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第23話【朝食の約束】
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洞窟ハウスが朝日を燦々と浴びるころに、俺は庭先の広場に長テーブルと椅子を七つ並べた。
そのテーブルにクレアがサラダとスープ、それにキツネの竜田揚げを盛り付けた皿を置く。
食器は六人分だ。
『なあ、クレア。パンは全部出してもいいのか?』
「構わんだろ。失くなるなら、また午後から焼けばいい」
『分かった』
俺がテーブルに山盛りのパンを置くと、庭の隅で冒険者たち五名が、ぼぉ~っと立ち尽くしていた。
もう彼らは拘束していたロープをほどかれている。
武器こそ返されていないが、逃げようと思えばいつでも逃げれる状況だ。
俺とクレアは、そんな中で朝食の準備をしていた。
「まあ、朝食だからな。この程度の簡単な物でいいだろう」
俺は振り返ると冒険者たちに言った。
『よう、お前たち、こっちきて朝飯を食いやがれ』
「「「「「あ、ああ……」」」」」
冒険者たちはそれぞれの顔を見合わせると、ゆっくりとした足取りでテーブルに近付いた。
まだ警戒している。
クレアがお誕生日席に座ると、その左側に俺は腰かけた。
そして冒険者たちもそれぞれ空いている席に恐る恐るだが腰を下ろした。
クレアと冒険者たちの前には熱々のスープとシャキシャキの皿だが並んでいる。
俺はテーブルの中央に置かれた大皿を手に取ると、クレアにパンを進めた。
クレアがパンを一つ取ると、続いて冒険者たちにもパンを進める。
冒険者たちは戸惑いながらもパンを受け取った。
そして、食事が始まる。
皆がパンを齧り、スープを啜る中で俺は置物の人形のように座っているだけだった。
食事の手を休めたグフザクが俺に訊いてくる。
「アナベル、お前は食べないのか?」
俺は自分の顔を指差しながら答えた。
『ああ、口も胃袋もないゴーレムだからな。食いたくても食べれない。だから俺は気にしないで朝食を楽しんでくれ』
「あ、ああ……」
続いてクレアが言う。
「この木偶の坊はいつもそうなのだ。私の食事風景をマジマジと見ているだけだからな」
それはお前の食べ方がエロいからだ。
細い指でパンを摘まみ、ゆっくりと口に運ぶと嫌らしく齧る仕草、長い銀髪をかき上げながらスプーンで音もなく静かにスープを啜る仕草、何もかもがエロいのだ。
本人は意識していないのだろうが、とにかくエロい。
これはダークエルフの特性なのだろうか?
それともクレア一人の特性なのだろうか?
どちらにしろ毎日三食眺めていても飽きないほどにエロいのは間違いないのだ。
冒険者五名がクレアの食べる仕草を凝視しながら生唾を飲み込んだ。
そして、声を揃えて言う。
「「「「「なるほどね……」」」」」
うむ、どうやら俺の思いが伝わったようだな。
やはりクレアは誰が見ても天然的にエロいのだろう。
そして、時間は過ぎて朝食を食べ終わる、
まだ、食器が残るテーブルを囲みながら俺たちは本題に入った。
『じゃあ、そろそろ本題に入ろうか、冒険者諸君』
皆が頷く。
『まず、俺たち二人は、町ではどう語られているんだよ。野盗か?』
グフザクが答える。
「いや、ある旅商人が街道でダークエルフ女のゴーレムマスターに出会ったと酒場で放していただけだ」
続いて魔法使いが言う。
「この辺でゴーレムマスターと言えば傀儡の魔女と呼ばれるマリアンヌだろう。そもそも彼女の噂は悪くない。だから、マリアンヌの関係者かも知れないと噂されているだけだわい」
『様子るに、俺たち二人は悪者として認識はされていないってわけだな』
「そうだ。たぶんだがな」
『善人ってわけでもないんだよね』
「そうだな」
俺とクレアは目を合わせた。
アイコンタクトだけで何が言いたいか分かる。
クレアの冷めた表情からも安堵の色が伺えた。
「まあ、マリアンヌ様は、時折だが、館に来る村の者たちに薬草などを調合して分けてやっていたからな」
マリアンヌは人に迷惑をかけている悪い魔女って感じではなかったのだろう。
むしろ良い人だ。
『ならよ~、お前らにお願いがあるんだが、いいか?』
「なんだ?」
『マリアンヌは老衰で亡くなったんだ。館も魔力が切れて焼け落ちた。それを近隣の村や町の人に伝えてもらいたい』
魔法使いが驚いた表情で言う。
「傀儡の魔女は不老と聞いていたが、本当に死んだのか!?」
クレアが言う。
「魔法は万能ではない。永遠は保てない。貴様も魔法使いの端くれなら、それは心得ているだろう。マリアンヌ様も老衰には、かなわなかったのだよ」
「そ、そうなのか……」
俺はクレアの肩に手を乗せながら言う。
『そして、彼女クレアはマリアンヌの一番弟子だ』
冒険者たちが「おお~~っ」と僅かに驚く。
『まあ、話を戻そう。そこでお前らを逃がしてやる代わりに俺たちからもお願いがある』
五人が俺を凝視した。
俺はクレアを指差しながら言った。
『クレアが二台目の傀儡の魔女を引き継ぐから、今後ともよろしくって広めてくれないか』
「二台目、傀儡の魔女……」
「俺たちに、それを広めろって……」
『あぁ、別に丹念に村人ひとりひとりを捕まえて、分かりやすく説明しろってわけじゃあない。酒場で何気なく飲みながら傀儡の魔女の話をしてくれればいいんだよ』
「なるほど……」
クレアが言った。
「私も薬草の調合ならかのうだ。何か必要な薬があるのならば拵えてやっても構わんぞ。勿論、多少は金品を要求するがな」
無料は嫌なのね……。
グフザクが言う。
「要するに、あんたらは、人間に危害を加えるような野蛮なゴーレムマスターではないと言うんだな。それを広めてもらいたいと?」
『伊達にリーゼントじゃあねえな。俺が言いたいことが理解できたか』
「そんなに誉めるなよ~」
グフザクは嬉しそうにリーゼントを整える。
『まあ、その条件が飲めるのなら、武器を全部かえしてやるぞ』
「問題ない。その約束を果たそう」
グフザクが謂うと他の冒険者たちも頷いて同意した。
それを確認した俺は席を立つと回収した武器を取りに行く。
俺が複数の武器を抱えて戻ってくると、テーブルの上の食器は片付けられていた。
なので俺は武器をテーブルの上に置いた。
ガシャンっと音が鳴る。
すると冒険者たちが挙って自分の武器を回収し始めた。
軽戦士が言う。
「俺のショートボウは弦が切れちまってるよ……。とほほ……、このボウって上物だったのによ……」
グフザクが言う。
「おお、俺のダガーが二本ともちゃんとあるじゃんか。パクられるかと思ってヒヤヒヤだったのによ」
しまった。
マジックアイテムぐらいパクればよかったぜ!
クレアがテーブルに頬杖をつきながら言う。
「パクるか。そんなにせこくないぞ」
なに、俺ががめついのか?
それよりも──。
俺はグフザクの肩に手を乗せると言ってやった。
『なあ、グフザク』
「なんだ、アナベル?」
『とにかく、俺たちは平和に暮らしたいだけなんだ。その辺をよろしく頼むぜ』
「分かったよ、フレンド」
フレンドか~。
悪くないかな~。
そして冒険者たちは昼になる前には帰っていった。
俺は手を振って見送る。
『じゃあな~、気を付けて帰れよ~』
冒険者は森の中に消えて行った。
するとクレアが俺の背後から話し掛けてきた。
「これで良かったのか?」
『これでいいんだよ。下手に人間と揉めると厄介だからな』
「そうじゃない」
『えっ?』
俺は振り返りクレアの顔を見た。
彼女は自然体で言う。
「冒険者は全員が男だっただろ。ならば一人ぐらいチ◯コを見せてくれたんじゃあないのか?」
『忘れてた!!』
アナベル、痛恨のミスである。
そのテーブルにクレアがサラダとスープ、それにキツネの竜田揚げを盛り付けた皿を置く。
食器は六人分だ。
『なあ、クレア。パンは全部出してもいいのか?』
「構わんだろ。失くなるなら、また午後から焼けばいい」
『分かった』
俺がテーブルに山盛りのパンを置くと、庭の隅で冒険者たち五名が、ぼぉ~っと立ち尽くしていた。
もう彼らは拘束していたロープをほどかれている。
武器こそ返されていないが、逃げようと思えばいつでも逃げれる状況だ。
俺とクレアは、そんな中で朝食の準備をしていた。
「まあ、朝食だからな。この程度の簡単な物でいいだろう」
俺は振り返ると冒険者たちに言った。
『よう、お前たち、こっちきて朝飯を食いやがれ』
「「「「「あ、ああ……」」」」」
冒険者たちはそれぞれの顔を見合わせると、ゆっくりとした足取りでテーブルに近付いた。
まだ警戒している。
クレアがお誕生日席に座ると、その左側に俺は腰かけた。
そして冒険者たちもそれぞれ空いている席に恐る恐るだが腰を下ろした。
クレアと冒険者たちの前には熱々のスープとシャキシャキの皿だが並んでいる。
俺はテーブルの中央に置かれた大皿を手に取ると、クレアにパンを進めた。
クレアがパンを一つ取ると、続いて冒険者たちにもパンを進める。
冒険者たちは戸惑いながらもパンを受け取った。
そして、食事が始まる。
皆がパンを齧り、スープを啜る中で俺は置物の人形のように座っているだけだった。
食事の手を休めたグフザクが俺に訊いてくる。
「アナベル、お前は食べないのか?」
俺は自分の顔を指差しながら答えた。
『ああ、口も胃袋もないゴーレムだからな。食いたくても食べれない。だから俺は気にしないで朝食を楽しんでくれ』
「あ、ああ……」
続いてクレアが言う。
「この木偶の坊はいつもそうなのだ。私の食事風景をマジマジと見ているだけだからな」
それはお前の食べ方がエロいからだ。
細い指でパンを摘まみ、ゆっくりと口に運ぶと嫌らしく齧る仕草、長い銀髪をかき上げながらスプーンで音もなく静かにスープを啜る仕草、何もかもがエロいのだ。
本人は意識していないのだろうが、とにかくエロい。
これはダークエルフの特性なのだろうか?
それともクレア一人の特性なのだろうか?
どちらにしろ毎日三食眺めていても飽きないほどにエロいのは間違いないのだ。
冒険者五名がクレアの食べる仕草を凝視しながら生唾を飲み込んだ。
そして、声を揃えて言う。
「「「「「なるほどね……」」」」」
うむ、どうやら俺の思いが伝わったようだな。
やはりクレアは誰が見ても天然的にエロいのだろう。
そして、時間は過ぎて朝食を食べ終わる、
まだ、食器が残るテーブルを囲みながら俺たちは本題に入った。
『じゃあ、そろそろ本題に入ろうか、冒険者諸君』
皆が頷く。
『まず、俺たち二人は、町ではどう語られているんだよ。野盗か?』
グフザクが答える。
「いや、ある旅商人が街道でダークエルフ女のゴーレムマスターに出会ったと酒場で放していただけだ」
続いて魔法使いが言う。
「この辺でゴーレムマスターと言えば傀儡の魔女と呼ばれるマリアンヌだろう。そもそも彼女の噂は悪くない。だから、マリアンヌの関係者かも知れないと噂されているだけだわい」
『様子るに、俺たち二人は悪者として認識はされていないってわけだな』
「そうだ。たぶんだがな」
『善人ってわけでもないんだよね』
「そうだな」
俺とクレアは目を合わせた。
アイコンタクトだけで何が言いたいか分かる。
クレアの冷めた表情からも安堵の色が伺えた。
「まあ、マリアンヌ様は、時折だが、館に来る村の者たちに薬草などを調合して分けてやっていたからな」
マリアンヌは人に迷惑をかけている悪い魔女って感じではなかったのだろう。
むしろ良い人だ。
『ならよ~、お前らにお願いがあるんだが、いいか?』
「なんだ?」
『マリアンヌは老衰で亡くなったんだ。館も魔力が切れて焼け落ちた。それを近隣の村や町の人に伝えてもらいたい』
魔法使いが驚いた表情で言う。
「傀儡の魔女は不老と聞いていたが、本当に死んだのか!?」
クレアが言う。
「魔法は万能ではない。永遠は保てない。貴様も魔法使いの端くれなら、それは心得ているだろう。マリアンヌ様も老衰には、かなわなかったのだよ」
「そ、そうなのか……」
俺はクレアの肩に手を乗せながら言う。
『そして、彼女クレアはマリアンヌの一番弟子だ』
冒険者たちが「おお~~っ」と僅かに驚く。
『まあ、話を戻そう。そこでお前らを逃がしてやる代わりに俺たちからもお願いがある』
五人が俺を凝視した。
俺はクレアを指差しながら言った。
『クレアが二台目の傀儡の魔女を引き継ぐから、今後ともよろしくって広めてくれないか』
「二台目、傀儡の魔女……」
「俺たちに、それを広めろって……」
『あぁ、別に丹念に村人ひとりひとりを捕まえて、分かりやすく説明しろってわけじゃあない。酒場で何気なく飲みながら傀儡の魔女の話をしてくれればいいんだよ』
「なるほど……」
クレアが言った。
「私も薬草の調合ならかのうだ。何か必要な薬があるのならば拵えてやっても構わんぞ。勿論、多少は金品を要求するがな」
無料は嫌なのね……。
グフザクが言う。
「要するに、あんたらは、人間に危害を加えるような野蛮なゴーレムマスターではないと言うんだな。それを広めてもらいたいと?」
『伊達にリーゼントじゃあねえな。俺が言いたいことが理解できたか』
「そんなに誉めるなよ~」
グフザクは嬉しそうにリーゼントを整える。
『まあ、その条件が飲めるのなら、武器を全部かえしてやるぞ』
「問題ない。その約束を果たそう」
グフザクが謂うと他の冒険者たちも頷いて同意した。
それを確認した俺は席を立つと回収した武器を取りに行く。
俺が複数の武器を抱えて戻ってくると、テーブルの上の食器は片付けられていた。
なので俺は武器をテーブルの上に置いた。
ガシャンっと音が鳴る。
すると冒険者たちが挙って自分の武器を回収し始めた。
軽戦士が言う。
「俺のショートボウは弦が切れちまってるよ……。とほほ……、このボウって上物だったのによ……」
グフザクが言う。
「おお、俺のダガーが二本ともちゃんとあるじゃんか。パクられるかと思ってヒヤヒヤだったのによ」
しまった。
マジックアイテムぐらいパクればよかったぜ!
クレアがテーブルに頬杖をつきながら言う。
「パクるか。そんなにせこくないぞ」
なに、俺ががめついのか?
それよりも──。
俺はグフザクの肩に手を乗せると言ってやった。
『なあ、グフザク』
「なんだ、アナベル?」
『とにかく、俺たちは平和に暮らしたいだけなんだ。その辺をよろしく頼むぜ』
「分かったよ、フレンド」
フレンドか~。
悪くないかな~。
そして冒険者たちは昼になる前には帰っていった。
俺は手を振って見送る。
『じゃあな~、気を付けて帰れよ~』
冒険者は森の中に消えて行った。
するとクレアが俺の背後から話し掛けてきた。
「これで良かったのか?」
『これでいいんだよ。下手に人間と揉めると厄介だからな』
「そうじゃない」
『えっ?』
俺は振り返りクレアの顔を見た。
彼女は自然体で言う。
「冒険者は全員が男だっただろ。ならば一人ぐらいチ◯コを見せてくれたんじゃあないのか?」
『忘れてた!!』
アナベル、痛恨のミスである。
応援ありがとうございます!
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