンは左腕を逆水平に振る。しかし再びアビゲイルはトロールスケルトンの攻撃を低い体制でくぐり抜けると立ち位置を変える。

今度はトロールスケルトンの正面に立つ。顔の真ん前だ。その位置から繰り出される8連打の拳。打った先はトロールスケルトンの口元。その鑿岩機のような連打が一発起きに一本の前歯を折っていった。

8発で8本の前歯をへし折るパンチ。上顎の前歯を4本。下顎の前歯を4本。それらが綺麗にへし折られる。

その前歯が失くなった顎先を狙って繰り出されるはアッパーカット。ガゴンっと激音を鳴らして打ち合う下顎と上顎の奥歯。だが、前歯の無い部分は衝撃を拡散出来ない。不自然に広がる拳打の衝撃が下顎の真ん中に亀裂を走らせた。顎が二つに割れる。

そのアッパーカットの威力にトロールスケルトンの体が仰け反り背中から地面に倒れた。ダメージによるダウンだ。

アビゲイルが確実な有効ポイントを獲得する。


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