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5【ギランタウンの冒険者ギルド①】

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下着を買って洋服屋を出た俺たちはギランタウンの商店街を見て回っていた。

商店が連なる通りを一本外れると露店が並ぶ小道がある。俺たちは、その露店が並ぶ小道を歩いていた。何か珍しいものでもないかと探していたのだ。

俺は木彫りフィギュア作りばかりに励んでいるので屋敷からあまりでない。だから、たまにはショッピングと言うのも楽しいものである。

そして、俺は置物を売っている露店の前で足を止めた。そこにあった商品の一つを手に取ってみる。

それは魔法の力でクネクネと動く20センチほどの謎の太い棒だった。

「おやじ、このクネクネと動く棒はなんだい?」

店のおやじは眠たそうな顔で答えてくれる。

「それは女性用のマジックアイテムだよ。たまに男も自分に使うが、まあやっぱり女性のほうが良く使うアイテムかな。もしくは男性が女性に使ってやることも多いぜ」

「うむ……」

俺は喉を唸らせるとクネクネ動く謎の太い棒をそっと露店に戻した。

このアイテムに関しては、あまり突っ込まないほうが良いだろう。アダルトな匂いがプンプンとしてくるからな。この場で語るのは危険かも知れない。

すると先程のクネクネと動く太い棒を手に取ったアビゲイルが言う。

『マスター、これをドロシー様にお土産として購入しては如何でしょうか』

「お前も分かっててわざと言ってるだろ……」

結局クネクネと動く太い棒はお土産としては買わなかった。買えるわけが無い……。

それから俺たちは露店が並ぶ通りを出ると更に町の中を見て回る。そして、一軒の酒場の前で足を止めた。

そこは三階建ての古びた酒場だった。

この異世界の酒場は洋風で、一階が酒場で二階が宿屋になっている作りが多い。ここもそうだ。更にこの酒場は冒険者ギルドと酒場が一緒になっている。

何故にそれが分かるかって言えば、店の前に看板が出ているからだ。入り口の上にギランタウン冒険者ギルド本部と書かれている。

どこの町にも冒険者ギルドは必ず存在している。このような酒場で冒険者は貼り出されている冒険の依頼書から仕事を探してお金を稼ぐのである。

この世界の冒険者とは、一言で述べれば何でも屋であった。

冒険職とは、モンスター退治や商人の護衛、時には傭兵のようなこともする。ダンジョンばかりを漁っているのが冒険者と言う訳でもないのである。

「旅に出れば冒険の仕事を受ける機会も多くなるだろう。よし、ここは偵察がてら少し見ていくか」

『畏まりました、マスター』

俺は紙袋を抱えたアビゲイルを連れて酒場の入り口をくぐる。そして、店内に入ると酒の臭さに表情を歪めた。

「くさ……」

なんとも酒臭いのだ。まるでエールの樽をひっくり返したようなアルコール臭が充満していた。

店の中を見回せば、昼間だと言うのに飲んだくれている客が何人も居た。だが、そのほとんどが完全武装の成りをしている。

フルプレートに剣を腰に下げた戦士、弓を背負ったアーチャー、戦斧を背負った大男、とんがり帽子を被った魔法使いも居やがる。どいつもこいつも身形だけは一端の冒険者風で勇ましい。そんな輩が酒を煽りながら15人ほど酒場で屯していた。

そんな勇ましい連中の視線が来店したばかりの俺に集まった。その眼差しは冷めている。面白いのか口笛を吹いて茶化す者も居た。

まあ、珍しいのだろう。上等な洋服を纏った坊っちゃん風の童顔小僧がメイドを引き連れて酒場に来店してきたのだ。場違いなのは俺のほうだと言える。

そして、店内には二つのカウンターが見えた。

一つは酒瓶や酒樽が並んだカウンターと、もう一つは受付嬢が書類棚を背にしたカウンターだ。

「こっちが冒険者ギルドの受付だな」

俺は書類棚があるカウンターのほうに歩む。そして、受付嬢に声を掛けた。

「済まないが、冒険者に成りたいのだが、登録とかっているのかい?」

すると俺の言葉を聴いた飲んだくれの冒険者たちが一斉にどっと沸いた。腹を抱えて笑いだす。

「おい、このお坊っちゃまが冒険者に成りたいんだとよ。わっひゃひゃ」

「傑作だ。これは今年一番の傑作だぞ!」

一度沸いた店内の盛り上がりは直ぐには収まらない。地団駄を踏んで笑い転げている者も居る。

俺は完全に馬鹿にされていた。そんな俺をアビゲイルは無表情のまま見守っている。

そんな笑いの渦の中でカウンター越しの受付嬢が俺の顔を見て意外な言葉を掛けてきた。

「あら、あなた、アトラスじゃないの」

「えっ?」

俺は自分の名前を不意に呼ばれて受付嬢の顔を見直した。そして、彼女の顔に見覚えがあることに気付く。

金髪のポニーテールで、豊満な胸とは裏腹に引き締まった腰の括れが美しい娘であった。

「あれ、お前はジェシカか?」

「そうよ、アトラス。数年振りね」

俺と受付嬢が顔見知りだと知った冒険者たちの笑い声が止まった。俺たち二人の様子を伺っている。

彼女の名前はジェシカ・ロンドベル。トウエ村で一緒だった娘だ。

確か俺の一つ上の娘で寺子屋で僅かな間だけ一緒に勉強を学んでいた。だが、天童の俺が直ぐに寺子屋を卒業したので、それからは疎遠気味になっている。

たまに村の中ですれ違う程度の仲だったが、子供のころは彼女のパンツをこっそりと盗んでお世話になっていた。だから仲の良い幼馴染みだと言えよう。

だが、ここ数年は本当に疎遠だった。俺がフィギュア作りで大成功してトウエ村からギランタウンに引っ越してからは何も連絡は取っていない。

それが、ボン、キュウ、ボンなナイスバディーの娘に成長していてビックリである。昔っから磨けば輝く逸材たとは思っていたが、俺の想像を上回る成長を遂げていた。

「なんだ、ジェシカ。お前もギランタウンに出てきていたのか」

「ええ、出稼ぎよ。村の畑はお父さんや弟たちに任せてね」

「そうか、それは大変だな。あっ、そうだ──」

俺はアビゲイルが持っていた紙袋からおパンティーを一着取り出すとジェシカの前に差し出した。

「ジェシカ、昔お前から借りていた下着の代わりを返しておくよ。俺も大人に成ったから、いつまでも借りっぱなしてのも悪いだろうし」

まあ、借りたと言葉を柔らかくいっているのだが、本当は黙って盗んだのだ。もちろん現物は夜のオカズに浪費してしまっている。

すると黙ったままのジェシカは差し出されたパンティーを凝視した後にパンティーを俺から受け取った。そして、ポケットの中に仕舞い込む。

「アトラス、あなたも大人に成ったわね。倍返しを心得ていて嬉しいわ」

ジェシカも高級品のパンティーを差し出されたのだ、昔のことは許してくれたらしい。なんとも現金である。

だが、その言葉に感謝の気持ちは籠っていない。むしろ寒々とした声色だった。

しかし俺は自分のペースを保とうと更にふざけて見せる。

「ジェシカもだいぶ見ないうちに大人に成ったな。特に胸なんて一段と大きく成ったんじゃあないか?」

「ええ、お陰さまであなたが村で私のブラを盗んでいたころよりも大きくなったわよ」

ジェシカの額には青筋がヒクヒクと浮かんでいた。彼女が怒りを堪えているのが良く分かる。

そこで俺はアビゲイルが持っていた紙袋から、先程差し上げたパンティーとペアーのブラを取り出すとジェシカに差し出した。

「これは嘗て頂いたブラのお返しです……」

ジェシカは俺からブラを受け取るとポケットにねじ込んでから寒々とした冷えた声で言う。

「これはだいぶサイズが小さいわ。仕立て直す代金も貰えないかしら?」

俺は素直に財布からお金を取り出すとカウンターに置いた。

ここは逆らわないほうが懸命だろう。触らぬ女神に祟りなしだ。

いや、こいつが本物の女神だったら乳ぐらい少しは触りたい。いやいや、女神じゃあなくても、このぐらいご立派に成長しているのなら揉みまくりたいわ。

「ところでアトラスは、ここに何しに来たのかな。まさかメイドを引き連れてお酒を飲みに来ただけとか言わないわよね」

ここからが本番だ。俺はジェシカの質問に率直に答えた。

「いやね、ちょっと冒険者を始めようかと思って話を聞きに来たんだよ」

すると俺の言葉を聴いていた冒険者たちの顔が固くなった。まるで威嚇でもするように俺を睨み付けている者も居る。

酒場に流れる空気は嫌悪だった。その視線が俺一人に集まっている。

すると一人の男が立ち上がる。体格の良い男であった。

上半身にプレートメイルを纏い、腰にはロングソードを下げたマッチョマンだ。左頬には鋭利な刀傷が刻まれている。

冒険者の前衛戦士だろう。その男が凄みながら俺の背後まで歩み寄る。

「なあ、坊主。ちょっと舐めてないか、冒険者を?」

ドスの利いた声色である。完全に俺を威嚇していたが、俺は振り向かずに言葉を返した。

「冒険者を舐めてるわけないじゃん。本当に舐めていたら冒険者になんて成りたいと言い出さないぞ」

「やっぱ、舐めてるぜ」

すると男が俺の肩を大きな手で掴んできた。ズシリっと重みが握力から伝わってくる。

しかし、それでも俺は振り返らない。代わりにアビゲイルが男の手首を掴んでいた。

『マスターから手をお放しくださいませ』

「なんだ、こいつ?」

続いて男がアビゲイルを睨んだ刹那であった。唐突に男が悲鳴を上げる。

「ぎぃぁああああ!!!」

アビゲイルは男の手首を掴んでいるだけである。それなのに男は必死な表情で踠いていた。

その男の様子を周りの冒険者たちは何事かと目を丸くさせながら見ていた。

まさかアビゲイルが巨人並みの怪力を有しているとは想像すら出来ないのだろう。そして、万力のような握力で男の手首を握り潰そうとしているのだ。

「放せ、放せ、放せぇぇえええ!!」

男がアビゲイルに掴まれた腕を振り払おうと踠いていた。だが、もがけどもがけど腕は外れない。微動打にしないアビゲイルが万力のような握力で男の手首を握り締めている。その手首の先が青く成り始めていた。

その光景を他の冒険者たちは唖然としながら凝視していた。状況が把握出来ずにどうしたものかと悩んでいる。

『マスターへの敵対行為は何人たりともこのアビゲイルが許しません』




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