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第505話【アルカナの予言】

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長身で細身の魔法使いが崖の上から景色を眺めていた。

その姿勢は一本真っ直ぐな筋が通った正しい立ち姿だ。

そんな魔法使いが下を眺めている。

魔法使いの背中には力強い凛々しさが映る。

崖の高さは遥か──。

背後には森と山脈が広がっている。

青空は晴れやかで、白い雲が僅かに泳いでいた。

魔法使いは、その崖から下を眺めている。

魔法使いは男性である。

男は肩まで長い黒髪にウェーブが掛かっていて、鋭い瞳は鷹のようだ。

そして、禍々しいスタッフを手に持って、羽織っている純白のローブには煌びやかな金細工の装飾が施されていた。

冒険者ギルドで一派を構える凄腕マジックユーザーのアマデウスだ。

強い風がアマデウスの髪を靡かせる。

その強風に草木が揺れると漆黒のローブを纏った男が地面から彼の背後に現れた。

漆黒の男も魔法使いなのだろう。

手にはスタッフをついて、顔はフードで隠している。

まるで影の中から沸いて出たように静かな登場であった。

アマデウスは背後の男に気付いているようだ。

その証拠に一度だけ背後に視線を向けてから再び崖の下を眺め直す。

アマデウスが言った。

「報告か、ノストラダムス?」

ノストラダムスが渋い声で言う。

「ジャスティス、チャリオット、テンパランスが囚われました」

アマデウスが振り返る。

「驚きだな」

「何がですか?」

ノストラダムスが被ったフードを横に傾げた。

アマデウスは鷹のような鋭い瞳で崖の下を眺めながら言う。

「クラウドや天秤がしくじるのは理解できるが、アキレウスが捕まるとは理解不能だ」

「アキレウス殿は、戦車を持ち込みませんでしたから」

「アホウな──。チャリオットが戦車に乗らずに捕まったか」

「はい」

「それで、予言の賢者よ。次はどうするか?」

「テンパランスが逃げ出したもようなので、しばらく様子を見ようかと──」

「天秤もアルカナカードを授かった一人ならば、オズオズと手ぶらで帰ってこないだろう」

「少なくともアスランの首か、魔王城の宝物庫に忍び込むかと」

アマデウスがチラリと背後を見る。

「天秤は、どちらを優先させる?」

「アスランに恨みを抱いたのならば前者。アマデウス殿に報いるならば後者かと──」

「だから、どっちだと思う?」

「私的には前者。現実的には後者かと──」

「だから、どっちだと思うかって訊いてるんだ」

「す、すみません。私からは……」

「おそらく後者だろう」

「分かるのですか?」

アマデウスは答えない。

しばらく黙ると話を変えた。

「ノストラダムス。お前の入れ知恵だな?」

「当然でございます。それが賢者の役目。捕獲されし三名で、知らぬはクラウド殿のみ」

「何を企む?」

「狙いは魔王城の宝物庫であります。そのためにアキレウス殿にまで敗北を演じさせたのですから」

「よくもあの軍人が、囚われることを許したな」

「いくら歌舞いておりましても、作戦や任務に弱いのが軍人ですからな。そのために、屈辱を甘んじてくれました」

「全てはお前の手の内か?」

「はい、全ては私の策するままです、マジシャン殿」

「だが、ジャスティスを捨て駒に使うのは賛成できんぞ」

「ジャスティスは、これを切っ掛けにリバースします」

「あれが、裏返るか?」

「彼もまたアルカナの予言の元に集まった人物です。まだまだ成長します。時間が掛かりますがな」

「その成長を私は見届けられるのか?」

そこで女性の声が飛んで来た。

若い乙女の声色だ。

「無理よ」

二人の魔法使いが右を見る。

ポニーテールに白いワンピースを纏った少女が立っていた。

胸には血で染まったエプロンを締め、右手に包丁、左腕で黒山羊の頭を抱えている。

少女を見たアマデウスが言った。

「これはこれは、デビル嬢。こちらに出向くとは珍しい」

ポニーテールの少女は微笑みながら言った。

「マジシャン、あなたは三つの素材を集めたら、長くないのよ。知ってるでしょう?」

「ノストラダムスの予言が当たれば、そうなりますな……」

「あなたの目的は、我らと違うのですから、問題無いのでしょうね」

「ああ、そうだ……。私の目的は死者の門を開いて……」

そこで言葉を詰まらせる。

ポニーテールの少女が甘ったるく広角を上げながら言う。

「我々アルカナ二十二札衆の目的はバラバラ。各自の目的を果たすためだけに協力しあっているのだから」

フードで顔を隠したノストラダムスが言う。

「最初の脱落者は、あなたです。マジシャン殿」

アマデウスが鋭い眼光でノストラダムスを睨みながら返した。

「最初の脱落者ではない。最初の達成者だ」

そう言うと視線を崖の下に戻す。

そんなアマデウスの背中を見ながら少女が訊いた。

「アマデウスさん、何を眺めているの?」

アマデウスは下を眺めながら返す。

「魔王城だ──」

ノストラダムスが地面に沈み込みながら呟いた。

「そこから始まり、そこで終わるのですよ。すべてが──」

そう言い残すとノストラダムスの気配が完全に消えた。

姿も消える。

少女も踵を返して歩き出す。

「バカな預言者さんだこと。あなたの予言は最後に大外れするのにさ」

二人が去って行った。

残ったのはアマデウスのみ。

「彼ら他の二十一人が、何を望むかは知ったこっちゃ無い。私が望むものは、妻と娘との再開のみ。その再開を妨げるやからは、何人たりとも許さない……」

鷹のような瞳が更に鋭く輝く。

鋭利に──。


【つづく】
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