27 / 57
27【半透明な男】
しおりを挟む
使い魔妖精のアンジュが拐われた先は謎の店【ドラマチックショップ・ミラージュ】の店中である。あの尻尾が二つある黒猫に連れ込まれたのだ。
そして、黒猫を追おうとした俺たちの前に謎の半透明な人物が道を猜疑って居る。その姿はステルス迷彩を纏ったかのような透明。シルエットだけが僅かに揺らめき確認できた。
「な、なんだありゃあ……」
観たことがない魔物だ。いや、魔物とは限らないかも知れない。もしかしたら、何らかのマジックアイテムで半透明化しているだけの人間かも知れない。だが、強大な魔力を秘めているのは明らかだった。
しかし、観てわかることは少ない。
うっすらと黙視できる限り、あれは男性の体格だった。おそらく身長は180センチちょっと。筋肉質でアスリート体型である。表情はまったく見えないが、あちらさんもこちらを睨んでいるかのように感じられた。
「敵か?」
そう俺が呟いた刹那に新たな異変が起きる。
「ッ!?」
瞬時、音が消えた。
唐突だった。周囲の音が消えたのだ。俺たちの背後から聴こえていた雑踏の賑わいが消え失せる。その異変に釣られて俺が振り返ると更なる異変に緊張が走った。
「な、なんだ、これは……?」
消えたのは音だけじゃあなかった。道も消えていた。
俺たちが走ってきた商店街の町並みが消えて、代わりに石壁が聳えているのだ。商店街を歩いて居た人々もすべて消えている。
「閉じ込められたのか……」
そう、四方は背高い壁である。出入り口を塞がれたのだ。
「マジックオールの魔法なのか!?」
いや、違う。簡易的な壁を魔法で作って俺たちを閉じ込めたのとは違うだろう。異次元を操作して俺らを閉じ込めたのだ。だから雑踏の賑わいが消えたに違いない。
これだけのことを瞬時にやってのけるとは凄い魔力の持ち主だ。並大抵の魔術師では出来ない芸当である。こんなことが出来る魔法使いはこの世界に何人も居ないはずだ。居たとしても大魔法使いレベルの人物だろう。
要するに、今、俺は、レジェンダリーに遭遇したのかも知れない。
そうなればいろいろと説明が出来る。
アンジュを拐った猫又。眼前のステルス人間。瞬時に消え失せた街頭。
これらすべてが伝説級の大魔術師が仕掛けた悪戯ならば説明がつくだろう。
だが、誰が何故?
それが最大の疑問となる。
そのように俺が冷や汗を流しながら考えているとステルス人間のほうから動きを見せた。堂々とした歩みでこちらに進んでくるのだ。
その歩みは頭を揺らさず、逞しい肩で風を切りながら凛々しく歩んでくる。その歩みの歩幅に威嚇が感じられた。いつでも飛び掛かれると言いたげな歩みに伺えるのだ。
すると沈着冷静なアビゲイルが俺の前に出た。
『マスター、ここはお下がりくださいませ。このアビゲイルが対処いたします』
「任せたぞ、アビゲイル……」
俺はアビゲイルの背後に隠れながら後退した。そんなアビゲイルと半透明な男が向かい合う。距離にして3メートル。そして、アビゲイルがお辞儀した。
『どなたかは存じませんが、マスターに危害を咥えるおつもりでしたら、このアビゲイルがお相手いたします』
テレパシーで語りながらアビゲイルは異次元宝物庫から鋼のグローブを取り出して両手に装着する。それから拳と拳をぶつけ合いガシャンと物々しい音を鳴らした。
その姿を黙って観ていた半透明な男は体をな斜めに曲げて、アビゲイルの背後に隠れていた俺の姿を確認していた。
顔も見えない、視線の先も分からない。だが、奴は俺を凝視していた。その仕草が俺の恐怖心を煽る。
怖い……。
不気味だ……。
見えない表情が恐ろしげに感じられた。この訳が分からない異常事態が更に俺の恐怖心を煽り立てる。
そんな俺の恐怖心を察したのかアビゲイルが鉄拳を振り上げた。
『参ります』
いつもと変わらない淡々としたテレパシーの口調。そして、俺への忠義のままに動き出すアビゲイル。
ズンっと踏み込みの音が鳴る。それと同時に繰り出される鉄拳。
アビゲイルが大きな一歩で踏み込むと半透明な顔面を拳で狙って攻撃を繰り出した。
綺麗なホームからのストレートパンチ。踏み込みの脚力。蹴り足のバネ。回転する腰の勢い。延びると同時に捻りが加わる右腕の可動。それらすべてが合わさることで生まれる拳打の破壊力が真っ直ぐに半透明な顔面を狙っていた。
鉄拳着弾──。
───かと思えた瞬間。アビゲイルの一撃が回避された。
半透明な人間はヘッドスピンの一振りでアビゲイルのストレートパンチを回避して見せたのだ。
更に半透明な男は腕を伸ばしてアビゲイルの頭を鷲掴みにする。片手で脳天を掴んだのだ。
そこから力任せにアビゲイルの頭を真下に引き落とした。アビゲイルの頭を叩き付けるように地面に押し落としたのだ。
ドガンっと震動が轟く。
次の瞬間にはアビゲイルが前のめりに転倒していた。その頭を半透明な人間が押し押さえている。
『あ……』
「………」
「なにっ!?」
予想外のことに度肝を抜かれる俺。あまりの驚きに、ただ目を剥くことしか出きなかった。
何が起きたのか──。
アビゲイルの攻撃。それに反撃──。
そこから半透明な男がアビゲイルの頭に手を添えて、地面に押し付けているのだ。ただそれだけでアビゲイルは動きを封じられている。
動けていない。あのアビゲイルが地面に伏せながら子供のように藻掻いていた。
「そんな、馬鹿な……。アビゲイルのパワーは筋力強化魔石四つで極まっているはずなんだぞ……」
それが力負けしている。その事実が俺には信じられなかった。
俺は、ただただ異常事態に度肝を抜かれるばかりだった。どう対処してよいか戸惑ってしまう。
そして、黒猫を追おうとした俺たちの前に謎の半透明な人物が道を猜疑って居る。その姿はステルス迷彩を纏ったかのような透明。シルエットだけが僅かに揺らめき確認できた。
「な、なんだありゃあ……」
観たことがない魔物だ。いや、魔物とは限らないかも知れない。もしかしたら、何らかのマジックアイテムで半透明化しているだけの人間かも知れない。だが、強大な魔力を秘めているのは明らかだった。
しかし、観てわかることは少ない。
うっすらと黙視できる限り、あれは男性の体格だった。おそらく身長は180センチちょっと。筋肉質でアスリート体型である。表情はまったく見えないが、あちらさんもこちらを睨んでいるかのように感じられた。
「敵か?」
そう俺が呟いた刹那に新たな異変が起きる。
「ッ!?」
瞬時、音が消えた。
唐突だった。周囲の音が消えたのだ。俺たちの背後から聴こえていた雑踏の賑わいが消え失せる。その異変に釣られて俺が振り返ると更なる異変に緊張が走った。
「な、なんだ、これは……?」
消えたのは音だけじゃあなかった。道も消えていた。
俺たちが走ってきた商店街の町並みが消えて、代わりに石壁が聳えているのだ。商店街を歩いて居た人々もすべて消えている。
「閉じ込められたのか……」
そう、四方は背高い壁である。出入り口を塞がれたのだ。
「マジックオールの魔法なのか!?」
いや、違う。簡易的な壁を魔法で作って俺たちを閉じ込めたのとは違うだろう。異次元を操作して俺らを閉じ込めたのだ。だから雑踏の賑わいが消えたに違いない。
これだけのことを瞬時にやってのけるとは凄い魔力の持ち主だ。並大抵の魔術師では出来ない芸当である。こんなことが出来る魔法使いはこの世界に何人も居ないはずだ。居たとしても大魔法使いレベルの人物だろう。
要するに、今、俺は、レジェンダリーに遭遇したのかも知れない。
そうなればいろいろと説明が出来る。
アンジュを拐った猫又。眼前のステルス人間。瞬時に消え失せた街頭。
これらすべてが伝説級の大魔術師が仕掛けた悪戯ならば説明がつくだろう。
だが、誰が何故?
それが最大の疑問となる。
そのように俺が冷や汗を流しながら考えているとステルス人間のほうから動きを見せた。堂々とした歩みでこちらに進んでくるのだ。
その歩みは頭を揺らさず、逞しい肩で風を切りながら凛々しく歩んでくる。その歩みの歩幅に威嚇が感じられた。いつでも飛び掛かれると言いたげな歩みに伺えるのだ。
すると沈着冷静なアビゲイルが俺の前に出た。
『マスター、ここはお下がりくださいませ。このアビゲイルが対処いたします』
「任せたぞ、アビゲイル……」
俺はアビゲイルの背後に隠れながら後退した。そんなアビゲイルと半透明な男が向かい合う。距離にして3メートル。そして、アビゲイルがお辞儀した。
『どなたかは存じませんが、マスターに危害を咥えるおつもりでしたら、このアビゲイルがお相手いたします』
テレパシーで語りながらアビゲイルは異次元宝物庫から鋼のグローブを取り出して両手に装着する。それから拳と拳をぶつけ合いガシャンと物々しい音を鳴らした。
その姿を黙って観ていた半透明な男は体をな斜めに曲げて、アビゲイルの背後に隠れていた俺の姿を確認していた。
顔も見えない、視線の先も分からない。だが、奴は俺を凝視していた。その仕草が俺の恐怖心を煽る。
怖い……。
不気味だ……。
見えない表情が恐ろしげに感じられた。この訳が分からない異常事態が更に俺の恐怖心を煽り立てる。
そんな俺の恐怖心を察したのかアビゲイルが鉄拳を振り上げた。
『参ります』
いつもと変わらない淡々としたテレパシーの口調。そして、俺への忠義のままに動き出すアビゲイル。
ズンっと踏み込みの音が鳴る。それと同時に繰り出される鉄拳。
アビゲイルが大きな一歩で踏み込むと半透明な顔面を拳で狙って攻撃を繰り出した。
綺麗なホームからのストレートパンチ。踏み込みの脚力。蹴り足のバネ。回転する腰の勢い。延びると同時に捻りが加わる右腕の可動。それらすべてが合わさることで生まれる拳打の破壊力が真っ直ぐに半透明な顔面を狙っていた。
鉄拳着弾──。
───かと思えた瞬間。アビゲイルの一撃が回避された。
半透明な人間はヘッドスピンの一振りでアビゲイルのストレートパンチを回避して見せたのだ。
更に半透明な男は腕を伸ばしてアビゲイルの頭を鷲掴みにする。片手で脳天を掴んだのだ。
そこから力任せにアビゲイルの頭を真下に引き落とした。アビゲイルの頭を叩き付けるように地面に押し落としたのだ。
ドガンっと震動が轟く。
次の瞬間にはアビゲイルが前のめりに転倒していた。その頭を半透明な人間が押し押さえている。
『あ……』
「………」
「なにっ!?」
予想外のことに度肝を抜かれる俺。あまりの驚きに、ただ目を剥くことしか出きなかった。
何が起きたのか──。
アビゲイルの攻撃。それに反撃──。
そこから半透明な男がアビゲイルの頭に手を添えて、地面に押し付けているのだ。ただそれだけでアビゲイルは動きを封じられている。
動けていない。あのアビゲイルが地面に伏せながら子供のように藻掻いていた。
「そんな、馬鹿な……。アビゲイルのパワーは筋力強化魔石四つで極まっているはずなんだぞ……」
それが力負けしている。その事実が俺には信じられなかった。
俺は、ただただ異常事態に度肝を抜かれるばかりだった。どう対処してよいか戸惑ってしまう。
0
お気に入りに追加
83
あなたにおすすめの小説

おっさんなのに異世界召喚されたらしいので適当に生きてみることにした
高鉢 健太
ファンタジー
ふと気づけば見知らぬ石造りの建物の中に居た。どうやら召喚によって異世界転移させられたらしかった。
ラノベでよくある展開に、俺は呆れたね。
もし、あと20年早ければ喜んだかもしれん。だが、アラフォーだぞ?こんなおっさんを召喚させて何をやらせる気だ。
とは思ったが、召喚した連中は俺に生贄の美少女を差し出してくれるらしいじゃないか、その役得を存分に味わいながら異世界の冒険を楽しんでやろう!

【書籍化進行中、完結】私だけが知らない
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
書籍化進行中です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始


今日も学園食堂はゴタゴタしてますが、こっそり観賞しようとして本日も萎えてます。
柚ノ木 碧/柚木 彗
恋愛
駄目だこれ。
詰んでる。
そう悟った主人公10歳。
主人公は悟った。実家では無駄な事はしない。搾取父親の元を三男の兄と共に逃れて王都へ行き、乙女ゲームの舞台の学園の厨房に就職!これで予てより念願の世界をこっそりモブ以下らしく観賞しちゃえ!と思って居たのだけど…
何だか知ってる乙女ゲームの内容とは微妙に違う様で。あれ?何だか萎えるんだけど…
なろうにも掲載しております。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
転移したら女神さまと暮らすことになった件
月城 夕実
ファンタジー
僕は立河颯太15歳だ。学校の帰り道、突然異世界召喚される。女神に心配されしばらく一緒に暮らすことになった。冒険者ギルドで少女と知り合い、一緒のパーティを組むことになる。彼女は鑑定スキル持ちで僕が異世界転移者だとバレてしまって・・・。

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!
七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」
その天使の言葉は善意からなのか?
異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか?
そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。
ただし、その扱いが難しいものだった。
転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。
基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。
○○○「これは私とのラブストーリーなの!」
主人公「いや、それは違うな」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる