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第492話【姉妹喧嘩】
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『プロ子御姉様、今回ばかりは容赦しませんですわよ』
『望むところよ、ヒルダちゃん!』
ヒルダが手にしたレイピアをヒュンヒュンと振るうと、対抗してプロ子が手に有るウォーハンマーをグルグルと振り回した。
まさにこれから姉妹喧嘩が始まろうとしている。
片や、技とスピードの妹ヒルダ。
片や、力と勢いの姉プロ子。
俺が見立てる二人の実力はヒルダが上だ。
そもそもヒルダはプロ子の欠点を補って作られた完成品だ。
プロ子のプロは、プロトタイプのプロなのだ。
そして、残りの十九体のアンデッドメイドたちはヒルダの低コスト式量産型なのだ。
メイドたちの中で一番の強さはヒルダで間違いない。
プロ子に勝ち目があるとするならば、先に産まれた経験値の差だけである。
しかし、その経験値が個体の性能を上回るほどの数値を叩き出せるかは疑問である。
むしろ戦いの経験値ですらヒルダが上だろう。
故にヒルダが明らかに有利だ。
なのにドジっ子プロ子がヒルダに勝てるなんて奇跡に近い。
「何かプロ子に策があるのか?」
いや、あのプロ子に策らしい策を考えられる頭脳が備わっているとは思えない。
何せアンデッドマミー姉妹で一番のポンコツのドジっ子だ。
脳味噌まで力任せの脳筋幼稚キャラだぞ。
あり得ない。
プロ子がヒルダに勝てる見込みは皆無だ。
『では、ヒルダちゃん、行きますよ!』
『いつでもどうぞ』
んん?
んんんんん?
あのプロ子が持ってるウォーハンマーって、アスハンの野郎が持っていたハンマーじゃあねえか?
なんで、あいつが使ってるんだ?
『マジックアイテム起動!!』
案の定だ。
プロ子が念ずるとウォーハンマーの頭部が巨大化を始めた。
間違いないぞ。
プロ子の奴め、俺の異次元宝物庫からマジックアイテムをかっぱらって来やがったな。
『とりゃぁあ~~!!』
可愛らしい掛け声と共にプロ子が盗んだウォーハンマーでヒルダに殴り掛かった。
プロ子が巨大ハンマーを縦に振るう。
『どすこーーい!!』
『甘い──』
プロ子の強打をヒルダはバックステップで軽々と回避した。
すると狙いを外した巨大ハンマーの頭部が地面にドスンとめり込む。
その一撃で林の木々が芯から跳ねるように揺れた。
『とりゃ!!』
今度はヒルダの反撃だ。
空振りで地面にめり込んだ巨大ハンマーの頭部を飛び越え上空から飛び迫る。
ヒルダはレイピアを弓矢を引くように構えていた。
その独眼はいつもの冷酷な眼差しである。
姉妹相手でも容赦無き素振りであった。
こりゃあ、マジで刺す気だぞ……。
『ふんぅ!!』
上空から狙うヒルダの突きが放たれた。
それは容赦無くプロ子の眉間を狙って真っ直ぐに進む。
プロ子は躱せないだろう。
キャッチ──。
『『アスラン様!?』』
あー、俺も手を出してから驚いちゃったわ~。
ヒルダの突きがプロ子のおでこに突き刺さる寸前で、俺が左剛腕でレイピアの刀身をキャッチしてしまっておりましたわ~……。
いやね、ついついって言いますか……。
なんて、言いますか……。
とりあえず格好良く決めて誤魔化すしかないかな。
「ふぬっ!!」
俺は鋼の手で掴んだレイピアを力任せに振るってヒルダを投げ飛ばそうとした。
しかしヒルダは振り回されたレイピアから手を離して飛んで行く。
クルリと回転すると、音も無く地面に着地した。
着地と同時に空気を孕んだスカートを手で押さえている。
『アスラン様……』
俺の横でプロ子が呆然と俺の顔を見上げていた。
あらら、惚れちゃったかな?
『アスラン様、何故に邪魔をなされますか!?』
ヒルダが怒鳴るように問うたので、俺はレイピアを投げ捨てると質問に答えた。
「そもそも、姉妹で殺し合うこっちゃあねえだろ、ヒルダ」
ヒルダではなく、プロ子が答えた。
『何を言ってるんですか、アスラン様。我々姉妹は既に死んでますから死にませんよ』
「えっ?」
でもでも……。
『我々姉妹は普通のアンデッドではありませんからね。切った張ったで身体の機能が停止いたしましても死にませんから』
「でも、流石のお前らでも、頭が破壊されたら死んじゃうだろ……?」
だって今さっきヒルダはプロ子の頭を狙ってたんだぞ。
幾らアンデッドでも頭を破壊されたら死ぬのが法則だ。
『そのぐらい大丈夫ですよ、アスラン様~。我々は身体の一部分が残っておれば、時間と魔力こそ掛かりますが、復活しますから~』
『えっ、そうなの……』
ヒルダが言う。
『我々はアンデッドのマミーである前に、マジックアイテムなのです。だからマジックアイテムと同じような原理で復活できるのです』
『へ、へえ~、そうなんだぁ~……』
まあ、俺のハクスラスキルに引き寄せられたんだもんな。
それにしても、なんか真面目ぶっこいて、割って入って損した気分だぜ……。
「じゃあ、好きなだけ殺し合ってろよ。俺は寝るからさ……」
『『はい!』』
畜生……。
何を二人して元気良く返事をしてやがるんだ……。
もう呆れて何も言えねえわ……。
馬鹿馬鹿しい、寝よっと……。
こうして俺は不貞腐れるように横になると、地表に飛び出した木の根を枕にして仮眠に入った。
俺が寝ている間もヒルダとプロ子の姉妹喧嘩は激しく続いていたようだが、もう俺には興味が無い。
それより俺は眠いからねるぞ。
『とうっ!!』
『はっ!!』
『闘っ!!』
『破っ!!』
『オラオラオラオラ!!!』
『無駄無駄無駄無駄!!!』
う、五月蝿い……。
眠れねぇ……。
マジで迷惑なメイドたちだ。
どうせなら異次元宝物庫内でやってくれよな……。
【つづく】
『望むところよ、ヒルダちゃん!』
ヒルダが手にしたレイピアをヒュンヒュンと振るうと、対抗してプロ子が手に有るウォーハンマーをグルグルと振り回した。
まさにこれから姉妹喧嘩が始まろうとしている。
片や、技とスピードの妹ヒルダ。
片や、力と勢いの姉プロ子。
俺が見立てる二人の実力はヒルダが上だ。
そもそもヒルダはプロ子の欠点を補って作られた完成品だ。
プロ子のプロは、プロトタイプのプロなのだ。
そして、残りの十九体のアンデッドメイドたちはヒルダの低コスト式量産型なのだ。
メイドたちの中で一番の強さはヒルダで間違いない。
プロ子に勝ち目があるとするならば、先に産まれた経験値の差だけである。
しかし、その経験値が個体の性能を上回るほどの数値を叩き出せるかは疑問である。
むしろ戦いの経験値ですらヒルダが上だろう。
故にヒルダが明らかに有利だ。
なのにドジっ子プロ子がヒルダに勝てるなんて奇跡に近い。
「何かプロ子に策があるのか?」
いや、あのプロ子に策らしい策を考えられる頭脳が備わっているとは思えない。
何せアンデッドマミー姉妹で一番のポンコツのドジっ子だ。
脳味噌まで力任せの脳筋幼稚キャラだぞ。
あり得ない。
プロ子がヒルダに勝てる見込みは皆無だ。
『では、ヒルダちゃん、行きますよ!』
『いつでもどうぞ』
んん?
んんんんん?
あのプロ子が持ってるウォーハンマーって、アスハンの野郎が持っていたハンマーじゃあねえか?
なんで、あいつが使ってるんだ?
『マジックアイテム起動!!』
案の定だ。
プロ子が念ずるとウォーハンマーの頭部が巨大化を始めた。
間違いないぞ。
プロ子の奴め、俺の異次元宝物庫からマジックアイテムをかっぱらって来やがったな。
『とりゃぁあ~~!!』
可愛らしい掛け声と共にプロ子が盗んだウォーハンマーでヒルダに殴り掛かった。
プロ子が巨大ハンマーを縦に振るう。
『どすこーーい!!』
『甘い──』
プロ子の強打をヒルダはバックステップで軽々と回避した。
すると狙いを外した巨大ハンマーの頭部が地面にドスンとめり込む。
その一撃で林の木々が芯から跳ねるように揺れた。
『とりゃ!!』
今度はヒルダの反撃だ。
空振りで地面にめり込んだ巨大ハンマーの頭部を飛び越え上空から飛び迫る。
ヒルダはレイピアを弓矢を引くように構えていた。
その独眼はいつもの冷酷な眼差しである。
姉妹相手でも容赦無き素振りであった。
こりゃあ、マジで刺す気だぞ……。
『ふんぅ!!』
上空から狙うヒルダの突きが放たれた。
それは容赦無くプロ子の眉間を狙って真っ直ぐに進む。
プロ子は躱せないだろう。
キャッチ──。
『『アスラン様!?』』
あー、俺も手を出してから驚いちゃったわ~。
ヒルダの突きがプロ子のおでこに突き刺さる寸前で、俺が左剛腕でレイピアの刀身をキャッチしてしまっておりましたわ~……。
いやね、ついついって言いますか……。
なんて、言いますか……。
とりあえず格好良く決めて誤魔化すしかないかな。
「ふぬっ!!」
俺は鋼の手で掴んだレイピアを力任せに振るってヒルダを投げ飛ばそうとした。
しかしヒルダは振り回されたレイピアから手を離して飛んで行く。
クルリと回転すると、音も無く地面に着地した。
着地と同時に空気を孕んだスカートを手で押さえている。
『アスラン様……』
俺の横でプロ子が呆然と俺の顔を見上げていた。
あらら、惚れちゃったかな?
『アスラン様、何故に邪魔をなされますか!?』
ヒルダが怒鳴るように問うたので、俺はレイピアを投げ捨てると質問に答えた。
「そもそも、姉妹で殺し合うこっちゃあねえだろ、ヒルダ」
ヒルダではなく、プロ子が答えた。
『何を言ってるんですか、アスラン様。我々姉妹は既に死んでますから死にませんよ』
「えっ?」
でもでも……。
『我々姉妹は普通のアンデッドではありませんからね。切った張ったで身体の機能が停止いたしましても死にませんから』
「でも、流石のお前らでも、頭が破壊されたら死んじゃうだろ……?」
だって今さっきヒルダはプロ子の頭を狙ってたんだぞ。
幾らアンデッドでも頭を破壊されたら死ぬのが法則だ。
『そのぐらい大丈夫ですよ、アスラン様~。我々は身体の一部分が残っておれば、時間と魔力こそ掛かりますが、復活しますから~』
『えっ、そうなの……』
ヒルダが言う。
『我々はアンデッドのマミーである前に、マジックアイテムなのです。だからマジックアイテムと同じような原理で復活できるのです』
『へ、へえ~、そうなんだぁ~……』
まあ、俺のハクスラスキルに引き寄せられたんだもんな。
それにしても、なんか真面目ぶっこいて、割って入って損した気分だぜ……。
「じゃあ、好きなだけ殺し合ってろよ。俺は寝るからさ……」
『『はい!』』
畜生……。
何を二人して元気良く返事をしてやがるんだ……。
もう呆れて何も言えねえわ……。
馬鹿馬鹿しい、寝よっと……。
こうして俺は不貞腐れるように横になると、地表に飛び出した木の根を枕にして仮眠に入った。
俺が寝ている間もヒルダとプロ子の姉妹喧嘩は激しく続いていたようだが、もう俺には興味が無い。
それより俺は眠いからねるぞ。
『とうっ!!』
『はっ!!』
『闘っ!!』
『破っ!!』
『オラオラオラオラ!!!』
『無駄無駄無駄無駄!!!』
う、五月蝿い……。
眠れねぇ……。
マジで迷惑なメイドたちだ。
どうせなら異次元宝物庫内でやってくれよな……。
【つづく】
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