上 下
588 / 604

第587話【デビルサマナー]

しおりを挟む
「それじゃあ、久々に、あなたがどれほど強くなったか見て上げましょうか」

黒山羊頭を被った少女Aが自信に満ちた口調で言った。

片方の肩に鉈を背負う。

それに引き換えアスランは弱々しい口調で返す。

グラディウスを低い位置に構える。

「見るって、やっぱり戦うのか……」

「当然よ。それ意外に、どう計るのよ?」

「チンチンの大きさとかで……」

「これだから、器とは言え変態の子守りは嫌なのよ!!」

黒山羊頭を被った少女Aが左手の掌を前に付き出した。

その掌内で魔法陣がキラメキだす。

「マジックバズーカ!!」

「ぬおっ!!」

突如の風圧にアスランの身体が吹き飛びそうになる。

以前も使っていた重力方向変更魔法だ。

しかし、身体が後方に吹き飛びそうになるのをアスランは片足を後ろに伸ばして身体を支える。

踏ん張って耐えた。

「この魔法は……」

記憶と違う。

アスランは衝撃波を浴びながら、そう考えていた。

印象が以前と違うのだ。

以前、この魔法を食らった際には、トラックに激突されたかのような衝撃が全身を突き飛ばした感覚だったが、今回は違う。

凄い威力なのは間違いない。

間違い無いのだが、吹き飛ばされるほどの衝撃波でもない。

まるで、突進して来たトラックを、今回は自力で受け止めたかのような衝撃だった。

耐えられるってことだ。

「これは……」

アスランは奥歯を噛み締めながら踏ん張っていた。

そして、Xの字に重ねた腕の隙間から少女Aを睨み付ける。

「やはり、そうだ。間違いない。俺は強くなっている。これなら行けるぞ!」

魔法を放ち終わった少女Aが腕を下げると、感心したような声色で言った。

「マジックバズーカを耐えるなんて、どうやら少しは強くなっているようね。そうでなくては悪魔の器は勤まらないわ」

「ふぅ~~……!」

深呼吸。

アスランは息を吐きながらX字に重ねた両腕を空手家のように脇に切る。

「感心している場合じゃあねえぞ。今回は俺がお前をギタンギタンにしてやるからな!!」

自信がアスランの相貌に燃えていた。

だが、少女Aの自信は威圧と共に揺るがない。

「ちょっと強くなったからって、強気に出るところが子供ね」

「テメーこそ、ちょっと可愛いからって調子こくなよ」

「可愛いのは事実よ」

「とうっ!!」

今度はアスランから攻めた。

グラディウスを背後に大きく振りかぶりながら少女Aに迫る。

そして、剣技のスキルを発動した。

「スマッシュウェポン!!」

横ふりのロングソードが少女Aの放つ威圧感を切り裂きながら黒山羊頭に迫った。

剣の狙いは首だ。

「そぉぉおおおらああ!!」

「甘い!」

横ふりの切っ先が少女Aの首筋にヒットすると思えた刹那、彼女が掌を前に出して魔法を唱えた。

「クラビティーバズーカ!!」

「ぬほっ!!!」

アスランの胸元に伸ばされた少女Aの掌からマジックバズーカを上回る衝撃波が放たれた。

その衝撃にアスランの皮鎧がへこんで身体が後方に飛ばされる。

凄まじい衝撃に肺が瞑れそうだった。

瞬時に体内の空気をすべて吐き出す。

そしてアスランは第九の上をコロコロと転がると場外に転落する。

町中に落ちて行った。

少女Aが余裕な口調で言う。

「マジックバズーカの上位魔法よ」

前に歩いた少女Aは第九の上から転落したアスランを追って第九から飛び降りた。

そして、瓦屋根に着地する。

「ぐ、ぐぞぉ……」

アスランは瓦屋根の上に大の字で倒れていた。

転落だメーシよりも魔法を受けた胸のダメージのほうが大きい。

だが、それでもへこんだ鎧の胸を押さえながら立ち上がる。

「ちくしょう、魔法のランクを上げやがったな……」

口の中に血の味がする。

口の中を切ったのとは違う感じだ。

喉の奥から上がって来た血だ。

体内で出血しているのだろう。

「セルフヒール。よし、これで帳消しだ!」

「これで、分かったわよね。結局は私の魔法は防御不可なのよ」

「ならば、食らわなければいいだけだ!!」

アスランが自分の転落で割れた瓦を蹴り上げた。

数個の破片が少女Aに迫る。

「グラビティープレス!」

重力倍増魔法だ。

蹴り飛ばされた瓦の破片が少女Aの目の前で、垂直落下方向に曲がって下に落ちた。

更に瓦片が落ちただけではない。

少女Aの前方1メートル範囲の屋根が丸々と崩れて抜け落ちる。

屋根に大きな穴が開いた。

瓦片を撃ち落とすために屋根事巻き込んだのだ。

「とうっ!」

そして、少女Aは自分で開けた穴を飛び越えてアスランに迫る。

頭上に振り上げている殺伐とした鉈が太陽の光を反射させていた。

殺気と共に降って来る。

「私が上なのは、魔法だけじゃあないわよ!!」

振り下ろされる鉈の一撃。

アスランはグラディウスを横に構えて鉈を防いだ。

剣が鉈を受け止めると激音を響かせる。

「重いっ!!」

すると強い衝撃にアスランの腰が僅かに沈んだ。

沈んだのは腰だけじゃあない。

踏ん張った衝撃で瓦を割り砕いて踵も沈んだ。

「それっ!!」

更に少女Aの垂直ジャンプからの上段前蹴りがしなやかに放たれた。

高く振り上げた少女Aの踵がアスランの顎先を蹴り上げる。

「ぐはっ!!」

モロに顎を蹴り上げられていた。

蹴られたアスランが空を見る。

だが、空を見る寸前だ。

蹴られる寸前である。

別の物が見えた。

パンツだ。

「じゅ、純白だった……」

アスランは呟きながら転倒すると、ガラガラと転がりながら屋根から落ちる。

アスランは裏路地の路上に落ちる刹那に身体を翻し足から綺麗に着地した。

そして、屋根を見上げながら睨みを利かせる。

そこには少女Aがふてぶてしくアスランを見下ろしながら立っていた。

スカートの中が丸見えだ。

ラッキー。

「畜生……、あんなに怖いのに可愛いんだよな。パンツから目が離せない。いてて……、心臓が……」

「どう、これで少しは分かったかしら、私の実力が!」

「畜生、なんでこの世界にはスマホが無いんだ。スマホが有れば写メを取りまくってメモリーに絵永久保存してやるのによ!!」

少女Aが黒山羊頭の小首を傾げた。

「何をぼやいているの、あなたは?」

「とりあえず、今はこのピンチを凌ぐことが優先か……」

アスランはエンチャント魔法を唱え始めた。

「ジャイアントストレングス、ディフェンスアーマー、フォーカスアイ、カウンターマジック、ファイアーエンチャントウェポン!」

アスランの身体が七色に輝くと、手にあるグラディウスの刀身が燃え上がる。

「これでちょっとはステータスを底上げ出来るだろう……。でも、心許ないな……」

少女Aが二階の屋根から裏路地にフワリと飛び降りて来た。

音もなく着地する。

裏路地の幅は2メートル程だ。

煉瓦作りの二階建ての家に挟まれている。

ここでグラビティーバズーカを唱えられたら上に飛んで躱すしか無いだろう。

しかし、それだけの回避方法では圧倒的に不利だ。

アスランが黒山羊頭を睨み付けた。

魔法を躱すタイミング次第で、次の戦況が大きく変わる。

少女Aが腕を前に上げた。

魔法が来る。

「行くわよ、グラビティーバズー……」

瞬間の割り込み。

「アスラン、伏せろ!!」

「ゴリっ!!」

少女Aの背後にハープーンガンを構えたゴリが飛び出して来た。

「食らえ、黒山羊野郎!!」

ゴリが爆発のハープーンガンを撃ち放つ。

すると銛が少女Aの背中に直撃して爆発に包まれた。

爆風に荒れる裏路地でアスランが口走る。

「殺ったか!?」

当然ながら、殺れてはいない。

爆煙の中から黒山羊のシルエットが浮き上がる。

立っている。

平然と立っている。

「やっぱりだよね~……」

するとアスランの背後の扉が開いた。

建物の中から頭を出したスカル姉さんが手招きしている。

「アスラン、こっちこっち、速く~」

「スカル姉さんっ!?」

アスランは呼ばれるがままに建物に飛び込んだ。

「アスラン、大通りに出るわよ」

「ゴリはどうする!?」

「気にしない」

「気にしてやれよ!!」

アスランとスカル姉さんが大通りに出ると、ゾディアックと魔法使いたちが待っていた。

スカル姉さんが言う。

「あの黒山羊女が出てきたら、一斉に魔法攻撃で袋叩きにするわよ」

アスランが親指を立てながら真顔で返す。

「名案だな!」

アスランたちがしばらく大通りで待機していると、ゴリの剥げ頭を鷲掴みにしながら巨漢を引き摺って、少女Aが建物から出て来る。

どうやらゴリは気絶しているようだ。

ヒクヒクと動いているから死んではいない様子だった。

アスランはちょっぴり安心した。

スカル姉さんが片手を高く上げながら凛々しく指示を出す。

「全員で魔法攻撃準備よ!!」

「おい、ちょっと待てよスカル姉さん。ゴリが!?」

「気にしない!」

「気にしろよ!!」

「魔法攻撃、発射!!」

スカル姉さんの容赦無い指示に魔法使いたちが一斉に攻撃魔法を放った。

ファイアーボール、ライトニングボルト、アイスジャベリン、マジックミサイルと様々だ。

ゴリごと巻き込む。

魔法の爆発に巻き込まれて背後の建物も倒壊しそうなほどに揺れていた。

かなりの破壊力だ。

周囲の空気が激しく乱れる。

「グラビティーバズーカ!!」

次の瞬間、爆炎の中から魔法が飛んで来た。

「うきゃ!!」

その魔法にエスキモーたち数人の魔法使いが巻き込まれて飛ばされた。

建物の壁に叩き付けられる。

たった一撃で半数の魔法使いがダウンして戦闘不能になる。

「がルルルル……」

唸り声だ。

それだけじゃあない。

爆煙の中で赤い光が二つ揺れていた。

黒山羊の瞳が赤く光っているのだ。

しかし、可笑しい。

その二つの光の高さが2メートルほどある。

「な、なんだ……。この魔力は……」

呟きながらゾディアックが後ずさる。

するとやがて爆煙の中から巨漢が揺らぎ出て来た。

2メートルの身長に灰色の肌。

背中には蝙蝠の翼。

鬼のような強面の瞳は赤く輝き、鋭い牙が口からはみ出ていた。

そして、頭には巻き貝のような羊の角が生えている。

悪魔だ。

しかも上位悪魔だ。

「グルルルルっ!!」

ゾディアックが怯えながら言った。

「あれは、グレーターデーモン……」

「正解」

グレーターデーモンの背後から黒山羊頭の少女Aが姿を表す。

「サモンデーモンの魔法よ」

「悪魔召喚か……」

「あなたがた、雑魚の相手は彼らが担当よ」

「「「ガルルルルルルル!!!」」」

少女Aは『彼ら』と述べた。

グレーターデーモンの背後から複数のグレーターデーモンが姿を表す。

その合計は五体だ。

ゾディアックが声を振るわせながら言う。

「五体のグレーターデーモンを同時召喚だと……。そんな馬鹿な。こいつは何者だ……」

魔法使いギルドの幹部であるゾディアックから見ても常識外のようだ。

「さあ、行きなさい、グレーターデーモンたちよ!!」

「ガルルルルルルルっ!!」

グレーターデーモンたちがゾディアックたちに飛び掛かった。


【つづく】
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

異世界に転生した社畜は調合師としてのんびりと生きていく。~ただの生産職だと思っていたら、結構ヤバい職でした~

夢宮
ファンタジー
台風が接近していて避難勧告が出されているにも関わらず出勤させられていた社畜──渡部与一《わたべよいち》。 雨で視界が悪いなか、信号無視をした車との接触事故で命を落としてしまう。 女神に即断即決で異世界転生を決められ、パパっと送り出されてしまうのだが、幸いなことに女神の気遣いによって職業とスキルを手に入れる──生産職の『調合師』という職業とそのスキルを。 異世界に転生してからふたりの少女に助けられ、港町へと向かい、物語は動き始める。 調合師としての立場を知り、それを利用しようとする者に悩まされながらも生きていく。 そんな与一ののんびりしたくてものんびりできない異世界生活が今、始まる。 ※2話から登場人物の描写に入りますので、のんびりと読んでいただけたらなと思います。 ※サブタイトル追加しました。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

処理中です...