上 下
24 / 57

24【ハードパンチャー】

しおりを挟む
「よ~、 ジンさん。仕事に励んでいるかい?」

俺が鍛冶屋の入り口をくぐると竈の前で頭にタオルを巻いた中年のドワーフが鍛冶仕事に励んでいた。蒸し暑い部屋の中でハンマーを使い熱々の鋼を鍛えている。

「よ~~う、アトラスじゃあねえか。なんだ、ローリーに会いに来たのか?」

手を休めたドワーフがタオルで汗を拭きながら近寄って来た。その身長は160センチの俺よりも低い。ドワーフ族はマッチョだが背が低い種族なのだ。

そして、俺はフレンドリーにジンさんに受け答える。

「いや、今日はローリーちゃんに用事があったわけじゃあないんだ」

「じゃあ、なんだい?」

俺は背後に立つアビゲイルを指差しながらジンさんに言った。

「今日はアビゲイルに武器を持たせたくってね。それで寄ったんだよ」

するとジンさんはアビゲイルに近寄ると下から見上げるアングルでアビゲイルの顔を覗き込んだ。強面の顔をしかめながらアビゲイルの姿を観察している。

「ほほう、これがローリーの奴が作った骨格のゴーレムかいな。思っていたより細っこいのぉ」

「ああ、ローリーちゃんにはお世話になっているよ。俺が作れない精密パーツはすべてローリーちゃんが作ってくれているからね」

「俺の娘なのに、本当にあいつはスゲー起用な職人に育ったぜ。もう俺が教えることは何一つ無いどころか逆に俺が習いたいところだ」

「ところでローリーちゃんは?」

「今鉱山に買い出しに出てるよ。良い鉄鋼を探してな。だからしばらく帰らないぜ」

「それは残念だ。また新しいパーツを発注したかったんだけれどね。帰ってきたら宜しく言ってくれよ、ジンさん」

「ああ、分かったぜ。それで今日はどんな武器をお探しなんだい?」

「んん~、そうだな~」

俺は店内に飾られた武器の数々を観て回る。店内には幾つもの武器が並んでいた。長剣から大刀、戦斧に戦錘、槍に弓まで揃っている。どれもこれも出来が素晴らしい。

それらを俺の頭の上から見回していたアンジュも感心していた。

「流石はドワーフの店ね。なんでもありそうだわぁ~」

「おや、森の妖精じゃあねえか」

俺はアンジュの小さな頬を指で突っつきながら彼女を紹介した。

「最近使い魔に迎えたアンジュだ。ほら、アンジュ。ジンさんに挨拶しておけ」

すると俺に促されたアンジュが明るくダブルピースで自己紹介する。

「アンジュでぇ~~す。宜しくね~」

表情を軽くしかめたジンさんが返す。

「相変わらず森の妖精はテンションが高いのぉ。儂は鍛冶屋のジンゴローだ。宜しく頼むぞ」

更にアビゲイルが礼儀正しく頭を下げた。

『私はアビゲイル四式と申し上げます。今後とも宜しくお願いします』

各自の自己紹介が終わるとジンさんは店頭に並ぶ商品の前に立つと景気良く言った。

「よし、それじゃあアビゲイル。お前さんは儂の娘が作ったゴーレムに等しい。それは儂の娘も同然だ。だから今回はサービスだぜ。好きな武器をひとつ持ってきな!」

「おお、気前がいいな、ジンさん」

『有り難うございます、ジン様』

アビゲイルが礼儀正しく頭を下げた。その様子を見てジンさんの期限が更に上がる。

「それじゃあアビゲイル。好きな武器をひとつ選べよ。今回はジンさんに甘えよう」

俺の言葉を聴いたアビゲイルが店内を一度見回した。だが、どの武器もアビゲイルは選ばずに俺に言った。

『私ではどのような武器を選んで良いか分かりません。マスターがお選びください』

「ああ~……」

これは下着を買いに行った時と同じである。アビゲイルに品物を選ばせても、まともに買いたい物を選べない。まるで自分の意見を持ち合わせていないようなのだ。この辺がゴーレムなんだな~っと思わせる。

「仕方がない。俺が選ぶか……」

仕方ないと呟きながら俺は店内の武器からアビゲイルに合いそうな武器を探す。

剣は駄目だろう。ゴブリンとの戦いで観ていて分かる。アビゲイルは剣技が使えない。

もしかしたら誰かの剣技を見れば、それだけで習得出きるのではないのだろうか?

ドリトルの拳闘術を習得したときも、戦っただけでボクシングを習得できたのだから。

まあ、剣技ぐらいなら何処でも観れるだろう。何せここはファンタジーの異世界なのだから。剣を使える戦士は五万といやがる。

しかし今はまだ早いかも知れない。今ここでアビゲイルに剣を持たせても宝の持ち腐れであろう。まずは剣技を確実に学んでからである。

ならばパワーだけでも戦える戦斧や戦錘で良いのではないだろうか。アビゲイルならパワーだけで敵を蹴散らせるだろうからな。

そう考えながら俺が少し大きめの戦斧を手に取ったときである。隣の棚に置かれたふたつの武器に目が止まった。

「これは──」

それは鋼鉄のグローブだった。ガントレットよりも厚い鉄板で拳部分を強化されたふたつのグローブは防具と呼ぶにはゴッツ過ぎた。

俺は鋼鉄のグローブふたつを手に取ってみる。するとドッシリとした重さが両手にのし掛かる。グローブと述べたが革製の部分は少なく殆ど鋼の塊だった。

「ジンさん、これは?」

「それか。以前闘技場の拳闘士に注文されて作った武器だ。また本人が買いに来るかと思って予備を作っておいたんだが、それっきり奴さんは来なくてよ。それ以来、棚の肥やしだ」

俺は鋼鉄グローブの中を覗き込む。すると内部はメリケンサックのように握り締める部分があり拳が傷付かないように工夫されていた。それだけじゃない。毛皮でクッションもある。まさに拳を気遣った作りなのだ。以外に繊細に作られている。

「アビゲイル。これを装着してみろ」

『畏まりました、マスター』

俺から手渡された鋼鉄グローブを装着したアビゲイルがファイティングポーズを取った。その姿がメイド服ながら様になっている。

そして、アビゲイルはジャブからストレート、更には天を突くアッパーカットを振るう。

「わお~!」

「おおぅ……」

コンビネーションを振るうアビゲイルの拳圧に髪の毛が揺れたアンジュが驚いていた。ジンさんもパンチの鋭さに驚いている。

アビゲイルは両拳を見詰めながら言う。

『この武器なら戦えます』

「そ、そうか……」

両拳を見詰めるアビゲイルが冷淡に見えて俺も少し引いてしまった。

想像したのである。

あの鋼鉄グローブを装着したアビゲイルのパンチを食らったら、いったいどうなるのだろうかと。それは頭が陥没する程度では済まないだろう。きっと頭部が木っ端微塵に消し飛ぶのではないかと想像してしまう。

すると静まり返っていた店内でジンさんが言う。

「なるほどのぉ。こいつも可愛い顔してゴーレムって訳かい」

「何が言いたいんだい、ジンさん?」

「ダンジョンで出合うゴーレムって奴らは巨漢でゴッツイ。そして武器も持っていなくハードパンチャーだ。素手ゴロで挑んで来やがる」

俺はアビゲイルを一瞥してからジンさんに返した。

「なるほどね。アビゲイルもゴーレムだからハードパンチャーってことかい……」

確かにジンさんの言う通りだと思う。アビゲイルはハードパンチャーだ。何せ素手でゴブリンの頭をカチ割れるのだから。

そして俺はアビゲイルを見詰めながら言う。

「ならば、アビゲイルのスタイルは、ハードパンチャー系で行ってみるか」

また方針がひとつ決まる。しばらくアビゲイルにはパンチのみで戦ってもらおうか。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

S級騎士の俺が精鋭部隊の隊長に任命されたが、部下がみんな年上のS級女騎士だった

ミズノみすぎ
ファンタジー
「黒騎士ゼクード・フォルス。君を竜狩り精鋭部隊【ドラゴンキラー隊】の隊長に任命する」  15歳の春。  念願のS級騎士になった俺は、いきなり国王様からそんな命令を下された。 「隊長とか面倒くさいんですけど」  S級騎士はモテるって聞いたからなったけど、隊長とかそんな重いポジションは…… 「部下は美女揃いだぞ?」 「やらせていただきます!」  こうして俺は仕方なく隊長となった。  渡された部隊名簿を見ると隊員は俺を含めた女騎士3人の計4人構成となっていた。  女騎士二人は17歳。  もう一人の女騎士は19歳(俺の担任の先生)。   「あの……みんな年上なんですが」 「だが美人揃いだぞ?」 「がんばります!」  とは言ったものの。  俺のような若輩者の部下にされて、彼女たちに文句はないのだろうか?  と思っていた翌日の朝。  実家の玄関を部下となる女騎士が叩いてきた! ★のマークがついた話数にはイラストや4コマなどが後書きに記載されています。 ※2023年11月25日に書籍が発売!  イラストレーターはiltusa先生です! ※コミカライズも進行中!

収納大魔導士と呼ばれたい少年

カタナヅキ
ファンタジー
収納魔術師は異空間に繋がる出入口を作り出し、あらゆる物体を取り込むことができる。但し、他の魔術師と違って彼等が扱える魔法は一つに限られ、戦闘面での活躍は期待できない――それが一般常識だった。だが、一人の少年が収納魔法を極めた事で常識は覆される。 「収納魔術師だって戦えるんだよ」 戦闘には不向きと思われていた収納魔法を利用し、少年は世間の収納魔術師の常識を一変させる伝説を次々と作り出す――

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

少年神官系勇者―異世界から帰還する―

mono-zo
ファンタジー
幼くして異世界に消えた主人公、帰ってきたがそこは日本、家なし・金なし・免許なし・職歴なし・常識なし・そもそも未成年、無い無い尽くしでどう生きる? 別サイトにて無名から投稿開始して100日以内に100万PV達成感謝✨ この作品は「カクヨム」にも掲載しています。(先行) この作品は「小説家になろう」にも掲載しています。 この作品は「ノベルアップ+」にも掲載しています。 この作品は「エブリスタ」にも掲載しています。 この作品は「pixiv」にも掲載しています。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

平凡冒険者のスローライフ

上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。 平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。 果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか…… ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。

処理中です...