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第35話【貴族の放浪】
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草原の日差しがそろそろだいぶ高い位置を差していた。
日差しが眩しいほどにカンカン照りだ。
クレアも額に汗を浮かべている。
玉の汗が美しい、なめなめしたいぐらいである。
そして、もう時期昼だろう。
まあ、飯を食わない俺には関係無いけれどね。
クレアにアーティファクトリペアの魔法で右手を治してもらった俺は、新しい地雷魔法陣の紙を掌に乗せると包帯で巻きながらクレアと話していた。
『なあ、クレア。ゾンビたちの遺体はこのまま放置していくのか?』
俺は馬の死体の側で言った。
するとクレアが周りに散らばるゾンビたちの遺体を見回しながら答える。
「仕方あるまい、このまま放置だ。あとで町に帰ったら場所を伝えて遺体を回収してもらおう。ゾンビになったとは言え、遺族からしたら身内の亡骸だからな」
『でもよ、野生の獣に死体が食い荒らされたりしないかな……』
「この辺にはコヨーテが出るが、ゾンビの死体は食い荒らさないはずだ。一度ゾンビ化した死体は肉の味が落ちるのだろうさ。野生も寄り付かん」
『そうか~』
俺が両手を合わせてパンっと叩いた。
『よし、暗器爆弾の再装填完了だ。それじゃあ出発しようか、クレア』
俺が明るくクレアに言うと、彼女は草原の果てを見ながら異変を確認する。
「アナベル、第一目標が、向こうから勝手に歩いてくるぞ」
『第一目標?』
俺も草原の果てを凝視すると人影を三つ見つけた。
『誰かフラフラと歩いているな。またゾンビか?』
クレアがまじまじと凝視してから言う。
「いや、あれはギルデン公の息子、ガルマルだな」
『ほえ~、 あの糞お坊っちゃまの登場か』
生きとったんかい……。
ゾンビだったらいいな~。
「とりあえず駆け寄るぞ」
クレアが再びウィンドウォークの魔法を施した。
そして、ガルマルに向かって真っ直ぐ走って行った。
俺も彼女のお尻を追いかける。
『ゾンビだったらどうする?』
「八つ裂きだな」
『わおっ、過激ですねー』
しかし、俺も賛成だ。
もしもガルマルがゾンビ化していたら八つ裂きにしたあとに擂り潰してミンチにしてやるのにさ。
まあ、グラナダ村のジェガン少年の仇であるからな。
ゾンビ化してなくても足の一本ぐらい折ってやりたい。
それが本音だ。
『ああ~、本当にガルマルお坊っちゃまだぜ。ちっ、生きていたかよ……』
ガルマルは二人の騎士を連れて草原を徒歩で歩いていた。
三人とも馬には股がっていない。
その身なりは埃りまみれで汚いし、疲れきった顔をしていた。
そして、走り迫る俺たちに気付いたのか両腕を高く伸ばして振っている。
三人は「おーい、おーい」と叫んでいた。
『お~い、ガルマルお坊っちゃま~。生きてましたか~』
駆け寄った俺が嫌みっぽく言ったがガルマルはそれどころではないようだった。
クレアに駆け寄ると必死な形相で水を求めてくる。
「く、傀儡の魔女殿! す、すまないが水をくれ、水だ!!」
クレアが皮袋の水筒を差し出すとガルマルはガブガブと必死に飲んで喉を潤す。
そして落ち着いたのか水筒を部下の騎士に回した。
彼らも相当ながら喉が乾いていたのか、回された水をがぶ飲みしていた。
「それで何があられました、ガルマル様。ここまで来る途中で、ガルマル様が連れていた部下だと思われる騎兵のゾンビと出合いまして戦闘になりましたぞ?」
『撃破しちゃったけれどね~』
クレアが問うとガルマルは縦ロールの揉み上げをいじくりながら俯いた。
ぼそぼそと話し出す。
「迂闊だったのだ……」
『迂闊?』
「オーガ三匹を倒すところまでは順調だったのだが、まさか死んだオーガたちがゾンビ化をするなんて思ってもみなかった……」
『オーガがゾンビ化したのかよ』
ガルマル曰く──。
ガルマルたち十四騎の騎馬兵がオーガ三匹に追い付いたのは朝方だったと言う。
そして、直ぐに戦闘。
激戦のうちにオーガに勝利したが、こちらも六騎の兵士を失ったらしい。
ガルマルたちの生き残った兵士たちは暫し休憩の後にオーガの首を跳ねようとした時である。
死んだはずのオーガたちがゾンビ化して復活。
そして、大暴れ。
不意を疲れた兵士たちは彼ら三人を残して壊滅したらしい。
しかも、死んだ兵士たちまでゾンビ化してガルマルたちを追い始めたとか……。
馬を失ったガルマルたちは草原に潜みながらゾンビ騎兵から逃げ惑い、帰還の方法を模索していたらしい。
『そこで、俺たちにバッタリと出会ったと──』
「そうなる……」
俯くガルマルは悔しそうに奥歯を噛み締めていた。
たぶん、出し抜きたかった俺たちに助けられて屈辱なのだろう。
涼しげにクレアが言う。
「──っと、言うことはだ。今この草原には、残り三騎のゾンビナイトとオーガゾンビ三匹が彷徨っているのだな?」
あらら~、今度の目標はゾンビオーガに変更ですか~。
少し強さもパワーアップしてるのかな?
俯くガルマルが言う。
「おそらく放浪していた騎士たち以外は頭を砕かれてゾンビ化はしていないだろう。オーガも一匹は首を跳ねている。ゾンビ化したオーガは二体だ……」
「その二体が草原を放浪していると」
「おそらく……」
「オーガと戦ったのは、どちらのほうですか?」
「あっちだ……」
ガルマルが西を指差す。
するとクレアがガルマルたち三名にウィンドウォークの魔法を掛けてやった。
「移動加速魔法です。これでアッバーワクー城まで走ってお帰りください」
「かたじけない、傀儡の魔女殿……」
ガルマルは悔しそうに御礼を述べていた。
悔しいだろうね~。
マージーで、悔しいだろうさね~。
だが、これが現実だ。
ザマー!!
無能なお坊っちゃまはとっとと帰りやがれってんだ。
俺が心中ではしゃいでいると、クレアが爪先で土を蹴りながら言う。
「私たちはオーガゾンビ二体を追って処理します。捨て置けませんからな」
確かに今度は巨大ゾンビが村を襲ったらたまらない話だ。
何せゾンビだもん、村ぐらい襲いかねない。
これは早く処理しなければなるまいな。
「まことか……。オーガゾンビの討伐を引き受けてくれるか……?」
「当然です。ガルマル様はお城で我々の吉報をお待ちくださいませ」
「わ、わかった……」
俺とクレアは俯くガルマルたちを残してその場を去った。
ガルマルが指差した方向に走り出す。
俺は走りながらクレアに言った。
『オーガゾンビって、普通のオーガより強いのか?』
真っ直ぐ前を見ながら忍者走りをするクレアが答える。
「スタミナとパワーはアップして、知能と速度はダウンしているはずだ」
『馬鹿が一段と馬鹿になったと?』
「問題はタフネスと無痛なのが厄介だな」
『なるほどね~』
無痛の力持ちか~。
それは厄介だな。
「問題はオーガのゾンビ化だけじゃない」
『他はなんだよ?』
「生物がゾンビ化する条件は単純だ。冥府魔法の残り香が大地に染み付いているか、冥府魔法の使い手がその場にいたかだ。ゾンビと言うやつは、冥府魔法で作られるか、その残像魔力で自然とゾンビ化するパターンが多いのだ」
『冥府魔法の使い手って、ネクロマンサーってことか?』
「そうだ」
『っ~ことは、今回のオーガ襲撃事件にはネクロマンサーが関わっていると?』
「可能性は高いだろう。それかネクロの影響をたまたま受けただけか」
『偶然……』
「どちらにしろ、西の迷宮からオーガが這い出てまで人里を襲った理由も謎だがな」
『ネクロとオーガが繋がらないと?』
「たまたまの偶然かも知れん」
『たまたまね~』
「ああ、たまたまかもな」
とりあえず俺たちは走った。
真相を探るために──。
『ところでクレア。もう一度だけたまたまって言ってくれないか?』
「何故だ?」
クレアは首を傾げた。
もう「玉々」とは連呼してくれない。
日差しが眩しいほどにカンカン照りだ。
クレアも額に汗を浮かべている。
玉の汗が美しい、なめなめしたいぐらいである。
そして、もう時期昼だろう。
まあ、飯を食わない俺には関係無いけれどね。
クレアにアーティファクトリペアの魔法で右手を治してもらった俺は、新しい地雷魔法陣の紙を掌に乗せると包帯で巻きながらクレアと話していた。
『なあ、クレア。ゾンビたちの遺体はこのまま放置していくのか?』
俺は馬の死体の側で言った。
するとクレアが周りに散らばるゾンビたちの遺体を見回しながら答える。
「仕方あるまい、このまま放置だ。あとで町に帰ったら場所を伝えて遺体を回収してもらおう。ゾンビになったとは言え、遺族からしたら身内の亡骸だからな」
『でもよ、野生の獣に死体が食い荒らされたりしないかな……』
「この辺にはコヨーテが出るが、ゾンビの死体は食い荒らさないはずだ。一度ゾンビ化した死体は肉の味が落ちるのだろうさ。野生も寄り付かん」
『そうか~』
俺が両手を合わせてパンっと叩いた。
『よし、暗器爆弾の再装填完了だ。それじゃあ出発しようか、クレア』
俺が明るくクレアに言うと、彼女は草原の果てを見ながら異変を確認する。
「アナベル、第一目標が、向こうから勝手に歩いてくるぞ」
『第一目標?』
俺も草原の果てを凝視すると人影を三つ見つけた。
『誰かフラフラと歩いているな。またゾンビか?』
クレアがまじまじと凝視してから言う。
「いや、あれはギルデン公の息子、ガルマルだな」
『ほえ~、 あの糞お坊っちゃまの登場か』
生きとったんかい……。
ゾンビだったらいいな~。
「とりあえず駆け寄るぞ」
クレアが再びウィンドウォークの魔法を施した。
そして、ガルマルに向かって真っ直ぐ走って行った。
俺も彼女のお尻を追いかける。
『ゾンビだったらどうする?』
「八つ裂きだな」
『わおっ、過激ですねー』
しかし、俺も賛成だ。
もしもガルマルがゾンビ化していたら八つ裂きにしたあとに擂り潰してミンチにしてやるのにさ。
まあ、グラナダ村のジェガン少年の仇であるからな。
ゾンビ化してなくても足の一本ぐらい折ってやりたい。
それが本音だ。
『ああ~、本当にガルマルお坊っちゃまだぜ。ちっ、生きていたかよ……』
ガルマルは二人の騎士を連れて草原を徒歩で歩いていた。
三人とも馬には股がっていない。
その身なりは埃りまみれで汚いし、疲れきった顔をしていた。
そして、走り迫る俺たちに気付いたのか両腕を高く伸ばして振っている。
三人は「おーい、おーい」と叫んでいた。
『お~い、ガルマルお坊っちゃま~。生きてましたか~』
駆け寄った俺が嫌みっぽく言ったがガルマルはそれどころではないようだった。
クレアに駆け寄ると必死な形相で水を求めてくる。
「く、傀儡の魔女殿! す、すまないが水をくれ、水だ!!」
クレアが皮袋の水筒を差し出すとガルマルはガブガブと必死に飲んで喉を潤す。
そして落ち着いたのか水筒を部下の騎士に回した。
彼らも相当ながら喉が乾いていたのか、回された水をがぶ飲みしていた。
「それで何があられました、ガルマル様。ここまで来る途中で、ガルマル様が連れていた部下だと思われる騎兵のゾンビと出合いまして戦闘になりましたぞ?」
『撃破しちゃったけれどね~』
クレアが問うとガルマルは縦ロールの揉み上げをいじくりながら俯いた。
ぼそぼそと話し出す。
「迂闊だったのだ……」
『迂闊?』
「オーガ三匹を倒すところまでは順調だったのだが、まさか死んだオーガたちがゾンビ化をするなんて思ってもみなかった……」
『オーガがゾンビ化したのかよ』
ガルマル曰く──。
ガルマルたち十四騎の騎馬兵がオーガ三匹に追い付いたのは朝方だったと言う。
そして、直ぐに戦闘。
激戦のうちにオーガに勝利したが、こちらも六騎の兵士を失ったらしい。
ガルマルたちの生き残った兵士たちは暫し休憩の後にオーガの首を跳ねようとした時である。
死んだはずのオーガたちがゾンビ化して復活。
そして、大暴れ。
不意を疲れた兵士たちは彼ら三人を残して壊滅したらしい。
しかも、死んだ兵士たちまでゾンビ化してガルマルたちを追い始めたとか……。
馬を失ったガルマルたちは草原に潜みながらゾンビ騎兵から逃げ惑い、帰還の方法を模索していたらしい。
『そこで、俺たちにバッタリと出会ったと──』
「そうなる……」
俯くガルマルは悔しそうに奥歯を噛み締めていた。
たぶん、出し抜きたかった俺たちに助けられて屈辱なのだろう。
涼しげにクレアが言う。
「──っと、言うことはだ。今この草原には、残り三騎のゾンビナイトとオーガゾンビ三匹が彷徨っているのだな?」
あらら~、今度の目標はゾンビオーガに変更ですか~。
少し強さもパワーアップしてるのかな?
俯くガルマルが言う。
「おそらく放浪していた騎士たち以外は頭を砕かれてゾンビ化はしていないだろう。オーガも一匹は首を跳ねている。ゾンビ化したオーガは二体だ……」
「その二体が草原を放浪していると」
「おそらく……」
「オーガと戦ったのは、どちらのほうですか?」
「あっちだ……」
ガルマルが西を指差す。
するとクレアがガルマルたち三名にウィンドウォークの魔法を掛けてやった。
「移動加速魔法です。これでアッバーワクー城まで走ってお帰りください」
「かたじけない、傀儡の魔女殿……」
ガルマルは悔しそうに御礼を述べていた。
悔しいだろうね~。
マージーで、悔しいだろうさね~。
だが、これが現実だ。
ザマー!!
無能なお坊っちゃまはとっとと帰りやがれってんだ。
俺が心中ではしゃいでいると、クレアが爪先で土を蹴りながら言う。
「私たちはオーガゾンビ二体を追って処理します。捨て置けませんからな」
確かに今度は巨大ゾンビが村を襲ったらたまらない話だ。
何せゾンビだもん、村ぐらい襲いかねない。
これは早く処理しなければなるまいな。
「まことか……。オーガゾンビの討伐を引き受けてくれるか……?」
「当然です。ガルマル様はお城で我々の吉報をお待ちくださいませ」
「わ、わかった……」
俺とクレアは俯くガルマルたちを残してその場を去った。
ガルマルが指差した方向に走り出す。
俺は走りながらクレアに言った。
『オーガゾンビって、普通のオーガより強いのか?』
真っ直ぐ前を見ながら忍者走りをするクレアが答える。
「スタミナとパワーはアップして、知能と速度はダウンしているはずだ」
『馬鹿が一段と馬鹿になったと?』
「問題はタフネスと無痛なのが厄介だな」
『なるほどね~』
無痛の力持ちか~。
それは厄介だな。
「問題はオーガのゾンビ化だけじゃない」
『他はなんだよ?』
「生物がゾンビ化する条件は単純だ。冥府魔法の残り香が大地に染み付いているか、冥府魔法の使い手がその場にいたかだ。ゾンビと言うやつは、冥府魔法で作られるか、その残像魔力で自然とゾンビ化するパターンが多いのだ」
『冥府魔法の使い手って、ネクロマンサーってことか?』
「そうだ」
『っ~ことは、今回のオーガ襲撃事件にはネクロマンサーが関わっていると?』
「可能性は高いだろう。それかネクロの影響をたまたま受けただけか」
『偶然……』
「どちらにしろ、西の迷宮からオーガが這い出てまで人里を襲った理由も謎だがな」
『ネクロとオーガが繋がらないと?』
「たまたまの偶然かも知れん」
『たまたまね~』
「ああ、たまたまかもな」
とりあえず俺たちは走った。
真相を探るために──。
『ところでクレア。もう一度だけたまたまって言ってくれないか?』
「何故だ?」
クレアは首を傾げた。
もう「玉々」とは連呼してくれない。
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