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第508話【ミディアム・テンパランス】
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アスランの病室で煙玉を炸裂させたミーちゃんは、直ぐ様に踵を返して部屋を飛び出した。
逃走である。
「糞っ!」
予想外であった。
ミーちゃんが調べ上げた情報では、アスランが異次元宝物庫を扱えることは知っていた。
その異次元宝物庫内にガーディアンドールのミイラメイドを忍ばせていることも分かっていた。
その数は二十一体。
それもアスランとクラウドの対決の後にほとんど撃破した。
新たな奇襲を準備する間にメイド長である眼帯のメイドだけが復活したのは察知していたが、騙し討ちで難無く排除できた。
だが、まだ、異次元宝物庫内に騎士団が潜んでいるなんて知らなかった。
ミーちゃんが魔法使いギルドで調べた知識では、異次元宝物庫内は無酸素で時間も止まるために、生物はいきていけないとあった。
即ち、あの騎士団はアンデッドかゴーレムの類いだ。
もしもアンデッドならば今は昼だから、太陽の下では力量を発揮しきれないだろう。
しかし、あれはアンデッドではない。
あの騎士団から感じ取った気配は一流の威圧である。
特に真ん中に立っていた大柄のプレートメイルの騎士は桁が違っていた。
おそらく剣の腕はアスランと同等だろう。
だとするならば、ミーちゃんが正面から挑んでも勝てない相手だ。
騙し討ちで、気配を消して、不意をついたからアスランを後ろから刺せたのだ。
奇襲だからこそ致命傷まで追い込めた。
正面から戦えばミーちゃんではアスランの足元にも及ばない。
なのに、アスランと同等の強さを備えた騎士が仲間を引き連れ登場したのだ。
これは一旦退くしかないだろう。
ミーちゃんは階段を駆け下りて一階の廊下を進むと診療所の出口を目指す。
背後からは追手が迫る甲冑の音が激しく聴こえて来ていた。
「やっぱり追って来るよね……」
ミーちゃんが出入り口の扉を開けて診療所を飛び出そうとした刹那だった。
ミーちゃんの前に一人のハイランダーズが降ってきたのだ。
おそらく二階の窓から飛び降りて来たのだろう。
隼斬りのエクレアだ。
彼女はセクシーなプレートメイルを纏っているのに着地の際には音一つ立てずに着地したのだ。
「騎士なのに軽業師か!?」
「変態アスラン様の命令です。あなたを斬ります!」
エクレアが素早くレイピアを腰から引き抜いた。
しかし、それより速くミーちゃんが腰の袋から白い粉を取り出しエクレアのプレートヘルムに投げ付けた。
目眩ましだ。
だが、エクレアは白濁に怯むこと無くレイピアでミーちゃんを突く。
「うそっ!?」
ミーちゃんは咄嗟にジャンプしてエクレアのレイピアを回避する。
そしてエクレアを飛び越えて彼女の背後に着地すると驚きを愚痴った。
「目潰しが効かない!?」
エクレアが振り返ると同時にレイピアを横一線に振るう。
閃光が煌めく。
レイピアの切っ先がミーちゃんの頬を掠めた。
小さな切り傷を作る。
ミーちゃんは身を屈めて後方に滑って間合いを開いた。
なんとか躱せたのだ。
すると爆発テロの現場を見に来ていた民衆たちが二人の争いにざわめきを上げ出した。
「おい、なんだ。爆発の次は喧嘩か?」
「女同士が刃物を持って戦ってるぞ」
「あれ、不動産屋のミーちゃんじゃねえ?」
「相手の女戦士は誰だよ?」
「ドクトルの診療所から出て来たから知り合いかな?」
ミーちゃんは思う。
ヤバイ……。
長いこと不動産荒らしの盗賊として密かに活動してきたのに、ここで戦ったら正体がバレるかも知れない……。
ここは逃げるしかない。
だが、逃走をエクレアが許さない。
逃げを撃った刹那に切りかかってくるだろう。
しかもエクレアの背後から、ゾロゾロと別の騎士たちが姿を表す。
「もう、潮時かしら……」
ミーちゃんは懐から残りの煙玉を全部取り出した。
残り三個の煙玉だ。
これを周りで囲む野次馬に投げ込んで混乱を引き起こそう。
その隙に逃げるしかない。
もう、この町で不動産屋は出来ないだろう。
本当に潮時だ。
そう考えながらミーちゃんが手に持った煙玉を振り上げた刹那だった。
突然彼女の周りが大きな影に包まれる。
空から射していた太陽の日差しを大きな何かが隠したのだ。
「なんだ……?」
ミーちゃんも、周りの野次馬たちも空を見上げる。
「な、なに、あれ……」
空を見上げたミーちゃんが呆然と囁いた。
周りの野次馬たちも愕然としている。
無言のまま腰を抜かしている者も居た。
「ド、ドラゴン……」
ミーちゃんが呟いた通りだった。
診療所の屋根の上に巨大なドラゴンが鎮座しているのだ。
大きく翼を広げて蠢いている。
しかもそのドラゴンは鋼の甲冑を纏ったようなメタルドラゴンだ。
瞳を赤く輝かせ、口の隙間から牙を輝かせているばかりか、炎まで揺らしていた。
そのメタルドラゴンが路上に降りて来る。
着地地点に居た野次馬たちが大声を上げて逃げ出すと、道を塞ぐようにミーちゃんと向き合う。
「よう、パンナコッタ。お前も来て居たのか」
二階の窓からアスランがメタルドラゴンに話し掛けていた。
するとメタルドラゴンの背中が開いて一人の騎士が顔を出した。
騎士が言う。
「いや~、魔王城からドライブがてら飛んで来たんですがね。やっと到着しましたよ。こんなに時間が掛かるんなら、転送絨毯を使えばって後悔してますわ~」
「人が乗ってるの。このドラゴン……」
ミーちゃんは挟まれていた。
道の片側にはメタルドラゴン。
反対側には五体のハイランダーズ。
「盗賊たるもの、一度だけならず二度までも捕まってたまるか。前科二犯なんてありえないわ……」
残り四体のハイランダーズも剣を抜く。
グレートソードを抜いた剣豪ティラミスが言う。
「女盗賊よ。観念しろ。大人しく捕まれば斬らずに済ませてやる。だが、まだ逃走を図るのならば、次は切り捨てるぞ」
冷淡な口調だった。
剣豪ティラミスが述べていることが脅しでは無いとミーちゃんにも悟れた。
この騎士は本気だろう。
「はぁ~……」
ミーちゃんは溜め息の後に手に在るダガーと煙玉を足元に落とした。
観念したかのような態度だ。
「本当に私も潮時ね……」
続いてミーちゃんは首に掛けていたロザリオのネックレスを外した。
そして二階の窓から顔を覗かせているアスランに話し掛ける。
「私がなんでミーちゃんって名乗っているか、知ってる?」
アスランは素っ気なく答えた。
「知らんがな」
「だよね……」
ミーちゃんが片手に握られたロザリオを見詰めながら話を続けた。
「私の本名はミディアム・テンパランス。昔、テンパランスをバランスって聞き間違えた盗賊のリーダーが、私に天秤って名付けたの……」
アスランが冷たく言う。
「それで?」
「私には名前が幾つも有る。不動産屋のミーちゃん、ミディアム・テンパランス、そして天秤……」
「だから、なんだ?」
「今見せているのが、ミーちゃんであり天秤の顔なの……」
アスランにはミーちゃんが言っている意味が分からない。
「だからね。まだ見せていない、ミディアム・テンパランスの顔が私には有るのよ」
「それは、どんな顔だ?」
ミーちゃんは手に在るロザリオを地面に投げた。
するとロザリオが光り出して浮き上がる。
それは頭上10メートルほどの高さまで浮き上がった。
ミーちゃんはその光をマジマジと見詰めている。
「これが、私の切り札よ。ミディアム・テンパランスの素顔なの……」
ロザリオを見上げるミーちゃんの瞳が赤く光り出した。
すると彼女の体が震え出す。
その振るえが全身に広がると、ミーちゃんの手足が太く膨れ上がり、長く伸び出した。
艶やかだった皮膚から針金のような剛毛が伸びだし輪郭も変わり出す。
「変化してるのか?」
「ガルルルルルルルル!!!」
変化したミーちゃんが喉を威嚇的に唸らせた。
その頭部は虎だ。
背丈も伸びで2メートル半まで巨大化していた。
獣の尻尾まで生やしている。
アスランを支えながら見ていたスバルちゃんが呟いた。
「ラ、ライカンスロープ……」
人虎である。
【つづく】
逃走である。
「糞っ!」
予想外であった。
ミーちゃんが調べ上げた情報では、アスランが異次元宝物庫を扱えることは知っていた。
その異次元宝物庫内にガーディアンドールのミイラメイドを忍ばせていることも分かっていた。
その数は二十一体。
それもアスランとクラウドの対決の後にほとんど撃破した。
新たな奇襲を準備する間にメイド長である眼帯のメイドだけが復活したのは察知していたが、騙し討ちで難無く排除できた。
だが、まだ、異次元宝物庫内に騎士団が潜んでいるなんて知らなかった。
ミーちゃんが魔法使いギルドで調べた知識では、異次元宝物庫内は無酸素で時間も止まるために、生物はいきていけないとあった。
即ち、あの騎士団はアンデッドかゴーレムの類いだ。
もしもアンデッドならば今は昼だから、太陽の下では力量を発揮しきれないだろう。
しかし、あれはアンデッドではない。
あの騎士団から感じ取った気配は一流の威圧である。
特に真ん中に立っていた大柄のプレートメイルの騎士は桁が違っていた。
おそらく剣の腕はアスランと同等だろう。
だとするならば、ミーちゃんが正面から挑んでも勝てない相手だ。
騙し討ちで、気配を消して、不意をついたからアスランを後ろから刺せたのだ。
奇襲だからこそ致命傷まで追い込めた。
正面から戦えばミーちゃんではアスランの足元にも及ばない。
なのに、アスランと同等の強さを備えた騎士が仲間を引き連れ登場したのだ。
これは一旦退くしかないだろう。
ミーちゃんは階段を駆け下りて一階の廊下を進むと診療所の出口を目指す。
背後からは追手が迫る甲冑の音が激しく聴こえて来ていた。
「やっぱり追って来るよね……」
ミーちゃんが出入り口の扉を開けて診療所を飛び出そうとした刹那だった。
ミーちゃんの前に一人のハイランダーズが降ってきたのだ。
おそらく二階の窓から飛び降りて来たのだろう。
隼斬りのエクレアだ。
彼女はセクシーなプレートメイルを纏っているのに着地の際には音一つ立てずに着地したのだ。
「騎士なのに軽業師か!?」
「変態アスラン様の命令です。あなたを斬ります!」
エクレアが素早くレイピアを腰から引き抜いた。
しかし、それより速くミーちゃんが腰の袋から白い粉を取り出しエクレアのプレートヘルムに投げ付けた。
目眩ましだ。
だが、エクレアは白濁に怯むこと無くレイピアでミーちゃんを突く。
「うそっ!?」
ミーちゃんは咄嗟にジャンプしてエクレアのレイピアを回避する。
そしてエクレアを飛び越えて彼女の背後に着地すると驚きを愚痴った。
「目潰しが効かない!?」
エクレアが振り返ると同時にレイピアを横一線に振るう。
閃光が煌めく。
レイピアの切っ先がミーちゃんの頬を掠めた。
小さな切り傷を作る。
ミーちゃんは身を屈めて後方に滑って間合いを開いた。
なんとか躱せたのだ。
すると爆発テロの現場を見に来ていた民衆たちが二人の争いにざわめきを上げ出した。
「おい、なんだ。爆発の次は喧嘩か?」
「女同士が刃物を持って戦ってるぞ」
「あれ、不動産屋のミーちゃんじゃねえ?」
「相手の女戦士は誰だよ?」
「ドクトルの診療所から出て来たから知り合いかな?」
ミーちゃんは思う。
ヤバイ……。
長いこと不動産荒らしの盗賊として密かに活動してきたのに、ここで戦ったら正体がバレるかも知れない……。
ここは逃げるしかない。
だが、逃走をエクレアが許さない。
逃げを撃った刹那に切りかかってくるだろう。
しかもエクレアの背後から、ゾロゾロと別の騎士たちが姿を表す。
「もう、潮時かしら……」
ミーちゃんは懐から残りの煙玉を全部取り出した。
残り三個の煙玉だ。
これを周りで囲む野次馬に投げ込んで混乱を引き起こそう。
その隙に逃げるしかない。
もう、この町で不動産屋は出来ないだろう。
本当に潮時だ。
そう考えながらミーちゃんが手に持った煙玉を振り上げた刹那だった。
突然彼女の周りが大きな影に包まれる。
空から射していた太陽の日差しを大きな何かが隠したのだ。
「なんだ……?」
ミーちゃんも、周りの野次馬たちも空を見上げる。
「な、なに、あれ……」
空を見上げたミーちゃんが呆然と囁いた。
周りの野次馬たちも愕然としている。
無言のまま腰を抜かしている者も居た。
「ド、ドラゴン……」
ミーちゃんが呟いた通りだった。
診療所の屋根の上に巨大なドラゴンが鎮座しているのだ。
大きく翼を広げて蠢いている。
しかもそのドラゴンは鋼の甲冑を纏ったようなメタルドラゴンだ。
瞳を赤く輝かせ、口の隙間から牙を輝かせているばかりか、炎まで揺らしていた。
そのメタルドラゴンが路上に降りて来る。
着地地点に居た野次馬たちが大声を上げて逃げ出すと、道を塞ぐようにミーちゃんと向き合う。
「よう、パンナコッタ。お前も来て居たのか」
二階の窓からアスランがメタルドラゴンに話し掛けていた。
するとメタルドラゴンの背中が開いて一人の騎士が顔を出した。
騎士が言う。
「いや~、魔王城からドライブがてら飛んで来たんですがね。やっと到着しましたよ。こんなに時間が掛かるんなら、転送絨毯を使えばって後悔してますわ~」
「人が乗ってるの。このドラゴン……」
ミーちゃんは挟まれていた。
道の片側にはメタルドラゴン。
反対側には五体のハイランダーズ。
「盗賊たるもの、一度だけならず二度までも捕まってたまるか。前科二犯なんてありえないわ……」
残り四体のハイランダーズも剣を抜く。
グレートソードを抜いた剣豪ティラミスが言う。
「女盗賊よ。観念しろ。大人しく捕まれば斬らずに済ませてやる。だが、まだ逃走を図るのならば、次は切り捨てるぞ」
冷淡な口調だった。
剣豪ティラミスが述べていることが脅しでは無いとミーちゃんにも悟れた。
この騎士は本気だろう。
「はぁ~……」
ミーちゃんは溜め息の後に手に在るダガーと煙玉を足元に落とした。
観念したかのような態度だ。
「本当に私も潮時ね……」
続いてミーちゃんは首に掛けていたロザリオのネックレスを外した。
そして二階の窓から顔を覗かせているアスランに話し掛ける。
「私がなんでミーちゃんって名乗っているか、知ってる?」
アスランは素っ気なく答えた。
「知らんがな」
「だよね……」
ミーちゃんが片手に握られたロザリオを見詰めながら話を続けた。
「私の本名はミディアム・テンパランス。昔、テンパランスをバランスって聞き間違えた盗賊のリーダーが、私に天秤って名付けたの……」
アスランが冷たく言う。
「それで?」
「私には名前が幾つも有る。不動産屋のミーちゃん、ミディアム・テンパランス、そして天秤……」
「だから、なんだ?」
「今見せているのが、ミーちゃんであり天秤の顔なの……」
アスランにはミーちゃんが言っている意味が分からない。
「だからね。まだ見せていない、ミディアム・テンパランスの顔が私には有るのよ」
「それは、どんな顔だ?」
ミーちゃんは手に在るロザリオを地面に投げた。
するとロザリオが光り出して浮き上がる。
それは頭上10メートルほどの高さまで浮き上がった。
ミーちゃんはその光をマジマジと見詰めている。
「これが、私の切り札よ。ミディアム・テンパランスの素顔なの……」
ロザリオを見上げるミーちゃんの瞳が赤く光り出した。
すると彼女の体が震え出す。
その振るえが全身に広がると、ミーちゃんの手足が太く膨れ上がり、長く伸び出した。
艶やかだった皮膚から針金のような剛毛が伸びだし輪郭も変わり出す。
「変化してるのか?」
「ガルルルルルルルル!!!」
変化したミーちゃんが喉を威嚇的に唸らせた。
その頭部は虎だ。
背丈も伸びで2メートル半まで巨大化していた。
獣の尻尾まで生やしている。
アスランを支えながら見ていたスバルちゃんが呟いた。
「ラ、ライカンスロープ……」
人虎である。
【つづく】
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