上 下
469 / 604

第468話【決着返し】

しおりを挟む
【おめでとうございます。レベル44に成りました!】

ああ、レペルが上がったぞ。

勝負がついたんだ。

俺の完全勝利だぜ。

『ぁぁ………』

水中に寝そべるように浮き上がった女の子の身体がゆっくりと背から床に沈むように落ちて行く。

その胸には俺が投げ放ったトライデントが深々と刺さっていた。

少女の名はガルガンチュワだ。

その正体は、ほんの僅か前まで十本脚を駆使して戦っていた巨大なクラーケンである。

そのクラーケンが今は少女の姿で死にかけていた。

ガルガンチュワの背が岩床についた。

彼女の眼差しは虚ろで口からは赤い先決が狼煙のように上がっている。

まだ、生きている。

だが、瀕死だろう。

もう、死にかけている。

静かに俺は、その可愛らしい顔を上から覗き込んでいた。

『見事なり……、アスラン……』

「どうだい。これから死ぬ気持ちは?」

『悔いは無い……』

「そうか」

『一つ頼みが有るのだが、いいか……?』

「なんだ、最後ぐらい聞いてやるぞ?」

『私を塒に連れてってくれないか……』

「分かった」

俺はガルガンチュワをお姫様だっこで運んでやった。

胸に刺さったトライデントが邪魔臭かったが、これを抜いたら出血が溢れて直ぐに死んでしまうだろう。

もう少し生かしてやらねば──。

最後ぐらい塒で安らかに眠らせてやろう。

『その岩の上に置いてくれ……』

「ああ、分かったよ」

俺は言われるがままにガルガンチュワの身体を岩の上に置いた。

周りには金銀財宝が散らばっている。

まさに黄金の塒だな。

するとガルガンチュワが寝そべったまま黄金の中に手を突っ込んだ。

何かを拾い上げる。

「なんだ?」

ガルガンチュワは、青くて小さなガラス玉のような物を持っていた。

『これは昔の冒険者が所有していたマジックアイテムだ……』

「マジックアイテム?」

『これを、飲むとだな』

ヤバイっ!!!

俺は咄嗟に手を伸ばしてガラス玉をガルガンチュワの手の中から奪い取ろうとした。

だが、ガルガンチュワはガラス玉を自分の口の中に放り込む。

「吐け、飲むな!!」

『もう、遅いわ!!』

ガリっと音が響いた。

ガルガンチュワがガラス玉を噛み砕いた音だろう。

そして異変は即座に現れた。

ガルガンチュワの裸の身体に、複数の血管が稲妻のように浮き上がる。

すると胸に刺さっていたトライデントが自然と抜け落ちた。

「糞っ!!!」

俺は腰から黄金剣を引き抜くと、寝そべるガルガンチュワの首根っこを狙って刃を振りかざす。

だが、ガルガンチュワの片手が俺の振った黄金剣を摘まんで止めた。

動かない!!

まるで剣の先が万力にでも固定されたかのように動かなかった。

びくともしない。

『くっくっくっ──』

少女の瞳が大きく開く。

その表情は瀕死の顔から生気に溢れた顔に変わっていた。

復活してやがるぞ!!

『マジックアイテムにはマジックアイテム。騙し討ちには騙し討ちだ!!』

黄金剣を捕らえたままガルガンチュワが起き上がる。

俺は完全に力負けしていた。

片手で摘まみ上げる剣が微動だにも動かない。

引いても押しても全力で力んでも、微塵にも動かない。

ただただ眼前に立つ少女が怪しく微笑んでいる。

向かい合うガルガンチュワが言った。

「心臓が一度に二つも潰れたぞ。あー、マジで痛かったぞ」

しゃべってやがる!

テレパシーじゃあ無く、口でしゃべってやがるぞ!

「タコやイカには心臓が三つ有ってね。私たちクラーケンも同じなんだ。それで即死は免れたが、全回復薬を飲めなければ死んでいたな」

「そ、そうですか~……」

不味い、不味い、不味い!!

マジで不味いぞ!!

折角の騙し討ちが成功したのにミスった!!!

超ミスったわ!!

まさか全回復を許すなんて最大級のミスだわ!!

「人間の外観も悪くないな。コンパクトだが、パワーはそのままだ。まるで狭苦しい蛸壺に押し込まれてギュウギュウな感覚だが、それがまた住み心地が堪らんわ!」

「そ、そうですか~……」

「この身体、気に入った。この指輪は私が貰い受ける!!」

「はい、あげます……。あげますから俺を殺さないでください……」

「おや、降参するのか?」

分かるんだよな……。

剣を掴まれているだけで分かるんだわ……。

これはボーイッシュな少女が有するパワーじゃあねえぞ。

これの外見は俺好みの美少女だけれど、中身は巨体なクラーケンなんだってよ。

もう、全回復したクラーケンに、勝てるチャンスは無いだろう。

二度も三度も騙せるとは思えない。

もう、言うしかない……。

「降参します……」

「そうか──」

言うなりガルガンチュワが黄金剣から手を離した。

俺は呆気なく解放される。

するとガルガンチュワは自分の裸体をグルグルと見回した。

やべ……。

心臓が痛いわ……。

だってスゲ~健康美なスタイルなんだもん……。

あたたたたっ…………。

俺が痛みだした心臓を押さえながら俯くと、ガルガンチュワは踵を返して黄金の中を漁り始める。

ヒップもエロイ……。

見ていたいが、見てられない……。

泣く泣く視線を逸らした。

「なあ、アスラン。私が見て来た人間は、マーマンたちと違って全裸では無く、ちゃんと服を来ていたのだが。やはり着衣を身につけるのが人間として普通なのだろうか?」

「ああ、そうだけど……」

「なるほどね。なんか着られる服は無いかな~。ルンルンルン」

言いながらもガルガンチュワは黄金の中から着衣を探しだしていた。

「あの~、ガルガンチュワさん……。何をしてらっしゃるのですか……?」

「服を探していると言ってるだろ」

「なんで……?」

「着るためだ」

「なんで着るの?」

「それが人間なのだろう?」

「そうだけど……」

おいおいおい、何を考えてやがる!!

このクラーケンは何がしたいんだ!!

服を探してどうする!?

お出かけですか!?

外出するつもりですか!?

「あの~、人間の真似をして、どうするの……?」

「地上で暮らす」

「まーじーでーー!!」

「せっかく人の身体を手に入れたんだ。こんな娯楽の少ない死海の底で暮らすよりも、地上で若くてピチピチした王子様とラブロマンスに浸りたいと思うだろ、普通」

クラーケンが人魚姫ぶるなよな……。

「アスラン、お前を生かす代わりに私を地上まで案内しろ。そうすれば殺さずに仲良くしてやってもいいぞ」

「マジで……」

「嫌なら断ればいい。お前を殺して一人で地上を目指すからさ」

「ガルガンチュワ、今日から俺たちは仲間だ。仲良くやろうな!!」

「おっ、あったあった。服があったぞ。とりあえずこれでも着ておこうかな~」

ルンルン気分のガルガンチュワは見つけ出した服を着始めた。

白いビキニブラを嵌め、赤いレザーの上着を羽織った。

そして、モロ脚が露になる際どいホットパンツを穿く。

更にロングブーツを履いた。

「流石に水中だと靴は邪魔なんだな~」

なんだろう、イカやタコと同じなのにセクシーでエロイぞ……。

むしろイカやタコと同じに思ってるからエロイのかな?

いたたたたっ……。

心臓が……。


【つづく】
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

【改稿版】休憩スキルで異世界無双!チートを得た俺は異世界で無双し、王女と魔女を嫁にする。

ゆう
ファンタジー
剣と魔法の異世界に転生したクリス・レガード。 剣聖を輩出したことのあるレガード家において剣術スキルは必要不可欠だが12歳の儀式で手に入れたスキルは【休憩】だった。 しかしこのスキル、想像していた以上にチートだ。 休憩を使いスキルを強化、更に新しいスキルを獲得できてしまう… そして強敵と相対する中、クリスは伝説のスキルである覇王を取得する。 ルミナス初代国王が有したスキルである覇王。 その覇王発現は王国の長い歴史の中で悲願だった。 それ以降、クリスを取り巻く環境は目まぐるしく変化していく…… ※アルファポリスに投稿した作品の改稿版です。 ホットランキング最高位2位でした。 カクヨムにも別シナリオで掲載。

屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。

彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。 父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。 わー、凄いテンプレ展開ですね! ふふふ、私はこの時を待っていた! いざ行かん、正義の旅へ! え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。 でも……美味しいは正義、ですよね? 2021/02/19 第一部完結 2021/02/21 第二部連載開始 2021/05/05 第二部完結

痩せる為に不人気のゴブリン狩りを始めたら人生が変わりすぎた件~痩せたらお金もハーレムも色々手に入りました~

ぐうのすけ
ファンタジー
主人公(太田太志)は高校デビューと同時に体重130キロに到達した。 食事制限とハザマ(ダンジョン)ダイエットを勧めれるが、太志は食事制限を後回しにし、ハザマダイエットを開始する。 最初は甘えていた大志だったが、人とのかかわりによって徐々に考えや行動を変えていく。 それによりスキルや人間関係が変化していき、ヒロインとの関係も変わっていくのだった。 ※最初は成長メインで描かれますが、徐々にヒロインの展開が多めになっていく……予定です。 カクヨムで先行投稿中!

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

爺さんの異世界建国記 〜荒廃した異世界を農業で立て直していきます。いきなりの土作りはうまくいかない。

秋田ノ介
ファンタジー
  88歳の爺さんが、異世界に転生して農業の知識を駆使して建国をする話。  異世界では、戦乱が絶えず、土地が荒廃し、人心は乱れ、国家が崩壊している。そんな世界を司る女神から、世界を救うように懇願される。爺は、耳が遠いせいで、村長になって村人が飢えないようにしてほしいと頼まれたと勘違いする。  その願いを叶えるために、農業で村人の飢えをなくすことを目標にして、生活していく。それが、次第に輪が広がり世界の人々に希望を与え始める。戦争で成人男性が極端に少ない世界で、13歳のロッシュという若者に転生した爺の周りには、ハーレムが出来上がっていく。徐々にその地に、流浪をしている者たちや様々な種族の者たちが様々な思惑で集まり、国家が出来上がっていく。  飢えを乗り越えた『村』は、王国から狙われることとなる。強大な軍事力を誇る王国に対して、ロッシュは知恵と知識、そして魔法や仲間たちと協力して、その脅威を乗り越えていくオリジナル戦記。  完結済み。全400話、150万字程度程度になります。元は他のサイトで掲載していたものを加筆修正して、掲載します。一日、少なくとも二話は更新します。  

俺のセフレが義妹になった。そのあと毎日めちゃくちゃシた。

ねんごろ
恋愛
 主人公のセフレがどういうわけか義妹になって家にやってきた。  その日を境に彼らの関係性はより深く親密になっていって……  毎日にエロがある、そんな時間を二人は過ごしていく。 ※他サイトで連載していた作品です

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

処理中です...