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第25話【少年の骨折】
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俺とクレア、それに近くの村からやって来たじいさんが傀儡の森を出たのは昼前の午前である。
バーコードヘアーの貧乏そうなじいさんがやって来たのは、グラナダと言う農村かららしい。
『なあ、じいさん、俺はアナベルだ。じいさんの名前は?』
「ジ、ジムと申します……」
んん~、やっぱり怯えているな。
そりゃあそうだろうな。
目の前で人語をしゃべるゴーレムが一緒に歩いているんだもの。
まあ、いいさ。
いずれは慣れるだろうってばよ。
俺は診察鞄をブンブンと振り回しながら草原を歩いた。
なんか、気分が浮かれる。
何せ、この数ヶ月間、森から出た事がなかったからな。
この異世界に来て、始めて森から出るのだ。
そりゃあ気分も浮かれるよね~。
のびのびとした広い景色も悪くない。
そして俺が草原の先を見ると何軒かの家が見えた。
周りには羊が遊牧されている。
『あれが、グラナダの村か?』
「は、はい……」
じいさんが返事をすると、クレアの歩く速度が一段と速くなる。
彼女は隠蔽魔法で姿が人間のように変わっていた。
っと、言っても、尖った長耳が短くなっているだけだ。
銀髪も褐色の肌もいつもと同じだし、美貌も美乳も美尻もいつもと変わらない。
変わっているのは地味なメイド服ではなく、タイトスカートに白衣を纏っているぐらいだ。
女医っぽくて、これはこれでかなりありである。
マニアックなコスプレだな。
とにかくハイヒールで踏まれたい。
俺は先を急ぐクレアの背中に言ってやった。
『そんなに慌てるなよ、クレア。俺はお前ほど足が速くないんだ。それに老人も一緒なんだぞ~』
俺の言葉を聞いたクレアの歩みが緩やかになる。
でも、振り返りもしない。
『もう、ツンデレさんなんだから~♡』
俺の言葉は無視される。
やがて俺たち三人はグラナダの村に到着した。
俺たちはバーコードのじいさんに導かれて一軒のボロ屋に招かれる。
『狭い、汚い、臭そうだ……』
ボロ屋に入って俺の一言目がそれだった。
マジで狭くてボロくてきたない。
俺には嗅覚がないので臭いはイメージである。
「失礼だぞ、アナベル」
『ごめんちゃい、クレア……』
クレアに怒られましたがな……。
「私に謝らず、家の人に謝れ」
『くぅ……』
また、怒られた……。
バーコードじいさんが言う。
「私は構いません。それよりも奥にどうぞ……」
俺たちはボロ屋の奥に通される。
そこは四畳半程度の狭い部屋で、ベッドに子供が一人寝ていた。
この子が足を骨折した子供だろう。
五歳から六歳の男の子である。
その横に母親らしき女性が心配そうな顔で腰掛けていた。
子供は汗だくで魘されている。
母親は心配そうに子供の汗をタオルで拭っていた。
するとバーコードのじいさんが言う。
「傀儡の魔女様が診察してくれるそうだべさ」
「本当ですか!? ありがとうございます。傀儡の魔女さま!!」
子供のお母さんだと思われる女性は両手を合わせて祈るように感謝していた。
その女性を退けたクレアは、子供が寝るベッドの横に腰掛ける。
そして、折れた子供の足を診察し始めた。
「アナベル、鞄をよこせ……」
『ほらよ』
俺が鞄を渡すとクレアは中から塗り薬の入った小さな壺を取り出した。
その壺からネバネバの薬を救い出すと少年の折れた足にネチョネチョと塗ったくる。
そして、当て木を添えると包帯で固定した。
「これで一先ず様子を見よう」
言ってからクレアはネチョネチョの塗り薬が入った壺と、飲み薬が入った小瓶を二つ、女性に渡した。
「塗り薬は毎朝足に濡れ。こっちの丸薬は食後に一錠飲みなさい。こっちの丸薬は痛み止めだ。子供が痛がったら飲ませなさい。ただし、一日三錠までだぞ」
「ありがとうございます、ありがとうございます!!」
薬を受け取った母親は泣きながら感謝していた。
その姿を残して俺たちはボロ屋を出る。
最後にクレアがバーコードのじいさんに言う。
「薬が無くなったら、また森に来るといい」
「あ、あの、お代は……」
「また、ベーコンでも構わんぞ」
「あ、ありがとうございますだ!!」
バーコードのじいさんも泣きながら感謝していた。
なんか感謝されるって気持ちがいいな~。
いや、俺が感謝されているわけではないが……。
そして、俺たちがボロ屋の前を立ち去ろうとした時だった。
馬に股がった金持ち風の若者が俺たちの眼前を疾走して行く。
危うく俺は走る馬と接触しそうになった。
『危ねえな!!』
俺が怒鳴ろうとした刹那、更に三頭の馬が走り抜ける。
今度は騎士風の三名だった。
『マジで危ないぞ、あいつら!!』
俺が騎馬たちの背中に悪態を吐くと、バーコードのじいさんが言う。
「この辺を納める領主さまの息子ですだ……」
『領主の息子?』
「あの方に孫が馬で跳ねられたのですだ」
『ひでぇ~な~。謝罪はあったのか? 賠償金はせしめられたのか?』
「謝罪なんて……。領主様から見たらワシら農民は道端に落ちている石コロ同然ですだ。怪我をしようと死のうと気にも止めませんがな……」
じいさんはショボくれて俯いた。
『これだから貴族階級ってのは傲慢で嫌だね~』
俺がチラリとクレアの様子を伺うと、彼女は怒っていた。
ドス黒いオーラが肩から揺らぎ出ている。
いつも澄ました表情なのに、今は眉間に深い縦皺を三本も刻んでいた。
『ええぇ……』
俺は恐る恐るクレアに訊いてみた。
『クレア、怒ってますか……?』
「怒っているわ」
『な、何でさ……』
「私は根っからのショタコンだから」
クレアって、ショタコン娘だったのかよ!!!
今回の件に深く首を突っ込む理由が理解できたわん!!
バーコードヘアーの貧乏そうなじいさんがやって来たのは、グラナダと言う農村かららしい。
『なあ、じいさん、俺はアナベルだ。じいさんの名前は?』
「ジ、ジムと申します……」
んん~、やっぱり怯えているな。
そりゃあそうだろうな。
目の前で人語をしゃべるゴーレムが一緒に歩いているんだもの。
まあ、いいさ。
いずれは慣れるだろうってばよ。
俺は診察鞄をブンブンと振り回しながら草原を歩いた。
なんか、気分が浮かれる。
何せ、この数ヶ月間、森から出た事がなかったからな。
この異世界に来て、始めて森から出るのだ。
そりゃあ気分も浮かれるよね~。
のびのびとした広い景色も悪くない。
そして俺が草原の先を見ると何軒かの家が見えた。
周りには羊が遊牧されている。
『あれが、グラナダの村か?』
「は、はい……」
じいさんが返事をすると、クレアの歩く速度が一段と速くなる。
彼女は隠蔽魔法で姿が人間のように変わっていた。
っと、言っても、尖った長耳が短くなっているだけだ。
銀髪も褐色の肌もいつもと同じだし、美貌も美乳も美尻もいつもと変わらない。
変わっているのは地味なメイド服ではなく、タイトスカートに白衣を纏っているぐらいだ。
女医っぽくて、これはこれでかなりありである。
マニアックなコスプレだな。
とにかくハイヒールで踏まれたい。
俺は先を急ぐクレアの背中に言ってやった。
『そんなに慌てるなよ、クレア。俺はお前ほど足が速くないんだ。それに老人も一緒なんだぞ~』
俺の言葉を聞いたクレアの歩みが緩やかになる。
でも、振り返りもしない。
『もう、ツンデレさんなんだから~♡』
俺の言葉は無視される。
やがて俺たち三人はグラナダの村に到着した。
俺たちはバーコードのじいさんに導かれて一軒のボロ屋に招かれる。
『狭い、汚い、臭そうだ……』
ボロ屋に入って俺の一言目がそれだった。
マジで狭くてボロくてきたない。
俺には嗅覚がないので臭いはイメージである。
「失礼だぞ、アナベル」
『ごめんちゃい、クレア……』
クレアに怒られましたがな……。
「私に謝らず、家の人に謝れ」
『くぅ……』
また、怒られた……。
バーコードじいさんが言う。
「私は構いません。それよりも奥にどうぞ……」
俺たちはボロ屋の奥に通される。
そこは四畳半程度の狭い部屋で、ベッドに子供が一人寝ていた。
この子が足を骨折した子供だろう。
五歳から六歳の男の子である。
その横に母親らしき女性が心配そうな顔で腰掛けていた。
子供は汗だくで魘されている。
母親は心配そうに子供の汗をタオルで拭っていた。
するとバーコードのじいさんが言う。
「傀儡の魔女様が診察してくれるそうだべさ」
「本当ですか!? ありがとうございます。傀儡の魔女さま!!」
子供のお母さんだと思われる女性は両手を合わせて祈るように感謝していた。
その女性を退けたクレアは、子供が寝るベッドの横に腰掛ける。
そして、折れた子供の足を診察し始めた。
「アナベル、鞄をよこせ……」
『ほらよ』
俺が鞄を渡すとクレアは中から塗り薬の入った小さな壺を取り出した。
その壺からネバネバの薬を救い出すと少年の折れた足にネチョネチョと塗ったくる。
そして、当て木を添えると包帯で固定した。
「これで一先ず様子を見よう」
言ってからクレアはネチョネチョの塗り薬が入った壺と、飲み薬が入った小瓶を二つ、女性に渡した。
「塗り薬は毎朝足に濡れ。こっちの丸薬は食後に一錠飲みなさい。こっちの丸薬は痛み止めだ。子供が痛がったら飲ませなさい。ただし、一日三錠までだぞ」
「ありがとうございます、ありがとうございます!!」
薬を受け取った母親は泣きながら感謝していた。
その姿を残して俺たちはボロ屋を出る。
最後にクレアがバーコードのじいさんに言う。
「薬が無くなったら、また森に来るといい」
「あ、あの、お代は……」
「また、ベーコンでも構わんぞ」
「あ、ありがとうございますだ!!」
バーコードのじいさんも泣きながら感謝していた。
なんか感謝されるって気持ちがいいな~。
いや、俺が感謝されているわけではないが……。
そして、俺たちがボロ屋の前を立ち去ろうとした時だった。
馬に股がった金持ち風の若者が俺たちの眼前を疾走して行く。
危うく俺は走る馬と接触しそうになった。
『危ねえな!!』
俺が怒鳴ろうとした刹那、更に三頭の馬が走り抜ける。
今度は騎士風の三名だった。
『マジで危ないぞ、あいつら!!』
俺が騎馬たちの背中に悪態を吐くと、バーコードのじいさんが言う。
「この辺を納める領主さまの息子ですだ……」
『領主の息子?』
「あの方に孫が馬で跳ねられたのですだ」
『ひでぇ~な~。謝罪はあったのか? 賠償金はせしめられたのか?』
「謝罪なんて……。領主様から見たらワシら農民は道端に落ちている石コロ同然ですだ。怪我をしようと死のうと気にも止めませんがな……」
じいさんはショボくれて俯いた。
『これだから貴族階級ってのは傲慢で嫌だね~』
俺がチラリとクレアの様子を伺うと、彼女は怒っていた。
ドス黒いオーラが肩から揺らぎ出ている。
いつも澄ました表情なのに、今は眉間に深い縦皺を三本も刻んでいた。
『ええぇ……』
俺は恐る恐るクレアに訊いてみた。
『クレア、怒ってますか……?』
「怒っているわ」
『な、何でさ……』
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