上 下
564 / 604

第563話【謎の脱獄】

しおりを挟む
俺がガルマルの町からソドムタウンに帰って来てから一週間が過ぎていた。

って、言いますか、現在の俺は魔王城街に居るのだ。

魔王城の前に掛けられた石橋から湖の水面を眺めていた。

魔王城前の石橋は既に復旧作業が完了して開通している。

その石橋の上をハムナプトラが操るフォーハンドスケルトンウォリアーたちが何体も四角い岩を四本腕で抱えながら運んでいた。

城内に石材を運び込んでいるのだ。

眩しい太陽の下なのにフォーハンドスケルトンウォリアーたちが活動出来るのは、彼らが半分はゴーレムだからだ。

フォーハンドスケルトンウォリアーはアンデッドとゴーレムのハイブリット型モンスターなのだ。

しかも素材が人骨なだけで、機能は殆どゴーレム寄りらしい。

っと、言いますか、もうウォリアーでもなく、ただの作業用ゴーレムと化している。

だから作業を行うのにハムナプトラの指示が必要なのだ。

俺はフォーハンドスケルトンウォリアーたちの指揮を取るハムナプトラに話し掛けた。

「ハムナプトラ、昼間っから精が出るな~。本当にご苦労様だぜぇ~」

ミミックの小箱を抱えたハムナプトラはのっぺらぼうな仮面を被った顔で俺に受け応えする。

「いやいや、私はフォーハンドスケルトンに指示を出しているだけですから、楽なもんですよ」

ほのぼのと話すハムナプトラだが、その風貌はローブにフードを被り顔は仮面で隠しているからとても怪しい。

尚且つ片腕にはミミックの小箱を抱えて、反対の手にはスタッフを付いているのだ、怪しさは100点満点である。

だが、この魔王城街では珍しい風貌でもない。

町中を見渡せば、マッチョなエルフやビキニノームたちが駆け回り、建物の屋根越しにはサイクロプスまでもが徘徊しているのが見えるぐらいだ。

魔王城のあちらこちらにはハイランダーズが警備に励んでいるのが窺え、時折リングを外したガルガンチュワがクラーケンの姿でのびのびと湖を泳いでいたりもする。

空を見上げれば、レッドドラゴンとブルードラゴンの姉妹も飛んでいるのだ。

それに夜になるとゴースト大臣ズたちがゴーレムを操り夜勤に励んでいる。

もう、魔王城街は亜種や魔物の巣窟になっているのだ。

だからと言って人間の姿が少ない訳でもない。

冒険者ギルドのスタッフや魔法使いギルドのスタッフ、それに神殿の神官たちが転送絨毯を使ってソドムタウンからやって来ては、各自の支部を建築し始めて居る。

それにメインストリートにはワイズマンや盗賊ギルドが幅を聞かせる商店が何軒も建ち始めていた。

そろそろ町らしい町の姿が完成し始めているのだ。

そして、俺がドズルルから帰って来ると、プロ子が率いる二十名のミイラメイドたちが独立して魔王城で働き出したのだ。

俺の異次元宝物庫内に残ったのはヒルダだけである。

そもそもがメイド二十一名との最初の約束が、魔王城が手に入ったら、そこで働くのが契約条件だったのだ。

ミイラメイドたちにしてみれば、お城で働けるのが夢だったとか。

ヒルダが俺の元に残ったことが例外なのである。

それに傷が回復したミーちゃんも不動産屋として仕事を開始したらしい。

あんなぶっ壊れた性格だが、不動産屋としては評判が良いのだ。

まあ、皆が皆して、逞しく生きているようなのだ。

それはそれで結構な話なので、歓迎である。

俺はハムナプトラと別れて魔王城の中に入って行った。

城内では壊れた壁などをフォーハンドスケルトンが修理しており、装飾品に関しては見掛けないドワーフの職人たちが復旧していた。

「へぇ~、ドワーフまで出稼ぎでやって来てるのか~」

俺は城内を見渡しながら地下に向かった。

「久々にプロフェッサー・クイジナートにでも会いに行こうかな。あいつも頑張ってるらしいからな~」

俺は魔王城の地下牢獄に通じる通路を下に下にと進んだ。

道中の魔物はハイランダーズによって退治された様子で、すんなりと地下牢獄まで進めたのだ。

「よ~~う、クイジナート、おひさ~」

俺は牢獄の中で鍛冶屋仕事に励んでいる悪魔なスケルトンに話し掛けた。

「おお、アスラン殿か」

彼はレッサーデーモンのアンデッドで鍛冶屋の引き籠り野郎だ。

鍛冶屋仕事にしか興味が無いが、今は仕事に溢れていて大変重宝されている。

上で使われている作業道具の殆どを、素材さえ差し出せば、彼が全部無料で作ってくれるのだ。

修理だってお手の物である。

しかも本人は楽しんでいるから問題も無いのだ。

クイジナートが鍛冶屋道具と魔法の釜戸が揃った牢獄内から言った。

「アスラン殿、新しい魔法の鎧を作ったのだが、どうだね、着てみないか?」

「おっ、マジか!?」

クイジナートが鍵の掛かっていない鉄格子の扉を開けると俺を獄中に招き入れる。

「これだ」

クイジナートが埃避けのシーツを剥ぎ取るとプレートメイルを着込んだマネキンが姿を表した。

それは上半身だけのプレートメイルだった。

「プレートメイルか~……」

ちょっとガッカリしたな。

俺は不満を表情に出しながら述べる。

「プレートは音が酷いから隠密行動が多いソロ冒険者の俺には不向きなんだよねぇ……」

俺の不満を聞いたクイジナートが顎をしゃくらせながら骨な両腕を組んで自慢気に述べた。

「そう思いまして、マジックアイテムの効果を選さして作りました。どうぞアイテム鑑定をしてみてくださいな」

「んん、そうなの?」

俺がプレートメイルを鑑定してみると、喜ばしい内容が表示された。

【無音のプレートメイル+3。耐久性の向上。重量の軽減。鎧から金属音が立たない】

「おお、これはなかなかじゃあないか!!」

俺がプレートメイルの胸をコンコンっと叩いたが、金属音がしなかった。

代わりに革鎧でも叩いたカのような軽い音がする。

「動いても金属と金属が擦れ合う音も鳴りません。正に隠密専用の重防具でございます」

「流石はクイジナートだな。なかなか腕が立つぜ!!」

「アスラン殿に出会ってから製作を始めた高品質ですからな。時間と手間が掛かっています」

「大事に使わせて貰うぜ~」

俺がプレートメイルを異次元宝物庫に仕舞うとハイランダーズのキャッサバが地下牢獄に姿を表す。

「ああ~、居た居た。アスラン様、探しましたぞ」

「んん、どうした?」

「上の階でマミーレイス婦人がお呼びです」

「なんだ、あの巨乳リッチがなんの用事だ?」

キャッサバが答える。

「なんでも地下牢獄の囚人が一人逃げ出したようですよ」

「囚人が逃げた?」

俺は檻の中のクイジナートを見た。

「囚人なら居るじゃんか?」

「いや、クイジナートさんじゃあなくって、別の囚人ですよ。兎に角、上の階に来てください」

俺はキャッサバに連れられて上の階に戻って行った。

そして、マミーレイス婦人やゴースト大臣ズが待つ薄暗い会議室に通される。

まあ、こいつらもアンデッドだから日光がヤバイのだろう。

だから昼間は薄暗い会議室に籠って居るのかな。

「どうした、巨乳。何かあったのか?」

マミーレイス婦人が暗闇に包まれた表情で述べた。

「アスラン様。地下牢獄に幽閉していた囚人が一名逃走いたしました」

巨乳と呼ばれても否定はしないんだ……。

確かに馬鹿デカイのは真実だからな~。

「囚人って、誰さ。そんな奴が居たっけ?」

俺の記憶には無いな。

忘れているだけかな?

マミーレイス婦人が答える。

「アスラン様がミディアム・テンパランス嬢に刺された事件の際に、クラウド氏と一緒に捕まったアキレウスと名乗る戦士です」

「ああ~、そんな奴が居たな~」

確か角刈りでポニーテールな兄ちゃんだよな。

正直なところすっかり忘れてたぜ。

「まだクラウドは幽閉中なのか?」

「はい、クラウド氏は三食おやつ付きで幽閉中です。最近、少々太って来ているのが心配されています」

おやつまで付いてくるのか……。

しかも獄中で幽閉されているのに太るのか……。

どんな獄中生活だよ。

マミーレイス婦人が闇で見えない顎に人差し指を当てながら述べる。

「それが、アキレウス氏が逃げ出した手段が不明で……」

「不明?」

「牢獄の扉は施錠状態でした。監視員も脱獄を目撃していません。城内でも目撃した者は居ませんでした。まさに逃走経路が不明なのです」

「あいつ、ただの戦士だったよな。そんなに器用なことが出来るタイプなのか?」

「さあ……」

マミーレイス婦人もゴースト大臣ズも首を傾げていた。

俺も首を傾げる。

こいつらが悩むほどの脱獄手段なのだから、相当謎なのだろう。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?

mio
ファンタジー
 特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。  神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。 そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。 日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。    神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?  他サイトでも投稿しております。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

処理中です...