上 下
21 / 57

21【ファミリアの契約】

しおりを挟む
俺たち三人は魔法使いギルドで買い物を済ませると郊外の屋敷に帰ってきた。俺が数日ぶりに帰宅するとメイド長のドロシー婆さんが畏まりながら迎え入れてくれる。

「お帰りなさいませ、坊っちゃん。冒険の旅は如何でしたか?」

「思ったより面白かったよ、ドロシー」

「では、こちらの方は?」

玄関で俺を迎えてくれたドロシー婆さんが、俺の肩に腰掛けるアンジュを見ながら彼女の紹介を求めてくる。

「こいつは俺の使い魔に成る予定の妖精だ。名前はアンジュ。使い魔に成ったらここで一緒に暮らすからドロシー婆さんも宜しく頼むよ」

「あたいはアンジュ、宜しくね」

「私はメイド長のドロシーと申し上げます。宜しくお願いしますね、可愛らしい妖精さん」

無邪気に挨拶するアンジュにドロシー婆さんは少し戸惑っていたが、まあ直ぐに成れるだろうさ。

そして、俺は屋敷に入るとドロシー婆さんに質問した。

「ドロシー婆さん。親父とお袋はどうしている?」

「坊っちゃんと行き違いで、昨晩王都に旅立ちました。なんでも公爵殿のパーティーに招かれたとか」

「王都の公爵と言えば、おそらくデズモンド卿だな。また、親父たちを使ってフィギュアのおねだりだろうさ。これは在庫を拵えておかないとならないかもな」

そんな話をしながら俺は自室に向かう。そして部屋の前でドロシー婆さんに告げる。

「親父たちが留守なら食事は一人で食べるから部屋まで運んできてくれないか、俺は工房で暫く作業に励むからさ」

「畏まりました、坊っちゃん」

そう頭を下げたドロシー婆さんは下がって行った。残ったのはアビゲイルとアンジュだけとなる。

それから俺は部屋の中央に魔法使いギルドから買ってきたばかりの魔法陣を広げた。それは布地に羊の鮮血で描かれた魔法陣である。この魔法陣を使ってファミリアの契約を済ませるのだ。

そして、俺が魔法陣の真ん中に立つと、恐る恐るだがアンジュも俺の側に近寄って来た。アビゲイルは部屋の隅に待機している。

「アトラス、これでファミリアの契約をするのかよ?」

「そうだ。ほとんど俺が魔法を唱えるだけだからお前は心を開いて使い魔の契約を同意するだけでいいからな」

「う、うん。わかったわ……」

そして、ファミリアの契約魔法が始まった。それはアンジュに説明した通りでほとんど俺が魔法を唱えているだけである。

やがて時間が30分ぐらい過ぎた。アンジュは退屈だったのか欠伸をしている。

そして、いよいよファミリア魔法のクライマックスだ。

「よし、最後に魔法陣に血判を入れるぞ」

「えっ、血判をやらないといけないの!?」

「そうだよ」

血判とは指などを傷付け血を出して契約書などに意を示す行為である。このファミリアの魔法にも必須の作業であった。これが済まないと使い魔の儀式は終了しない。

「も、もしかして、あたいもやらないと駄目なのかな……」

「当然だろう」

言いながら俺は小さなナイフを取り出して指を傷付ける。そして、親指から僅かな血を絞り出すと足元の魔法陣に一滴だけ垂らした。

「さあ、今度はアンジュの番だぞ」

俺がアンジュにナイフを差し出すが、怯えたアンジュが後ずさる。

「ぅぅ……」

「何をビビッてるんだよ。さっさとやれよ」

「で、でも、あたい……」

「もう、面倒臭い妖精だな……」

俺が眉間を摘まみながら俯くとアンジュが提案してきた。

「血判じゃなくてさ、アトラスがあたいの処女膜を破って出血させるとかじゃあ駄目かな。それならあたいも我慢できるからさ……」

ずっこける俺はアンジュを怒鳴り付けた。

「お前はアホか。俺の何じゃあお前に入らないだろ!」

「じゃあ、代わりに指とかでも良いからさ。愛の有る行為ならあたいだってぜんぜん我慢できるよ……」

「ふざけるな。鼻くそでもほじるように妖精の処女を奪えるほど俺は鬼畜じゃあないわい!」

「そんなに恥ずかしがらなくってもいいのにさ、ポッ」

「何がポッだ。いいから早くやれ、このビッチ妖精が!」

「ぐすんっ、怖いよ~。アトラスが苛める~」

まあ、なんやかんやあったが血判の行程もなんとか終わり俺とアンジュは正式な使い魔として契約が結ばれたのである。

「これであたいとアトラスは正式に血と血を交わした夫婦なのね~」

「そんな訳なかろう!」

『マスター、私と言う正式な妻が居ながら浮気ですか』

「アビゲイル。お前は黙ってろ!」

『アンジュ様、あなたは2号なのですから立場をわきまえてくださいね』

「ええ~、あたいは2号なのかよ~」

「お前ら俺をからかってるだろ!」

「『からかってません、本気です!」』

「そっちのほがマジで困るわ!」

俺は二人を怒鳴り付けた後にアンジュに小瓶をひとつ渡した。

「なに、これ?」

「魔法使いギルドで買ってきた髪染め薬だ。念じながら髪の毛に塗ると、その色に成るらしい。それでアンジュは髪の毛を染めろ」

アンジュは水色の髪の毛を指先でクルクルしながら訊いてきた。

「なんであたいが髪の毛を染めなければならないのさ?」

「対策だ」

「対策?」

意味が分からないとアンジュが小首を傾げていた。こいつは自分の立場が理解できていない様子である。

俺はアンジュの頬を指で突っつきながら言う。

「水色の髪を持った妖精は希少種なんだろ。もしも町中で悪い奴らに目を付けられたら拐われるぞ」

「ええ、あたい、誘拐されちゃうの!」

「そうなったら、どんな如何わしい辱しめを共用されるか分からないからな」

「それはそれで有りかも!」

「この糞ビッチが!」

俺はアンジュを捕まえると頭に髪染め薬を無理矢理にも塗ったくる。それからワシャワシャしてやった。

「とにかく、いいから染めろ!」

「いゃ~ん。アトラスが髪の毛を染めるふりして嫌らしいところばかり触る~」

「このビッチ。マジで擦り潰すぞ!」

まあ、なんやかんやあったが髪の毛も染め終わる。アンジュが選択した髪の毛の色は緑だった。なんでも森の妖精ではポピュラーなカラーらしい。これなら妖精でも目立たないだろう。





しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

クラス転移、異世界に召喚された俺の特典が外れスキル『危険察知』だったけどあらゆる危険を回避して成り上がります

まるせい
ファンタジー
クラスごと集団転移させられた主人公の鈴木は、クラスメイトと違い訓練をしてもスキルが発現しなかった。 そんな中、召喚されたサントブルム王国で【召喚者】と【王候補】が協力をし、王選を戦う儀式が始まる。 選定の儀にて王候補を選ぶ鈴木だったがここで初めてスキルが発動し、数合わせの王族を選んでしまうことになる。 あらゆる危険を『危険察知』で切り抜けツンデレ王女やメイドとイチャイチャ生活。 鈴木のハーレム生活が始まる!

神様との賭けに勝ったので、スキルを沢山貰えた件。

猫丸
ファンタジー
ある日の放課後。突然足元に魔法陣が現れると、気付けば目の前には神を名乗る存在が居た。 そこで神は異世界に送るからスキルを1つ選べと言ってくる。 あれ?これもしかして頑張ったらもっと貰えるパターンでは? そこで彼は思った――もっと欲しい! 欲をかいた少年は神様に賭けをしないかと提案した。 神様とゲームをすることになった悠斗はその結果―― ※過去に投稿していたものを大きく加筆修正したものになります。

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

【12/29にて公開終了】愛するつもりなぞないんでしょうから

真朱
恋愛
この国の姫は公爵令息と婚約していたが、隣国との和睦のため、一転して隣国の王子の許へ嫁ぐことになった。余計ないざこざを防ぐべく、姫の元婚約者の公爵令息は王命でさくっと婚姻させられることになり、その相手として白羽の矢が立ったのは辺境伯家の二女・ディアナだった。「可憐な姫の後が、脳筋な辺境伯んとこの娘って、公爵令息かわいそうに…。これはあれでしょ?『お前を愛するつもりはない!』ってやつでしょ?」  期待も遠慮も捨ててる新妻ディアナと、好青年の仮面をひっ剥がされていく旦那様ラキルスの、『明日はどっちだ』な夫婦のお話。    ※なんちゃって異世界です。なんでもあり、ご都合主義をご容赦ください。  ※新婚夫婦のお話ですが色っぽさゼロです。Rは物騒な方です。  ※ざまあのお話ではありません。軽い読み物とご理解いただけると幸いです。 ※コミカライズにより12/29にて公開を終了させていただきます。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

処理中です...