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第32話【武具の購入】
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オーガ追跡討伐──。
俺とクレアはアッバーワクー城の当主、ギルデン・ザビエル公の依頼によって、逃走したオーガ三体を追跡して討伐することになった。
今現在俺たち二人は傀儡の森を出て、アッバーワクー城元の城下町に来ていた。
目的は討伐の前に、主に俺の装備を整えるためである。
何せ俺には武器も防具もないからな。
あるのはゴーレムボディーとクレアが作ってくれた暗器だけだ。
ただのゴーレムなら十分な戦力だが、俺は知能を有した特殊なゴーレムである。
ならば人間同様に、武器で武装するのが当然の戦力アップだろう。
俺はフード付きのローブで顔を隠しながら城下町の商店街をクレアと二人で歩いていた。
クレアは偽造魔法で長耳を隠している。
人が溢れるストリートには様々な店が並んで賑わっていた。
その賑わいに煽られてか、俺はクレアと買い物デート気分で浮かれている。
なんだか気分がルンルンと弾んでいた。
何せ俺も女性と外出デートをするのは初めてだったから、何を話していいか分からすソワソワしてしまう。
でも、念願の二人っきりの初デートだ。
なんだかテンションが上がって仕方がない。
浮かれる俺とは違って、クレアが素っ気なく言った。
「とっとと鍛冶屋に向かって、貴様の武器と防具を揃えるぞ」
俺は内股で体をくねらせながら恥ずかしげに言った。
『ね~ね~、クレア。俺に似合う防具とかあるかな~? 格好いい武器とかあるかな~?』
「はぁ~……」
クレアが溜め息を吐いてから述べる。
「武器も防具も好きなのを選べ。予算は気にするな」
『えっ、おごりなの!?』
「なぜ、おごりだ? 」
クレアがキリッとした眼差しで俺を見た。
「何を言い出すのだ。貴様は無一文だから、私が立て替えるだけだぞ」
『えっ……?』
「ちゃんと稼げるようになったら返してもらうからな」
『マジか……』
おいおい、なんだよ……。
俺とクレアは同棲しているから、お財布は共有かと思っていたが、お小遣いせいだったのかよ……。
「私はお前の身なりや娯楽に費やす資金まで提供してやる気はないからな。遊びたいとか、身なりを整えたいなら、自分で働き自分で稼げ」
『そ、そうなのか……』
畜生……。
俺はクレアの紐としてやしなってもらいたかったのにさ。
ちょっと誤算だったぜ。
俺の人生計画を、少し見直さなければなるまいな。
俺がそんなことを考えていると、クレアが道の先を指差しながら言った。
「よし、あの鍛冶屋で装備を整えるぞ」
『うぃ~』
俺とクレアの二人が鍛冶屋の店内に入って行った。
そこは煤けた薄暗い鍛冶屋だった。
壁際には売り物の武器や甲冑が並んでいる。
反対側の壁際では職人たちがハンマーで焼けた鉄を叩いていた。
トンカントンカンと軽快に鉄の音を奏でている。
「あ~ら、いらっしゃいな。買い物ですか、お客さん」
店の置くから女将さんっぽいデブい女性が出て来る。
顔はブルドックのように厳ついが愛想は良かった。
クレアが俺を指差しながら言う。
「これの武器と防具を揃えてもらいたいのだが、いいかな?」
「はいはい、分かりました。それにしても体格の良い彼氏さんですね」
「彼氏ではない」
『えっ、そんな!?』
彼氏じゃない宣言されましたーー!!
なに、それ!!
同棲だってしてるのに、照れてるのですか、クレアさんはよ!!
「これは我が家に居候しているだけの木偶だ。断じて、そのような仲ではない」
『確かにただの木偶ですが、なんだか酷いな……』
俺とクレアのやり取りを無視して女将さんが話を進める。
「それで、彼氏さんはどんな防具がお好みですか?」
おお、この人はまだ俺を彼氏として認識してくれているよ。
たぶん、とても商売上手な良い人だな。
それか、心が水晶のように透き通った美しい女性なのだろう。
顔はブルドックだけどね。
まあ、とにかくだ。
買い物をさっさと済ませるか……。
『そうだな。防具はこの鱗鎧がいいかな~』
「あらら、スケールメイルですか。体格が良いのですから、そちらよりもプレートメイルのほうが良いのではないでしょうか?」
的確なオススメだな。
でも──。
『いや、スケールでいいんだよ。俺にもいろいろと考えがあってな』
「そうですか……。お客さんが、そう言うならば……」
女将さんは簡単に諦めてくれた。
意地でも自分のオススメを押し付けるアパレル系店員とは違うようだな。
助かったぜ。
「では、腕と下半身の防具はどうしますか?」
『ヘルムと脛当ては鉄鋼で、あとは要らないわ』
「えっ? 全身武装はしないのですか?」
『金が足りない』
「なるほど……。それがいろいろな理由のひとつですか……」
『分かってくれたか、女将さん。俺、貧乏なんだ~』
本当は暗器を使うためだ。
腕当てを着けていたらブレードが出せないからな。
腕と膝の刃物は生かしたいのだ。
「武器はこの剣をくれや」
俺は太身の長剣を手に取った。
刃渡り110センチぐらいで、刀身の長さは1.3メートルぐらいである。
「バスタードソードですね。良くお似合いですよ」
女将さんは揉み手をしながら微笑んだ。
おだてが上手い女将さんだぜ。
『クレア、お金を払っといて~』
「アナベル、貸しだからな。ちゃんと後で返すのだぞ」
『へいへい……』
もしかして、クレアって金にがめついのかな?
守銭奴なのか?
もっと太っ腹な女かと思っていたのにさ……。
女将さんが言う。
「商品はお持ち帰りですか、それともこちらで着ていきますか?」
まるでファーストフードの店員みたいだな……。
『これからオーガ討伐なんだ。だからここで着て行くよ』
「では、奥でお着替えくださいな」
『いや、ここでいいよ~』
俺が人懐っこい声で言うとクレアが言った。
「奥で着替えろ。騒ぎになるぞ」
『あ~、男が店内のド真ん中で堂々と着替えたら、変態だと思われちゃうか~』
「違う、ゴーレムたと知られるのが問題なんだ」
『なんだ、そっちか……。てか、今クレアがゴーレムだって暴露しちゃったよね?』
「真に受ける者も居ないだろう」
とにかく、女将さんも苦々しく笑っていたので、店の奥でヘルムを被り、スケールメイルを着込んで装着した。
その上にまたローブを纏う。
バスタードソードは背中に背負った。
こんな感じで俺の買い物が終わって鍛冶屋を出る。
そして旅立つために人混みを進み、俺たちはアッバーワクー城下町のゲートに向かう。
その途中で知った顔にバッタリと出会った。
「あっ……」
『お前は……』
そいつは凛々しいまでのリーゼントをポマードでテカらせていた。
正面ゲートを潜る直前で、人混みから現れたのは冒険者のグフザクだった。
以前俺たちの洞窟ハウスを襲撃してきた冒険者野郎の一人だ。
「傀儡の魔女と、ゴーレム野郎……」
『お前はグフザクだっけ?』
「お前ら、こんなところで何してるんだ?」
『デートだ』
「ただの買い物だ」
俺とクレアの話が食い違う。
「そうだよな、森の中だと足りない物もあるだろうから、人里に買い物にだってくるよな」
『畜生、この野郎ども。二人して俺の言葉を無視したな……』
「今日は領主殿にオーガ討伐を依頼されていてな。この木偶の装備を整えにきたのだ」
『木偶とか呼ぶな……』
「へぇ~、バスタードソードにスケールメイルか。でも、アナベルはパワーだけはあるんだからプレートメイルのほうがいいんじゃあないか?」
『俺はパワーだけじゃあないぞ。見よ、この暗器を!!』
俺はどや顔で、シャキーンっと腕からブレードを出して見せた。
それを見てクレアがツッコミを入れる。
「秘密にしているから暗器なのだぞ。自分から隠し武器をバラしてどうするのだ。貴様は馬鹿か」
『あー、人の事を馬鹿って言ったー。他人を馬鹿だって言うヤツが、本当は一番馬鹿なんだぞー。じいちゃんが死ぬ直前で言ってたぞ!!』
「貴様は子供か……」
「まるでガキだな……。ガキ過ぎて何もいえねぇ~わ~……」
クレアだけでなくグフザクの野郎まで呆れていやがる。
こいつら完全に俺を馬鹿にしているな。
だが、これこそ真の偽造なり。
馬鹿だと思わせておいて、本当は賢いのだ。
暗器以上に俺は俺を偽り隠しているのである。
こいつらは俺にまんまとだまされているのだ。
まさに作戦通りなり!!
なっ~~んてね~。
「まあ、そんなわけで私たちは急いでオーガたちを追わなくてはならない。なのでそろそろ行くぞ。次の被害は出せないからな」
「ああ、すまない。俺こそ引き止めてしまったな」
グフザクが手を振って俺たちを見送ろうとしていた。
そんなグフザクに俺は訊いてみる。
『お前もオーガ討伐に来るか? 報酬はないけれどさ』
グフザクは首を左右に振った。
「いや、俺は遠慮しておくよ。今回の事件は複雑な話しになっているからな。巻き込まれたくない」
『複雑な話って、なんだい?』
グフザクが自慢のリーゼントを俺らに近付けながら小声で言った。
「もう町では噂でな。傀儡の魔女がオーガ討伐をギルデン公に指示されたと……」
『それが、何故に複雑だ?』
「それがな……。息子のガルマル様が、手柄を横取りしようと兵士を数人連れて、昨晩のうちに城を出たとか……」
『横取り? それが何故に複雑なんだよ?』
俺には複雑過ぎて、グフザクが何を言いたいのか理解できなかった。
「ガルマル様は、手柄を横取りして、お前らはその程度だと辱しめたいんだよ」
『辱しめになるのか?』
「まあ、だから俺たち冒険者はオーガにすら手出しが出来ない。オーガ討伐はガルマル様の手柄にしないとならないからな。お前らの邪魔どころか、ガルマル様の邪魔したと言われて、貴族たちに目をつけられたくないからな……」
『なるほどね。困ったちゃんの困ったちゃんによる、困ったちゃんな嫌がらせなのね』
「言っている意味は分からんが、たぶん俺が言いたいことは伝わっていると思う……」
クレアが踵を返した。
「分かったわ。要するに、このオーガ討伐は、お坊ちゃまとの競争ってわけなのね」
だとしたら、俺たちはゆっくりし過ぎた。
ガルマルの野郎は昨晩のうちに城を発ったっていうじゃあねえか。
『クレア、俺たちは出遅れたな』
「そのようだな……」
あっ、クレアが珍しく悔しそうな顔をしたぞ。
クレアもあのゲス野郎には負けたくないんだな。
分かる、分かるぞ。
確かに、あの野郎には生理的に負けたくないわな。
「まあ、気をつけな。ガルマル様は陰険な策略家だ。なんか卑怯な手口で邪魔をしてくるかも知れないぞ」
『面白いね~。それも含めてオーガ退治のミッションってわけかい』
「よし、アナベル。そろそろ行くぞ」
そう言い残したクレアが人混みを歩き出した。
『じゃあな~、グフザクー。情報サンキュー』
俺はグフザクに手を振るとクレアの後ろを追いかけた。
今回のミッション成功条件が判明したぞ。
ガルマルお坊っちゃまより早くオーガ討伐を終了させろってことらしい。
さてさて、あのクズ野郎が、どんな面白い妨害を企んでいるか楽しみだわな~。
こうして俺とクレアはアッバーワクー城からオーガ退治に旅立った。
俺とクレアはアッバーワクー城の当主、ギルデン・ザビエル公の依頼によって、逃走したオーガ三体を追跡して討伐することになった。
今現在俺たち二人は傀儡の森を出て、アッバーワクー城元の城下町に来ていた。
目的は討伐の前に、主に俺の装備を整えるためである。
何せ俺には武器も防具もないからな。
あるのはゴーレムボディーとクレアが作ってくれた暗器だけだ。
ただのゴーレムなら十分な戦力だが、俺は知能を有した特殊なゴーレムである。
ならば人間同様に、武器で武装するのが当然の戦力アップだろう。
俺はフード付きのローブで顔を隠しながら城下町の商店街をクレアと二人で歩いていた。
クレアは偽造魔法で長耳を隠している。
人が溢れるストリートには様々な店が並んで賑わっていた。
その賑わいに煽られてか、俺はクレアと買い物デート気分で浮かれている。
なんだか気分がルンルンと弾んでいた。
何せ俺も女性と外出デートをするのは初めてだったから、何を話していいか分からすソワソワしてしまう。
でも、念願の二人っきりの初デートだ。
なんだかテンションが上がって仕方がない。
浮かれる俺とは違って、クレアが素っ気なく言った。
「とっとと鍛冶屋に向かって、貴様の武器と防具を揃えるぞ」
俺は内股で体をくねらせながら恥ずかしげに言った。
『ね~ね~、クレア。俺に似合う防具とかあるかな~? 格好いい武器とかあるかな~?』
「はぁ~……」
クレアが溜め息を吐いてから述べる。
「武器も防具も好きなのを選べ。予算は気にするな」
『えっ、おごりなの!?』
「なぜ、おごりだ? 」
クレアがキリッとした眼差しで俺を見た。
「何を言い出すのだ。貴様は無一文だから、私が立て替えるだけだぞ」
『えっ……?』
「ちゃんと稼げるようになったら返してもらうからな」
『マジか……』
おいおい、なんだよ……。
俺とクレアは同棲しているから、お財布は共有かと思っていたが、お小遣いせいだったのかよ……。
「私はお前の身なりや娯楽に費やす資金まで提供してやる気はないからな。遊びたいとか、身なりを整えたいなら、自分で働き自分で稼げ」
『そ、そうなのか……』
畜生……。
俺はクレアの紐としてやしなってもらいたかったのにさ。
ちょっと誤算だったぜ。
俺の人生計画を、少し見直さなければなるまいな。
俺がそんなことを考えていると、クレアが道の先を指差しながら言った。
「よし、あの鍛冶屋で装備を整えるぞ」
『うぃ~』
俺とクレアの二人が鍛冶屋の店内に入って行った。
そこは煤けた薄暗い鍛冶屋だった。
壁際には売り物の武器や甲冑が並んでいる。
反対側の壁際では職人たちがハンマーで焼けた鉄を叩いていた。
トンカントンカンと軽快に鉄の音を奏でている。
「あ~ら、いらっしゃいな。買い物ですか、お客さん」
店の置くから女将さんっぽいデブい女性が出て来る。
顔はブルドックのように厳ついが愛想は良かった。
クレアが俺を指差しながら言う。
「これの武器と防具を揃えてもらいたいのだが、いいかな?」
「はいはい、分かりました。それにしても体格の良い彼氏さんですね」
「彼氏ではない」
『えっ、そんな!?』
彼氏じゃない宣言されましたーー!!
なに、それ!!
同棲だってしてるのに、照れてるのですか、クレアさんはよ!!
「これは我が家に居候しているだけの木偶だ。断じて、そのような仲ではない」
『確かにただの木偶ですが、なんだか酷いな……』
俺とクレアのやり取りを無視して女将さんが話を進める。
「それで、彼氏さんはどんな防具がお好みですか?」
おお、この人はまだ俺を彼氏として認識してくれているよ。
たぶん、とても商売上手な良い人だな。
それか、心が水晶のように透き通った美しい女性なのだろう。
顔はブルドックだけどね。
まあ、とにかくだ。
買い物をさっさと済ませるか……。
『そうだな。防具はこの鱗鎧がいいかな~』
「あらら、スケールメイルですか。体格が良いのですから、そちらよりもプレートメイルのほうが良いのではないでしょうか?」
的確なオススメだな。
でも──。
『いや、スケールでいいんだよ。俺にもいろいろと考えがあってな』
「そうですか……。お客さんが、そう言うならば……」
女将さんは簡単に諦めてくれた。
意地でも自分のオススメを押し付けるアパレル系店員とは違うようだな。
助かったぜ。
「では、腕と下半身の防具はどうしますか?」
『ヘルムと脛当ては鉄鋼で、あとは要らないわ』
「えっ? 全身武装はしないのですか?」
『金が足りない』
「なるほど……。それがいろいろな理由のひとつですか……」
『分かってくれたか、女将さん。俺、貧乏なんだ~』
本当は暗器を使うためだ。
腕当てを着けていたらブレードが出せないからな。
腕と膝の刃物は生かしたいのだ。
「武器はこの剣をくれや」
俺は太身の長剣を手に取った。
刃渡り110センチぐらいで、刀身の長さは1.3メートルぐらいである。
「バスタードソードですね。良くお似合いですよ」
女将さんは揉み手をしながら微笑んだ。
おだてが上手い女将さんだぜ。
『クレア、お金を払っといて~』
「アナベル、貸しだからな。ちゃんと後で返すのだぞ」
『へいへい……』
もしかして、クレアって金にがめついのかな?
守銭奴なのか?
もっと太っ腹な女かと思っていたのにさ……。
女将さんが言う。
「商品はお持ち帰りですか、それともこちらで着ていきますか?」
まるでファーストフードの店員みたいだな……。
『これからオーガ討伐なんだ。だからここで着て行くよ』
「では、奥でお着替えくださいな」
『いや、ここでいいよ~』
俺が人懐っこい声で言うとクレアが言った。
「奥で着替えろ。騒ぎになるぞ」
『あ~、男が店内のド真ん中で堂々と着替えたら、変態だと思われちゃうか~』
「違う、ゴーレムたと知られるのが問題なんだ」
『なんだ、そっちか……。てか、今クレアがゴーレムだって暴露しちゃったよね?』
「真に受ける者も居ないだろう」
とにかく、女将さんも苦々しく笑っていたので、店の奥でヘルムを被り、スケールメイルを着込んで装着した。
その上にまたローブを纏う。
バスタードソードは背中に背負った。
こんな感じで俺の買い物が終わって鍛冶屋を出る。
そして旅立つために人混みを進み、俺たちはアッバーワクー城下町のゲートに向かう。
その途中で知った顔にバッタリと出会った。
「あっ……」
『お前は……』
そいつは凛々しいまでのリーゼントをポマードでテカらせていた。
正面ゲートを潜る直前で、人混みから現れたのは冒険者のグフザクだった。
以前俺たちの洞窟ハウスを襲撃してきた冒険者野郎の一人だ。
「傀儡の魔女と、ゴーレム野郎……」
『お前はグフザクだっけ?』
「お前ら、こんなところで何してるんだ?」
『デートだ』
「ただの買い物だ」
俺とクレアの話が食い違う。
「そうだよな、森の中だと足りない物もあるだろうから、人里に買い物にだってくるよな」
『畜生、この野郎ども。二人して俺の言葉を無視したな……』
「今日は領主殿にオーガ討伐を依頼されていてな。この木偶の装備を整えにきたのだ」
『木偶とか呼ぶな……』
「へぇ~、バスタードソードにスケールメイルか。でも、アナベルはパワーだけはあるんだからプレートメイルのほうがいいんじゃあないか?」
『俺はパワーだけじゃあないぞ。見よ、この暗器を!!』
俺はどや顔で、シャキーンっと腕からブレードを出して見せた。
それを見てクレアがツッコミを入れる。
「秘密にしているから暗器なのだぞ。自分から隠し武器をバラしてどうするのだ。貴様は馬鹿か」
『あー、人の事を馬鹿って言ったー。他人を馬鹿だって言うヤツが、本当は一番馬鹿なんだぞー。じいちゃんが死ぬ直前で言ってたぞ!!』
「貴様は子供か……」
「まるでガキだな……。ガキ過ぎて何もいえねぇ~わ~……」
クレアだけでなくグフザクの野郎まで呆れていやがる。
こいつら完全に俺を馬鹿にしているな。
だが、これこそ真の偽造なり。
馬鹿だと思わせておいて、本当は賢いのだ。
暗器以上に俺は俺を偽り隠しているのである。
こいつらは俺にまんまとだまされているのだ。
まさに作戦通りなり!!
なっ~~んてね~。
「まあ、そんなわけで私たちは急いでオーガたちを追わなくてはならない。なのでそろそろ行くぞ。次の被害は出せないからな」
「ああ、すまない。俺こそ引き止めてしまったな」
グフザクが手を振って俺たちを見送ろうとしていた。
そんなグフザクに俺は訊いてみる。
『お前もオーガ討伐に来るか? 報酬はないけれどさ』
グフザクは首を左右に振った。
「いや、俺は遠慮しておくよ。今回の事件は複雑な話しになっているからな。巻き込まれたくない」
『複雑な話って、なんだい?』
グフザクが自慢のリーゼントを俺らに近付けながら小声で言った。
「もう町では噂でな。傀儡の魔女がオーガ討伐をギルデン公に指示されたと……」
『それが、何故に複雑だ?』
「それがな……。息子のガルマル様が、手柄を横取りしようと兵士を数人連れて、昨晩のうちに城を出たとか……」
『横取り? それが何故に複雑なんだよ?』
俺には複雑過ぎて、グフザクが何を言いたいのか理解できなかった。
「ガルマル様は、手柄を横取りして、お前らはその程度だと辱しめたいんだよ」
『辱しめになるのか?』
「まあ、だから俺たち冒険者はオーガにすら手出しが出来ない。オーガ討伐はガルマル様の手柄にしないとならないからな。お前らの邪魔どころか、ガルマル様の邪魔したと言われて、貴族たちに目をつけられたくないからな……」
『なるほどね。困ったちゃんの困ったちゃんによる、困ったちゃんな嫌がらせなのね』
「言っている意味は分からんが、たぶん俺が言いたいことは伝わっていると思う……」
クレアが踵を返した。
「分かったわ。要するに、このオーガ討伐は、お坊ちゃまとの競争ってわけなのね」
だとしたら、俺たちはゆっくりし過ぎた。
ガルマルの野郎は昨晩のうちに城を発ったっていうじゃあねえか。
『クレア、俺たちは出遅れたな』
「そのようだな……」
あっ、クレアが珍しく悔しそうな顔をしたぞ。
クレアもあのゲス野郎には負けたくないんだな。
分かる、分かるぞ。
確かに、あの野郎には生理的に負けたくないわな。
「まあ、気をつけな。ガルマル様は陰険な策略家だ。なんか卑怯な手口で邪魔をしてくるかも知れないぞ」
『面白いね~。それも含めてオーガ退治のミッションってわけかい』
「よし、アナベル。そろそろ行くぞ」
そう言い残したクレアが人混みを歩き出した。
『じゃあな~、グフザクー。情報サンキュー』
俺はグフザクに手を振るとクレアの後ろを追いかけた。
今回のミッション成功条件が判明したぞ。
ガルマルお坊っちゃまより早くオーガ討伐を終了させろってことらしい。
さてさて、あのクズ野郎が、どんな面白い妨害を企んでいるか楽しみだわな~。
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