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第475話【閉鎖ダンジョン最終日】

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次の日の朝──。

「あ~、腹減ったわ~。なんか朝飯ある~?」

俺は宿屋の二階から一階の酒場に下りるとカウンターの奥に居るユキちゃんに声を掛けた。

「よう、アスラン、おはよう。朝飯ならワニ料理があるぞ。ステーキがいいか、それともシチューがいいか、それとも、わ・た・し♡」

「朝からステーキはキツイから、シチューとパンでいいや。あと、食後に、キ・ミ・で♡」

「冗談ばかり言ってないで、さっさと食べな、ダーリン♡」

ウィンクしながらユキちゃんがワニ肉のシチューを運んで来る。

パンは焼きたてっぽい。

ほくほくでうまうまである。

「それで、昨日はあの後さ、スカル姉さんはどうなったんだ?」

ユキちゃんは俺が腰かけているテーブルを指差しながら言った。

「そこで、寝てたぞ。朝までぐっすりだ。そしてテーブルの上は寝ゲロまみれだったがな」

「うわっ……」

俺はシチューを掬っていたスプーンごと皿の中に落としてしまう。

バッチいな……。

このテーブルから何か臭いそうだわ。

「そ、それで、その後は……?」

「朝早くに目覚めて、湖にダイブしてたかな。その後はソドムタウンの診療所に帰って行ったぞ」

「そ、そうか……」

「アスランは、今日これからどうするんだ?」

「俺はまだ仕事が残ってるから、朝飯を食べたら冒険に戻るよ。ヒルダを閉鎖ダンジョンに置いてきているからな。そろそろ帰らないと」

「そうか、頑張って稼いで来いよ」

「神々のスコップさえ有れば、もうこんな金稼ぎのミッションなんか受けなくたって良くなったのにさ……」

「女神に回収されたんだろ。だったら仕方無いだろうさ」

「ユキちゃん、その話を信用してくれるのか?」

「アスラン一人が言ってるなら、くだらない言い訳だと思ったけど、ガイアちゃんまで言ってるから信じるぞ」

「ガイアは信じられても、俺は信じられないか……」

「信頼性の問題かな」

「畜生……」

いじけた俺は朝飯を食べると、さっさと閉鎖ダンジョンに戻った。

今日までに薬を回収して持ち帰れば、報酬が貰える期限である。

できれば報酬を貰いたいからな。

兎に角ここからは先を急ごう。

そして、俺が閉鎖ダンジョン内に戻るとヒルダが一人で転送絨毯の前で正座をして待っていた。

ヒルダが三つ指を立てて頭を下げる。

『お帰りなさいませ、アスラン様』

「ああ、ただいま、ヒルダ」

うん、相変わらず健気な奴だな。

俺が帰ってくるのを正座までして待っているとは……。

『アスラン様、お食事の準備が出来ていますので、こちらにどうぞ』

「えっ、マジ?」

『はい』

「すまん、外で食べてきたわ……」

『…………』

俺が言うとヒルダは顔色一つ変えずに黙り込む。

そして、少しの間を開けてから言った。

『では、お風呂が沸いております。以下がなされますか?』

「ああ、それも外で済ませてきた……」

『…………』

またヒルダは少しの間、冷たい眼差しで黙り込む。

そして、次にヒルダは頬を赤らめながら恥ずかしげに言った。

『では、寝床の準備をいたしますわ』

「もう朝だよ、外でぐっすり寝てきたぞ」

『…………』

またヒルダが冷たい目で俺を凝視してくる。

なんか、少し怖いな……。

『ぐすん、ぐすん……』

突然である。

俯いたヒルダが口元を押さえながら泣き出した。

そして啜り泣きながら言う。

『酷いですは、アスラン様。わたくしと言う女が居ながら朝帰りですか……。どこの女と浮気をしていたのですか……』

「魔王城前のキャンプに帰っていただけだよ……」

『分かりましたは、あのスバルたる眼鏡ツインテールと浮気ですか。それともユキちゃんたる雌ブタとちちくりあっていたのですか……」

「どっちとも、まだ付き合ってねーーよ!!」

『付き合っていない? なら遊びなのですね。必ずわたくしめのところに帰って来るのですね!!』

「なんで俺がお前のところに帰らなきゃならねえんだよ。お前は俺のなんなのさ!!」

『ひ、酷い……。こんなに尽くしているのに……。しくしく……』

すると突然ながら異次元宝物庫からプロ子が出て来て涙ぐむヒルダに寄り添った。

『ヒルダちゃん、だからお姉ちゃんが言ったでしょう。あんな男は止めなさいってさ。絶対に利用だけされまくって、最後はボロ雑巾のように捨てられるってさ』

『プロ子お姉さま……。わたくしがバカでしたわ。本当にプロ子お姉さまの言う通りだったわ……。しくしく……』

『あ~、よしよし、ヒルダちゃん。男なんて星の数だけ居るんだからいずれヒルダちゃんにお似合いの男性が現れるわよ』

なに、この茶番劇は?

貧乏一座のショー劇場ですか?

『でも、もう、わたくし、後戻りが出来ないの……』

『どうして?』

『出来ちゃったの……。お腹に子供が……』

『「マジで!!』」

『うん、もう三ヶ月目に入るは……。うぷっ、吐き気が……。ああ、なんか急に酸っぱい物が食べたくなってきたわ……』

『ヒルダちゃん、おめでたね!!』

するとプロ子が踵を返して俺を睨み付けて来た。

そして声色を変えて言ってくる。

『アスラン様、話は聞きましたよね!』

「う、うん……」

『妹のヒルダちゃんが、妊娠したようよ。あなた責任を取って、籍を入れてくれるんでしょうね!!』

「な、なんで?」

『なんでって、アスラン様の子供ですよ!!』

「嘘付け、俺の子供な訳無いだろ!」

『酷い。子供が出来たからって、しらを切るつもりなのね。最低な男ね!!』

なに、俺って最低なの!?

『違うの、プロ子お姉さま……』

『何が違うのよ、ヒルダちゃん!!』

『アスラン様の子かどうか、分からないの……』

『えっ、どう言うことなの、ヒルダちゃん?』

『わたくし、アスラン様に命じられて、売りをやってたの……』

「『酷いっ!!」』

『アスラン様っで、マジで最低な男ね!!』

「俺ってそんなに最低な男だったのね!?」

混沌が渦巻く中で、突然ヒルダが奇声を上げながら包丁を手に取った。

『こうなったら、アスラン様を殺してわたくしも死にますわ!!』

「ま、まて、早まるな、ヒルダ!!」

だが、そこにプロ子も包丁を持って割って入る。

『待って、ヒルダちゃん!!』

『プロ子お姉さま……』

『あなたのお腹には赤ちゃんが居るのよ。なんの罪も無い赤ん坊を犠牲になんてさせないわ!!』

『でも、プロ子お姉さま!!』

プロ子が瞳を凛々しくしながら述べる。

『私がアスラン様を殺して刑務所で罪を償って来ます……』

結局俺は殺されるのね!

『でも、それじゃあ余りにもプロ子お姉さまが報われないわ!!』

『いいのよ、ヒルダちゃん。私はあなたと赤ん坊が元気で幸せに暮らせれば、どんな罰にだって耐えられるわ』

「ソドムタウンの牢獄は、畳一畳程度で明かりも無く、食事も残飯みたいなのが一日一食しかでないぞ」

プロ子の動きが一瞬固まる。

『ごめん、ヒルダちゃん。やっぱり私は自分のケツは自分で拭くべきだとおもうのよね……』

『えっ……?』

『私ってば、狭いの嫌いだし。食事も一日三食確りと食べないと持たない体質だからさ……。やっぱり無理!』

『じゃあ、子供はどうしたらいいのですか!?』

『産むの止めたら?』

『だってもう産んでしまいましたわ!!』

『「はやっ?』」

するとヒルダが通路の隅から布に包まれた赤ん坊を連れてくる。

『本物の赤ん坊!?』

「なんで!?」

『昨晩、拾いました……』

「閉鎖ダンジョン内でかよ!?」

『はい……』

それは幻覚でも妄想でもなかった。

本物の赤ん坊である。

人間の赤ん坊だ。


【つづく】
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