553 / 604
第552話【親友】
しおりを挟む
俺とゴリ、それにジオンググのオッサンの三人は、デギンの屋敷に招かれていた。
俺たち三人はロビーに飾られている家族の肖像画を見上げている。
ギデンが肖像画を見上げたがら言う。
「十五年ぐらい前の肖像画だ。今の妻のミネバも理解してくれているから飾っているのだ」
大きな絵には若きころのデギンと椅子に座った女性、それに目付きの悪い少年が画かれていた。
ギデンは既に剥げているが、腹があまり出ていない。
女性は病気かと思えるほどに痩せている。
男の子はオールバックで眉毛が薄い。
少年とは思えない風貌だ。
「なあ、ゴリ。お前はギレンって知ってるか?」
「いや、知らなかった。ドズルルの町で有名な呪術師なのは知っていたが、この町の出身だってことは知らなかった。しかも領主の息子だなんて……」
ジオンググが顎髭を撫でながら考え込むように言った。
「それにしても、面影が違うな……」
「何がだよ?」
「私が覚えていいるギレンは、中肉中背で剥げ頭のオッサンだったぞ。こんな鋭い眼光でも無かったし……」
中肉中背で剥げ頭……。
それって……。
ゴリが言う。
「それってペンスさんじゃあないのか?」
だよな。
普通はそう思うよな。
ゴリが説明する。
「俺に呪いの札を譲ったのはドズルルから来た商人のペンスさんって人だ。その人は中肉中背で剥げていた」
ペンスは偽名か?
ギレンは歳を取って少し太って親父のように剥げて来たのかな?
歳も四十が近付けば、目元だって柔らかくもなるのか?
「やはりペンスさんとギレンは同一人物なのか?」
だが、俺たちの話をきいていたギデンが否定する。
「いや、ギレンは前妻のマクベに似て痩せた子だった。一度も太ったことが無いんだ。それに去年の収穫祭でもチラリと見かけたのだが、昔と変わらずオールバックで痩せていた。目付きだって悪いままだったぞ」
「じゃあペンスさんとギレンは別人なのか?」
ゴリが言う。
「とりあえずだ、家に帰ってペンスさんを捕まえよう。本人に訊くのが一番早いだろうさ」
「うん、そうだな」
俺とゴリは踵を返して屋敷を出て行った。
俺はアキレスを呼び出すと、ゴリを後ろに乗せてゴリの実家を目指した。
ゴリが俺の腰に手を回しながら述べる。
「ササビー兄さんにペンスさんの足止めを頼んであるから、まだ居るはずなんだが……」
「抵抗を見せた時のために、ガイアとメタルキャリアを付けてあるから大丈夫だろうさ」
「だといいんだがな……」
俺も嫌な予感がするんだよね。
それ以上に嫌なのは、今現在ゴリに抱き付かれながら馬を走らせていることが嫌であった。
背中が生暖かい……。
ゴリラマッチョにハグされて嬉しいわけがない。
逆にキモイだけだ。
それよりも──。
「なあ、ゴリ……」
俺は真剣な口調で背後のゴリに語りかけた。
「なんだ?」
ゴリも俺の声色から真剣な空気を感じ取って真面目な態度で対応する。
「すまないんだが……」
「んん?」
俺は凄く言いにくいことを言う。
「すまんが、ゴメスを返してくれないか……」
「なんだよ、鬼の電撃攻撃でチリチリになったからってヅラを返せってか?」
「う、うん……。ほら、髪の毛がほとんど焼けて、また坊主状態に戻っちゃったからさ……」
「仕方無いな……」
ゴリは後ろから俺の頭にゴメスを被せた。
脱ぎ立てのヅラが、ちょっと生暖かい……。
「これは貸しだからな」
言いながらゴリが俺に人差し指を突き出した。
俺は指先と指先を重ね合う。
ピキィーーンっと指先が輝いた。
これで使い魔の受け渡しが完了する。
こうしてゴメスが俺の使い魔として帰って来たことになる。
「すまんな。髪の毛が生えたらゴメスを返すからさ……」
「ああ、気にすんな。それにしても、ヅラとヅラで繋がり合う友情もあるんだな」
嫌な友情だな……。
ってか、これは友情なのか?
そんな感じで俺とゴリがアキレスで実家を目指していると、やがて目的地に到着する。
俺とゴリが実家の前に進むと、庭先に数名の知った顔たちが立ち尽くしていた。
ガイアたちだ。
「アスラン、来たか~」
ガイアが手を振っている。
そこにはメタルキャリア、ササビーさん、ゴリの親父さん、それにパンダゴーレムが立っていた。
俺はアキレスから降りると皆に声を掛けた。
「おう、お待たせ。ペンスさんは居るかい?」
だが、答えたのはササビーさんだった。
「いや、もう姿は無かったよ。テントを畳んで出て行ったようだ」
ゴリが悔しそうに言う。
「逃げたか……」
う~~む。
やっぱり逃げたのかな。
すると、ギレンとペンスさんは同一人物なのかな?
俺はアキレスに再び跨がると皆に言う。
「よし、じゃあ俺はペンスさんを追うぜ。馬で追えば直ぐに追い付くだろうさ」
するとガイアが止める。
「追い付かないと思うよ」
「何でだ、ガイア?」
ガイアは足元の土を擦りながら述べた。
「魔法の残像が残っているの。これは転送魔法ね。たぶん瞬間移動で帰ったと思われるわ。だから追い付かないわよ」
「転送魔法かよ……」
それじゃあ幾らアキレスの足が速くても追い付けないか。
「でも、目的地は分かってるんだ。今から追うよ」
すると今度はゴリの父ちゃんが俺を止める。
「今から出発しても直ぐに夜になります。今晩は家で休んで、明日の朝に出発するのが懸命だと思いますよ」
目がキラキラと乙女チックなのに懸命なことを言うな、ゴリの父ちゃんも。
「そうだな、仕方がないか。もう一晩お世話になるか……」
「我が家は構いませんよ。何せ息子の親友なのですから」
親友?
あれ、俺ってゴリの親友なのかな。
ゴリが家のほうに歩きながら言う。
「ガイアちゃんたちも今日は泊まって行くだろう。かーちゃんに晩飯の準備を頼んで来るよ」
そう言うとゴリは家の中に入って行った。
ガイアが言う。
「アスランとゴリは、親友だったのか~」
「らしいな──」
俺はこうしてもう一晩ゴリの実家でお世話になった。
【つづく】
俺たち三人はロビーに飾られている家族の肖像画を見上げている。
ギデンが肖像画を見上げたがら言う。
「十五年ぐらい前の肖像画だ。今の妻のミネバも理解してくれているから飾っているのだ」
大きな絵には若きころのデギンと椅子に座った女性、それに目付きの悪い少年が画かれていた。
ギデンは既に剥げているが、腹があまり出ていない。
女性は病気かと思えるほどに痩せている。
男の子はオールバックで眉毛が薄い。
少年とは思えない風貌だ。
「なあ、ゴリ。お前はギレンって知ってるか?」
「いや、知らなかった。ドズルルの町で有名な呪術師なのは知っていたが、この町の出身だってことは知らなかった。しかも領主の息子だなんて……」
ジオンググが顎髭を撫でながら考え込むように言った。
「それにしても、面影が違うな……」
「何がだよ?」
「私が覚えていいるギレンは、中肉中背で剥げ頭のオッサンだったぞ。こんな鋭い眼光でも無かったし……」
中肉中背で剥げ頭……。
それって……。
ゴリが言う。
「それってペンスさんじゃあないのか?」
だよな。
普通はそう思うよな。
ゴリが説明する。
「俺に呪いの札を譲ったのはドズルルから来た商人のペンスさんって人だ。その人は中肉中背で剥げていた」
ペンスは偽名か?
ギレンは歳を取って少し太って親父のように剥げて来たのかな?
歳も四十が近付けば、目元だって柔らかくもなるのか?
「やはりペンスさんとギレンは同一人物なのか?」
だが、俺たちの話をきいていたギデンが否定する。
「いや、ギレンは前妻のマクベに似て痩せた子だった。一度も太ったことが無いんだ。それに去年の収穫祭でもチラリと見かけたのだが、昔と変わらずオールバックで痩せていた。目付きだって悪いままだったぞ」
「じゃあペンスさんとギレンは別人なのか?」
ゴリが言う。
「とりあえずだ、家に帰ってペンスさんを捕まえよう。本人に訊くのが一番早いだろうさ」
「うん、そうだな」
俺とゴリは踵を返して屋敷を出て行った。
俺はアキレスを呼び出すと、ゴリを後ろに乗せてゴリの実家を目指した。
ゴリが俺の腰に手を回しながら述べる。
「ササビー兄さんにペンスさんの足止めを頼んであるから、まだ居るはずなんだが……」
「抵抗を見せた時のために、ガイアとメタルキャリアを付けてあるから大丈夫だろうさ」
「だといいんだがな……」
俺も嫌な予感がするんだよね。
それ以上に嫌なのは、今現在ゴリに抱き付かれながら馬を走らせていることが嫌であった。
背中が生暖かい……。
ゴリラマッチョにハグされて嬉しいわけがない。
逆にキモイだけだ。
それよりも──。
「なあ、ゴリ……」
俺は真剣な口調で背後のゴリに語りかけた。
「なんだ?」
ゴリも俺の声色から真剣な空気を感じ取って真面目な態度で対応する。
「すまないんだが……」
「んん?」
俺は凄く言いにくいことを言う。
「すまんが、ゴメスを返してくれないか……」
「なんだよ、鬼の電撃攻撃でチリチリになったからってヅラを返せってか?」
「う、うん……。ほら、髪の毛がほとんど焼けて、また坊主状態に戻っちゃったからさ……」
「仕方無いな……」
ゴリは後ろから俺の頭にゴメスを被せた。
脱ぎ立てのヅラが、ちょっと生暖かい……。
「これは貸しだからな」
言いながらゴリが俺に人差し指を突き出した。
俺は指先と指先を重ね合う。
ピキィーーンっと指先が輝いた。
これで使い魔の受け渡しが完了する。
こうしてゴメスが俺の使い魔として帰って来たことになる。
「すまんな。髪の毛が生えたらゴメスを返すからさ……」
「ああ、気にすんな。それにしても、ヅラとヅラで繋がり合う友情もあるんだな」
嫌な友情だな……。
ってか、これは友情なのか?
そんな感じで俺とゴリがアキレスで実家を目指していると、やがて目的地に到着する。
俺とゴリが実家の前に進むと、庭先に数名の知った顔たちが立ち尽くしていた。
ガイアたちだ。
「アスラン、来たか~」
ガイアが手を振っている。
そこにはメタルキャリア、ササビーさん、ゴリの親父さん、それにパンダゴーレムが立っていた。
俺はアキレスから降りると皆に声を掛けた。
「おう、お待たせ。ペンスさんは居るかい?」
だが、答えたのはササビーさんだった。
「いや、もう姿は無かったよ。テントを畳んで出て行ったようだ」
ゴリが悔しそうに言う。
「逃げたか……」
う~~む。
やっぱり逃げたのかな。
すると、ギレンとペンスさんは同一人物なのかな?
俺はアキレスに再び跨がると皆に言う。
「よし、じゃあ俺はペンスさんを追うぜ。馬で追えば直ぐに追い付くだろうさ」
するとガイアが止める。
「追い付かないと思うよ」
「何でだ、ガイア?」
ガイアは足元の土を擦りながら述べた。
「魔法の残像が残っているの。これは転送魔法ね。たぶん瞬間移動で帰ったと思われるわ。だから追い付かないわよ」
「転送魔法かよ……」
それじゃあ幾らアキレスの足が速くても追い付けないか。
「でも、目的地は分かってるんだ。今から追うよ」
すると今度はゴリの父ちゃんが俺を止める。
「今から出発しても直ぐに夜になります。今晩は家で休んで、明日の朝に出発するのが懸命だと思いますよ」
目がキラキラと乙女チックなのに懸命なことを言うな、ゴリの父ちゃんも。
「そうだな、仕方がないか。もう一晩お世話になるか……」
「我が家は構いませんよ。何せ息子の親友なのですから」
親友?
あれ、俺ってゴリの親友なのかな。
ゴリが家のほうに歩きながら言う。
「ガイアちゃんたちも今日は泊まって行くだろう。かーちゃんに晩飯の準備を頼んで来るよ」
そう言うとゴリは家の中に入って行った。
ガイアが言う。
「アスランとゴリは、親友だったのか~」
「らしいな──」
俺はこうしてもう一晩ゴリの実家でお世話になった。
【つづく】
0
お気に入りに追加
390
あなたにおすすめの小説

異世界に転生したもののトカゲでしたが、進化の実を食べて魔王になりました。
トモモト ヨシユキ
ファンタジー
異世界に転生したのだけれど手違いでトカゲになっていた!しかし、女神に与えられた進化の実を食べて竜人になりました。
エブリスタと小説家になろうにも掲載しています。

スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
欲張ってチートスキル貰いすぎたらステータスを全部0にされてしまったので最弱から最強&ハーレム目指します
ゆさま
ファンタジー
チートスキルを授けてくれる女神様が出てくるまで最短最速です。(多分) HP1 全ステータス0から這い上がる! 可愛い女の子の挿絵多めです!!
カクヨムにて公開したものを手直しして投稿しています。
転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜
家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。
そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?!
しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...?
ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...?
不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。
拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。
小説家になろう様でも公開しております。

うっかり『野良犬』を手懐けてしまった底辺男の逆転人生
野良 乃人
ファンタジー
辺境の田舎街に住むエリオは落ちこぼれの底辺冒険者。
普段から無能だの底辺だのと馬鹿にされ、薬草拾いと揶揄されている。
そんなエリオだが、ふとした事がきっかけで『野良犬』を手懐けてしまう。
そこから始まる底辺落ちこぼれエリオの成り上がりストーリー。
そしてこの世界に存在する宝玉がエリオに力を与えてくれる。
うっかり野良犬を手懐けた底辺男。冒険者という枠を超え乱世での逆転人生が始まります。
いずれは王となるのも夢ではないかも!?
◇世界観的に命の価値は軽いです◇
カクヨムでも同タイトルで掲載しています。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる