上 下
559 / 604

第558話【キシリアとギレン】

しおりを挟む
閉められたトイレの扉の向こうから女性の啜り泣く声が聞こえてきていた。

その扉の前で俺は鼻糞をほじりながら彼女がトイレから出て来るのを待っていた。

トイレの中の女性はガルマルの町のお嬢様、キシリアだ。

そう、あのデラックスデブのお嬢様である。

「しくしく、しくしく……」

「お~い、いつまでも泣いてんなよ。早く出て来いよな~」

「だって、だって……」

何がだってだ。

柄に似合わずピュアなのか?

「ウ○コを漏らしたぐらいで泣くなよ。誰だって一度ぐらいはウ○コを漏らすもんだろ~」

「貴方は漏らしたことがあるの……?」

「何を漏らしったって?」

「な、何って……」

「なんだよ?」

「ウ○コを……」

「ウ○コをどうしたって?」

「…………」

「ハッキリ言えよ。ウ○コがどうしたって?」

「貴方はウ○コを漏らしたことがありますの!!」

「あるわけね~だろ。そんな恥ずかしい」

「うわぁぁああああ~~~!!!」

再びキシリアが泣き出した。

相当ウ○コを漏らしたのがショックのようだな。

まあ、十八歳になってウ○コを漏らしたらショックだろうさ。

俺なら町を歩けないぞ。

「おい、いつまで泣いてるんだ。この屋敷には鬼が複数居るんだぞ。早く出てこないと鬼に食われちまうぞ~」

「分かったは……。出て行くわよ……」

トイレの扉を開けたキシリアお嬢様が俯きながら個室から出て来る。

俯いた顎が三重顎になっていた。

そして、着ているのは赤茶色なジャージである。

「なんでジャージなんだ?」

「これは魔法学院の体操着ですわ……」

この異世界にジャージって有るんだな……。

キシリアお嬢様はモジモジと恥ずかしそうに言う。

「この事は、他言無用よ……」

「この事って、なんだよ?」

キシリアお嬢様が上目使いで睨み付けながら凄んで述べた。

「私がウ○コを漏らしたことよ……」

「分かったよ、誰にも言わないからさ。あんたがウ○コを漏らしたことは」

「絶対よ!?」

「ああ、分かった分かった」

「黙っててくれたら、私の旦那さんにしてあげるわ……」

「そんな条件出すと、ガルマルの町でキシリアお嬢様がウ○コを漏らしたって言いふらすぞ!」

「貴方は私と結婚したくないの!?」

「俺にはソドムタウンに婚約者が居るんだよ! ウ○コで繋がった両想いな婚約者なんだよ!!」

そう、ウ○コが切っ掛けでプロポーズしたのである。

「その絆は私のウ○コより重いの!?」

「重いよ! ビッグでハードなぐらい重いウ○コだよ!!」

「じゃあ、結婚は許してあげるは……。ちっ……」

「このお嬢様は、いきなりヤバイことを言いやがるな……」

俺たちは一息付いてから廊下に出た。

「ところで何でキシリアお嬢様が、こんなところに居るんだよ?」

俺たちは廊下を進みながら話した。

「お父様が貴方にお兄様の捕獲を命じたと聞いて、追いかけて来たのよ」

「一人でか?」

「ええ」

「黙ってか?」

「ええ」

「なんでだよ?」

「私は魔法学院で魔法学を学ぶ傍ら、呪術に関していろいろ調べたの」

「それで?」

「呪術のエネルギーは怒りや恨み……。要するに、兄は父を恨んでいるのよ」

「じゃあ、ここに来たのは兄ギレンを止めに来たと?」

「ええ、そう」

俺は足を止めた。

壁に隠し扉があるな。

後に板張りの床を見詰める。

カラクリの肝は床かな……。

「兄は前妻が死んだのは父のせいだと思っているは……」

しゃがんだ俺は床板を手で擦りながら話した。

「ギデンは妻の死は事故だって、言ってたぞ?」

「真相は私にも分からないは、だって私が産まれる前の話だもの……」

「まあ、ギレンはギデンを恨んでいる。それだけは間違いない。そして、その恨みがこの事件のエネルギーなのも間違いないさ」

「だから、私は兄を止めたいの。本当の兄は優しい人だから……」

「あったぞ」

俺は床板の一枚をはぐるとレバーを見つける。

「これを引けば~」

俺がレバーを引くと横の壁が動いて開く。

開いた壁の向こうには下る階段が有った。

「隠し階段……。よく分かったわね……」

「まあ、これでも一流の冒険者だからな」

俺は隠し扉の中を覗いてみた。

石の壁、石の階段。

階段の先は暗闇だ。

そして、複数の足跡が見える。

「この先に……」

「たぶん下にお前のお兄様が居るぞ。気配がプンプンするからな」

俺は異次元宝物庫から虫除けのランタンを取り出すと階段を下り出した。

後ろをキシリアお嬢様が付いて来る。

「無理しなくったっていいぞ。怖いなら上で待ってろよ」

「怖くないわよ……」

「だってお前はノーパンだろ。ノーガードは危険だぞ」

「ノーパンは関係無いわよ!!」

「も~、ガミガミと五月蝿いな~。そんなにヒステリックだと、貰い手が全員逃げて行くぞ」

「関係無いわよ……」

「なあ、ゴリなんてどうだ。お前ら幼馴染みなんだろ?」

「ゴリは嫌よ。身体は逞しいけれど顔がゴリラなんだもの……」

「やっぱりそれか……」

やはりゴリには整形手術が必要だな。

出来れば遺伝子レベルの大工事が必要だ。

「顔のことは目を瞑ってやれよ。身体だけで良いだろ」

「その言い方は、如何わしいわよ……。身体ばかりが目的に聞こえるわよ」

おっ、扉だ。

階段の最後に扉が有るぞ。

俺は扉の前に立つと耳を済ました。

音無し。

罠無し。

鍵無し。

でも、扉の向こうに気配有り。

誰か居るぞ。

しかも、複数だ。

俺は扉を開けて中に入った。

広い大部屋だ。

石作りの殺風景な部屋には、壁沿いにいろいろな錬金術の機械が並んでいる。

高い天井には場違いなシャンデリアが煌めいていた。

完全な実験室風だ。

「お邪魔しま~す」

俺とキシリアお嬢様が部屋に入ると、部屋の奥から男性の声が飛んで来る。

「やあ、アスランじゃあないか~」

長いソファーに男性が足を組んで座っていた。

一人だけだ。

中肉中背のハゲ頭。

ペンスさんだ。

俺はペンスさんに言った。

「あんた、ギレンだな」

ペンスさんは微笑みながら答える。

「ご名答、私がギレンだ」

するとペンスさんの姿が歪んだと思うと痩せたオールバックの男性に変わった。

声も変わっていた。

「幻術か?」

「呪術の肉体変化術だ。幻じゃあなく、実際に身体の形を変えているのだよ」

「それで魔法感知に引っ掛からないのか」

「この魔法が進んだ世界だと、魔力を使わない呪術は便利でね。ほとんど対策が取られていない。探知すらされないからな」

「お前は誰から呪術を習ったんだ?」

「二十年前に出会った異世界転生者の安倍晴明先生だ。我が儘言って、無理矢理弟子入りしてね」

「安倍晴明って、俺でも知ってる大物だぞ。でも安倍晴明って陰陽師じゃあなかったっけ? それが何故に呪いを?」

「私には呪術の才能だけがあってね。だから私は呪術だけを習ったんだよ」

「親父さんを呪うためにか?」

「そうだ」

ギレンは扇子で顔を扇ぎながら言う。

「それで、アスランくんは、何しに来たんだい?」

「あんたの親父さん、ギデンにお前を連れてこいと以来されてね。お前を幽閉するだとさ」

「幽閉は嫌だね」

ギレンが扇子を閉じると彼の足元から三体の鬼が浮き上がって来る。

石の床から延び出て来たのは、ロン毛のスマートな三本角の鬼、ポニーテールの女性の四本鬼、巨漢のマッチョマンな五本鬼の三体だった。

ロン毛の鬼は額に二本の角と後頭部に長い角を生やしている。

ポニーテールの鬼女は両耳の上に二本の角と両肩に二本の角を生やしている。

マッチョマンの鬼は額に二本、顎に二本、そして股間に長い角を一本生やしていた。

ギレンが言う。

「三角鬼、四角鬼、五角鬼だ。まずは彼らを倒せたら話の続きを聞いてやろう」

キシリアお嬢様が俺の後ろから心配そうに声を掛けてきた。

「アスラン様……」

俺は異次元宝物庫から二本のメイスを取り出しながら言う。

「安心しなって、優しく鬼を倒したら、兄妹で話し合えるように計らってやるからよ」

「あ、ありがとう、アスラン様……」

「感謝を述べるのは、まだ早いぜ~」

俺が取り出したメイスはパワーメイス+2とメイス+1である。

【パワーメイス+2。所有者の腕力小向上。命中率の向上】

【メイス+1。命中率の向上】

これなら鬼を殺す可能性も低くなるだろうさ。

刃物で闘うよりはましだろう。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

王宮で汚職を告発したら逆に指名手配されて殺されかけたけど、たまたま出会ったメイドロボに転生者の技術力を借りて反撃します

有賀冬馬
ファンタジー
王国貴族ヘンリー・レンは大臣と宰相の汚職を告発したが、逆に濡れ衣を着せられてしまい、追われる身になってしまう。 妻は宰相側に寝返り、ヘンリーは女性不信になってしまう。 さらに差し向けられた追手によって左腕切断、毒、呪い状態という満身創痍で、命からがら雪山に逃げ込む。 そこで力尽き、倒れたヘンリーを助けたのは、奇妙なメイド型アンドロイドだった。 そのアンドロイドは、かつて大賢者と呼ばれた転生者の技術で作られたメイドロボだったのだ。 現代知識チートと魔法の融合技術で作られた義手を与えられたヘンリーが、独立勢力となって王国の悪を蹴散らしていく!

【書籍化】パーティー追放から始まる収納無双!~姪っ子パーティといく最強ハーレム成り上がり~

くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
【24年11月5日発売】 その攻撃、収納する――――ッ!  【収納】のギフトを賜り、冒険者として活躍していたアベルは、ある日、一方的にパーティから追放されてしまう。  理由は、マジックバッグを手に入れたから。  マジックバッグの性能は、全てにおいてアベルの【収納】のギフトを上回っていたのだ。  これは、3度にも及ぶパーティ追放で、すっかり自信を見失った男の再生譚である。

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

Sランク昇進を記念して追放された俺は、追放サイドの令嬢を助けたことがきっかけで、彼女が押しかけ女房のようになって困る!

仁徳
ファンタジー
シロウ・オルダーは、Sランク昇進をきっかけに赤いバラという冒険者チームから『スキル非所持の無能』とを侮蔑され、パーティーから追放される。 しかし彼は、異世界の知識を利用して新な魔法を生み出すスキル【魔学者】を使用できるが、彼はそのスキルを隠し、無能を演じていただけだった。 そうとは知らずに、彼を追放した赤いバラは、今までシロウのサポートのお陰で強くなっていたことを知らずに、ダンジョンに挑む。だが、初めての敗北を経験したり、その後借金を背負ったり地位と名声を失っていく。 一方自由になったシロウは、新な町での冒険者活動で活躍し、一目置かれる存在となりながら、追放したマリーを助けたことで惚れられてしまう。手料理を振る舞ったり、背中を流したり、それはまるで押しかけ女房だった! これは、チート能力を手に入れてしまったことで、無能を演じたシロウがパーティーを追放され、その後ソロとして活躍して無双すると、他のパーティーから追放されたエルフや魔族といった様々な追放少女が集まり、いつの間にかハーレムパーティーを結成している物語!

処理中です...