493 / 604
第492話【姉妹喧嘩】
しおりを挟む
『プロ子御姉様、今回ばかりは容赦しませんですわよ』
『望むところよ、ヒルダちゃん!』
ヒルダが手にしたレイピアをヒュンヒュンと振るうと、対抗してプロ子が手に有るウォーハンマーをグルグルと振り回した。
まさにこれから姉妹喧嘩が始まろうとしている。
片や、技とスピードの妹ヒルダ。
片や、力と勢いの姉プロ子。
俺が見立てる二人の実力はヒルダが上だ。
そもそもヒルダはプロ子の欠点を補って作られた完成品だ。
プロ子のプロは、プロトタイプのプロなのだ。
そして、残りの十九体のアンデッドメイドたちはヒルダの低コスト式量産型なのだ。
メイドたちの中で一番の強さはヒルダで間違いない。
プロ子に勝ち目があるとするならば、先に産まれた経験値の差だけである。
しかし、その経験値が個体の性能を上回るほどの数値を叩き出せるかは疑問である。
むしろ戦いの経験値ですらヒルダが上だろう。
故にヒルダが明らかに有利だ。
なのにドジっ子プロ子がヒルダに勝てるなんて奇跡に近い。
「何かプロ子に策があるのか?」
いや、あのプロ子に策らしい策を考えられる頭脳が備わっているとは思えない。
何せアンデッドマミー姉妹で一番のポンコツのドジっ子だ。
脳味噌まで力任せの脳筋幼稚キャラだぞ。
あり得ない。
プロ子がヒルダに勝てる見込みは皆無だ。
『では、ヒルダちゃん、行きますよ!』
『いつでもどうぞ』
んん?
んんんんん?
あのプロ子が持ってるウォーハンマーって、アスハンの野郎が持っていたハンマーじゃあねえか?
なんで、あいつが使ってるんだ?
『マジックアイテム起動!!』
案の定だ。
プロ子が念ずるとウォーハンマーの頭部が巨大化を始めた。
間違いないぞ。
プロ子の奴め、俺の異次元宝物庫からマジックアイテムをかっぱらって来やがったな。
『とりゃぁあ~~!!』
可愛らしい掛け声と共にプロ子が盗んだウォーハンマーでヒルダに殴り掛かった。
プロ子が巨大ハンマーを縦に振るう。
『どすこーーい!!』
『甘い──』
プロ子の強打をヒルダはバックステップで軽々と回避した。
すると狙いを外した巨大ハンマーの頭部が地面にドスンとめり込む。
その一撃で林の木々が芯から跳ねるように揺れた。
『とりゃ!!』
今度はヒルダの反撃だ。
空振りで地面にめり込んだ巨大ハンマーの頭部を飛び越え上空から飛び迫る。
ヒルダはレイピアを弓矢を引くように構えていた。
その独眼はいつもの冷酷な眼差しである。
姉妹相手でも容赦無き素振りであった。
こりゃあ、マジで刺す気だぞ……。
『ふんぅ!!』
上空から狙うヒルダの突きが放たれた。
それは容赦無くプロ子の眉間を狙って真っ直ぐに進む。
プロ子は躱せないだろう。
キャッチ──。
『『アスラン様!?』』
あー、俺も手を出してから驚いちゃったわ~。
ヒルダの突きがプロ子のおでこに突き刺さる寸前で、俺が左剛腕でレイピアの刀身をキャッチしてしまっておりましたわ~……。
いやね、ついついって言いますか……。
なんて、言いますか……。
とりあえず格好良く決めて誤魔化すしかないかな。
「ふぬっ!!」
俺は鋼の手で掴んだレイピアを力任せに振るってヒルダを投げ飛ばそうとした。
しかしヒルダは振り回されたレイピアから手を離して飛んで行く。
クルリと回転すると、音も無く地面に着地した。
着地と同時に空気を孕んだスカートを手で押さえている。
『アスラン様……』
俺の横でプロ子が呆然と俺の顔を見上げていた。
あらら、惚れちゃったかな?
『アスラン様、何故に邪魔をなされますか!?』
ヒルダが怒鳴るように問うたので、俺はレイピアを投げ捨てると質問に答えた。
「そもそも、姉妹で殺し合うこっちゃあねえだろ、ヒルダ」
ヒルダではなく、プロ子が答えた。
『何を言ってるんですか、アスラン様。我々姉妹は既に死んでますから死にませんよ』
「えっ?」
でもでも……。
『我々姉妹は普通のアンデッドではありませんからね。切った張ったで身体の機能が停止いたしましても死にませんから』
「でも、流石のお前らでも、頭が破壊されたら死んじゃうだろ……?」
だって今さっきヒルダはプロ子の頭を狙ってたんだぞ。
幾らアンデッドでも頭を破壊されたら死ぬのが法則だ。
『そのぐらい大丈夫ですよ、アスラン様~。我々は身体の一部分が残っておれば、時間と魔力こそ掛かりますが、復活しますから~』
『えっ、そうなの……』
ヒルダが言う。
『我々はアンデッドのマミーである前に、マジックアイテムなのです。だからマジックアイテムと同じような原理で復活できるのです』
『へ、へえ~、そうなんだぁ~……』
まあ、俺のハクスラスキルに引き寄せられたんだもんな。
それにしても、なんか真面目ぶっこいて、割って入って損した気分だぜ……。
「じゃあ、好きなだけ殺し合ってろよ。俺は寝るからさ……」
『『はい!』』
畜生……。
何を二人して元気良く返事をしてやがるんだ……。
もう呆れて何も言えねえわ……。
馬鹿馬鹿しい、寝よっと……。
こうして俺は不貞腐れるように横になると、地表に飛び出した木の根を枕にして仮眠に入った。
俺が寝ている間もヒルダとプロ子の姉妹喧嘩は激しく続いていたようだが、もう俺には興味が無い。
それより俺は眠いからねるぞ。
『とうっ!!』
『はっ!!』
『闘っ!!』
『破っ!!』
『オラオラオラオラ!!!』
『無駄無駄無駄無駄!!!』
う、五月蝿い……。
眠れねぇ……。
マジで迷惑なメイドたちだ。
どうせなら異次元宝物庫内でやってくれよな……。
【つづく】
『望むところよ、ヒルダちゃん!』
ヒルダが手にしたレイピアをヒュンヒュンと振るうと、対抗してプロ子が手に有るウォーハンマーをグルグルと振り回した。
まさにこれから姉妹喧嘩が始まろうとしている。
片や、技とスピードの妹ヒルダ。
片や、力と勢いの姉プロ子。
俺が見立てる二人の実力はヒルダが上だ。
そもそもヒルダはプロ子の欠点を補って作られた完成品だ。
プロ子のプロは、プロトタイプのプロなのだ。
そして、残りの十九体のアンデッドメイドたちはヒルダの低コスト式量産型なのだ。
メイドたちの中で一番の強さはヒルダで間違いない。
プロ子に勝ち目があるとするならば、先に産まれた経験値の差だけである。
しかし、その経験値が個体の性能を上回るほどの数値を叩き出せるかは疑問である。
むしろ戦いの経験値ですらヒルダが上だろう。
故にヒルダが明らかに有利だ。
なのにドジっ子プロ子がヒルダに勝てるなんて奇跡に近い。
「何かプロ子に策があるのか?」
いや、あのプロ子に策らしい策を考えられる頭脳が備わっているとは思えない。
何せアンデッドマミー姉妹で一番のポンコツのドジっ子だ。
脳味噌まで力任せの脳筋幼稚キャラだぞ。
あり得ない。
プロ子がヒルダに勝てる見込みは皆無だ。
『では、ヒルダちゃん、行きますよ!』
『いつでもどうぞ』
んん?
んんんんん?
あのプロ子が持ってるウォーハンマーって、アスハンの野郎が持っていたハンマーじゃあねえか?
なんで、あいつが使ってるんだ?
『マジックアイテム起動!!』
案の定だ。
プロ子が念ずるとウォーハンマーの頭部が巨大化を始めた。
間違いないぞ。
プロ子の奴め、俺の異次元宝物庫からマジックアイテムをかっぱらって来やがったな。
『とりゃぁあ~~!!』
可愛らしい掛け声と共にプロ子が盗んだウォーハンマーでヒルダに殴り掛かった。
プロ子が巨大ハンマーを縦に振るう。
『どすこーーい!!』
『甘い──』
プロ子の強打をヒルダはバックステップで軽々と回避した。
すると狙いを外した巨大ハンマーの頭部が地面にドスンとめり込む。
その一撃で林の木々が芯から跳ねるように揺れた。
『とりゃ!!』
今度はヒルダの反撃だ。
空振りで地面にめり込んだ巨大ハンマーの頭部を飛び越え上空から飛び迫る。
ヒルダはレイピアを弓矢を引くように構えていた。
その独眼はいつもの冷酷な眼差しである。
姉妹相手でも容赦無き素振りであった。
こりゃあ、マジで刺す気だぞ……。
『ふんぅ!!』
上空から狙うヒルダの突きが放たれた。
それは容赦無くプロ子の眉間を狙って真っ直ぐに進む。
プロ子は躱せないだろう。
キャッチ──。
『『アスラン様!?』』
あー、俺も手を出してから驚いちゃったわ~。
ヒルダの突きがプロ子のおでこに突き刺さる寸前で、俺が左剛腕でレイピアの刀身をキャッチしてしまっておりましたわ~……。
いやね、ついついって言いますか……。
なんて、言いますか……。
とりあえず格好良く決めて誤魔化すしかないかな。
「ふぬっ!!」
俺は鋼の手で掴んだレイピアを力任せに振るってヒルダを投げ飛ばそうとした。
しかしヒルダは振り回されたレイピアから手を離して飛んで行く。
クルリと回転すると、音も無く地面に着地した。
着地と同時に空気を孕んだスカートを手で押さえている。
『アスラン様……』
俺の横でプロ子が呆然と俺の顔を見上げていた。
あらら、惚れちゃったかな?
『アスラン様、何故に邪魔をなされますか!?』
ヒルダが怒鳴るように問うたので、俺はレイピアを投げ捨てると質問に答えた。
「そもそも、姉妹で殺し合うこっちゃあねえだろ、ヒルダ」
ヒルダではなく、プロ子が答えた。
『何を言ってるんですか、アスラン様。我々姉妹は既に死んでますから死にませんよ』
「えっ?」
でもでも……。
『我々姉妹は普通のアンデッドではありませんからね。切った張ったで身体の機能が停止いたしましても死にませんから』
「でも、流石のお前らでも、頭が破壊されたら死んじゃうだろ……?」
だって今さっきヒルダはプロ子の頭を狙ってたんだぞ。
幾らアンデッドでも頭を破壊されたら死ぬのが法則だ。
『そのぐらい大丈夫ですよ、アスラン様~。我々は身体の一部分が残っておれば、時間と魔力こそ掛かりますが、復活しますから~』
『えっ、そうなの……』
ヒルダが言う。
『我々はアンデッドのマミーである前に、マジックアイテムなのです。だからマジックアイテムと同じような原理で復活できるのです』
『へ、へえ~、そうなんだぁ~……』
まあ、俺のハクスラスキルに引き寄せられたんだもんな。
それにしても、なんか真面目ぶっこいて、割って入って損した気分だぜ……。
「じゃあ、好きなだけ殺し合ってろよ。俺は寝るからさ……」
『『はい!』』
畜生……。
何を二人して元気良く返事をしてやがるんだ……。
もう呆れて何も言えねえわ……。
馬鹿馬鹿しい、寝よっと……。
こうして俺は不貞腐れるように横になると、地表に飛び出した木の根を枕にして仮眠に入った。
俺が寝ている間もヒルダとプロ子の姉妹喧嘩は激しく続いていたようだが、もう俺には興味が無い。
それより俺は眠いからねるぞ。
『とうっ!!』
『はっ!!』
『闘っ!!』
『破っ!!』
『オラオラオラオラ!!!』
『無駄無駄無駄無駄!!!』
う、五月蝿い……。
眠れねぇ……。
マジで迷惑なメイドたちだ。
どうせなら異次元宝物庫内でやってくれよな……。
【つづく】
0
お気に入りに追加
384
あなたにおすすめの小説
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~
ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。
食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。
最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。
それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。
※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。
カクヨムで先行投稿中!
【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。
ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。
剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。
しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。
休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう…
そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。
ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。
その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。
それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく……
※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。
ホットランキング最高位2位でした。
カクヨムにも別シナリオで掲載。
『特別』を願った僕の転生先は放置された第7皇子!?
mio
ファンタジー
特別になることを望む『平凡』な大学生・弥登陽斗はある日突然亡くなる。
神様に『特別』になりたい願いを叶えてやると言われ、生まれ変わった先は異世界の第7皇子!? しかも母親はなんだかさびれた離宮に追いやられているし、騎士団に入っている兄はなかなか会うことができない。それでも穏やかな日々。
そんな生活も母の死を境に変わっていく。なぜか絡んでくる異母兄弟をあしらいつつ、兄の元で剣に魔法に、いろいろと学んでいくことに。兄と兄の部下との新たな日常に、以前とはまた違った幸せを感じていた。
日常を壊し、強制的に終わらせたとある不幸が起こるまでは。
神様、一つ言わせてください。僕が言っていた特別はこういうことではないと思うんですけど!?
他サイトでも投稿しております。
俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。
ねんごろ
恋愛
主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。
その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……
毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。
※他サイトで連載していた作品です
公爵家三男に転生しましたが・・・
キルア犬
ファンタジー
前世は27歳の社会人でそこそこ恋愛なども経験済みの水嶋海が主人公ですが…
色々と本当に色々とありまして・・・
転生しました。
前世は女性でしたが異世界では男!
記憶持ち葛藤をご覧下さい。
作者は初投稿で理系人間ですので誤字脱字には寛容頂きたいとお願いします。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる