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27【半透明な男】
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使い魔妖精のアンジュが拐われた先は謎の店【ドラマチックショップ・ミラージュ】の店中である。あの尻尾が二つある黒猫に連れ込まれたのだ。
そして、黒猫を追おうとした俺たちの前に謎の半透明な人物が道を猜疑って居る。その姿はステルス迷彩を纏ったかのような透明。シルエットだけが僅かに揺らめき確認できた。
「な、なんだありゃあ……」
観たことがない魔物だ。いや、魔物とは限らないかも知れない。もしかしたら、何らかのマジックアイテムで半透明化しているだけの人間かも知れない。だが、強大な魔力を秘めているのは明らかだった。
しかし、観てわかることは少ない。
うっすらと黙視できる限り、あれは男性の体格だった。おそらく身長は180センチちょっと。筋肉質でアスリート体型である。表情はまったく見えないが、あちらさんもこちらを睨んでいるかのように感じられた。
「敵か?」
そう俺が呟いた刹那に新たな異変が起きる。
「ッ!?」
瞬時、音が消えた。
唐突だった。周囲の音が消えたのだ。俺たちの背後から聴こえていた雑踏の賑わいが消え失せる。その異変に釣られて俺が振り返ると更なる異変に緊張が走った。
「な、なんだ、これは……?」
消えたのは音だけじゃあなかった。道も消えていた。
俺たちが走ってきた商店街の町並みが消えて、代わりに石壁が聳えているのだ。商店街を歩いて居た人々もすべて消えている。
「閉じ込められたのか……」
そう、四方は背高い壁である。出入り口を塞がれたのだ。
「マジックオールの魔法なのか!?」
いや、違う。簡易的な壁を魔法で作って俺たちを閉じ込めたのとは違うだろう。異次元を操作して俺らを閉じ込めたのだ。だから雑踏の賑わいが消えたに違いない。
これだけのことを瞬時にやってのけるとは凄い魔力の持ち主だ。並大抵の魔術師では出来ない芸当である。こんなことが出来る魔法使いはこの世界に何人も居ないはずだ。居たとしても大魔法使いレベルの人物だろう。
要するに、今、俺は、レジェンダリーに遭遇したのかも知れない。
そうなればいろいろと説明が出来る。
アンジュを拐った猫又。眼前のステルス人間。瞬時に消え失せた街頭。
これらすべてが伝説級の大魔術師が仕掛けた悪戯ならば説明がつくだろう。
だが、誰が何故?
それが最大の疑問となる。
そのように俺が冷や汗を流しながら考えているとステルス人間のほうから動きを見せた。堂々とした歩みでこちらに進んでくるのだ。
その歩みは頭を揺らさず、逞しい肩で風を切りながら凛々しく歩んでくる。その歩みの歩幅に威嚇が感じられた。いつでも飛び掛かれると言いたげな歩みに伺えるのだ。
すると沈着冷静なアビゲイルが俺の前に出た。
『マスター、ここはお下がりくださいませ。このアビゲイルが対処いたします』
「任せたぞ、アビゲイル……」
俺はアビゲイルの背後に隠れながら後退した。そんなアビゲイルと半透明な男が向かい合う。距離にして3メートル。そして、アビゲイルがお辞儀した。
『どなたかは存じませんが、マスターに危害を咥えるおつもりでしたら、このアビゲイルがお相手いたします』
テレパシーで語りながらアビゲイルは異次元宝物庫から鋼のグローブを取り出して両手に装着する。それから拳と拳をぶつけ合いガシャンと物々しい音を鳴らした。
その姿を黙って観ていた半透明な男は体をな斜めに曲げて、アビゲイルの背後に隠れていた俺の姿を確認していた。
顔も見えない、視線の先も分からない。だが、奴は俺を凝視していた。その仕草が俺の恐怖心を煽る。
怖い……。
不気味だ……。
見えない表情が恐ろしげに感じられた。この訳が分からない異常事態が更に俺の恐怖心を煽り立てる。
そんな俺の恐怖心を察したのかアビゲイルが鉄拳を振り上げた。
『参ります』
いつもと変わらない淡々としたテレパシーの口調。そして、俺への忠義のままに動き出すアビゲイル。
ズンっと踏み込みの音が鳴る。それと同時に繰り出される鉄拳。
アビゲイルが大きな一歩で踏み込むと半透明な顔面を拳で狙って攻撃を繰り出した。
綺麗なホームからのストレートパンチ。踏み込みの脚力。蹴り足のバネ。回転する腰の勢い。延びると同時に捻りが加わる右腕の可動。それらすべてが合わさることで生まれる拳打の破壊力が真っ直ぐに半透明な顔面を狙っていた。
鉄拳着弾──。
───かと思えた瞬間。アビゲイルの一撃が回避された。
半透明な人間はヘッドスピンの一振りでアビゲイルのストレートパンチを回避して見せたのだ。
更に半透明な男は腕を伸ばしてアビゲイルの頭を鷲掴みにする。片手で脳天を掴んだのだ。
そこから力任せにアビゲイルの頭を真下に引き落とした。アビゲイルの頭を叩き付けるように地面に押し落としたのだ。
ドガンっと震動が轟く。
次の瞬間にはアビゲイルが前のめりに転倒していた。その頭を半透明な人間が押し押さえている。
『あ……』
「………」
「なにっ!?」
予想外のことに度肝を抜かれる俺。あまりの驚きに、ただ目を剥くことしか出きなかった。
何が起きたのか──。
アビゲイルの攻撃。それに反撃──。
そこから半透明な男がアビゲイルの頭に手を添えて、地面に押し付けているのだ。ただそれだけでアビゲイルは動きを封じられている。
動けていない。あのアビゲイルが地面に伏せながら子供のように藻掻いていた。
「そんな、馬鹿な……。アビゲイルのパワーは筋力強化魔石四つで極まっているはずなんだぞ……」
それが力負けしている。その事実が俺には信じられなかった。
俺は、ただただ異常事態に度肝を抜かれるばかりだった。どう対処してよいか戸惑ってしまう。
そして、黒猫を追おうとした俺たちの前に謎の半透明な人物が道を猜疑って居る。その姿はステルス迷彩を纏ったかのような透明。シルエットだけが僅かに揺らめき確認できた。
「な、なんだありゃあ……」
観たことがない魔物だ。いや、魔物とは限らないかも知れない。もしかしたら、何らかのマジックアイテムで半透明化しているだけの人間かも知れない。だが、強大な魔力を秘めているのは明らかだった。
しかし、観てわかることは少ない。
うっすらと黙視できる限り、あれは男性の体格だった。おそらく身長は180センチちょっと。筋肉質でアスリート体型である。表情はまったく見えないが、あちらさんもこちらを睨んでいるかのように感じられた。
「敵か?」
そう俺が呟いた刹那に新たな異変が起きる。
「ッ!?」
瞬時、音が消えた。
唐突だった。周囲の音が消えたのだ。俺たちの背後から聴こえていた雑踏の賑わいが消え失せる。その異変に釣られて俺が振り返ると更なる異変に緊張が走った。
「な、なんだ、これは……?」
消えたのは音だけじゃあなかった。道も消えていた。
俺たちが走ってきた商店街の町並みが消えて、代わりに石壁が聳えているのだ。商店街を歩いて居た人々もすべて消えている。
「閉じ込められたのか……」
そう、四方は背高い壁である。出入り口を塞がれたのだ。
「マジックオールの魔法なのか!?」
いや、違う。簡易的な壁を魔法で作って俺たちを閉じ込めたのとは違うだろう。異次元を操作して俺らを閉じ込めたのだ。だから雑踏の賑わいが消えたに違いない。
これだけのことを瞬時にやってのけるとは凄い魔力の持ち主だ。並大抵の魔術師では出来ない芸当である。こんなことが出来る魔法使いはこの世界に何人も居ないはずだ。居たとしても大魔法使いレベルの人物だろう。
要するに、今、俺は、レジェンダリーに遭遇したのかも知れない。
そうなればいろいろと説明が出来る。
アンジュを拐った猫又。眼前のステルス人間。瞬時に消え失せた街頭。
これらすべてが伝説級の大魔術師が仕掛けた悪戯ならば説明がつくだろう。
だが、誰が何故?
それが最大の疑問となる。
そのように俺が冷や汗を流しながら考えているとステルス人間のほうから動きを見せた。堂々とした歩みでこちらに進んでくるのだ。
その歩みは頭を揺らさず、逞しい肩で風を切りながら凛々しく歩んでくる。その歩みの歩幅に威嚇が感じられた。いつでも飛び掛かれると言いたげな歩みに伺えるのだ。
すると沈着冷静なアビゲイルが俺の前に出た。
『マスター、ここはお下がりくださいませ。このアビゲイルが対処いたします』
「任せたぞ、アビゲイル……」
俺はアビゲイルの背後に隠れながら後退した。そんなアビゲイルと半透明な男が向かい合う。距離にして3メートル。そして、アビゲイルがお辞儀した。
『どなたかは存じませんが、マスターに危害を咥えるおつもりでしたら、このアビゲイルがお相手いたします』
テレパシーで語りながらアビゲイルは異次元宝物庫から鋼のグローブを取り出して両手に装着する。それから拳と拳をぶつけ合いガシャンと物々しい音を鳴らした。
その姿を黙って観ていた半透明な男は体をな斜めに曲げて、アビゲイルの背後に隠れていた俺の姿を確認していた。
顔も見えない、視線の先も分からない。だが、奴は俺を凝視していた。その仕草が俺の恐怖心を煽る。
怖い……。
不気味だ……。
見えない表情が恐ろしげに感じられた。この訳が分からない異常事態が更に俺の恐怖心を煽り立てる。
そんな俺の恐怖心を察したのかアビゲイルが鉄拳を振り上げた。
『参ります』
いつもと変わらない淡々としたテレパシーの口調。そして、俺への忠義のままに動き出すアビゲイル。
ズンっと踏み込みの音が鳴る。それと同時に繰り出される鉄拳。
アビゲイルが大きな一歩で踏み込むと半透明な顔面を拳で狙って攻撃を繰り出した。
綺麗なホームからのストレートパンチ。踏み込みの脚力。蹴り足のバネ。回転する腰の勢い。延びると同時に捻りが加わる右腕の可動。それらすべてが合わさることで生まれる拳打の破壊力が真っ直ぐに半透明な顔面を狙っていた。
鉄拳着弾──。
───かと思えた瞬間。アビゲイルの一撃が回避された。
半透明な人間はヘッドスピンの一振りでアビゲイルのストレートパンチを回避して見せたのだ。
更に半透明な男は腕を伸ばしてアビゲイルの頭を鷲掴みにする。片手で脳天を掴んだのだ。
そこから力任せにアビゲイルの頭を真下に引き落とした。アビゲイルの頭を叩き付けるように地面に押し落としたのだ。
ドガンっと震動が轟く。
次の瞬間にはアビゲイルが前のめりに転倒していた。その頭を半透明な人間が押し押さえている。
『あ……』
「………」
「なにっ!?」
予想外のことに度肝を抜かれる俺。あまりの驚きに、ただ目を剥くことしか出きなかった。
何が起きたのか──。
アビゲイルの攻撃。それに反撃──。
そこから半透明な男がアビゲイルの頭に手を添えて、地面に押し付けているのだ。ただそれだけでアビゲイルは動きを封じられている。
動けていない。あのアビゲイルが地面に伏せながら子供のように藻掻いていた。
「そんな、馬鹿な……。アビゲイルのパワーは筋力強化魔石四つで極まっているはずなんだぞ……」
それが力負けしている。その事実が俺には信じられなかった。
俺は、ただただ異常事態に度肝を抜かれるばかりだった。どう対処してよいか戸惑ってしまう。
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