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第43話【魔像の生物】

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ストンっ!

『なあ、クレア。本当に、この奥に誰かが居るのか?』

ストンっ!

「ああ、間違いない。この通路の奥に、確実に誰かが居るぞ」

どうやらゴール地点はそいつらしい。

ストンっ!

俺とクレアは狭い通路を進んでいた。

通路はブロック塀時々岩肌という乱雑な作りで、人が一人通れる程度の幅である。

天井も2メートルぐらいだ。

まあ、何せ、このジャブロー迷宮は部屋こそ大きな物が多いが、通路となると、やたら狭い通路ばかりなのだ。

ストンっ!

それに今回の通路はウザいぐらいトラップが多い。

俺が先頭で歩いているのだが、先程から壁の隙間から矢が飛んでくるトラップばかり作動している。

ストンっ!

この音は発射された矢が俺の体に突き刺さる音だ。

ストンっ、ストンっ!!

ああ、今二連続で矢が刺さりましたがな……。

そもそも俺もクレアもトラップを解除する技術は持ち合わせていない。

シーフやらレンジャーやらの専門職ではないからな。

まあ、トラップの解除スキルを持ってなくても当然と言えよう。

だから俺が先頭で進んでトラップにわざと引っ掛かりながら強引に進行しているのだ。

ストンっ!

そのために現在の俺は全身が矢だらけの状態で歩いていた。

俺が進んでいると床にボタンが埋め込まれていたり、細い糸が張り巡らされていて、俺はそれらに引っ掛かりながら歩いている。

ストンっ!

──っと、まあ、そんな感じで壁の隙間から発射された矢が俺の体に何本も刺さっていた。

俺は痛みを感じないから矢で死なない。

クレア曰く、トラップの矢には毒が塗ってあるらしいのだが、俺には毒も無効である。

だからもう面倒臭いから、引っ掛かりながら進もうって事になったのだ。

最悪は、トラップゾーンが終わったらアーティファクトリペアで体を修復すればいいだけなのだから、毒矢のトラップぐらいなら問題ない。

『おっ、やっと通路を抜けたぞ』

全身に数本の矢が刺さったままの俺が言いながら、新たな部屋に踏み込んだ。

頭に三本、胸に六本、背中に二本、右肩に二本、左腕に三本、下半身に四本ほど毒矢が刺さっている。

内一本はお尻のヤバいところに突き刺さっていた。

俺に肛門が存在しなくて幸いである。

『もう、蜂の巣状態だな……』

俺は部屋に入ると膝に突き刺さった矢をおもむろに引き抜いた。

そして、俺の背後からクレアが部屋に入るとウィル・オー・ウィスプで室内を照らしだす。

「神殿のような作りだな」

『だな~』

お尻に刺さった矢を引っこ抜きながら俺も室内を見回した。

横幅は20メートルぐらい、天井の高さは30メートルぐらいと更に高い通路だ。

壁も床も岩のブロックで組まれている。

奥行きは先が闇で見えないほど長く続いていた。

そして、通路の両脇には太くて長い石柱が並んで高い天井を支えている。

俺は背中に刺さった矢に手を回しながらクレアに言った。

『クレア、あと二本抜いてくれないか』

「ああ、分かった」

俺は俺の背中から矢を引き抜くクレアに訊いた。

『なあ、クレア。気配は動いていないのだろう?』

「ああ、だが生きている。呼吸をしているからな」

『また風を読んでいるのか?』

「ここは空気の流れが緩やかだからな、読みやすい。それに相手は一体だ。しかも動いていない。その分だけ空気が濁らす呼吸の流れまで読めるのだ。まあ、澄んだ池の中で水中が見えているのと同じような原理だな」

『池の水が濁ってない分だけ見えるって事ね~』

「そんな感じだ」

俺はクレアが最後の矢を引き抜くと歩き出した。

「アーティファクトリペアは要らぬのか?」

『このぐらいなら、どうってことないだろうさ』

「そうか」

俺とクレアは神殿っぽい廊下をスタスタと歩きだす。

俺は奥を目指しながら言った。

『また、長い通路だな~』

「長いな、ここは」

『まあ、ここにオーガたちが入ってこない理由も分かるよ。あんな狭い通路にトラップがわんさかだからな』

「おそらく、この先のトラップも生きているぞ」

『敵の気配や足跡は?』

「気配は最奥から動かない。足跡も無い」

『そいつ、マジで生きてるのか?』

「どうだろうな。眠っているだけかも知れんぞ」

こんなダンジョンの奥で眠っているのかよ。

だとしたら、相当訳有りだな。

俺は周りを警戒しながら言った。

『寝起きがいい事を願うぜ。面倒臭くならないようによ』

「んん……?」

いきなりピタリとクレアが止まった。

そして、高い天井を見上げている。

俺も天井を見上げながら問う。

『どうした。何かあるのか?』

「風が大きく揺れた。何かが羽ばたいたようだ」

『羽ばたく?』

飛んだって言う意味だろうか?

クレアは30メートル先の天井を見上げながら石柱の陰をなぞって見回す。

「動いているぞ。数は一体だ。相手は翼を持った者。そのサイズはおそらく、人間並みの体格だ。だが、翼はそれ以上に大きいだろう」

『そいつがネクロマンサーか?』

「違う。別のヤツが動き出したようだ」

俺も上空を警戒しながらバスタードソードを背中の鞘から引き抜いた。

剣の先を床に付けて、いつでも頭上に剣打を振り上げられる構えを作る。

警戒は上に向けていた。

『一体だけなら、どうにでもなるだろうさ!』

俺が余裕を言うなりクレアが厳しい口調で警告してきた。

「いや、増えたぞ。三体来る!!」

『いきなり増えるのかよ!?』

刹那、柱の陰から大きな影が飛び出した。

それは背中にコウモリの羽を生やした人間の石像っぽかった。

悪魔のような成りの石像がバサバサと飛んでいやがる。

『悪魔型ゴーレムか!?』

「いや、ガーゴイルだ!!」

「きょぇええええ!!!」

ガーゴイルの一体が滑空しながら俺たちに迫る。

カッパのような嘴の頭に狂暴そうな皺を寄せながら、長くて鋭い爪を生やした両手を突き出して迫って来る。

ガーゴイルの眼光は血走っていた。

狂暴そのもので敵意を剥き出しに迫ってくる。

『まるで飢えた獣だな!』

「ぐぅがぁあああ!!」

『ぜあっ!!』

俺が下から上へと剣を振り上げた。

大剣の太刀筋が煌めき昇る。

すると残激が飛び迫るガーゴイルの右腕を肘の辺りから切り落とした。

切断。

腕が斬られて床に転がる。

切った感触は硬い石像を切り落としたような感触ではなかった。

まるで生肉を切ったのと変わらない汁っぽい感触である。

見た目は石だが実物は動物のようだ。

ならば切るのも難しくないだろう。

これなら行けると、俺は心で呟いた。

「ぎょぇええええ!!!」

『どうだっ!?』

俺が振り返ると腕を切断されたガーゴイルが墜落して床を滑って行くところだった。

そしてガーゴイルは背中から石柱にぶつかると体を止める。

だが、すぐにガーゴイルは立ち上がった。

思った以上に機敏だ。

『まぁ~だ、動けるか!』

俺が追い討ちを狙ってガーゴイルに駆け寄ったが、獲物は飛んで上空に逃げ延びる。

そして天井側の柱にしがみつくとこちらを睨み付けていた。

『高くて届かねえ……』

そいつの他にも二匹のガーゴイルが天井側をバサバサと音を鳴らして飛んでいる。

「アナベル。今度の敵は厄介だぞ」

『そうだな……。飛んでるってのは厄介だな……』

「それだけじゃない。あいつの切断した腕を見てみろ」

『えっ?』

俺が床に転がるガーゴイルの腕を凝視すると、クレアが俺の頭をレイピアの先で突っついた。

「違う、そっちじゃあない」

『えっ、じゃあどっちよ?』

「柱の上のガーゴイルを見ろと言っているのだ」

『そっちか……』

俺が柱の上部にしがみついているガーゴイルに目をやると、切断したはずの腕が生え変わっていた。

『あれれ、いつの間にかあいつ腕が生えてるじゃんか!?』

「リジェネレーションだな。自己再生で生え変わったんだ」

『自己再生で腕が生え変わるってズルくねぇ!?』

「それが魔法生命体の特徴だ。まあ、ゴーレムとの違いだな」

痛みは感じているようだが、ダメージは超スピードで回復する。

これはこれで厄介である。

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