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第509話【ライカンスロープ】
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「ライカンスロープって、なんだ……?」
俺は窓から通りを見ながら言った。
スカル姉さんの診療所前ではハイランダーズに取り囲まれていたミーちゃんが逆ギレして獣の姿に変身していた。
身長は2メートル半まで伸びて、頭は虎だ。
手足は太くなっているが、長さのほうが際立って見えた。
イメージとしては細い巨人と言ったサイズ感だ。
しかし、その巨漢はシマシマ柄のタイガーストライプで、ジャイアントゼブラと表現したら良さそうな成りである。
「完全に虎人間だな……」
俺を支えながらスバルちゃんが言う。
「アスラン君はライカンスロープを見たことないのですか?」
「無い。冒険で出合ったことすらないわ」
「ワータイガーはライカンスロープの中でも中の中級クラスの強さですよ」
「中の中級?」
相変わらずスバルちゃんは、分かりずらい表現ばかりだよな。
「ライカンスロープにもランク付けがありまして、ワータイガーは中の中級ランクなんです」
「他にはどんなのが居るんだ?」
「最下位がワーキャットで、次がワードック。更に続いてワーコワラ、ワーウルフ、ワーカンガルーと続きます。ここまでが初級クラス」
「なんだかオーストラリア系が混ざってるぞ……」
やっばり分かりずらい……。
「中級からはワータイガー、ワーベアー、ワーキリン、ワーエレファントと体格が良い順に続きます」
「中級以上はサファリ系が混ざってくるのね……」
「でも、あのワータイガーは体が大きすぎますわ……。何か変です……」
「なるほどね……」
何かドーピングでもしてるのかな?
でも、魔力と言いますか妖気と言いますか、あのワータイガーから感じられる力量は、全回復している俺ならば、勝てないレベルじゃあないぞ。
むしろ余裕だ。
エクレア、キャッサバ、プティング、スターチの四名だとキツイだろうが、ティラミスならば敵わない相手ではないだろう。
ここはティラミスに任せて置けば安泰だろうさ。
案の定だ。
グレードソードを背負ったティラミスが、他のハイランダーズを下げさせた。
「皆は下がっていろ」
「はい、ティラミス様……」
頭を下げたハイランダーズ四名が数歩下がった。
アーティファクトドラゴンを操縦しているパンナコッタも数歩後退する。
そして、グレートソードを片手で軽々と構えたティラミスが名乗った。
「我が名はハイランダーズの筆頭、剣豪のティラミスなり。まだ貴公に言葉が届くか分からぬが、それが貴公を斬る存在の名前だ。冥土まで持っていくが良い」
「ガァルルルルルルっ!!!!」
ワータイガーに変貌したミーちゃんが唸っていた。
完全に虎の表情は獣の血相だ。
理性の欠片も残っていない素振りである。
あれはもう言葉が通じてないだろう。
だとするならば、ミーちゃんは捨て身を選んだってわけか。
逃げも隠れもしないで、獣のままに戦う。
不意打ちも奇襲も何も無く、真っ直ぐ戦う気だ。
最悪は、ここで死ぬつもりだろう。
「ガルルルルルルルル!!!」
ミーちゃんが長い足を緩やかに曲げて力を蓄える。
丸めた背筋から跳躍して飛び掛かろうとしているのが悟れた。
完全に獣の戦闘スタイルだ。
策を労していないのが、手に取るように分かる。
向かい合うは剣豪ティラミス。
俺の見たてでは8:2の確率でティラミスが優勢だ。
否。
8:2では上等過ぎるだろう。
9:1だ。
このぐらいにしか計算できない。
そのぐらい余裕のはず。
「ガァルルルルルル!!!」
吠えるミーちゃんがティラミスに飛び掛かった。
何も考えていない。
振り上げた片手の爪を立ててティラミスの頭を狙う。
「ふんっ!」
だが、ティラミスはグレートソードを真っ直ぐに立ててミーちゃんの鉤爪を刀身で受け止めた。
ミーちゃんの右手がグレートソードに突き刺さる。
中指と薬指の間を割られたミーちゃんの手から鮮血が飛び散った。
「ガルルルルルルルルっ!!!」
しかし、吠えるミーちゃんの攻撃は止まらない。
反対の左手で拳を握るとティラミスの頭部を殴り飛ばしたのだ。
その打撃でティラミスの頭部が飛んで行く。
その首が、後ろで見ていたハイランダーズたちの足元まで転がった。
「首がもげた!!」
俺の横でスバルちゃんが絶叫していた。
そうか、知らないんだっけ。
ハイランダーズの本体は剣事態で鎧は空っぽだってことをさ。
そして、頭を飛ばされたティラミスが、今度は拳を握って踏み込んだ。
そのまま虎人間の顔面をぶん殴ったのである。
スバルちゃんも仰天していたが、路地の陰から見ていた野次馬たちも目を剥いて驚いていた。
頬に鉄拳をめり込ませたワータイガーが飛んで行く。
頬が凹んで、片目が飛び出していた。
そして、ゴロリと転がる。
「うん、圧勝だな。幾らライカンスロープにチェンジしても、俺と同等の強さを誇るティラミスには敵わないだろうさ」
ダウンしたワータイガーを見ながらティラミスがキャッサバに言う。
「キャッサバ、私の頭を取ってくれないか」
「はい、騎士団長」
応えたキャッサバがティラミスのヘルムを蹴っ飛ばして主の元に戻した。
「えっ、なに、態度悪いぞ。それが騎士団長に対しての態度か!?」
「いえ、まだ私はあなたを騎士団長として認めていませんから」
「えっ、なに、それ……?」
「私がタピオカ姫と結婚したのですから、私が新しいハイランダーズのリーダーだと思うのですがね」
「「「「政略結婚かよ!?」」」」
ハイランダーズたちが声を揃えた。
本当に声が揃う連中だよな。
エクレアがキャッサバの脇腹を肘打ちしながら言った。
「じゃあ、あのワータイガーとあなたが戦いなさいよ。勝てるんならね」
キャッサバが言い返す。
「何をいってるんだ、エクレア。リーダーが一番強い必要は無いだろう」
あはは……。
面白いことを言ってるよ。
流石だな。
あの糞姫と結婚するだけのことはあるよ……。
そんなこんなでティラミスがもげた頭を首に戻すと殴られたミーちゃんが立ち上がる。
「ガルルルルルルルル!!」
あれ、もう切られた手が治っているぞ。
飛び出した眼球も元通りだしさ。
ライカンスロープって、回復速度がスゲー速いんだな。
ティラミスが剣を構えてミーちゃんのほうを向き直す。
「まあ、早く決めてやるか」
「ガルルルルルルルル!!!」
再び獣のようにミーちゃんが飛び掛かった。
両手を広げて獣のように飛び掛かる。
隙だらけだ──。
あれだと本気を出したティラミスなら簡単に切れるぞ。
たぶん一太刀で決まるな。
「斬っ!!」
やはりだよ……。
ティラミスが大きく背後までグレートソードを振りかぶる。
大剣の先が背後の床に触れた刹那、ティラミスがグレートソードを前に振るった。
大胆な兜割りだった。
その一太刀がワータイガーの頭から股間までを真っ二つに切り裂いた。
二つに割れたミーちゃんの体がティラミスの左右を飛んで過ぎる。
「決まったな……」
俺は悲しそうに呟いた。
これは分かっていた結果だ。
ただの獣がティラミスに勝てるわけが無いだろう。
ミーちゃんは覚悟して変身したんだろうさ。
南無阿弥陀仏──。
っと、俺が思った瞬間のことである。
二つに割れて飛んでいたミーちゃんの体がティラミスを挟み込むように合体した。
「まぁ~だ、再生するのかよ!!」
「うぬぬぬ………」
あれ、苦しんでる?
ミーちゃんの身体に鋏まれたティラミスがもがいてやがるぞ。
抜け出せないのか?
いや、違うぞ……。
ティラミスが取り込まれているんだ……。
合体しているぞ……。
抵抗していたティラミスの声が聞こえなくなると、そこにはティラミスの甲冑を纏ったワータイガーが立っていた。
その肩にはグレードソードが背負われている。
「「「「取り込まれた!?」」」」
ハイランダーズが叫んだ通りだ。
ティラミスがワータイガーに取り込まれちゃったよ……。
【つづく】
一方、崖の上から下を眺めていたアマデウスが呟いた。
「天秤……。己の呪いを解放して、死ぬ気か……」
俺は窓から通りを見ながら言った。
スカル姉さんの診療所前ではハイランダーズに取り囲まれていたミーちゃんが逆ギレして獣の姿に変身していた。
身長は2メートル半まで伸びて、頭は虎だ。
手足は太くなっているが、長さのほうが際立って見えた。
イメージとしては細い巨人と言ったサイズ感だ。
しかし、その巨漢はシマシマ柄のタイガーストライプで、ジャイアントゼブラと表現したら良さそうな成りである。
「完全に虎人間だな……」
俺を支えながらスバルちゃんが言う。
「アスラン君はライカンスロープを見たことないのですか?」
「無い。冒険で出合ったことすらないわ」
「ワータイガーはライカンスロープの中でも中の中級クラスの強さですよ」
「中の中級?」
相変わらずスバルちゃんは、分かりずらい表現ばかりだよな。
「ライカンスロープにもランク付けがありまして、ワータイガーは中の中級ランクなんです」
「他にはどんなのが居るんだ?」
「最下位がワーキャットで、次がワードック。更に続いてワーコワラ、ワーウルフ、ワーカンガルーと続きます。ここまでが初級クラス」
「なんだかオーストラリア系が混ざってるぞ……」
やっばり分かりずらい……。
「中級からはワータイガー、ワーベアー、ワーキリン、ワーエレファントと体格が良い順に続きます」
「中級以上はサファリ系が混ざってくるのね……」
「でも、あのワータイガーは体が大きすぎますわ……。何か変です……」
「なるほどね……」
何かドーピングでもしてるのかな?
でも、魔力と言いますか妖気と言いますか、あのワータイガーから感じられる力量は、全回復している俺ならば、勝てないレベルじゃあないぞ。
むしろ余裕だ。
エクレア、キャッサバ、プティング、スターチの四名だとキツイだろうが、ティラミスならば敵わない相手ではないだろう。
ここはティラミスに任せて置けば安泰だろうさ。
案の定だ。
グレードソードを背負ったティラミスが、他のハイランダーズを下げさせた。
「皆は下がっていろ」
「はい、ティラミス様……」
頭を下げたハイランダーズ四名が数歩下がった。
アーティファクトドラゴンを操縦しているパンナコッタも数歩後退する。
そして、グレートソードを片手で軽々と構えたティラミスが名乗った。
「我が名はハイランダーズの筆頭、剣豪のティラミスなり。まだ貴公に言葉が届くか分からぬが、それが貴公を斬る存在の名前だ。冥土まで持っていくが良い」
「ガァルルルルルルっ!!!!」
ワータイガーに変貌したミーちゃんが唸っていた。
完全に虎の表情は獣の血相だ。
理性の欠片も残っていない素振りである。
あれはもう言葉が通じてないだろう。
だとするならば、ミーちゃんは捨て身を選んだってわけか。
逃げも隠れもしないで、獣のままに戦う。
不意打ちも奇襲も何も無く、真っ直ぐ戦う気だ。
最悪は、ここで死ぬつもりだろう。
「ガルルルルルルルル!!!」
ミーちゃんが長い足を緩やかに曲げて力を蓄える。
丸めた背筋から跳躍して飛び掛かろうとしているのが悟れた。
完全に獣の戦闘スタイルだ。
策を労していないのが、手に取るように分かる。
向かい合うは剣豪ティラミス。
俺の見たてでは8:2の確率でティラミスが優勢だ。
否。
8:2では上等過ぎるだろう。
9:1だ。
このぐらいにしか計算できない。
そのぐらい余裕のはず。
「ガァルルルルルル!!!」
吠えるミーちゃんがティラミスに飛び掛かった。
何も考えていない。
振り上げた片手の爪を立ててティラミスの頭を狙う。
「ふんっ!」
だが、ティラミスはグレートソードを真っ直ぐに立ててミーちゃんの鉤爪を刀身で受け止めた。
ミーちゃんの右手がグレートソードに突き刺さる。
中指と薬指の間を割られたミーちゃんの手から鮮血が飛び散った。
「ガルルルルルルルルっ!!!」
しかし、吠えるミーちゃんの攻撃は止まらない。
反対の左手で拳を握るとティラミスの頭部を殴り飛ばしたのだ。
その打撃でティラミスの頭部が飛んで行く。
その首が、後ろで見ていたハイランダーズたちの足元まで転がった。
「首がもげた!!」
俺の横でスバルちゃんが絶叫していた。
そうか、知らないんだっけ。
ハイランダーズの本体は剣事態で鎧は空っぽだってことをさ。
そして、頭を飛ばされたティラミスが、今度は拳を握って踏み込んだ。
そのまま虎人間の顔面をぶん殴ったのである。
スバルちゃんも仰天していたが、路地の陰から見ていた野次馬たちも目を剥いて驚いていた。
頬に鉄拳をめり込ませたワータイガーが飛んで行く。
頬が凹んで、片目が飛び出していた。
そして、ゴロリと転がる。
「うん、圧勝だな。幾らライカンスロープにチェンジしても、俺と同等の強さを誇るティラミスには敵わないだろうさ」
ダウンしたワータイガーを見ながらティラミスがキャッサバに言う。
「キャッサバ、私の頭を取ってくれないか」
「はい、騎士団長」
応えたキャッサバがティラミスのヘルムを蹴っ飛ばして主の元に戻した。
「えっ、なに、態度悪いぞ。それが騎士団長に対しての態度か!?」
「いえ、まだ私はあなたを騎士団長として認めていませんから」
「えっ、なに、それ……?」
「私がタピオカ姫と結婚したのですから、私が新しいハイランダーズのリーダーだと思うのですがね」
「「「「政略結婚かよ!?」」」」
ハイランダーズたちが声を揃えた。
本当に声が揃う連中だよな。
エクレアがキャッサバの脇腹を肘打ちしながら言った。
「じゃあ、あのワータイガーとあなたが戦いなさいよ。勝てるんならね」
キャッサバが言い返す。
「何をいってるんだ、エクレア。リーダーが一番強い必要は無いだろう」
あはは……。
面白いことを言ってるよ。
流石だな。
あの糞姫と結婚するだけのことはあるよ……。
そんなこんなでティラミスがもげた頭を首に戻すと殴られたミーちゃんが立ち上がる。
「ガルルルルルルルル!!」
あれ、もう切られた手が治っているぞ。
飛び出した眼球も元通りだしさ。
ライカンスロープって、回復速度がスゲー速いんだな。
ティラミスが剣を構えてミーちゃんのほうを向き直す。
「まあ、早く決めてやるか」
「ガルルルルルルルル!!!」
再び獣のようにミーちゃんが飛び掛かった。
両手を広げて獣のように飛び掛かる。
隙だらけだ──。
あれだと本気を出したティラミスなら簡単に切れるぞ。
たぶん一太刀で決まるな。
「斬っ!!」
やはりだよ……。
ティラミスが大きく背後までグレートソードを振りかぶる。
大剣の先が背後の床に触れた刹那、ティラミスがグレートソードを前に振るった。
大胆な兜割りだった。
その一太刀がワータイガーの頭から股間までを真っ二つに切り裂いた。
二つに割れたミーちゃんの体がティラミスの左右を飛んで過ぎる。
「決まったな……」
俺は悲しそうに呟いた。
これは分かっていた結果だ。
ただの獣がティラミスに勝てるわけが無いだろう。
ミーちゃんは覚悟して変身したんだろうさ。
南無阿弥陀仏──。
っと、俺が思った瞬間のことである。
二つに割れて飛んでいたミーちゃんの体がティラミスを挟み込むように合体した。
「まぁ~だ、再生するのかよ!!」
「うぬぬぬ………」
あれ、苦しんでる?
ミーちゃんの身体に鋏まれたティラミスがもがいてやがるぞ。
抜け出せないのか?
いや、違うぞ……。
ティラミスが取り込まれているんだ……。
合体しているぞ……。
抵抗していたティラミスの声が聞こえなくなると、そこにはティラミスの甲冑を纏ったワータイガーが立っていた。
その肩にはグレードソードが背負われている。
「「「「取り込まれた!?」」」」
ハイランダーズが叫んだ通りだ。
ティラミスがワータイガーに取り込まれちゃったよ……。
【つづく】
一方、崖の上から下を眺めていたアマデウスが呟いた。
「天秤……。己の呪いを解放して、死ぬ気か……」
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