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第446話【剣豪のティラミスとの戦い】

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ティラミスが赤いマントを甲冑から外した。

バサリと床にマントが落ちる。

本格的に来る気だな。

こっちも本気で行きましょうかね。

俺は黄金剣を左右に構える。

左のゴールドショートソードを前に突き出し、右のゴールドロングソードを頭上の高さに構えた。

するとティラミスが唸るように言う。

「いざ、参る!」

二人の距離は5メートル弱。

その距離のうち3メートルを一歩のジャンプでティラミスが詰めて来た。

そして、着地と同時に身体をスピンさせて背を見せる。

「うらぁっ!!」

力強い掛け声の中で振り返るティラミスが横一文字にグレートソードを振るった。

長い剣先が残りの2メートルを埋める。

「伸びるのかっ!」

俺には横に振るわれた刀身が伸びたように見えた。

もちろん錯覚だ。

ティラミスのグレートソードの全長は、おそらく1.8メートルほどだろう。

なのに2メートルの距離を残していたのに俺の胴体を真っ二つに切断できるほどの間合いまで踏み込まれていた。

剣技だ。

力任せに頼る大型剣に、極技を踏まえている。

だが、俺も剣技は一流レベルだ。

距離感を錯覚させるほどの一撃に、まんまと惑わされるほど鈍くない。

俺は後方に飛んで回避する。

しかし、長剣を振るったティラミスが再び背を見せた。

二周目だ。

再びスピンして、今度は上段狙いの横振りを繰り出す。

今度は更に深い距離で、速度も増している。

だが、その上段廻し斬りをしゃがんで躱した俺は、両手の拳を床に突けてソードを寝かせた。

その姿勢は短距離陸上のクラウチングスタートのホーム。

一方、上段廻し斬りを躱されたティラミスは更に背を見せて三周目に入っていった。

そして俺はティラミスの背中に目掛けてロケットダッシュを敢行する。

狙いは瞬速を生かした通り過ぎ際の胴斬りだ。

スピードを生かして銅を斬り、前に出てから更に縦に二太刀目を打ち込む。

そう瞬時にプランを立ててロケットダッシュで飛んだのだ。

だがしかし、回転しながら背中を見せていたティラミスが、今度は後ろ中段廻し蹴りを繰り出して来たのだ。

タイミングを完全にずらされた。

背を向けたままの後ろ中段廻し蹴りと、クラウチングスタートからロケットダッシュを仕掛けた俺の顔面が激突してしまう。

激しく世界が揺れた。

俺の視界が真っ白に弾けて目映い星が煌めいた。

その星々が弧を描いて右から左に流れる。

ゴンっ!

鼓膜の中に硬い音が木霊する。

俺の視界に石畳が見えた。

床だ。

さっきの音は頭を打った音か?

俺がダウンしている。

何が起きたんだっけな?

俺のダッシュ──。

カウンターの蹴り──。

あー、そうだ。

俺はしてやられたんだ。

でも、剣はまだ手にある。

放していない。

殺気!!

俺は跳ね起きると身体を反らせながら飛んだのだ。

眼前を太い刀身が過ぎて行く。

ティラミスのグレートソードだ。

「なろうっ!!」

俺は視力を使わずに、気配だけを感じた左側にゴールドショートソードを振るった。

「おっと、危ない!」

長剣を下段に下げてティラミスが後方に飛んで躱す。

俺の攻撃は避けられた。

でも、間合いが開けて一息取れる。

少しして俺はやっとティラミスを黙視で確認できた。

「ふぅ~……」

まだクラクラする頭を剣の束尻で叩いた俺は、溜め息を一つ吐いてから落ち着きを取り戻す。

「ぺっ……」

床に唾を吐く。

その唾に赤い物が混ざっていた。

「凄いな、あんたの剣技。遠い間合いを長剣で攻めて、懐に入られたら蹴り技を使うか」

「もう悟れたか」

「最初の逆立ちからの兜割り。その後の前蹴りで悟れてればよかったが、次の攻防に入るまで蹴り技の多彩さを悟れなかった……。俺のミスだな」

「だが、そちはかなりのタフネスだ。普通の人間ならば、私の後ろ廻し蹴りで頭が砕けていたはずだぞ。なのにまだ動いてられる。それは凄いことだ。誉めてやるぞ」

「体の頑丈さに自信があってな」

俺は両手を高く上げると眞下に黄金剣を振るって気合を入れ直す。

「もう覚えた。次は蹴りを食らわない!」

「もう蹴りなど必要ない。次は真っ二つに斬り裂く!」

「やれるもんなら、やってみろ!!」

今度は俺から走って距離を詰める。

その俺にティラミスが突きを繰り出した。

俺はグレートソードの切っ先をジャンプで超えた。

飛んでる俺の足元にグレードソードが伸びて行く。

「突きっ!」

俺もゴールドロングソードの切っ先を伸ばしてティラミスのヘルムを狙った。

「甘いっ!!」

ティラミスが突き技で繰り出したグレードソードを体を反らせながら振り上げる。

「うわっ!!」

俺は股の下から登って来たグレードソードをゴールドショートソードで受け止めた。

しかし、そのまま体を振り上げられる。

「うらっ!!」

「あわわわわっ!!」

俺はグレートソードに掬われて、ティラミスの背後に投擲されていた。

「なんのっ!!」

それでも俺は身軽に体を回転させると着地してから振り返る。

そこには上段に振り上げたグレートソードを横に振るいながら振り返ろうとしているティラミスの背後があった。

俺は再び飛んで攻めた。

俺の足元をグレートソードの横振りが過ぎる。

先読みで躱した。

次に俺の横切りがティラミスの左二の腕を狙って攻め立てる。

ヒット。

ガンっと音が響いた。

ヒットしたが切れていない。

「硬いっ!!」

ノーダメージだ。

「わっしょいっ!!」

続いてティラミスのショートレンジのタックルだった。

狼の肩パットが俺の胸を突き飛ばす。

俺は2メートルほど飛ぶと着地してから1メートルほど滑った。

倒れない。

ダメージもない。

だが、俺もダメージを与えていない。

ティラミスの甲冑は強度も高かった。

片腕でも切断できれば、重いグレートソードを振るう技術も半減すると思って腕を狙ったのに、切断どころか傷すら付けていない。

「か、硬い鎧だな……」

「このフルプレートは業物だ。強度だけでなく、体感重量、魔法防御にも優れている一品だ。地を飛びながらの軽業では斬れんぞ。斬りたくば、両足を地に踏み込み全力で打ち込んでまえれ!」

「ちっ、厄介だな……」

小細工を弄したぐらいでは無駄か……。

いま俺に足りないのは覚悟だと言いたいのかよ。

ならば、気持ちと戦法をガラリと入れ替えないとならないな。

そう考えた俺はゴールドショートソードを鞘に戻す。

すると一刀に変えた俺を見てティラミスが言う。

「一刀流か。それぐらいの気合いは必要だぞ」

俺は真剣な眼光でティラミスを睨み付けた。

「次の数打で、持てるすべての技を出しきってやるぜ!!」

「覚悟が決まったか」

「小細工はねーよ!!」

俺はジリジリと間合いを詰める。

まだ距離がある。

距離5メートル。

もっと距離を詰めなくては──。

距離4メートル。

残り3メートルになったらダッシュクラッシャーで距離を一気に詰める。

そこから覚えている攻撃スキルをありったけ全部打ち込んでやるぞ。

それが俺の覚悟だ。

残り3メートル。

今だ!!

「ダッシュクラッシャー!!」

「なにっ!!」

ダッシュクラッシャーのスキルを放ったのはティラミスだった。

俺より一瞬早くティラミスがダッシュクラッシャーのスキルを発動させて突っ込んできたのだ。

俺は黄金剣で眼前を庇う。

そこに長剣を立てたティラミスがぶちかましを仕掛けて来たのだ。

「ぐはっ!!」

俺は攻撃は防げたが吹き飛ばされる。

その俺にティラミスが追い討ちを仕掛けて来た。

上段の構えからの──。

「ヘルムクラッシャー!!」

「マジか!?」

俺は横に滑ってスキルを乗せた兜割りを何とか躱した。

俺の足元にグレートソードが突き刺さる。

「反撃だ!!」

「させぬ、クイックエルボー!!」

瞬速からの体当たりだった。

俺の知らないスキルだ。

ティラミスの肘打ちが俺の頬にめり込んでいた。

「ごほっ……」

口の中でゴリっと音が鳴った。

奥歯が折れた音だろうさ。

だが、俺は耐えた。

覚悟が決まっていたから耐えられた。

攻め切る覚悟だけでなく、打たれる覚悟も出来ていたからだ。

打たれながら打つ。

切りながら切る。

斬りながらも最後まで立っている覚悟が決まってたから耐えられたのだ。

だが、まだ有利はティラミスが握っていた。

「スピンスマッシュ!!」

ティラミスが今まで以上の速さでスピンした。

また俺の知らないスキルだ。

瞬時に振り返り、刹那にスピンからの横振り斬撃を放ってきた。

「神の腕を斬れるかな!!」

俺は咄嗟に鉄腕を差し出して盾に使う。

グワンっと激しい音が轟いた。

まるで吊り鐘を叩いたかのような重く深く響く音だった。

俺は両足を踏んばり強打に耐える。

少し滑ったがティラミスの強打スキルを受け止めていた。

流石は神の腕だ。

良くぞ耐えてくれたぜ。

「なんと言う強度だ!!」

「硬いのはお前だけじゃあねえぞ!!」

俺は黄金剣を上段に構えた。

「ヘルムクラッシャー!!」

「なんの!!」

防がれた。

「ウェポンスマッシュ!!」

「ぬぬっ!!」

防がれた。

「ウェポンスマッシュ、ウェポンスマッシュ!!」

「むむむむっ!!」

防がれた。防がれた。

「ウェポンスマッシュ、ウェポンスマッシュ、ウェポンスマッシュ、ウェポンスマッシュ、ウェポンスマッシュ!!」

「ぐがぁぁあああ!!!」

防がれた。防がれた。防がれた。防がれた。防がれた。

俺はありったけのスキルを打ち込んで行った。

更に───。

「ヘルムクラッシャー、ヘルムクラッシャー、ヘルムクラッシャー!!!」

「がはぁぁああああ!!!」

徹底的な上段打ち込みをグレートソードを盾に防御していたティラミスの膝が沈んで行く。

蟹股で耐えていたティラミスの尻が床に着きそうなぐらい沈んでいった。

「今日は特別大サービスだぜ。ありがたく受け取れや!!」

俺は斜め下から逆袈裟斬りに最大威力のスキルを繰り出した。

「ワイルドクラッシャー!!」

「がはっ!!!!」

ティラミスのグレードソードが俺のスキルに跳ね上げられる。

そして、更にラストのスキル。

「ワイルドクラッシャー!!!!!」

「ぐがっ!!!!!」

俺の黄金剣がティラミスのグレートソードを持つ両手首を一刀の元に切断する。

宙を舞ったグレードソードが床に落ちて跳ねると豪華なフルプレートが崩れ落ちた。

「どうだぁあああ!!!」

俺の叫びが三の間に響いた。

「俺がNo.1だぁぁああああ!!!」



アスランvsティラミス。

アスランの勝利。

【つづく】
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