上 下
580 / 604

第579話【開門】

しおりを挟む
魔王城街で屋根の上に立つゴリが爆発のハープーンガンを撃ちまくっていた。

上空を滑空するカイトフライヤーウッドゴーレムを炸裂する銛で撃ち落とす。

「どんどん落としてやるぜっ!!」

空に向かって銛を撃ち放つゴリは夢中になっていた。

銛は直撃しなくっても空中で爆発してウッドゴーレムを巻き込むため次々と目標を撃墜できるのだ。

故に楽しい。

そして、爽快だ。

「これはとても良い武器だぞ!!」

更にバイマンが炎系の魔法を放ち、ミーちゃんはマジックアイテムの弓矢を放って応戦していた。

三人の攻撃がヒットして敵機を撃墜するのだが、飛行するウッドゴーレムの数は減らない。

落としても落としても次々と新しいウッドゴーレムがヴァルハラから発進されるのだ。

その数は寧ろ減るどころか増えて行く。

ゴリがハープーンガンを撃ちながら愚痴った。

「こりゃあ面白いけれど、切りが無いな……」

「ゴリさん、銛の補充ですよ~」

オアイドスが新しい銛を屋根の上に運んできた。

ドサリと瓦の上に銛を投げる。

そのオアイドスにゴリが訊いた。

「なあ、オアイドス。ソドムタウンからの援軍はまだか!?」

「さっきカンパネルラ爺さんが呼びに行ったから、もうすぐじゃないですか」

オアイドスが答えた刹那だった。

空で爆発が連呼した。

青い空が爆炎で赤く染まる。

「な、なんだっ!!」

爆裂魔法で粉砕されたウッドゴーレムの破片がバラバラと大量に降ってきた。

「またせたね、皆さん」

ゴリが屋根の上から路上を見下ろせば魔法使いの一団が立っていた。

ゴリが歓喜な声を上げる。

「待ってましたよ、ゾディアックさん!」

三十人程度の魔法使いの部隊だった。

その先頭に立つのは魔法使いギルドの幹部、ゾディアックだ。

その後ろにスカル姉さんや火消し班のエスキモーも立っていた。

テイマーのカンパネルラ爺さんも全裸で立っている。

そして、ビシリとスタッフを構えたゾディアックがゴリに言った。

「飛行クリーチャーは我々魔法使いの飛翔魔法に任せなさい。すべて撃ち落としてやりますよ!」

ゾディアックが言うなり魔法使いたちが各々得意な攻撃魔法を空に向かって放ち出した。

火炎魔法、冷凍魔法、電撃魔法と様々な攻撃魔法が撃ち上げられた。

そして、それらの攻撃魔法が次々とカイトフライヤーウッドゴーレムたちを撃墜していく。

戦況は明らかに優勢となる。

ゴリは屋根の上から状況を見渡しながら言った。

「こりゃあ、勝ったな」

しかし、ゴリが呟いた刹那、大通りの向こうに大きな扉が突如姿を表した。

魔法の巨大扉だ。

それは幅5メートル、高さ10メートル程度の鉄の門だった。

「なんだ、あれは?」

ゴリが疑問に言葉を漏らすと両開きの門が音を鳴らしながら左右に開門した。

その開いた扉の向こうに沢山の兵士が立っている。

扉の向こうは魔王城街とは別の空間と繋がっている様子。

雑な鎧を纏い、雑な兜を被った兵士たちは、様々な武器や盾を持っていた。

その人数は百や二百は居るだろう。

成りからしてバーバリアンの傭兵集団だ。

そして、時空の扉の奥からバーバリアンたちが武器で盾を叩きながら前進して来る。

威嚇の音がけたたましい。

「今度は歩兵かよ……」

明らかに数で負けている。

それを悟ったゴリがゲンナリしていた。

だが、降伏する気はサラサラ無い。

「おもしれ~、とことんやったろうじゃあねえか!」

ゴリが覚悟を決めるとバーバリアンたちが勇ましく雄叫びを上げながら走り出した。

ゾディアックの魔法使い軍団に襲いかかる。

「ヒャッハ~、魔法使いなんぞ皆殺しだ~!!」

殺伐とした武器を翳したバーバリアンたちが狂気な表情で迫るが魔法使いたちは冷静に対処した。

「「「ストーンウォール!」」」

走るバーバリアンたちの前方に石の壁が競り上がる。

それでバーバリアンたちの進行が止まった。

3メートルの石壁が大通りいっぱいに建ち並びバーバリアンたちの進行方向を完全に塞いで止める。

これでは攻められない。

「石の壁だと!?」

「これじゃあ進めねえぞ!!」

バーバリアンたちが石壁に阻まれ足を止めていると、彼らが出て来た魔法ゲートの裏側から矢や槍が飛んで来た。

「なに! 背後からか!?」

バーバリアンたちが振り返ると、魔法ゲートの裏側からマッチョなエルフたちが姿を表す。

日に焼けた肌の土建エルフたちを見てバーバリアンの一人が叫んだ。

「ダークエルフだ! ダークエルフが後ろから攻めて来たぞ!!」

ニッカポッカを着込んだエルフのマッチョマンがテヤンデイ口調で否定した。

「土木作業で日焼けしているだけでダークエルフなんかじゃあないわい!!」

「嘘だ~」

「そんな顔黒でマッチョなちょい悪系のエルフが居るかよ!」

「そうだそうだ、ここは魔王城なんだからダークエルフに違いない!」

誤解である。

彼らは純粋なエルフだ。

決して邪なダークエルフではない。

顔黒マッチョなちょい悪系のエルフが言う。

「うわ~、風評被害だわ~……」

エルフとバーバリアンたちが言い争っていると、屋根の上からビキニノームたちが集団で煉瓦を投げてきた。

「いて、いて!!」

「なんだ、あのチビたちは!!」

「石を投げるな、この野郎共!!」

丸い盾で頭を庇うバーバリアンたちが慌てていると、魔法の効果時間が切れてストーンウォールが地面に消えた。

「よし、魔法が切れたぞ!」

「全員、突撃だ!!」

隊長らしきバーバリアンが指示を飛ばしたが、他のバーバリアンたちは突進しなかった。

その理由は、消えたストーンウォールの向こうには、四本腕のスケルトンウォリアーたちが並んで待っていたからだ。

その数はバーバリアンたちと五分だ。

百から二百は居るだろう。

しかも武器や防具を纏った完全武装で立っている。

「これは、不味くね……?」

「不味いよな……」

バーバリアンたちは、完全に囲まれていた。

前はフォーハンドスケルトンウォリアー軍団。

その背後に魔法使いギルドのメイジたち。

後方にはマッチョエルフ軍団。

屋根の上にはビキニノームたち。

上空を滑空していたカイトフライヤーウッドゴーレムたちは退却して姿が見えない。

味方は自分たちのみだ。

バーバリアンたちが有していた数の有利が一瞬でピンチに変貌していた。

レビテーションの魔法で浮き上がったゾディアックが告げる。

「敵兵士諸君に告げるぞ。このまま魔法ゲートに引き返して撤退するなら見逃そう。我々も無駄な殺生はしたくない!」

バーバリアンの隊長がゾディアックを睨み上げた。

そして、手を上げて兵士たちに指示を飛ばした。

「全軍、撤退だ!!」

その命令に従いバーバリアンたちが素直に魔法ゲートに引き返す。

全員が分が悪いと悟ったのだろう。

そして、バーバリアンたちが全員魔法ゲートに入ると扉が閉まる。

そして、魔法ゲートが消えた。

「勝ったのか……?」

「勝ったようですね~」

ゴリが呟くとオアイドスが答えた。

呆気ない勝利であるが、勝利したのは間違いない。

「よっしゃ~~~!!!」

「わはー、わはー!!」

マッチョエルフたちとビキニノームたちが歓声を上げて喜んでいた。

こうしてアルカナ二十二札衆による魔王城襲撃事件は終止符を迎えたと思えた。

だが、そうではない。

片や浮遊要塞ヴァルハラでは──。

一機のカイトフライヤーウッドゴーレムがヴァルハラの草原に不時着した。

ウッドゴーレムは地面を荒々しく滑ると埃を舞い上げながら止まる。

そのウッドゴーレムの背中から飛行士のような軍服を着こんだ矮躯な少女が降りて来た。

少女は飛行棒を脱ぐとゴーグルを外して投げ捨てる。

強い風にピンクのツインテールが靡いていた。

「畜生、畜生、畜生。こんなに強いなんてありですか!?」

ツインテールの軍服少女は悔しそうに愚痴りながら二人の魔法使いに近付く。

そして、二人の魔法使いに向かって怒鳴った。

「なんなのよ、あのモグラデブに生臭い若造は、役にも立たないじゃないのっ!?」

ノストラダムスが冷静に答える。

「ダークネスマイナー殿とレッドヘルム殿の事ですか。オットー・リリエンタール殿?」

オットー・リリエンタールはプリプリと可愛らしく怒りながら怒鳴った。

「あの二人、なんの役にも立たないで、あっさり負けたじゃない。お陰で私のウッドゴーレムたちも全機撃ち落とされたじゃないの!!」

ノストラダムスは困った表情で述べた。

「そうですね~。困りましたね~。まさかこんな簡単に敗北するとは……」

「それにアキレウスのおっさんはどうしたの。傭兵部隊を指揮していたんじゃあないの!?」

「彼はどっか行っちゃいました。雲行きが悪くなって逃げましたよ。二度も同じ相手に負けたくないそうで……」

「なんなのよ、それ! 無責任にもほどがあるわよ!!」

「だから急遽代役を立てたのですが、力不足だったようで……」

「あいつらも、直ぐに撤退したじゃない!!」

「この魔王城攻略作戦、完敗ですな~」

「私、もう帰る!!」

プリプリと怒ったオットー・リリエンタールは魔法使いたちの前から去って行った。

再びカイトフライヤーウッドゴーレムの背中に乗ると空に飛び立つ。

彼女の姿は直ぐに空の果てに見えなくなった。

すると今まで黙っていたアマデウスが口を開いた。

「やはりこの作戦は、私一人でやりとげなければならなかったのだ」

「アマデウス殿、まだやるのですか。諦めませんか?」

「諦められるか!」

声を荒立てたアマデウスがノストラダムスを睨んだ。

そして命ずる。

「ノストラダムス。魔法ゲートを開けろ、私自らが出る!!」

「まさか、アマデウス殿。あのアイアンゴーレムを使う積もりですか……?」

「ああ、第九で出るぞ!!」


【つづく】
しおりを挟む
感想 39

あなたにおすすめの小説

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する

カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、 23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。 急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。 完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。 そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。 最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。 すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。 どうやら本当にレベルアップしている模様。 「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」 最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。 他サイトにも掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

一緒に異世界転生した飼い猫のもらったチートがやばすぎた。もしかして、メインは猫の方ですか、女神様!?

たまご
ファンタジー
 アラサーの相田つかさは事故により命を落とす。  最期の瞬間に頭に浮かんだのが「猫達のごはん、これからどうしよう……」だったせいか、飼っていた8匹の猫と共に異世界転生をしてしまう。  だが、つかさが目を覚ます前に女神様からとんでもチートを授かった猫達は新しい世界へと自由に飛び出して行ってしまう。  女神様に泣きつかれ、つかさは猫達を回収するために旅に出た。  猫達が、世界を滅ぼしてしまう前に!! 「私はスローライフ希望なんですけど……」  この作品は「小説家になろう」さん、「エブリスタ」さんで完結済みです。  表紙の写真は、モデルになったうちの猫様です。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

処理中です...