上 下
583 / 604

第582話【幻のプロット】

しおりを挟む
魔王城街、魔王城石橋前。

アマデウスが操る黒柱ゴーレムの第九の前に、ソドムタウン冒険者ギルドのマスター、ギルガメッシュが立ちはだかった。

歳のころは五十歳そこそこ。

モヒカンヘアーに上半身裸の成りで、乳首だけはサスペンダーで隠している。

手足は筋肉で太く、ボディービルダーのような脂肪分の低い体型だ。

そして、顔は強面で、眉は太く堀が深い。

更に凄味を感じさせる眼光は、アマデウスに劣らないほどに鋭く尖っていた。

「こんな町中で、第九を出して来るとは、やり過ぎじゃあねえか?」

渋い声色でギルガメッシュが言った。

その言葉にアマデウスが答える。

「出てきたな……」

二人は30メートルの高低差を無視して睨み合っていた。

どちらも凛々しく、引く様子は窺えない。

ギルガメッシュが全身の筋肉をヒク付かせながら両手の間接をポキポキと鳴らす。

「どこでどう踏み間違えたかね、こいつは……。昔は真面目な魔法使いになると思っていたのによ」

アマデウスの反論。

「すべては愛が私を変えたのだ。そして、愛のためなら、何処までも突き進む」

ギルガメッシュが太い首を左右に振りながら言う。

「それが、人道から外れてもか?」

アマデウスは冷めた眼光で言葉を繋ぐ。

「私は妻を愛していた。妻が病気で死に、リザレクションも届かぬ冥界に落ちたと知った時から、すべてを捨てたのだ!」

「人間であることも捨てたか?」

アマデウスは無慈悲に答えた。

「ああ、捨てた」

「ならば、親をも捨てるか?」

アマデウスは、もっと無慈悲に答える。

「親なんぞ、一番最初に捨てたわい」

返答を聞いたギルガメッシュの顔が憤怒に染まる。

「それが、実の父に言う言葉か!!」

「黙れ、ろくでなしの親父が!!」

「なんだと、バカ息子!!」

「貴様は親らしいことなんぞ、一つもしてこなかったじゃあないか!!」

「ちゃんと生活費は入れてただろ!!」

「金さえ出せば、勝手に子供が育つと思うなよ!!」

「それが成人するまで俺の金で飯を食ってた人間の言う台詞か!?」

「黙れ、生活費はノシを付けて全額返しただろうが!!」

「返せばいいってもんじゃあねえぞ!!」

「なら、全額ちゃっかりと受け取るな!!」

「金を返したところまではいいが、その後はなんだ。父が作った冒険者ギルドを乗っ取ろうとしやがって!!」

「もう要らねえよ、そんなギルド!!」

「そんなとはなんだ。父が人生を掛けて築いたギルドだぞ!!」

「俺の目的は妻を黄泉から連れ戻すことだ。そのために利用していただけだ!!」

「まだ、そんなことを言ってるのか、バカ息子。一度黄泉にまで落ちた人間は甦らないぞ!!」

「甘いな、バカ親父!!」

「何が甘い、バカ息子!?」

「ケルベロスの頭部、冥界のピアノ、ハーデスの錫杖が揃えば冥界の門が開く。門が開けば妻を呼び戻せるのだよ!!」

「そんなもの迷信だ!!」

「迷信では無い!!」

「嘘なんだよ!!」

「嘘でも迷信でも無い。そして、私は二つまで揃えた。残るはハーデスの錫杖のみだ。それも、この魔王城の宝物庫に在る!!」

「違う、そもそも冥界の門が迷信なのだ!!」

アマデウスはローブの中から古びたスクロールを取り出した。

「迷信では無いぞ、親父。この古文書に記載されている!!」

「違うんだ、息子……。その古文書は、遥か昔に転生して来た男が書いた小説のプロットなんだ……」

「はあ……。小説の、しかもプロット……」

「しかも本編は18禁要素が濃すぎて発売寸前で発売禁止が決定した、幻のファンタジーハーレム系官能小説なんだ……」

「幻のファンタジーハーレム系官能小説のプロットだと……」

「しかも駄作だ……」

「駄作……」

「そうだ……」

「嘘だっ!!」

「本当だ。書いたのは三代前の魔王で、彼は出版を阻止されたことに怒って王国に戦争を仕掛けたんだ。そして、敗戦……。それで、残ったのが、そのプロットだけなのだ……」

アマデウスだけじゃない。

周りで聞いていた者たち全員が同じことを思っていた。

「「「マジか……」」」

アマデウスは第九に向かってスクロールを叩きつけると述べた。

「俺は信じないぞ!!」

「親を信じろよ、バカ息子!」

「信じられるか、バカ親父。信じられたとしても、もう止められない。俺はこのまま魔王城を落とす。そして、宝物庫からハーデスの錫杖を奪い取るのだ!!」

ギルガメッシュが俯きながら述べる。

「ならば、仕方あるまい……」

そして、上を睨んだ。

「やはりバカ息子は、親が責任をもって止めなければならないか!!」

「やるか、バカ親父!!」

「ずっと避けて来た、親子喧嘩……。今日ここで解禁するぞ!!」

言うなりギルガメッシュが第九に向かって跳ねた。

もうスピードで飛んで行く。

流石は伝説のギルドマスターだ。

人間の脚力を越えたジャンプ力である。

「バカな親父だ。人間風情が魔王の一部である第九に敵うわけがなかろう。食らえ!!」

第九の黒柱から赤いレーザービームが発射された。

そのレーザービームがギルガメッシュに命中すると、出力でマッチョを押し戻す。

「ぐあっ!!」

そして、逸れたレーザービームが外壁をなぞると、その部分が真っ赤に焼けて溶け落ちた。

凄い火力である。

「くそっ、魔法のレーザーか!」

赤い閃光に弾かれたギルガメッシュが煙を上げて地面に転がった。

だが、直ぐに立ち上がる。

ギルガメッシュの肩が少し焦げていた。

「この第九は、そこらのゴーレムとは違うのだよ!!」

「己れ、バカ息子が!!」


【つづく】
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

念願の異世界転生できましたが、滅亡寸前の辺境伯家の長男、魔力なしでした。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリーです。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです

飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。 だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。 勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し! そんなお話です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

我が家に子犬がやって来た!

もも野はち助(旧ハチ助)
ファンタジー
【あらすじ】ラテール伯爵家の令嬢フィリアナは、仕事で帰宅できない父の状況に不満を抱きながら、自身の6歳の誕生日を迎えていた。すると、遅くに帰宅した父が白黒でフワフワな毛をした足の太い子犬を連れ帰る。子犬の飼い主はある高貴な人物らしいが、訳あってラテール家で面倒を見る事になったそうだ。その子犬を自身の誕生日プレゼントだと勘違いしたフィリアナは、兄ロアルドと取り合いながら、可愛がり始める。子犬はすでに名前が決まっており『アルス』といった。 アルスは当初かなり周囲の人間を警戒していたのだが、フィリアナとロアルドが甲斐甲斐しく世話をする事で、すぐに二人と打ち解ける。 だがそんな子犬のアルスには、ある重大な秘密があって……。 この話は、子犬と戯れながら巻き込まれ成長をしていく兄妹の物語。 ※全102話で完結済。 ★『小説家になろう』でも読めます★

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

処理中です...